第十話、サプライズ!
尾道での旅を終えた二人はバスで学校まで戻り、そこから電車に乗って帰宅した。
「あっ、お二人ともおかえりなさいませ。」
「うん、ただいまアリエ。」
家ではなぜかメイド服を着たアリエが出迎えてくれた。
「えっ、その服何?」
「近くに売ってましたので。これが従者の正装です。」
…いや、そういうわけじゃないと思うんだけど…。っていうかどこで買ったんだ?
いくつも疑問が浮かぶが、まぁ似合っているからいいかと、亘希はスルーすることにした。
「ご夕食はもうご用意致しました。温かいうちにお召し上がりください。」
相変わらず手際がいい。部屋の掃除も隅まで行き通ってるし、洗濯物も畳んでしまわれている。
「…では、私はそろそろ。」
「何か用事があるの?」
「はい。すぐに行かなくてはなりません。では、失礼致します。」
アリエが去り、ドアの閉まる音が音が聞こえた後、二人は目配せして急いで部屋へ駆け込む。
「ふぅ…もう行ったね…。」
「うん、もう大丈夫だと思うよ。」
「さて、どうやってプレゼント渡そうか…?」
「何かサプライズでもする?時間はまだあるし。」
アリエの誕生日は三日後、5月1日。まだ時間はある。
「サプライズかぁ…。あのアリエが気付かないようなサプライズなんてあるかな?」
「アリエってそんなに手強いの?」
「うん、勘も鋭いし、人の気配なんてすぐに分かっちゃう。私なんて、かくれんぼで勝てたことがないよ。」
「う〜ん、何か案は…。」
しばらくの間考え込む。
「何も思いつかないな…。って言うかどこで渡すの?」
「う〜ん、家で渡すと普通だし…。あっ、アリエの家で渡すのは?」
「ベル、家の場所知ってるの?」
「えー、知らない。」
元も子もない。
「あっ、アリエを尾行するのは?そうすれば家も簡単にわかるし。」
「それは大丈夫?警察に捕まらない?」
「大丈夫大丈夫!アリエも多分私と同じで他の人には見えないはずだし。ただ誰もいない方向にこっそりと歩いていく人に見えるだけだよ。」
「それはそれで怪しすぎるでしょ…。でもまあ、家の場所を知るにはそのくらいしかないか…。」
アリエのベル以外の友人は知らないし、友達であるベルも知らないのであれば他に知っている人は見当がつかない。それしか知る方法はない。
「よし、じゃあ明日から尾行調査だー!」
「分かった。とりあえず誕生日までプレゼント隠しておくから貸して。」
「了解!」
包装はもうお店でしてもらっている。いつでも渡せる状態だ。
プレゼントを手渡す。
その時、急にドアが開いた。アリエが戻ってきたのだ。
急いでプレゼントを机の裏に隠す。
「忘れ物をしました…何やってるんですか…?」
「いや!何も!?何もしてないけど!?」
「そう…ですか。ならいいですけど。」
再びアリエが出ていく。
二人は大きくため息をついた。
何はともあれ尾行の決行が明日からに決まり、二人はアリエに見つからないように準備するのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして、決行の日が訪れた。
アリエは夜九時過ぎに家を出ていくことが多い。
おそらく別に家があるのだろう。つまりそれを尾行すれば家を特定できるはずだ。
「…では、私はそろそろ失礼します。」
「うん、分かった。また明日。」
「はい、また明日。」
扉が閉まると同時に密かに準備した荷物を持って家を出る。
「…では、今からアリエと尾行を開始する。準備はいいか、亘希助手。」
「それ何のキャラなの…?」
「キャラ等ではない。我が輩は名探偵ベルだ。」
すっかり探偵になりきっている。どこから持ってきたのか茶色いベレー帽とコートまで着ている。
「はぁ…。まぁいいや。ほら、早く追うよ。」
「了解だ、亘希く…亘希助手。」
アリエは大通りをまっすぐに進んでいく。
周りを歩く人はアリエのことなど全く気にしない様子だった。まるでそこに誰もいないように。ベルの予想通り他人には見えないようだ。
「人が多いから見失わないようにね。」
「うん!分かった。」
「…もう探偵やめたの?」
「あっ!了解だ、亘希助手。」
はっと思い出したように口調を直す。
「あっ、道を外れた…!いくぞ亘希助手!」
「うん!」
狭い路地裏。それをアリエが歩き進んでいく。
こんな場所が家の近くにあったか…?
この近くはこれまで何度も来たことがある。
だがこんな場所は亘希には見覚えがなかった。
あの時ベルが屋上で話していた魔法、『人払い』。かけた場所に無意識的に人が寄り付かなくなる結界魔法だとベルは言っていた。
もしここにもそれがかけられているとすれば辻褄が合う。
あの屋上にも人払いはかけられていたというのに亘希は入ることが出来た。
それはつまりこの魔法にはいくつか抜け穴があるということだ。
その場所に入れる人の制限。
この魔法をかけた本人がそれを操作できるのだとしたら二人はすでにアリエに見つかっている可能性がある。
亘希はそれだけはないことを祈った。
路地裏をしばらく歩いて抜けるとそこには家がぽつんと立っていた。
どこからどう見ても普通の家だ。なのにこの場所にたった一軒だけ建てられている。
それが亘希には不気味だった。
その家の前。そこにアリエの姿はあった。
急にアリエが何かに気付いたように振り返る。
二人は急いで路地裏の陰に隠れた。
アリエは周りをキョロキョロと見渡しているが、こちらには気付いていない様子だった。
やっとアリエの目線が外れた。
ほっとため息をつく。
そのままアリエが家に入るのを確認した。
「ねぇ、ベル。」
静かにベルの耳に囁く。
「なに?」
「もうそろそろ帰ったほうがいいかも。家の場所は分かったんだし。」
時計はすでに10時を回っていた。中学生の補導は11時からだったはず。もうそろそろ帰らなければならない。
「分かったよ、じゃあ帰ろうか。」
「うん、帰りもそっとね。」
「分かった。」
こうして二人は尾行調査を終えたのだった。
そして5月1日当日―――
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
最近、二人がおかしい。
なぜか私によそよそしいし、何かを隠しているような…。
この前なんか、私の家まで尾行してきていた。お嬢様に至っては探偵の真似をしながら…。
全く意図が読めない。
家に着いたが、二人はいない。
まだ帰ってないのかな…。
机に書き置きを見つけた。
『今日は外出してます』
とりあえず9時までは待ってみることにした。
が、帰ってくる様子はない。
そろそろ帰らなくては。
帰路に着く。家の電気はついていない。お姉様も来ていない様子だった。
鍵を開け、ドアを開く。
そこで部屋に少し灯りが灯っているようだった。
「誰かいるのでしょうか…?」
部屋のドアを開く。そこにはケーキが置いてあってロウソクが立ててあった。
「ケーキ…?」
急に扉が閉まる。
「ッ…!」
「アリエ、お誕生日おめでとうーー!」
急に電気が付き、三人を明るく照らす。
「お嬢様…!まさか私のために?」
「うん!サプライズ!」
だから家まで着いてきていたのか…。
合点がいった。
今日は私の誕生日だった。忘れていた。
私のためにここまでしてくれるなんて…。
「本当に、ありがとうございます…!」
私もいつか恩返しをしなくては。
その日のケーキはいつもより美味しく感じた気がした。