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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第ニ章、天界動乱。
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第四十七話、痴女騒動。



「――あちらが天界の中枢、セントラルアッシュです。」


森羅乃旅園(しんらのたびぞの)を出発した皐月亘希、ベルゼ・バアル、アリエ、黒龍、八岐大蛇の五人は馬車に乗り、最高神・シグナス・ヴォン・グラディスが待つ『天国』へ向かっていた。


旅館のあった場所の和風な雰囲気とは打って変わって、古代ギリシャの神殿のような建物が多く建てられている。


「最初に私たちがいた場所はセリカと呼ばれ、ここ、セントラルアッシュの東の端に位置します。」

「そうなんだ…。東の端…。」


中世辺りのヨーロッパでは日本はよく東の果てとされてきた。マルコ・ポーロが東方見聞録に『アジアの東の果てにジパングという黄金の国がある』と日本について書いたのは有名な話だ。


「…ってことはここに街を置いたのはヨーロッパの神様…?」

「さあ…?この街が置かれた起源はよく分かっていませんが、その可能性もあるかもしれませんね。」


その時、馬車を引いていた一角獣(ユニコーン)が嘶いた。そして次第に速度を落とし、街のはずれで立ち止まった。


「つ、着いたよ…。」


そう御者席から顔を覗かせたのは黒龍だ。

彼女曰く『動物が好きで、一度やってみたかった』らしく、アリエも『特に専門知識のいらない一角獣(ユニコーン)なら』と快く了承してくれた。


普通一角獣(ユニコーン)と言うものは純粋な少女の言うことしか聞かないと言う。今では訓練されてそんなことはないらしいのだが、『純粋な少女』と言う条件に一番当てはまってそうなのは黒龍だろうなと亘希は考えていた。


「御者としてのお仕事、お疲れ様です、姉様。」

「う、うん…!頑張ったよ…!」


そう言って黒龍は微笑む。


とは言っても一角獣(ユニコーン)は目的地さえ伝えれば自分で向かっていってくれるため、そんな頑張るような仕事ではないのだが。


でもまあ、手綱を握っているだけでも操縦していると実感が湧くのは容易い。かく言うアリエも初めて一角獣(ユニコーン)の手綱を握らさせてもらった時、自分が操作していると勘違いして一人で盛り上がっていた。


あんなこともありましたね…と懐古しながらアリエは黒龍に微笑み返した。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



馬車を降り、みんなで街を歩く。


外観は日本の街と全くと言っていいほど異なるが、店や売り物の種類はほとんど同じだ。食べ物や服などの生活必需品の販売店や、劇場のような建物などなど、神の世界に来たはずなのにイマイチ実感が湧かない。


流石に食べ物は知らないものばかりだが、それ以外で人間の世界と違うと言えるものはほとんどなかった。


「…人間の世界とあまり変わらないな…。」

「はい、一部人間界の街を参考にさせていただいた点もあるそうです。」

「そうなんだ。確かに神様って人型が多いから人間の技術とかも合ってるのかも。」

「まあ否定はしません。異形の神もいないわけではないのですが、人型の方が圧倒的に多いのは事実ですし。」


そう言って周りを見渡す。ほぼ人と相違ない者、ケモ耳の者、完全に人と見た目の違う者など多くの神がいるが、やっぱり多いのは人間に近い姿の者だ。

羽が生えている者も多くいる。


「天使みたいなのもいっぱいいるね…。」


その呟きを聞いたアリエはキッと亘希を睨みつけ口を無理やり閉めさせる。


「ーー!」

「その言葉を口にしないでください。今の世界ではその言葉(天使)は差別用語です。」


アリエは優しく手を離した。


「――ぷはっ!差別用語…!?」

「はい、百数年前の改革で『天使』は廃止されました。」

「それは何で…?」

「…あなたは天使についてどのような印象をお持ちですか?」


天使――それは神に仕える存在。時には神と人との仲介役をして人々に神からのお告げを広めたりすることもある。


「ええっと、…神様に仕える部下?みたいな存在ってことくらいしか…。」


アリエは小さくため息をついた。


「概ね合ってはいます。確かに神に仕え、神々の命で人々を善へ導く。これが本来の天使の存在理由でした。」

「じゃあ何で今は…」

「次第に横暴な神々が出てきたんです。自分たちの言うことを従順に聞くのをいいことに、身の回りの世話や重労働を課したりまるで奴隷のように扱う神々が後を絶ちませんでした。」

「そんな神様が…?本当に!?」

「はい、神も所詮は生き物です。生があり死があり、そして当然欲もある。欲を上手く扱えない愚かな神がこんな事態を引き起こしたのです。最終的には大規模な反乱が起き、天使の三分の一が反逆するという緊急事態が起きました。当時の最高神は残りの天使を率いて事態を収束させましたが、彼もまた天使を悪く扱っていたため当然反感を買い追放。そして次の最高神により天使という階級は廃止され、神と同等に扱われるようになったんです。」

「へぇ〜、それで天使が…。」

「その頃の天使とされていた者たちでご存命の方は少ないですがその多くが心に傷を残しています。ですからこの天界では必ず天使と言うことは避けてください。」

「分かったよ。」


とてもスケールの大きな話だった。

天界の戦争。今はその痕跡は見る限りでは見当たらない。だがそれが合ったと言う事実が今の天界を作り上げている。


「…あれ?」


そういえばさっきまで近くにいた影がいない。


「ベルと…黒龍さんも…八岐大蛇さんもいない…!?アリエ、みんなは!?」

「安心してください。お嬢様は一足先にお父様に会いに、姉様はその付き添いです。八岐大蛇は知りません。」

「よかった…。…って!全然安心できないじゃん!早く探さないと…!」


急いで周りを見渡すが見当たらない。そもそもいつ離れたのかわからない以上近くにいるかも怪しいし、近くにいたとしてもあの身長だとこの人混み、いや神混みの中から彼女を見つけ出すのは困難だろう。


「…。」

「ま、彼女のことですし、危ない目に遭ってる可能性は低いでしょう。どうせまた勝手に自由行動しているだけです。」

「そんなこと言っても気にはなるでしょ!」

「仕方ないですね…。探しますか。」


二人は捜索を始めた。

道を行き交う神々に尋ねてみたり、当てもなく探し回ったり…

しばらくして二人はとある物を見つけた。


「これって…。」

「あの方の首巻きですね…。近くにいるかもしれません。」


周辺をくまなく探すとまた何かを見つけた。


「これは…靴?いや、草履だ。」

「この場所で草履を履いている者など彼女しか思いつきませんね。」

「じゃあ本当にこの近くに…!」

「はい、何故こんなに身の回りのものが落ちているのかは謎ですが。」


周りを探すと次々ともう片方の靴やら靴下やら多くの物が見つかった。


「…本当に大丈夫かな?こんなに服だけが落ちてるとかどう考えてもおかしいよ。あの子、体は子供だしもしかしたら間違われて拐われちゃったり…?」

「…そうでないことを祈りましょう。」


そう冷静に話すアリエだが、顔には不安や焦りが浮き出ていた。


二人は歩くたびに服を手に入れていく。

ついにはズボンやパンツまで落ちている。二人の恐怖は別の方向へと移行しつつあった。


「…もう服はコンプリートしちゃったよ…。」

「ですね。これはやはり誘拐などではありません。」

「うん…。この調子だとやっぱり…。」


少し歩くと何やら人だかりができていた。


「ん?あれって…。」

「行ってみましょう。」


神を分け入り、中を覗く。

その瞬間亘希は耳まで赤面し、顔を逸らした。

後から入ってきたアリエも見事な呆れ顔を見せている。


そこには服を脱ぎ捨て、すっかり裸になった八岐大蛇がいた。


「何をしてるんですかあなたは…。」

「お!お前らか!前来た時より天界が暑くてのぅ、暑苦しくて邪魔だから脱いでやった。」

「それ私が貸してあげた服ですよね!?あなたがあんな際どい服を着るから私が貸してあげたんでしょう!?この変態どスケベ野郎!」

「はぁ!?何じゃやるんかー?」

「いいですよ、やってやりますよ!」


周りを囲む神々は八岐大蛇のその姿を見て騒ぎ立てていた。


「何なんだコイツは!?頭大丈夫なのか!?」


と引く神々もいれば、


「おお、このまるで貧乳と巨乳の間のような絶妙なサイズ感!まるで儂の好みを熟知しているようではないか…!神じゃ…我らの神じゃ…。」


と涙を流す神もいる。


アリエは裸のままで服を着ようとしない八岐大蛇の手を取り、神々の輪から脱出した。

亘希も八岐大蛇の裸を見ないようにしながら急いで追いかける。


八岐大蛇を囲んでいた神々の一部がまるで獣のように追いかけてきた。


「逃すなー!あの痴女を捕えろ!」

「奴は健全な神々に悪影響を及ぼす!捕まえて刑罰だ!」

「儂の胸ー!!」

「…お前だけ趣旨違うな…。」


やっとの思いで二人は路地裏まで逃げてきた。


「全く。撒くのにも一苦労ですよ。団体行動を心がけてください。」

「うーい。」

「何ですかそのやる気のない返事は…。」


アリエは大きくため息をついた。


その時中央の時計台の鐘が街中に響き渡った。


「…時間ですね。」

「何の?」

「あなたと最高神様の会談ですよ。言葉遣いに注意しておけば何とかなりますから頑張ってください。」

「もう…!?待って、まだ心の準備が…!」

「待ちません。」


アリエが指を鳴らすと豪華な城が目の前に突然現れた。


「これで準備は完了です。後はあなた自身で頑張ってください。ご武運を。」


そう言って大きな古扉を開く。

中からはまるで太陽のような光が差し込んでいた。




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