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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第一章、悪魔と契約者。
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第二話、友達。

―――しくじった。

さっさと契約者(こいつ)と契約してこの場を去り、そのまま奴を倒すはずだったのに。


怨霊―私たちが戦うべき敵のうちの一つ。

自分の鬱憤を晴らすためだけに人々に呪いをばら撒く悪魔よりもタチの悪い存在。

一目でわかる。この個体は強い。おそらく古くからこの地に住み着いてきた怨霊なのだろう。

手が震える。呼吸が荒くなる。


でも。


私は戦わなくてはいけない。特に、契約者を後ろに控え、()()()()()を背負っている今は。


鎌を構える。怨霊が完全に姿を現す。戦国時代の出家した武士のような禿頭と顔つき。ただしその体は首しかなく、その首の周りでは業火が飛び交う。その顔は激しい怨みを写している。



来る。



不意に背中に殺気を感じ間一髪横に飛ぶ。さっきまで私のいたところは攻撃を受け更地になっていた。

怨霊との戦いは常に勘が頼りだ。その予測不可能な攻撃を完全に避け切るのは不可能。鎌を振るい、攻撃を受け流すしかない。


この時私は攻撃の矛先が彼にも向かっていることに気づいた。当たり前だ。強い者を先に倒すより弱い者を先に倒した方が手っ取り早い。攻撃は避けてはいけない。受け切らなくては。


一気に間合いを詰め、鎌を振るう。

鈍い音がした。

…やはり硬い。

普通の攻撃ではびくともしない。武士なら武士の情けくらいあってもいいのにと思う。そのまま体が撃ち抜かれ…かけたところですんでで避ける。


「ハァ…ハァ…ハァ…!」


体は既に傷だらけになっていた。

傷口からも口の端からも血が滴る。回復が間に合わない。

出血多量で倒れそうになる体を必死に鼓舞する。


―――立て…私…!


私が倒れれば間違いなく彼は死ぬ。無力な人間がどんだけ怨霊に立ち向かおうが敵うはずがない。それどころかここら一帯の人間全員が死ぬ可能性もあるのだ。それだけは絶対にあってはならない。


地を踏み締め、鎌を構え直す。

残っている体力で渾身の攻撃を叩き出す。


「ニーナ・ゲネシス!」


魔力で拘束した後、鎌に魔力を込めて一気に間合いを詰め一閃。魔力弾で攻撃を防ぎつつ正面から鎌を振り下ろす。

当たった感触があった。

このまま叩き込めば、倒せる…


「ッ…!」


身体中に鈍い衝撃が走る。


「ベル…ッ!」


私を呼ぶ声が微かに聞こえる。

気づけば私の体は吹き飛ばされ、地に倒れ伏していた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


怨霊は先程とは比べ物にならないほどの邪気を孕んでいた。

さっきまで怨霊の周りを飛んでいた炎は車輪に姿を変え、怨霊を鉄の鎧で包んでいる。


力の強い怨霊は『妖怪』として別の名で呼ばれることがある。

車輪を纏ったその怨霊は有名な妖怪『輪入道』の姿そのものだった。


あの時私は本体へ戻ってくる車輪に気付かずそのまま轢かれたのだ。

立ちあがろうとしても立てない。足が折れている。鎌も遠くに飛ばされている。

輪入道が転がる。こちらへと真っ先に突進してくる。

魔力もとうに切れている。

私は初めて死を予感した。


その時。


横から不意に気配を感じた。私は気付けば押し倒され間一髪で攻撃を避けていた。


どうして。


何でこいつが私を…。


彼は背中に火傷を負っていた。

自分は彼に助けられたのだとすぐに気付いた。


「何で私を…?」

「だって…死にそうに…なってたから…。」

「キミまで死にそうになってるじゃん!私は悪魔なんだよ!人間に害をなす存在!キミが私を助ける意味なんて…。」

「…それでも…意味がなかったとしても…君を助けたかったんだ…。友達っていうのは、困ってる時に手を差し伸べて助け合っていける人たちのことだと思うから…。今までそれができるか不安だった…。だから友達もできなかったんだと思う。でも今は…君を助けることができた。君が何者だったとしても助け合える友達でいたい…!だから契約をしたんだ!」


言い返せない。馬鹿みたいだと思う。そんな理由で悪魔を助けるなんて。

でも、妙な説得力がある。そんな言葉だった。


痛みを堪えるような表情をしながら彼が立ち上がる。


「何もできないかもしれないけど、僕が気を惹きつけておくから。その間にとどめの準備をしてて。」


そして駆け出す。

それを呼び止める元気はもう残っていなかった。

ただ、彼の背中だけを見つめていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


あの怪物に打ち倒されていくあの子を前にして僕は何もできなかった。

足がすくむ。ただ見つめることしかできなかった。

その時だった。あの怪物は攻撃を受けて動けない彼女に追撃しようとしていた。

今勇気を出さなければあの子と友達になる資格なんてないとそう思った。

気付けば僕は彼女の元へ駆け出していた。


その後何を話したかは背中の痛みとあの子のために必死だったからか覚えていない。

ただあの子を助けられた。そんな実感だけが胸に残っていた。


彼女が落とした鎌を拾う。

その重い鎌にも傷がたくさんついている。


その重さに体がよろけつつも怪物に向かって鎌を振り下ろす。

当たらない。簡単に避けられてしまっている。


なぜかこの怪物は攻撃をしてこなかった。ただひたすらに避けるだけ。その目はまるで自分を値踏みするかのように静観していた。


それでも。


絶対に彼女の元に行かせてはいけない。絶対に守り切る。その意志だけが胸の中にあった。


ただがむしゃらに、何度も何度も鎌を振るう。当たらなかったとしても少しは牽制くらいにはなるはずだ。


その時。怪物の車輪が再び回転を始めた。狙いを定めているようだ。そして一気に速度を上げベルの方へ突進していく。


ベルと怪物の間に全速力で割り込み、鎌で車輪を受け止める。


だが、ただの人間の腕力で転がる鉄の塊を止めれるわけがない。何度も何度も押し戻される。そしてついに弾き飛ばされる。


怪物はまるで助走をつけるように後退すると再び前進を始める。


何度も何度も鎌と車輪がぶつかり合い火花が散る。


その度に僕の体は飛ばされ打ち付けられていく。


そしてやっとの思いで鎌の先は怪物を捉え、車輪にめり込んだ。だがそれ以上斬れないし抜くことも出来ない。

怪物の体から火の玉が飛び出し、全方向から攻撃される。


その攻撃が僕の体に当たる直前、光の球のようなものが飛んできて火の玉を全て撃ち落とす。

見れば、ベルがこちらに魔力を溜めた球を発射していた。

その球は怪物にも当たり、正面から攻撃を受けた怪物はよろめく。よろめいた怪物から鎌が離れ、怪物の体は一瞬無防備になる。


―――ありがとう。


そう心で呟き、僕は鎌を振り下ろした。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


私を守るように立つ彼の姿はカッコよかった。


あの攻撃が当たって土煙が晴れた時、あの怨霊、『輪入道』はまだ動いていた。

流石に私も彼もこれ以上攻撃などできない。そんな絶体絶命の状況だったが、どう言うわけか輪入道は急に向きを変え、どこかへ転がり去っていった。こうして屋上での危機は去ったのだ。


彼が戦っている最中、私は考え込んでいた。

なぜあの時、『友達になって』と言う契約で自分が驚いたのか。


思えばあの『夢の間』で彼との契約を結ぼうと思ったのは勘でしかなかった。

私は昔から勘が良く、父の失くしたものをすぐに見つけ出したり、考えていることを何となく言い当てたりというほどだったそうだ。その勘があの時彼に出会った時に働いた。


――そうだ。思い出した。

なぜ私が動揺したのか、それは昔一度同じことを言われたからだ。

脳裏に透き通るような水色の髪と瞳を持つ少女が映し出される。


『だったら、私と友達になってください。』


彼女もそう言っていた。友達になってくれなどと頼まれたのは今回のを含めて2回しかない。

あの時は友達がどういう意味かわからなくなっていた。

でも今はわかる。彼はあの時命を救ってくれた。その恩返しくらいはしなくては。


もしかしたら彼なら、悪魔にも優しい心を向ける彼なら、()()()()を認めてくれるかもしれない。たとえ私が悪魔でなかったとしても。

そう信じていた。そう思わずにはいられなかった。


気がつくと傷だらけでボロボロになった彼が、私に手を差し伸べていた。


「怪我、大丈夫?立てる?」


そう聞いてくる彼の顔を見て自然に笑みが溢れる。私も友達のような存在がもっと欲しかったんだな、と実感した。今まで気づかなかったその気持ちを彼が教えてくれた。


「うん…。ありがとう、私を助けてくれて。」

「友達なんだから助けるのは当然だよ。」

「うん…友達…。ふふっ。これからよろしくね、亘希くん。」


そんな温かい気持ちとその淡い期待を胸に、私は彼の――皐月亘希の手を取った。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


同じ頃、学校からそう遠くないビルの屋上にて。

一人の少女が学校の様子を窺っていた。その目に映るのは悪魔の少女と人間の少年。

その何もかも見通すような透き通った水色の目はまるで彼らを監視するかのように見つめていた。


「…全く。お嬢様はなにをなさっているのやら。確かに強い怨霊でしたけど、あの程度ならあなたの実力なら追い払うくらいはできたでしょうに。私があれを引きつけなかったらどうなっていたか…。」


そう呟く彼女の水色の髪が風に揺られる。

目線をずらし、日が沈み暗くなっていく空を眺める。


「友達…ですか…。」


その呟きは風に邪魔され誰にも聞かれることはない。


電灯でただ一点明るくなっている学校の屋上でベルと、亘希は笑っていた。

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