第二十四話、旅の終わり。
「自己紹介をするです。私は白虎様が配下、地動隊参謀・副隊長、カマイタチです!」
「同じく副隊長、白兎だよ〜。」
夕日が沈む稲佐の浜で名乗った二人は丁寧にお辞儀をした。
「カマイタチと…白兎?それに白虎って…。」
二人はつい昨日の夜に玄武と出会ったばかりだ。その名前を聞いた時から他の四神もいるのではないかとは思っていたが、それが今確定した。
「そうなのです!この世で最も強く、最もカッコいいお方!それこそが白虎様なのです!」
「誇張しすぎだよ〜カマイタチちゃん〜。」
「誇張じゃないです!我々では届かない強さの境地にいるお方!それが白虎様なのです!それと後、カマイタチちゃんなどと気安く呼ぶなです!腹黒兎のくせに生意気なのです!」
「はわわ〜…!私は白兎だよ〜、カマイタチちゃん〜!」
「聞いてるですか!それに腹黒の意味が違うです!色が黒いって意味じゃないです!」
来て早々ギャーギャー口喧嘩(といっても一方的だが)を始める二人に亘希は呆気に取られていた。
しばらく言い合いを続けていたが急にこっちを睨むように見つめてきた。
「それとお前!あの鳥居の罠はどういうことですか!?あれのせいでどれだけ時間を取られたと…!」
「あー…ごめん。」
ベルがカマイタチの圧に押されるように謝る。おそらく鳥居のところでベルが掛けていた魔法のことだろう。どんな魔法を何のためにかけたのか結局教えてくれなかったが、その魔法の矛先はカマイタチに向いていたようだ。
「謝ればいいって話じゃないです!あー、もう思い出すだけでイライラするです!もう身分なんてどうでもいいです!このままここで討ち取ってくれるです!」
「ちょっと!?ここじゃ人目に…!」
「じゃあ見えなければいいのです!いくですよ…!風鱗網!」
突如カマイタチの手から緑色の球体が出現した。それは急激に膨らみ、四人を巻き込んだ。
気がつくと緑色の巨大な風の渦がまるで檻のように亘希たちを包み込んでいる。
「結界魔法の応用です!これならみられる心配もないです!」
自ら作り出した旋風に乗ってカマイタチが自慢げに笑う。その手にはいつの間にか二本の鎌が握られていた。大きさはベルのものより小さいが、それでも普通の鎌より一回り大きい。
「さぁ、真っ向勝負です!」
結界から外れた風が内部にも吹き荒れる。皮膚を掠めるその風を直に感じながらベルが自身ありげな笑みを浮かべる。
「望むところだよ!」
亘希はベルにそっと耳打ちする。
「ベル、本当に戦うの?」
「うん、相手も本気みたいだし。大丈夫。私が勝つから。」
鎌を構え直したベルは吹き荒れる強風の中、カマイタチと睨み合う。
刹那、カマイタチに逆風が吹き荒れる。その風に乗るようにしてベルが鎌を振るう。その鎌をカマイタチは二本の鎌で受け止める。一瞬火花が散ったように見えた。
「先手必勝だよ!」
「やるですね…!しかし私も負けてないです!」
鎌同士が鎬を削る。
そのまま両者はもつれ合いながら下降していく。
今度は先に引いたほうがそのまま押し負けてしまう。だから地面すれすれの所で相手より遅く離脱しなくてはならない。
最後の最後まで鎬を削り合い、ほぼ同時に飛び下がった。
再び両者が睨み合う。どちらも結構息が上がっている。
亘希は二人が戦っているのをただ傍観することしかできなかった。割り込むことなんてできない。速すぎる。今割り込んでもただただ邪魔になるだけだろう。最悪の場合、弱い自分がベルそっちのけで狙われて、亘希を守るためにベルが防戦一方になってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。
「ハァ…ハァ…またまだ…!」
「フゥ…行くよ!」
再び鎌と鎌がぶつかり合う。ベルは今度は少し距離を取って戦っていた。
一定の距離があれば相手の間合いから離れられる上に、自分の方が鎌が大きい分リーチが生まれ、攻撃しやすくなる。
「甘いです…!」
それでも距離を詰めようとしてくるカマイタチにベルがニヤリと笑う。
「作戦通りだよ!ベスビオ・スパーク!」
「なっ…!?」
突如カマイタチの周りに火花が散った。その火花はどんどん広がりを見せ、やがてカマイタチを巻き込んで大きな爆発を起こした。
「これでチェックメイト…!」
煙を切り裂くようにベルが鎌を振り下ろす。だが手応えはない。その瞬間首筋に冷たい感触が広がる。しくじった。油断した。何とか鎌を割り込ませ、弾き飛ばす。首筋が血で濡れている。あと少し反応が遅かったら確実に斬られていた。一度体制を立て直す。
ベルに一撃を与えたカマイタチの体も無事ではなかった。ところどころ服は血に染まり、切れた服から肌が顔を覗かせている。
「危なかったです…!」
「こっちのセリフだよ…!」
いつまた斬り合ってもおかしくないほど切羽詰まっていた。空気が重い。
しばらくして再びカマイタチがこっちに向かって突撃してくる。
「これで終わりです…!」
「ッ…!」
首の痛みで上手く動けない。それでも鎌を強く握り、受け止めようとしたその時――。
「これで私が勝っ…。ぐえっ!」
カマイタチの頭に鈍器が振り下ろされる。いや、鈍器というよりあれは…
「え…何あの太い本。」
「さぁ…?」
倒れ込むカマイタチの後ろから現れたのは白兎だった。
「も〜、無駄な争いはするな〜って白虎様行ってたでしょう?駄目ですよ〜勝手に戦っちゃ。」
「あと少しで…いいところ…だったのに…!邪魔を…!」
カマイタチが痛みに堪えながら白兎を睨みつける。
白兎は顔色さえほとんど変わらない。それどころかさっきは無言でカマイタチの頭に鈍器(本)を当てていた。イマイチキャラが掴めない。
「さて、今日はもうおしまい〜。えいっ!」
白兎が指を鳴らすと結界はまるで泡のように消えた。結界が消えると同時に白兎から頭に一撃を受けたカマイタチはそのままダウンしてしまった。
「さて、本題を話さないとね〜。」
何事もなかったかのように白兎が喋り出す。
二人はしばらく固まっていたが、ようやく心が追いついた。
「私たちがここにきた理由はね〜、これを二人に渡すためなの〜。」
そう言って懐から一通の手紙を取り出す。
これって…。」
「手紙?」
そう言って差し出された手紙をまじまじと見つめる。金色の装飾が施された煌びやかな手紙だった。
白虎様がこの手紙を二人にって。読んでみて〜。」
白虎――この前の玄武に続き、この白虎も四神の一人だ。確か西を司る守護神であり、その名の通り白い虎の姿をしていたはずだ。そのような存在が亘希たちに何を伝えようとしたのか…。全く想像がつかない。
手紙を開いて二人で覗き込む。しかしその内容に二人は驚いた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「どんどん出雲が遠ざかっていくね…。」
「うん…。」
ところ変わって出雲発のバスの中、二人は旅の感傷に浸っていた。
ベルの過去の判明、悪魔ガープとの戦闘と死、イタチとウサギ…。
1日2日の間に起こったとは思えないほど濃い休日だった。
手紙の内容、それは平たく言うなら招待状だった。亘希とベルの二人を地動隊四大隊長が揃う会合に招待したい。これがこの手紙の大まかな内容だ。しかし、差出人は白虎ではなかった。
差出人の名前のところには『麒麟』と書かれていた。
これで分かったのは少なくとも四神は存在する上にその上の存在の麒麟まで存在するということ。
新たな始まりの予感に心が弾むが、それでもどこか心配している自分がそこにはいた。
「――ねぇ、亘希くん!」
頭の中にベルの声が響く。ハッとして目を開く。どうやら眠りそうになっていたようだ。
「ごめんごめん、どうかした?」
「今回の旅、すっっごく楽しかった!また二人で行こうね!」
ベルの太陽のような笑顔が亘希の心を照らす。
眩しくて優しい守りたい光。そのために僕は…。
朝日が昇る中、バスは道をまっすぐに進んでいく。
その道の果てはまだ見えなかった。




