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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第一章、悪魔と契約者。
14/77

第十二話、ゴートゥー出雲。

五月三日、早朝。

亘希はまだ寝ていた。


まだ日も昇っていなくて暗い廊下をベルは進んでいた。


「…ふぅ…。」


ソファーに腰掛け、ため息をつく。

普段は寝付きの良いベルだが、今日はあまり熟睡できなかった。

それはやはりこの旅がただの観光目的ではないこともあるだろう。だが本当の理由は…。

そんなことを考えているうちにうとうとと眠りに落ちそうになる。


「…どーしたんですか、そんな暗い顔して。」

「わっ!?」


だが、その声がベルを引き戻す。

全く気配を感じなかった。振り返ると目と鼻の先にアリエの顔がある。


「びっくりした…。驚かせないでよ…。」

「別に驚かすつもりはなかったのですが。お嬢様の方こそ気付かなかったのですか?」

「えっ?」

「いつもはあのくらいすぐに見つけてしまうじゃないですか。」

「あっ…。」

「くれぐれも警戒を解かないよう注意してください、お嬢様。今回は私はお供できませんので、彼に全てを任せるしかありませんから。」

「…分かった。」


やはり寝不足だろうか。すぐ夢の世界へ行ってしまいそうだ。ただアリエの声だけが頭に響く。


「…それとお嬢様、いえ、ベル。」

「なに?」

「楽しんできてください。それが私にできるあなたへのアドバイスです。」


アリエがにっこりと笑みを見せる。ベルもつられて笑ってしまった。


「…ありがとう、アリエ。」

「いいえ、道中お気をつけて。」


朝日が優しく二人を照らしていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


――眩しい。光が顔を照らしている。

閉めたカーテンの隙間から太陽の光が差し込んでいるのだ。

その光に導かれて亘希は目を覚ました。

今日は五月三日。


頭が急に冴える。そうだ。今日だ。

ベットから跳ね起きる。

そこで亘希はリビングからいい匂いがしていることに気づいた。


「…あ、おはようございます。」


リビングに行くとアリエがキッチンで朝ごはんを作っていた。


「おはよう。」


こうしてアリエが勝手に家に上がっている毎日ももう慣れた。合鍵を渡してないのにどうして入れるのかなど、いろいろ疑問は残るがそんなことはもう考えなくなっていた。


「何作ってるの?」

「フレンチトーストです。いい卵が手に入りましたので。」

「そっか。いい匂いだね。」

「ええ、自信作です。」


そこで亘希はベルが部屋にいないことに気付いた。いつもは起きた時にはすでに席についているのに、だ。


「あれ?ベルは?」

「お嬢様はあちらに。少し頼んでも良いでしょうか?」

「何を?」

「お嬢様を起こしてきてくださいませんか?私は手が離せませんので。早くしないと料理が冷めてしまいます。」

「分かった。」


ベルはソファーで寝息を立てて寝ていた。

天使のように可愛らしいその寝顔に笑みが溢れる。


「ベル、起きて。ご飯冷めちゃうよ。」

「う〜ん。」


ベルが寝返りを打つ。全然起きる気配がしない。


「ベル〜、起きて〜。朝だよ。」

「…すぴー。」

「…。」


部屋から目覚ましを持ってきて時間を一分後にセットする。


ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ…


目覚ましの音が部屋中に響き渡る。

ようやくベルの体が起き上がる。


「あっ、ベルおはよう。」


だがベルはそのまま目覚ましを止め、そのまま横になってしまった。


「すぴー。」

「寝るなー!」


おかしい。ここまでしても起きないなんて。というかいつもなら誰よりも(アリエは神出鬼没なのでわからないが)早く起きているのに。

昨日に何かあっただろうか。とはいえ昨日は誕生日パーティーして、静香と会ったくらいでそんな寝不足になるようなことはなかったはずだ。


「はぁ…もう少し寝かせてやるか。」


流石に寝不足のまま旅行に行かせるのは心苦しい。アリエには悪いがもう少し寝かせることにした。


「どうですか?起きましたか?」

「ううん、全然。多分寝不足か何かだと思う。だからもう少し寝かせといてもいい?」

「まぁいいですよ。もう出来上がってしまいましたが冷蔵庫で冷やしておきますので。」

「ありがとう。」


皿にラップをかけ、冷蔵庫にしまう。


「…それにしても寝不足ですか…。お嬢様にしては珍しいですね。」

「だよね。アリエは何か心当たりはある?」

「ないですね…。パーティーの後別れて、それっきりなので。」

「そっか。」


亘希はベルをいつまで寝かせるべきだろうか悩んでいた。最初の予定では朝に出発して、昼間に探索する予定だったが、この様子だとベルは昼まで起きないだろう。出雲への交通手段はバス。予約なしでは空席がなければ乗ることはできない。つまり準備して出たとしても賭けになってしまう。


…だが多少遠回りにはなるが電車で行くことも可能なので大丈夫だろう。旅館のチェックイン時間はアリエが遅めに予約していてくれた。本当に感謝が尽きない。


「あの…。」

「どうしたの?」

「ベルを…頼みましたよ?」

「うん…分かった。」


そのまま手際良く昼食のおにぎりまで作ってしまったアリエはそれだけ言い残して去っていった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ん…。ふぁ〜…。」


しばらくしてベルは目を覚ました。

いつから寝ていたのだろう。朝アリエと話したくらいから記憶がない。

時計はすでに十二時を回っていた。


ソファーから起き上がり、亘希の部屋に入る。

亘希はそこで本を読んでいた。


「あっ、ベル、おはよう。」

「おはよう。ごめんね、結構寝ちゃってた。」

「大丈夫だよ。よく眠れた?」

「うん、もう大丈夫だと思う。」

「よかった。遅くなったけど朝ごはん食べて出ようか。アリエが作っておいてくれたし。」

「うん。」


こうしてベルは遅めの朝ごはん(昼ごはんかもしれない)を食べることにした。

まだ体に残っていた眠気も温かい食事で一気に吹き飛ぶ。


「…!美味しい…!」

「よかった。って僕は何もしてないけど。」


そう亘希が苦笑いする。


「足りなかったらおにぎりも食べてね。温めておくから。」

「ありがとう!うまっ、うまっ!」


頬をパンパンに膨らませながらベルが美味しそうにフレンチトーストを食べる。あっという間に無くなり、そのままおにぎりに直行。


「もう少しゆっくり食べなよ…。」

「ふあふぁっふぁ(分かった)。」

「食べながら喋らない。」

「はーい。」


ゆったりとした食事の時間もすぐに終わった。早く準備して出なくては。


「…さぁ、行くよ。準備できた?」

「うん!準備はバッチリだよ!」


こうして亘希とベル、二人の旅が始まりを告げた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


バスは近くの駅から出雲市駅行きがある。それに乗っていけば大体三時間半ほどで出雲に着くことができる。


「さて、次の時間は…。うん、もうすぐだね。」

「席空いてるといいね。私が昼まで寝てたせいでこうなっちゃったんだよね。ごめんね?」

「いいよ、寝不足だったら何にもできないかもしれないし。ちゃんと睡眠が取れてる方がいいよ。」

「ありがと。でも、それならバスで寝かせとけばよかったんじゃ…」

「女の子をおんぶか抱っこでここまで連れてくる勇気はないよ。アリエによると、寝てる間は不可視化が解除されるみたいだから。」

「へー、そうなんだ。知らなかった。」

「いや、自分の能力なんだから知ってないとおかしいでしょ…。」


そう話している間にバスが来た。

幸い乗る客はそれほど多くなかった。もう今出ても着くのが夕方になってしまう時間に出たのが功を奏したのかもしれない。


「ほら、乗るよ。」

「了解!」


ベルがバスに飛び乗る。


「あっ、あそこ空いてるから座ろうか。そういえば今ベルってどんな状態なの?」

「普通の人にも見えるようにしてるよ。今は見えてても何も問題ないしね。」

「そっか。なら隣に座ろうか。」


座席に座ると急にあくびが出た。座り心地の良い座席のせいだろうか。いや、おそらく早く起きすぎたのが原因だろう。元々朝に出る予定だったため目覚ましもその分早くかけた。


「ふふっ、今度は逆だね。寝てていいよ。」

「ありがとう。」


自分も同じ立場になった今、バスの中で寝るのが今は最適解だろう。目を瞑り、椅子にもたれかかる。途端に眠気が押し寄せ、亘希を夢の世界へ攫おうとする。


そんな亘希を横目にベルは窓の外を眺めていた。


ベルの寝不足を引き起こした原因、それは昨日の静香との別れ際が原因だった。


あの時亘希が部屋に戻ってきた後、静香は何事もなかったかのようにわいわい会話を楽しみ、そして彼女の携帯が鳴り、もう帰らなくてはならないことを告げた。


その時静香は亘希に気付かれないようにベルの横を通過しつつ耳に囁いた。


『君には期待しているよ、おにいちゃんをどこまで守り切れるかな。』


期待している…何を期待しているのだろう。彼女の思惑は何なのか。ベルにはさっぱり分からなかった。ただ彼女が普通の人間ではないことは確かだ。


彼女は一体何者なのか。そのことがずっと頭に浮かんで離れない。

ベルは小さくため息をついた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


そんなバスの外。一際高い松の木の上の人影がバスの行く先を目で追っていた。


「やっぱりここにいましたか…。姉上とあの方のご進言通りですね。いつかアタクシたちの救世主になられるお方…!」


木の上には小柄な女性が乗っていた。その頰は赤く染まっていた。


「では、すぐに会いましょうね、アタクシたちの、いいえ、アタクシの(バアル)様…♡」


その女性の真っ赤な舌が唇を軽く舐める。

その顔は恍惚とした表情を浮かべていた。

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