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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第一章、悪魔と契約者。
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第一話、悪魔との邂逅。

そこはいつも通りのベットの上だった。

額には汗が滲み、枕元は濡れていた。

深呼吸をしながら今見た夢を振り返る。

夢の間…夢の塔…契約…悪魔…

現実世界ではゲームくらいでしか聞き覚えのない言葉を何度も頭の中で反芻する。


何とも奇妙な夢だった。今の夢は何だったのか。


『頑張って。』『私と、契約してくれない?』『またね、皐月亘希くん。』


その言葉が何度も何度も頭の中で響く。


―――そうだ、約束。


夢の中でベルと結んだ約束を思い出す。


『明日、キミの学校の屋上に来て。』『契約の答えもそこで教えてね。』


契約…か。

まだ聞き慣れないその言葉を頭の中で何度も繰り返し呟く。

何でも一つ願いが叶う。

そんな夢のような話、信じて良いのだろうか。

でも…あの瞳は嘘をついているようには見えなかった。


ベッドに転がりながら悩んでいると、再びアラームの音が鳴る。

今日は月曜日。


――あっ、学校!


彼は急いで飛び起き、学校の準備を持って家を飛び出した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


彼――皐月亘希は普通の中学三年生である。

身長は157cmと少し小さいが特に不自由したことはない。

三年生になり早二週間が過ぎた。学校はまだ部屋を覚え切れていないが、ある程度慣れてきていたところだった。彼のこれまでの人生を一言で表すとするならば『平凡』。特に人と違う特技があるわけでも、何か飛び抜けてできるなどといったことはなかった。人と違う点を出すとすればそれは小学五年生から去年まで、ほぼ趣味程度で乗馬を習っていたことくらいである。それでも昔から乗馬をやっていた父のように上手く乗れていたわけではなかった。


そんな中でのあの夢。

自分の人生がもしかしたら少しずつ変わっていくのではないかと感じたのは無理もない。


通勤ラッシュ時に出勤する会社員に埋め尽くされた満員電車に乗って学校に行くのは日常へと変わりつつあった。

電車の中でも今朝の夢について考える。


―――僕の一番の願いって何なんだろう?そう心の中で考え込む。

別にお金に困っているわけでもない。別段何か成し遂げたいことや夢があるわけでもなかった。悪魔に会ったら何を叶えてもらうか、なんて想像する人などそうそういないだろう。自分も神話は好きで何度か読んでいたが、そんなことを想像したりはあまりしなかった。唐突な契約という言葉に戸惑うのも無理はない。


そんなことを考えつつ電車に揺られ、近くで話に花を咲かせる同じ学校の生徒を横目で見ながら、ただ窓の外を眺めていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


電車が駅に入りゆっくりとスピードを落とす。

停車してドアが開き水のように流れ出る人の波に乗りながら、駅から外へ出る。


駅から学校まではそれ程かからない。

徒歩5分から10分程度でその学校にはたどり着く。


私立南桐中学校。ここら辺ではまあまあの知名度のある中学校である。

広い敷地とグラウンド、最近改修された5階建ての大きめの校舎が生徒たちを出迎える。

校門のそばの桜の花びらが風と共に飛び、春を感じさせる。

守衛さんに挨拶を済まして、校内へと足を踏み入れる。あの夢の『約束』のせいか、今日は学校がいつもと違って見えた。


教室に入る。

するといつも通り友達がおはようと声をかける…ということが起こるはずもなかった。

いつも通り一人で教室の席に座る。誰も自分に声をかける人はいない。そのまま朝礼が始まり始業のベルと共に授業が始まる。

そう、これが彼の日常だった。


いじめられているというわけではない。

たまに話しかけてくれる子はいる。それでも会話が長続きせず、すぐに沈黙が訪れる。

こうしているうちにクラス内でどんどんグループはできていく。趣味が似通った子達のグループや、仲のいい男子グループなど、クラスの輪はすぐに決まっていく。


こうしてあっという間に時間は過ぎ、約束の放課後になった。


彼は心の中で一つの結論に達していた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


屋上へは3階の扉から外に出て、外階段を2階分上がると到着する。

普通は3階の屋上への扉は鍵がかけてあるのだが、今日はなぜか開いていた。まるで自分を誘い込んでいるかのように。


普段放課後のクラブなどで騒がしくなるはずの校内も不自然なほどに静まり返っていた。

不安を胸に抱えながら屋上へ一歩一歩進んでいく。

日はもう沈みかけ、南の空には半月が昇っていた。


「おっと、やっと来た。夢の中以来だね、亘希くん。」


階段を登り終えると夢の中と同じ笑みを浮かべた悪魔がこちらを見つめていた。

夢で見たのと同じ紫の髪、金色の目。間違いなくベルそのものだった。

ただ一つ夢と違う点を挙げるとすれば、その背中に大きな黒い鳥の翼がついていることだった。


「約束を守ってくれて嬉しいよ。さぁ、夢の話の続きをしようか。」

「うん。でも、その前に一つ聞いてもいいかな。」

「…なに?」

「夢の中で君は自分のことを『暴食の悪魔』って名乗ってたけど、ベルは『蝿の王』ベルゼブブとどんな関係なの?」


あれからずっと気になっていた。『暴食』が属する七つの大罪は一つ一つに対応する悪魔が存在する。『暴食』に対応するのは『蝿の王』ベルゼブブという悪魔だった。あの時は気付かなかったが今考えてみると名前もどことなく似ている。


「…詳しいんだね、キミ。その通りだよ。『暴食』を冠する悪魔はベルゼブブ。私のお爺様の名前だよ。」

「ってことはベルはベルゼブブの孫!?」

「そう!私こそが『暴食』の継承者にして大悪魔ベルゼブブの直系、ベルゼ・バアルだよ!」

そう名乗る目はキラキラと輝いていた。


「じゃあそろそろ話を元に戻そうか。夢の中でも話した通り、私はキミの願いを何でも一つ叶えてあげる。その代償はその願いによって差が出る。寿命を引き換えに願いを叶えるのが一般的かな。この契約を結べば私はずっとキミを守ってあげられる。キミにとっては願いも叶えられるんだから一石二鳥じゃないかな。」

「確かにそうだけどその願いにルールはないの?叶えられない願いとか。」

「特にないかな。そういう契約のルールはこの『天界契約取締法』で定められているのだよ」

そう自慢げに分厚い本を取り出し見せつける。

一体どこから出したと心の中でツッコむ。


「さぁ、そろそろキミの願いを聞こうか。」


もう心の中で願いは決まっていた。


「僕は…君とこの契約だけの関係じゃなくて友達になりたい!」

「は…?」


彼女が信じられないといった顔で見つめてくる。


「これまでずっと友達なんかできたことなくて…それで…。」

「ちょちょちょちょっと待って!?一体なに言ってるかわかってるの?悪魔と友達になんて…。」


瞳が揺れ動き動揺しているのがわかる。


そんな中急に霧が頬を掠める。二人はいつの間にかあたり一面が霧に覆われていることに気づいていなかった。


「…!なにこれ!?」


その霧の中に爛爛と光る目のようなものが見える。


「…下がってて。」

ベルが鎌を取り出し静かに構える。


その怪物は唸り声を上げながらこちらに姿を現した…。

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