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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第ニ章、天界動乱。
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第五十六話、welcome to 地獄。



「ん…。」


暗い穴の中。

その中で亘希たちは目を覚ました。


「ここは…。」

「やっと起きたのね。大寝坊よ。」


目を開けるとレイと目が合った。レイは呆れ顔で亘希たちを見つめていた。


「うう…私まで気絶してしまうとは…不甲斐ないです…。」

「そういえばアリエ、遊園地でもジェットコースターで気絶してたよね。こういうの苦手なの?」

「そうかも知れません…。お嬢様は大丈夫ですか?」

「うん!この通りピンピン!全然平気だったよ!」

「よかったです…。」


クラクラする頭を押さえながら、アリエがゆっくりと起き上がった。


「…で、この蛇も伸びてるんですか…。」

「伸びてないわい…。吾も平気…じゃ…。」

「平気じゃないですね。痛たた…、いつもは南から入るのでこちらのには慣れていませんでした…。」

「そうだったのね。でもあっちの方が入るのは難しいって聞くけど?」

「コツさえ掴めば簡単です。こちらの穴も慣れてしまえばどうってこと…。」

「そう。そんなことより、ここからは歩きよ。馬車は私が転送しておくから先向こうに歩き始めておくといいわ。」


レイが指差す先には真っ暗な洞窟が遥か果てまで伸びていた。


「分かりました。ではお先に。」

「ええ。黒龍さんも、ここまでお疲れ様。あなたも先に行っておいて頂戴。」

「は、はい…!」


黒龍が丁寧に御者席から降りる。気絶していた亘希やアリエと違って髪や服が乱れている様子はなかった。


「黒龍さんは大丈夫だった?」

「う、うん、ああいうのは慣れてるから。」

「慣れてるって…。そんな機会あります?」

「わ、私は姉様たちやアリエとは違って…普通の稽古とかじゃみんなに追いつけないと思ってたから…。だ、だから、これみたいな環境で鍛錬してたの…!」

「そうでしたか…。さすが姉様です。」

「えへへ…。」


黒龍が嬉しそうににへら笑いを見せる。


「さて、言われた通り歩きましょうか。明かりは私の電気でなんとかなりますし。」


そう言ってアリエは洞窟の先に向けていくつもに分かれた電流を発射させる。

すると何故か急に洞窟の至る所が淡い光を放ち始めた。


「これって…!」

「鉱石ですね…。」


洞窟の壁に散りばめられた鉱石の塊がそれぞれ光を放っている。

それは洞窟をまるで灯りのように照らし、遥かな道を導いてくれる。


「まさかこういうものがあるとは驚きですが…あっ、お嬢様、一つでも取ってはいけませんよ?」

「え、うん…!」


ビクッとなったベルが作り笑いを浮かべて振り返る。どうやら図星だったようだ。


「こういう天界の鉱山帯はあらゆるマナの源になっていることが多いです。もし一つでも欠けてしまえば、全世界のマナが消失する可能性だってある。それほど危険なものです。」

「その通りよ。」


後を追ってきたレイが話を続ける。


「この洞窟は天界の大部分のマナの生成に関わっている。さっき通ってきたあの穴もこの洞窟から発生するマナによって生成されたものよ。そしてこの洞窟は反対側、つまり南の穴にもマナを送っている。一つでも鉱石が欠ければ私たちはここに閉じ込められたままになるでしょうね。」

「そんな恐ろしいの…?」

「だって、不思議だとは思わない?この穴にはカンナカムイさえ気をつければすんなりと入れる。こうやって鉱石も露出しているものだから奪うのも容易。なのにこの洞窟からは一つも鉱石が奪われていない。みんな、ここの恐ろしさは分かっているのよ。」

「ふ〜ん…。」


しばらく進むと鉱石は途切れ、また真っ暗闇の洞窟が始まった。


「でしたらここは…!」


アリエが力を込め、自らに電気を溜めさせる。溜めきれなくなった電気が放電し、アリエを明るく包み込んだ。


「わあ…!」

「これならこの暗い道でも周りを確認できます。気をつけて進んでくださいね。」

「うん!」


しばらく歩くと明かりが見えてきた。

しかしそれは鉱石が発光しているわけではなかった。それは自然の光ではなく人工灯だった。


「後少しで着くわ。」


六人は広い空間に出た。

巨大な建物のようなものが目の前に立っている。明らかに人工物だ。

亘希はその建造物に見覚えがあった。


「これって…エレベーター!?」

「まあそれに近いものよ。さ、ボタン押して。」

「う、うん。」


上下を表す矢印のついたボタン。どうみてもエレベーターだ。

ボタンを押すと広い空間の中に機械音が響いた。そしてチンと音がしてゆっくりと扉が開いた。


「さあ、乗って。」


六人はエレベーター(仮)に乗り込む。

外見は確かにエレベーターだったが、内装はエレベーターと少し異なっていた。

全部の面が透明の素材になっており上下左右全ての景色を見ることができる。しかも広く、数十人は入ることが可能なほどだった。


エレベーター(仮)がゆっくりと下降を始める。周りは見渡してみても岩ばかりだ。

どうやら洞窟の中を通っているらしい。


「降りるのに数分かかるわ。それまでリラックスしとくといいわ。」

「分かった。…そういえばベルは地獄に行ったことあるの?」

「一応ね。私のお祖父様もここに住んでるし。」

「ああ…。」


ベルの祖父は大悪魔ベルゼブブだ。

ベルゼブブといえば七つの大罪の一つ、暴食の悪魔としても知られる。

ベルもなかなかな大食いであるし、さすが孫といった感じだ。ちゃんと特徴は受け継いでいるらしい。

ベルゼブブの孫で最高神の娘。なんとも豪華な血筋だ。


「なかなか、いい所だよ、地獄って!」

「そういうイメージはないけどなー…。」


亘希たち人間が想像する地獄と本物の地獄はあまりにもかけ離れているらしい。

地の獄(牢獄)と呼ぶくらいだから危険しかないように思うが、どうやら天界の神々にとってはいい所、まぁ、楽園ほどではないと思うがそういう所らしい。

どういう所なのだろうか?


「あっ、見えてきたよ!」


そうベルが声を上げる。

周りを覆っていた岩盤が晴れ、ついに『地獄』が姿を現す。


「どれどれ…。」


一体地獄とはどういうものなのだろうか?期待と少しの恐怖を抱えながら、亘希は『地獄』を見渡す。

その瞬間亘希は絶句した。




※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



エレベーターは再びチンという音を立てて地獄の地表で止まった。



「…本当にここ地獄…?」

「…?はい。」

「えー…。」


『地獄』は、賑やかだった。



「おかーさん、あれかってーー!」

「ダメよ、もうお菓子買ったでしょう。」

「えー!」


親子の何気ない会話。


「これを契約したいのですが…。」

「新規の契約ですね、こちらにどうぞ!」


携帯のような電子機器の契約。


「なあ、あれ食おうぜー!」

「賛成〜!」


連んで飯を食いに行こうとする学生くらいの子供。


人間界となんら変わらない景色。地獄はまるで一つのショッピングセンターのようだった。


「全然イメージと違うんだけど…。」

「だから言ったでしょう?危険ではないと。このように今では平和そのものです。」


地獄には家や店が立ち並び大きな都市を形成していた。

その中央には巨大な人形の氷像のようなものがあり、まるでこちらを見下ろすように立っている。


「数百年前の改革によって地獄は環境が改善され、多くの者が住めるほど安全かつ綺麗になりました。かつて対立していた悪魔と神が休戦を始めたのもこのことが大きな原因です。これまでは地獄は得体の知れない悪魔の巣窟として警戒されていましたが、こうも安全性を見せられてしまっては攻めあぐねてしまいます。悪魔側から休戦を持ち込んできたのもあって無事に神と悪魔の休戦協定は結ばれ、戦いは終わりを告げました。」


どこにも危険が見えない地獄。

平和な世界。

たくさんの笑顔と喜び。

そんなものがたくさんあった。

神と戦争をしていたという痕跡は見当たらず、本当にあったのかさえ疑わしくなる。でもそれは本当に起こったことで、多くの犠牲の下に平和が成り立っている。

亘希はまるで今の日本のようだとも思った。


「吾の寝ている間に地獄も変わったものじゃのう…。この場所が平和になる瞬間をこの目に焼き付けておきたかった…。」


八岐大蛇はそう悲しげに呟いた。


「…何かあったんですか、ここで。」

「…いや、何でもない。ほれ、行くぞ…。」


そういう声にもどこか元気がなかった。


「…?レイさん?」


レイもまた、どこかを悲しげに見つめていた。声をかけようとしたが、その背中はまるで話しかけるなどでも言っているように感じられて喉に詰まったまま出てこなかった。


「…なに?私をじっと見て。」

「い、いや、何も…!?ただ…。…。何だか悲しそうに見えたから。」

「…そう。それならそれはあなたの勘違いよ。」

「え?」

「全員、もう行ってるわよ。早く追いつかないと。」

「う、うん…!」



結局、八岐大蛇が悲しそうにしていた理由も、レイが何かを見つめていた理由も分からずじまいだった。




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