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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第一章、悪魔と契約者。
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第十九話、旧友。


「私は玄武。地動隊四大隊長の一人であり、北を司る守護神です。」

「玄武…。」


玄武と名乗った少女が指を鳴らす。すると八岐大蛇の頭に刺さった斧が氷に変わり、砕けて消えた。


「助…かった…?」

「ここまでよく耐えました。もう大丈夫ですよ。もう倒し終わりましたから。」


全員の緊張が解け、大きくため息をつく。


「よかった…!助か…」

「怖かったよ〜!!うわ〜ん!」


ベルが勢いよく飛びついてくる。その体はまだ震えが残っていた。


「怖かった…!あんなに血が…飛んで…!体の震えが…止まらなくて…!」


言葉が飛び飛びになりながら涙を流す彼女を、亘希は優しく頭を撫でた。

しばらくしてベルが亘希の胸の中ですぅすぅと寝息を立てながら眠りにつく。きっと緊張が解けて心が緩んだのだろう。ベルを優しく背中に担ぐ。


「玄武さん本当にありがとうございます。あのままだと僕たちは…。」

「いえいえ、お礼は大丈夫です。私はただ、近くを通りかかっただけですから。」

「それでも、お礼だけでも言わせてください。本当にありがとうございました!」

「律儀ですね、あなたは。それなら、お礼だけは受け取っておきます。…それで、あなたはどうするんですか?」


玄武が亘希から目線をずらす。彼女の視線の先には悪魔・フルフルがいた。悪魔の感情がどのようなものなのかは分からないが、もし人間と同じ感覚を持っているなら目の前で主人を奪われた彼女の気持ちは計り知れない。


「…助けてもらったことは礼を言うっす。でも恩は一回だけっすから。早い内に返させてもらうっす。」


主人を失った悪魔の目は酷く沈んでいた。地を足で蹴って、木の上に立つ。後に残った血溜まりの方を向き、目を閉じる。


「…一旦、去らせてもらうっす。」


皆に背を向け、何処かへ飛び去る後ろ姿はどこか悲しさを抱えていた。


「…悪魔の思考回路は人間や神と似通っています。死はどんな者にとってもつらいものですから。その死を悲劇と捉えるかは多少なりとも差異はありますけどね。」

「…うん。」


亘希はまだ家族を失ったことがない。祖父母もどちらとも元気に暮らしている。だがいつかは別れが来る。そんなとき自分が死を受け入れられるのか全く想像がつかない。


「…とにかく、今日はもう遅いので気をつけて帰ってください。現場処理は私がやっておきます。」

「はい。」

「それと、今後会う機会があれば次からは敬語は結構です。あんまり敬語を使われるのは好きじゃないので。」

「…わかった。今日はありがとう、玄武さん。じゃあまた!」

「はい、また。」


こうして亘希たちは玄武と別れ、山を降りたのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「…さてと、私もそろそろ降りますか。」


玄武の今回の任務。それは島根に突如現れた怪物・八岐大蛇の討伐、並びに生け捕り。

斧で脳天を刺激し気絶させた八岐大蛇を、自ら作り出した氷の結界で包み込む。それをそのまま圧縮する。これにより内部にダメージを与えずにコンパクトに運ぶことができる。


できるだけ街から離れた山道を通って山を下る。

山道は八岐大蛇の這った跡でぐちゃぐちゃになっていた。こういう痕跡をできるだけ残さないように修復するのも最重要事項だ。


ようやく険しい山道から舗装された道路に出る。


「ふぅ…ようやく降りれました。」


道中目に映る範囲で壊れた道を直しながら降りたのでだいぶ遠回りになってしまった。


「まったく…こいつには直す側の気持ちになってほしいですよ…。まああの巨体じゃ仕方ないですけど。」


ぶつぶつ文句を呟きながら、街へ向かって歩き出す。空には満月が輝いていた。

街に着くと慣れた足取りで寿司屋に入る。


「あっ、今日はだいぶと空いていますね。すぐに入れそうです。」


彼女の読み通り、順番はすぐに回ってきた。席に着くが何かを頼む様子はない。まるで誰かを待っているかのようだった。


「あっ、すみません、遅くなりました。」

「いえいえ、こちらこそこっちでお店決めちゃってごめんなさい。」

「いえ、無理なお願いをしたのは私の方ですから。感謝しかございません。」


少し遅れて店にやってきたのはアリエだった。身体中から汗をかき、息も荒い。


「いえいえ、旧友の頼みですから。断るなんて私にはできません。」

「ですがお嬢様の危機を救って下さり本当にありがとうございました。」

「いいって…。私は今日何度お礼を言われるのか…。」

「お嬢様の様子は?」

「だいぶショッキングなものを見てしまったみたいで恐怖に震えていましたけど、多分もう大丈夫です。」

「そうですか。生きておられるようで何よりです。」


アリエが席につき、大きくため息をつく。


「…では、約束通り八岐大蛇(これ)は私たち地動隊が預かります。」

「はい、お願いを聞いていただいたのは私の方ですから。そのくらいが妥当です。」

「ワカッタヨー!コレデコウショウセイリツダネ!」

「…何をやってるんですか?」

「ふふっ、最近腹話術にハマっていて…。なのでこれで練習をと。」

「腹話術というか…それはそもそも()()()()()()ですよね?」


玄武が腹話術と称して動かしているのは蛇の頭。彼女の持つもう一つの顔だ。彼女の体の背中あたりから直接生えている。これ自身に自我はなく、彼女の思い通りに手のように操ることができる。


「この顔に発声機能はないので実質腹話術です。」

「どういう理屈ですかそれは…。」


アリエが呆れ顔でため息をつく。


「これなら先輩方も喜んでくれますよね!」

「確かにお姉様なら乗ってくれそうですけど…。まあ自由にしてください。」

「今度会う時までに練習しておかないと…!ガンバルゾー!」


そうして気合いを入れた玄武の電話に着信が入る。


「…はい、もしもし。あっ、先輩!…はい、終わりました。…分かりました。それでは失礼します。」

「…誰でしたか?」

「青龍先輩です。任務完了の報告をしておきました。」

「お姉様でしたか。お姉様はなんと?」

「八岐大蛇をできるだけ傷つけないように持ち帰れとのことです。発生源の検証など、やらなきゃいけないことは多いですから。」

「邪石…でしたよね?」

「はい。今回割れた邪石は色々不明な点が多いそうです。私も足早にここを去らなければいけません。」

「もう行ってしまわれるのですか?」

「いえいえ、せっかく久しぶりに会えたんだし、今日は楽しむつもりです。私、そろそろ頼みますけど、アリエは何か入りますか?」

「では、私はシャコをお願いします。」

「マイナーですね…。私は中トロとサーモンをお願いします。」


注文を終えた玄武はある違和感に気づいた。


「あれ?アリエ、その服の泥は?」


アリエの服には所々泥が飛び散っていた。


「ああっ、すみません。おそらくここに向かってくる時に付いたのだと思います。」

「えっ、でも何で来たらそんなに泥が付くんですか?バスとかだと泥が付くことはありえないですけど…。」

「はい、歩いてきました。」

「…は?」

「…?えっと…だから、歩いてきました。」

「???…本当に?」

「…?はい。」

「正気で言ってる?」

「はい。」


玄武は度肝を抜かれていた。普通の人ならバスがないからといって島根まで他の県から歩いてくる人はまずいないだろう。だが彼女はそれを平然とやり遂げてみせた。


「はぁ…相変わらず過ぎて逆に安心しますね…。あなたには負けました。」

「…?戦ってもいないのですが?」

「もういいです。」


ようやく頼んでいた寿司が来た。二人はたくさん寿司を食べ、疲れた体を癒したのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


一方その頃『天界』。


青龍は長い廊下を突き進んでいた。進むたび床の木がキシキシと音を立てる。

広い広間に出るとそこには数人の男女がいた。

全員長年見知った仲だ。


「お待たせしました。今日はお忙しい中集まってもらって申し訳ございません。」

「ああ、構わないよ。この件はできるだけ早めに対処したいからね。」


謝る青龍に金髪の長身の男が答える。


「では、報告を。玄武が八岐大蛇の討伐を完了させたようです。」

「ふ〜ん、あたしの出る幕はなかったってわけか。ていうかどんどん強くなるな、あいつ。」

「後輩の成長は目に見張るものがありますわね。」


青龍の報告に今度は白と黒のまだらの髪の女性と、赤い髪の女性が反応する。


「あんたはもう追い抜かれてるんじゃない?」

「ふん、あたしが追い抜かれてるならあたしより下のお前はとっくの昔に抜かれてるな。」

「はぁ!?」

「あぁ!?」


そう言い合いになる青龍たちを赤い髪の女性が止める。


「喧嘩はやめなさい。彼の御前よ。」


そう言われて二人はハッとした。


「申し訳ございません。つい気持ちが昂ってしまいまして…。」

「いやいいよ。いつものことだろう?」

「…。」


反論できない。この二人はいつもそうだ。いつも事あるごとに衝突している。


「そういえば青龍、妹の様子はどうだ?」


金髪の長身の男が尋ねる。


「あの子は相変わらず元気にあの方に仕えているそうです。」

「それは何よりだ。他に何か変わったことは?」

「そういえば、妹が仕えているあの方が人間と契約したようです。しかも人間の男性と。」

「…ほう。」


さっきまで、頬杖をついていた彼が不敵な笑みを浮かべる。


「契約…か。」


男の独り言は誰にも届かなかった。

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