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私の、創世記。  作者: 皐月リリ
第一章、悪魔と契約者。
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第九話、トラベル・イン・尾道。


『行き先はもう決めてあるんだ。』

『えっ、どこ?』

『ふふっ、私にとっても関係の深い場所、島根だよ。』


新たな『友達』との旅路の幕が開かれようとしていた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「…って言ったはずだよねぇ!?どこだよここは!?」

「尾道だけど?」

「尾道だけど?じゃないよ!島根は?島根に行くのはどうしたのさ!?」

「しょうがないでしょ、遠足なんだから…。島根には後で本当に行くし。」


…そう、二人は今尾道に来ている。

遊園地の一件から一夜明け、今日は月曜日。

南桐中学校の遠足の日だ。

中学校から尾道までは約1時間半。なのでここまでバスに乗り、つい先程到着したところだ。


「全く、忘れてたにも程があるでしょ…。昨日思い出したんでしょ?」

「まぁ…そこは反論できないな…。」


ベルの言う通り亘希は遠足があることを昨日思い出した。しかも寝る直前になってからだ。寝ようとした時にアイパッドから通知が鳴り、確認すると遠足の注意事項だったというわけだ。そこで亘希は遠足があることを思い出し、急いで準備したのだった。


「ベルにもアリエにも感謝しきれないよ。準備まで手伝ってもらっちゃって…。」

「全くだよ。まぁ、その分楽しめるならそれでいいけどさ…。」


ベルがため息をつく。


「で?予定表ではどんな感じなの?」

「えっと…14時まで自由探索…だって。もうすぐ11時だから…大体三時間くらいかな。」

「ふ〜ん、じゃ、早めに行動開始しようか。行くよ!」

「いや、待って…!」


その制止も聞かずにベルが颯爽と駆け出す。…だが少し走ったところで足が止まった。


「…で、ここどこなの?」

「だから待ってって言ったじゃん…。僕だってここに来るのは初めてなんだから。」

「ごめんごめん…。」

「えっと…ここは…千光寺公園ってところらしい。」


そう言ってベルに地図を見せる。


「ふ〜ん、結構山の方だね。」

「そうだね。あっ、近くにロープウェイがあるみたい。行ってみる?」

「ロープウェイ?」

「うん、えーっと、あっ、あれ!」


丁度良いタイミングでゴンドラが上がってきた。


「あれに乗って、山を上り下り出来るんだよ。乗ってみる?」

「うん!」


そうして乗り場へ向かった二人だったが…



「混んでるね。」

「うん。」


なかなか列が進まない。


「ここで時間を潰すのもなんだし、仕方ない。歩いて降りようか。」

「乗れなかったのは残念だけど…了解!」


ベルは少し残念そうな顔をしたが、すぐに切り替えそう返事をした。


二人で千光寺の参道を下り始める。


「そういえばベル、ここにいて大丈夫なの?誰かに見つかったりとかは…。」

「大丈夫!大丈夫!亘希くん以外の人間には見えないようにしてるから!」

「それならよかった。」


少し歩くと大きな岩が見えてきた。その上には金槌が置いてあった。

横には立て看板が立ててある。


「ねぇ、あれ何なの?」

「鼓岩っていうみたい。えっと…岩の上を小石で打つと、『ポンポン』と鼓のような音がする…だって。」

「へぇ〜、やってみるね!」


そう言ってベルが岩に登る。そして岩を叩くと確かに鼓のようなポンポンという音がする。


「本当だ!もっと叩いていい?」

「いいけど…叩きすぎないようにね。」

「分かってるよ…。」


静かな空間に何度か鼓の音が鳴り響いた。


「そろそろ行こうか。時間もそれほどないし。」

「OK!すぐ行くね!」


金槌を置き、ベルが岩から降りる。


「次はどこ行こうか?」

「ちょっと地図見せて…、あっ、この『猫の細道』ってところ気になるかも!」

「分かった。じゃあまずそこの階段を降りて…。」


二人は地図を見ながら階段を降りていった。



「…あら?今のって…。」


そんな二人の背中を誰かが見ていた。


「静香〜、行くよ〜!」

「…!ごめん、今行きます!」


そう呼ばれて静香と呼ばれた少女は去っていった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


階段を降りていった後、脇道にそれる。

そこから少し上がると…。


「わぁーーーっ!いい景色!」


ベルがそう声を上げるほどそこには素晴らしい眺めが広がっていた。

亘希はその光景に見覚えがあった。確か昨日尾道と検索した時に出てきた写真の一つと同じだ。

空気が澄んでいて町がよく見える。

すぐ近くに立っている三重塔も相まってとても素晴らしい景色を作り出していた。


思わず写真を撮る。いい写真が撮れた。

それを見てベルが、


「私も写真も撮って!」


とせがんだ。


「分かった。…じゃあ撮るよ!」


携帯のシャッターを切る。


我ながらいい写真が撮れたと亘希は思った。

ベルも


「おぉーー!いいじゃん!」


と喜ぶ。


誰かの写真を撮ってこんなに喜ばれたのは初めてだ。途端に心が暖かくなる。


「もう少し歩いたらその『猫の細道』らしいよ。」

「了解!じゃあ早く行こー!」

「道が細いらしいから人に気を付けてね。」

「大丈夫大丈夫!私ならなんとか…。」

「なんとかならないから。ちゃんと着いてきて。」


ベルの手を取り、狭い道を抜ける。

少し進むと下りの道が見えてきた。


「多分こっちであってるはず…。」


少し進むと壁に描かれた可愛い猫の絵が見えてきた。


「よかった、あってたみたい…!」


そのまま道を進むと所々に猫の置物が置いてある。

不意に足元に何かの気配を感じた。何かが足元を駆けて行ったのだ。


「にゃ〜ん」


そう鳴き声が聞こえた。

その方向を見ると一匹の猫が階段の端っこで座っていた。


「わぁーー!ネコだー!」


ベルが目を輝かせる。

そしてそのまま猫に近づく。


「にゃんにゃーんにゃん、にゃんにゃーん!」

「にゃーん」


なぜかベルの猫語は通じているようだった。


「猫語、知ってるの?」

「知らない。」

「え…?」


ますます謎が深まる。

何かが通じ合っているのだろうか。確かにベルは少し猫っぽいところはあるがどちらかといえば子犬のようだ。

結局理由は分からなかった。


結局その猫がどこかに去るまでベルの猫語は続いたのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


『猫の細道』を過ぎて、海沿いへ降りていく。

線路を渡ると、ようやく商店街に着いた。


「ねぇ、亘希くん。」

「なに?」

「ちょっと商店街寄ってもいい?ちょっと買いたいものがあるんだ。」

「いいよ。何を買うの?」

「そういえば亘希くんにはまだ言ってなかったね。明々後日、5月1日はアリエの誕生日なんだ。だから、お土産とプレゼントでも買おうかと思ってね。」

「あっ、そうなんだ…!僕も結構世話になったし何か買っていこうかな。」


商店街に入るとたくさんの店が並んでいた。

アイス屋、クレープ屋、ラーメン屋…他にもレトロな建物が多く並んでいた。


二人が行くことにしたのは商店街の中にあるお土産屋。

ここでアリエへのお土産&プレゼントを買うことにしたのだった。


「…っと言っても何を買おうかな?」

「やっぱりはっさく大福とかかな。ここあたりだと有名だし。」

「へー、そうなんだ。あっ、レモンケーキも良さそう!あっ、はっさくゼリーとかはっさくシャーベットもあるよ!」


ベルはどんどんと美味しそうなものを見つけていく。

その後も散々迷ったが、結局はっさく大福に落ち着いたのだった。


「ふぅ…、お土産探しでずいぶん時間使っちゃったしそろそろお昼食べようか。」

「いいね!何食べるの?」

「やっぱり尾道といったら尾道ラーメンじゃない?」


というか昨日調べるまで尾道という地名は尾道ラーメンくらいでしか知らなかった。

こっちに引っ越すまでは尾道がどこにあるのかすら分からなかったほどだ。

二人はラーメン屋を探して歩き始める。

しかし、どの店も混んでいる。二人はその客の多くが亘希と似た学生服であることに気がついた。


「あっ、そうだった!今日は全学年がここに来てるんだった…!」


南桐中学校は中高一貫校だ。行事ごとが全学年で同じ日になることはよくあることだ。…まあ遠足の行き先まで同じになることは稀なのだが。


「どこも混んでるな…。さて、どこに入ろうか…。」

「私も今回は実体化してちゃんと食べたいしね。お金も持ってきたし。」


となると同じ学校の生徒が少ない店を選ぶしかない。それがどれだけ骨の折れることかは一目瞭然だった。


「仕方がない。魔法を使うしかないか…。」

「そんな都合のいい魔法が…?」

「うん、人の少ないところを見つけるくらい朝飯前だよ。今は昼飯前だけど。」


そう言って手に力を込めて踏ん張る。


なぜかピコーンと効果音が聞こえたような気がした。


ベルが急に目を開ける。


「見つけた!駅前の所が亘希くんと同じ学校の生徒がいなさそうだよ。」

「よかった。じゃあ時間もないし走って…!」

「いや、その必要はないよ。ちょっと手を借りるよ。」


そう言って亘希の手を掴むとあっという間に店の近くに着いた。


「そのワープ便利そうだね。」

「まぁ、結構魔力を消費するけどね。」


ベルは体を実体化させて二人で店に入る。

中には券売機があり、まずそこで券を買ってからラーメンを頼むそうだ。

亘希はラーメン&チャーハンセットを頼むことにした。


「ベルは何頼む?」

「同じの…の大盛りで。」

「容赦ないね。」

「まぁ、自分で払うから。それに百円しか値段違わないし。」


自慢げに財布を取り出す。

しかし、その手を財布に入れた瞬間ベルの体が固まった。


「ベル…?」

「亘希くん…あの…。」

「?」

「五百円貸してください!」

「はぁ!?」

「これ頼むのに五百円足りなかったんです…。貸してくださいお願いします!」


涙目でこちらを見つめてくる。

仕方がない。ベルの分も払うしかない。


自分の財布から五百円玉を取り出し、ベルに手渡す。


途端にベルの顔に笑顔が広がる。さっきまでの泣き顔が嘘のようだ。


席につき、券をカウンターに出す。

しばらくすると待ちに待った尾道ラーメンが出てきた。


それをベルが美味しそうに啜る。その様子を見ていると自然に顔に笑みが浮かぶ。

そのまま自分のが来たことに気づかず、気づいた時には麺はもう伸びかけていた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ふぅー!お腹いっぱい!美味しかった!」

「本当にね。またいつか来てみたいな。」

「その時は私は餃子セットとチャーハンセットと…。」

「頼みすぎだよ。」


二人はラーメン屋から出た。14時まではあと少し時間がある。


「…ねぇ、ベル。」

「なぁに?」

「一つ、行きたかったところがあって。行ってもいい?」

「うん、いいよ!」


再び二人で歩き出す。今度は海沿いの道を歩くことにした。

太陽を反射した海は綺麗に輝いていた。

向島からフェリーがこっちに戻ってくるのが見える。あのフェリーは自転車に乗ったまま向島へ移動できる。そうしてあちらの島でもサイクリングが楽しめるのだ。


いつかまたここにきたら、ベルやアリエとサイクリングでもしたいな。

そう亘希は思っていた。


「で、行きたい場所ってどこなの?」

「もうすぐ見えてくるはず…あっ、あった、あれだ。」


海沿いの道の小さなお店。尾道を調べてから行ってみたいと最初に思った場所だ。


店に入り、おすすめのアイスモナカを注文する。そのまま海沿いのベンチに座り、二人でモナカを頰張る。

暑くなってきた今の時期にぴったり合う冷たさだった。


「…おいしいね、ベル。」

「…うん。」

「今日はちゃんと楽しめた?」

「うん、ありがとう、亘希くん、楽しい旅にしてくれて。」

「いいよ。…さて、今度はベルの番だね。」

「うん、楽しい旅にするから楽しみにしてて!」


そうしてこの楽しい1日は終わりを迎えたのだった。

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