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ギルドの受付嬢ですが、元最強ソロ冒険者の先輩が今日も問題を起こします

作者: kkk

 ギルド。

 それは冒険者達にクエストを仲介する組織。

 モンスター討伐から護衛任務まで、依頼をこなせば報酬が貰える場所だ。


 私の名前はアイリス。そんな場所で受付嬢として働いている。容姿は黒髪ロングにぱっちりした目――スタイルはいい方だと思ってる。まぁ胸は慎ましいのだが・・・。


 「おはようございまーす!」

 「もういっぺんいって見やがれこの野郎!」「あぁ!?何度でも言ってやんよ!テメェ程度がラーナさんに釣り合うわけないだろうが!」「オラァァァ!酒がたんねーぞぉぉぉ!」


 相変わらずこのギルドでは冒険者達の罵詈雑言、暴言、脅迫などが鳴り響いている。

 ここは私達、受付嬢にとって“墓場”と呼ばれる最悪の職場だ。

恐喝、暴行、詐欺、脅し――平和なんて母親の胎内に忘れてきた連中が集まる辺境のギルド。


 「はぁ、皆さん相変わらずだなぁ・・・」

 「おはようアイリス」


 声がした方を振り返るとピンクの髪を縦に巻き、受付嬢の指定制服で収まりきらない大きな胸をはだけ出した女性が立っていた。


 「あ、おはようございます。ラーナさん」


 彼女の名前はラーナ。かつては凄腕の冒険者として名を馳せていた女性だ。現在はこのギルドの受付嬢のリーダーとして働いている。


 「皆さん、相変わらずですよね〜」

 「そうねぇ、まぁこのギルドでは日常茶飯事な事だからね。これがないと始まらないって奴さね」

 「そうですよね!」


 私がこのギルドに来たのは一ヶ月前、元々私は王都にあるギルドで働いていたのだが、入って二日目で貴族にドロップキックをかましてしまい、借金二億を引っ提げてこのギルドへと左遷されてきた。

 そんな最底辺のギルドにはもう一つの有名なものがある。いや正確には人物だ。


 その人物の名はーー


 「おや、来たみたいね」


 扉を蹴破り、外から一人の男が入ってきた。

 金色の指輪を指に十個はめ、黒髪短髪に黒目の男の片手には三人の冒険者が引きずられていた。


 「チッ、来やがったぞ!」「やべ、逃げろ!」「俺クエスト行ってくる!」「クソ、ほら速く報酬よこせ!」


 先程まで騒がしかったギルドがより一層、騒がしくなり、次々と外へと出ていった。


 「おい、カス共。とっとと金よこせよ」

 「か、勘弁してくれよ!」「お、おれも、もうねぇよ〜」「金取ろうとしたのも謝るから許してくれぇ!」

 「げっ!先輩またやってる止めないと!」


 彼の名前はソロ。


 かつては”黄金の魔手”と呼ばれた伝説のソロ冒険者にして、今は”悪魔の受付係”と呼ばれている私の直属の先輩だ。


 「黙れ、この俺に喧嘩売ったんだ。謝罪なら金でしっかり返せ。まぁこれからも仲良くするんだ。これくらい、」

 「先輩!!」

 「チッ、うるせぇのが来た・・・何だよ、今月ピンチだから金を巻き上げただけだろうが!!!何が悪りぃんだよ?」

 「ちゃんと悪いだろうがよ!!!」


 この金にがめつい捻じ曲がった根性が彼を悪魔だと噂させる原因の一つでもある。

 そんな彼と私は現在、共にコンビを組んで日々、ギルドの仕事をこなしている。


 「とにかく!その人達にお金、しっかり返して下さいね!!!」

 「はぁ?嫌なこった!これは俺がこいつらから善意で貰った、って逃げんな!」


 私と先輩が言い合いをしている隙をつき、連れてこられた三人組の男達はギルドの扉を開けて逃げ出していた。

 ・・・そんな事をしても一度先輩に目をつけられたのなら逃げる事は出来ないのに。


 「逃がさねぇぞ。来い、我に付き従いし72柱の悪魔が一柱、時を超え・空を裂き・無礼なる舌を持つ跳躍の悪魔よ!大公爵バティン!!!」


 出た、先輩が黄金の魔手と呼ばれる所以であり、悪魔の受付係と呼ばれる理由の一つ、悪魔の召喚。

 空間が捻じ曲がり空中に魔法陣が現れ、そこからツリ目の金髪メイド服の女性が現れた。

 大公爵バティン。先輩が持つ十個の黄金の指輪の一つに封じたれている七十二体の悪魔の一人。


 「あいつら捕まえろ」

 「チッ、かしこまりました」


 ソロ先輩を一瞥して小さく舌打ちしたバティンはその場から姿を消したと思ったら次の瞬間、逃げ出していた三人組の冒険者の目の前に現れた。

 あれが彼女の悪魔としての力、 跳躍(ダイブ)。どんな場所にも一瞬で移動してしまう。


 「な、何だ!こいつ、どっから現れた!?」

 「おい女!邪魔だ!」

 「やっちまえ!」


 武器を手にした男達は一斉にバティンに襲い掛かってきた。

 しかし、相手は悪魔だ。人間とはかけ離れて別格の存在だ。バティンは全ての武器をかわしてカウンターを入れて、三人組の男達を一瞬で無力化させた。


 「お待たせしました。連れてきましたよ」

 「ご苦労、じゃあもう帰っていいぞ」

 「そうですか。では失礼します。あ、それとこの程度の事で私をいちいち呼ばないでください迷惑です」


 最後にそう言い残しバティンの姿は消えていった。


 「さぁて、どうしてやろうかな」

 「「「ひぇ〜〜〜」」」

 「相変わらずね、ソロ」


 拳をパキパキと鳴らしながら三人組に近づいたソロ先輩の後ろから、ラーナさんが声をかけてやってきた。因みに私と先輩がコンビを組んだきっかけは実はこのラーナさんでもある。


 「何だよババッ」

 「何か言ったか?」

 「ご、ごめんなさい・・・」


 言い忘れていたが、ラーナさんは年齢不詳で見た目こそ二十代に見えるのだが先輩曰く、「冒険者時代からこうだぞ」らしい。

 なので彼女にはババァは禁句らしく、荒くれ共が集う、このギルドでもそれを言う人は先輩くらいだ。


 「全く、おっと忘れるところだった。二人に少しだけ頼みたい事があるんだ」

 「何で俺もだよ。こいつだけで充分だろ」

 「内容は内部調査なんだ」


 内部調査、これも私達受付嬢のやることの一つでもある。内容などにもよるが、基本的には冒険者達が不正なやり取りをしているかどうか疑わしい人物を探るのが仕事だ。


 「実は最近、ギルドの一部で違法なモンスター取引や人身売買が行われているらしくてね」

 「めんどくせぇな。俺はパスすッ」

 「やりましょう!先輩!悪い奴らを懲らしめるんです!・・・所で報酬の方は?」


 こうは言ってもなんだが、私には貴族をドロップキックしてしまった事によって生じた借金がある。その為、それを少しでも返す必要があるのだ。

 こう言った極秘系はとにかく危険だが、報酬も大きいから私は積極的に行なっている。


 「いつものそうだな・・・三、四倍だそう」

 「乗ったぁぁぁー!!!」

 「はえぇよ・・・」


 ーー


 その日の夜、私と(無理矢理連れてこられた)先輩は取り引きが行われると言う公園に赴いていた。


 「さぁ!張り切って行きますよぉ!」

 「めんどくせぇな。何で俺まで・・・」

 「何言ってるんですか!お金が大量に、違った。私達のギルドで問題が起きてるんですよ!!?許せないじゃないですか!って、あ!先輩!!」

 「じゃーなー、わりぃけど俺は今回パスすっからお前で適当に終わらせとけよ」


 そう言って先輩はそのまま歩き出して公園を後にして闇夜に消えていった。

 あの人は自分の利益になる事しか基本的にやろうとしない。しかもその利益も人の不幸やら悔しがる顔、困った顔とかなので意地が非常に悪い。

 

 「まったくもう先輩は・・・仕方ない、私一人で手柄立ててお金をゲットしてやる!」


 そう一人で決心を改めている時だった。反対側から三人組の人影が見えてきたので、私は更に姿勢を縮ませ、草むらに隠れた。


 「お、おい。本当にくるのかよ?」

 「あ、当たり前だろ」

 「こなかったら俺達は破滅だぞ!」

 「ん?あの人達って・・・先輩が今朝、しばき倒してた三人組?」


 取り引き相手としてここに来たのは、先輩にボコされてお金を奪われていた、あの哀れな三人組の冒険者達だった。世間は狭いと言うが金魚鉢レベルで狭いじゃないか。


 「ッ、来たぞ」


 三人組の一人が別の方向を指差し、私達はそちらの方を向いた。暗がりの公園に現れたのは、黒服姿にサングラスとこれまたありがちな姿をした二人組の男だった。


 「待たせたな」

 「あ、い、いえいえ、俺達と今来たところでさ」


 カップルみたいな会話を夜の公園でするおっさん達って絵面思い浮かべるだけで反吐が出そうな状況を目の当たりにしてしまってる私にも誰か気を遣って欲しいものだ。


 「これが約束していた例のブツだ」

 「これがですか」


 三人組の男達に手渡されたのは紫色の装飾を施された小さな短剣だった。

 見るからに禍々しい形をしたそれからは邪悪な魔力をびんびんと感じさせていた。


 「何あれ、すぐにラーナさんにッ!」

 「ここで何をしている」

 「しまッ!」


 ひっそりと身を潜めていた私はすぐにギルドに報告してようと公園を去ろうとした時だった。

 いつの間にか背後にいたもう一人の黒服男に鉄パイプで後頭部を殴られ、私は意識を失った。


 ーー


 「んっ、・・・ここは?」


 私が次に目が覚めた場所は薄暗く、ジメジメした場所だった。目隠しなどはされてはいなかったが、手足は縛られて身動きが取れなかった。


 「くっ、このっ!このっ!」


 もじもじと暫く、動いてみたのだがかなりしっかりと結ばれており、解くには相当の時間がかかりそうだった。まさかこんな事になるとは・・・やはり、先輩を無理矢理にでもここにいさせるべきだった。


 「お?目が覚めたようだぜ?」

 「本当だ」


 声がして前を見てみると先ほどまで公園に居た、三人組の冒険者が立っていた。

 どうやら私が目を覚ますまで待っていたらしく、木の机の上にはトランプが散りばめられていた。


 「ん?こいつ・・・」


 男の一人が私の顔に近づいて、ジロジロと見てきた。その間に何とか抜け出そうと思ったが、そもそも私には戦える力はないので縄から抜け出せてもこの男達に捕まるのは目に見えていた。


 「どうかしたのか?」

 「やっぱり悪魔の野郎と話してた女だぜ!」

 「あ!そう言えばそうじゃんか!丁度いい、この女にあの時のお返ししてやろうぜ!」

 「ちょ、何で私にですか!私むしろ貴方達を助けてあげましたよ??」


 ソロ先輩はいつもいつも問題を起こす。その度に私が尻拭いをしているのだ。

 少し前にも高レベルの冒険者に不当な契約を結んで、その彼を破産させていた。


 「どうやら目を覚ましたようだな」

 「あっ、え、ええ。今さっき目を覚ましたばかりでして」


 三人組の奥から更に黒服の二人組も現れた。因みにこの部屋はそんなに広くなく、大人が四人横並びに立てるか立たないかくらいなのだ。

 そんな場所に男の大人が五人もいるのだ勘弁して欲しい。


 「おい、こいつは何者なんだ?」

 「この女はギルドの受付嬢でさぁ。今日も目にしたんで、間違い無いですぜ」


 なんかあの三人、黒服の二人組の子分みたいになってるな・・・。


 「って、そうじゃない。貴方達、ここで冒険者相手に違法取引なんて何が目的ですか?」

 「目的なんてない。ただここが最低最悪の街だと言う事を知り取引の場所として最適だと思っただけだ」


 確かにその通りだ。この街はギルドに限らず、全体的に治安が悪い。ヤクザまがいの冒険者達が街を闊歩し、子供達からでさえ金をたかろうとしてくる。しかもそんな子供達でさえ、平気で大人から金銭を徴収してくる始末だ。

 

 「・・・でも、この街はそれでも何で機能してるか知ってる?」

 「何の話だ?」


 外から見た景色と内で見た景色では感じ方が大きく変わる。特に人と言うのはその傾向が強い。かく言う私もその一人だった。この街に来るまでは恐喝や強盗、殺人などが常日頃から行われている危険な街だと思っていた。

 しかし、蓋を開けて見れば全く違ったのだ。街は思ったよりも平和で一人一人に笑顔があった。いやそれでも周りの街と比べたら充分治安は悪いんだけど。

 ギルドも治安は悪いが定められたルールを破ろうとする者はあまりいなかった。


 「たった一人、こんな街の為に()()と呼ばれ、嫌われても頑張っている人がここにいたからこの街は治安が悪くても人の命が失われた事はただの一度もなく、機能しているの」

 「理解に苦しむな。言い残したい事がいい終わったのなら、我らの取引現場を見たお前は死ね」


 懐から取り出された拳銃の銃口が私の額に当たる。そして銃弾が発射される寸前、彼らの後ろから扉を破壊する大きな音が聞こえてきた。


 「ッ!?何だ!」

 「こいつの仲間かもしれん。様子を見て来い」

 「「「へ、へい!」」」


 三人組の男達は二人組の黒服にそう命令されて、そそくさと様子を見に行った。

 そしてーー


 「あ!?お前ぐはッ!?」「がはッ!!」「ちょ、ま、待て待て待て!ぎゃぁぁぁー!!!」


 三人組の男達の悲鳴が次々と聞こえてきた。どうやら、やっと来てくれた見たいだ。

 コツンコツン、と歩く音を立てながらゆっくりと私と二人組の黒服達の前に現れたのは私がよく知る人、ソロ先輩だった。


 「・・・待たせすぎですよ?先輩」

 「悪かったな、見つけるのに時間がかかった」


 いつもは適当な癖に、肝心な時はこうして助けに来てくれるんだもんなぁ。こう言う所をもっと見せれば皆んなからも好かれると思うのにな。


 「誰だおまッ、」

 「行けウァレフォル」


 ソロ先輩が一言そう言った瞬間、黒服男の拳銃が手元からなくなり、先輩の手のひらの上にあった。

 更に先輩の肩には長い鼻に大きな目、ロバの耳にウサギの尻尾にローブを着たサッカーボールサイズの悪魔がのっていた。


 「なッ!?ど、どうなってる!?」

 「キッヒヒヒヒ、おいソロ。あの程度の小物の持ち物を俺様に盗まさせんなよ」


 公爵ウァレフォル。先輩の使役する悪魔の一人。その力は 盗賊の技(シーフズ・スキル)、武器やアイテムを盗み出す事ができる。


 「そりゃ悪かった。見た目がそれっぽいもんでな、小物だとは思わなかったんだよ」


 先輩は肩をすくめながら、意地の悪い笑みを浮かべて黒服男を煽った。

 あの先輩はこう言った事になると本当に生き生きしてくる。私的には絶対に敵にしたくないタイプだ。


 「お前、何者だ!」

 「何だ、俺の事も知らずにこの街で商売する気だったのかよ」

 「き、気をつけてくださぇ〜、そ、そいつは、あ、悪魔だ!!」


 先程、悲鳴をあげて倒された三人組の男の一人が、ここまで現れ黒服男達にそう叫んだ。


 「悪魔・・・ってあの悪魔か!?バカな何故ここに!?」

 「あ?そこの小娘が俺のパシ・・・知り合いだからだよ」

 「おいお前、今私の事をパシリ呼ばわりしようとしただろ」


 後でドロップキックをかましてやろうと心に強く誓った。その時だった。私は先輩の背後の影が不自然に揺れるのを目にした。

 その瞬間、先輩の影からもう一人の黒服男がナイフを持って現れ、先輩に襲いかかった。


 「先輩、危ない!!!」

 「残念だったな。そいつは影に潜れるんだよ!」


 影に潜れる?そう言うわけか、私があの時公園から逃げ出そうとした時に背後にいたのはあいつの能力だったのか。

 先輩にナイフが突きつけられようとした時、ナイフを持った男の身体が突然爆発し、男は壁に吹き飛ばされて意識を失った。


 「な!?」

 「この俺に不意打ちが効くと思ってんのか?」

 

 先輩はただ立っているだけだった。しかし、その背後にはウァレフォルとはまた違った悪魔が立っていた。その姿は青く美しい髪に燃え盛るような瞳、褐色肌の艶かしい身体を持った美しい女性だった。


 「ねぇソロ?私を呼ぶ時は雰囲気がある場所にしてって言いましたよね?こんな薄汚い場所にまで呼ぶなんて・・・それにあの女まで」


 睨みつける様にして私を見てきた女性は小さくそう言って、すぐにソロ先輩に男が喜ぶ、そのエロい身体を絡みつかせた。


 「ねぇソロ?私は直ぐにでも貴方とここから離れて二人きりでお互いの事を語り合いたいんだけど?」

 「あーそうだな。じゃあこっちに来ているあいつを倒してくれたら考えてやるアモン」

 「くそっ!死ねぇぇぇ!」

 

 私の側にいたもう一人の黒服男はもう一つ持っていた拳銃を取り出して発砲した。

 弾丸はソロ先輩に向かって真っ直ぐに進んでいき、そして溶けた。発砲した黒服男はポカンと口を開けて目を丸くしていた。


 「な?は?え?」

 「もう終わりにしていいか?」

 「くそっ!」

  

 二、三発と黒服男は発砲してが、そこ銃弾も全てソロ先輩に届くことは無かった。

 理由は簡単だ。あれが公爵アモンの力、 炎の支配者(フレイムマイスター)。彼女は炎や熱を自由自在に操る事が出来る。

 その力は銃弾なんて溶かす事くらい朝飯前だ。


 「・・・飽きたな、お前弱すぎ。やれアモン」

 「はぁぁぁい」

 「ひっ!ひゃぁぁぁぁ!!!」


 それからは早かった。先輩が指を鳴らし、アモンさんが手のひらから炎を出して黒服男はまるこげになり地面に倒れ込んだ。


 「たっく、この程度の奴らに捕まってんじゃねーよ」

 「仕方ないでしょうが。私は先輩と違って悪魔がいるわけじゃないですしぃー」

 「なら、一人でやろうとすんな」

 「いや先輩が一人で帰ったから私一人になったんですよ?」

 「さぁて帰ろうぜ」

 「あー誤魔化したぁー」

 

 その後、先輩と私は救援にきたギルドのメンバーに助け出され、三人組の男達と黒服の二人組は捕まり、あの短剣も回収された。

 そして次の日、いつもの様に私はギルドの受付嬢として働いていた。


 「はぁ、楽してお金稼げないかなぁ・・・」


 あの短剣はどうやら、ただ禍々しい力を発生させるだけのヘンテコ剣だったらしく、黒服の二人組は冒険者相手の詐欺を働く奴らだったらしく、王都方面で指名手配されていた二人組だった。


 「お疲れアイリス。昨日はお手柄だったわね」

 「あ、ラーナさん。お疲れさまです。でも私は何もしてないですよ。全部、先輩が・・・」

 「その先輩は全部アイリスがやったって言っていたよ」

 「またですか・・・」


 先輩はいつもそうだ。あの人はいつも自分の手柄を私に渡してくれる。借金の事を先輩は知っているからか、いつもこうして私に報酬を全て渡してくれる。


 「あの人は何で・・・」

 「まぁ報告書を書いてまで報酬が欲しくないんじゃないかな」


 そう言ってソロ先輩の話をしている時だった。今日も変わらず扉を開けてソロ先輩は現れた。


 「げぇぇ!」「おい、逃げろ!」「悪魔だぁぁぁ」


 そして変わらずギルドの人達はソロ先輩を遠ざけ、次々とギルドから出ていった。

 先輩が悪魔と呼ばれる様になったのはこの街が関わっているとラーナさんが言っていた。

 この街は元々は本当に治安が悪かった。しかし、そんな街に彼はどこからかやってきて、瞬く間に抑止力として機能し始め、街の治安も少しづつ回復していったらしい。


 「その結果が、あの嫌われっぷり・・・か」


 まぁ当の先輩は、その事について全くと言っていい程、気にしていないのだが・・・。

 

 「あ、いたいた。おい」

 「何ですか先輩。珍しいですよね、私に会いに来るなんて」

 「ちょっと言いにくいんだけどな。その・・・」


 何だろうか。珍しく低姿勢で私に接してくる。いつもなら高圧的な態度か、めんどくさそうに話しかけるのに何かあったのだろうか?


 「金、貸してくんね??」

 「は???」

 「いやね昨日あの後、アモンのご機嫌取りの為に色々出費が重なってよ。それでお金がすっからかんでよ、昨日の報酬あんだろ?それくれね?」


 ・・・忘れていた。そうだ、この男はこう言う奴だった。自分が言った事を平気で前言撤回出来てしまう男だった。


 「い、嫌ですよ!私だって借金あるんですもん!」

 「はぁ〜!?お前、俺がいなかったら助からなかった癖によく言えたな!」

 「それはそれです〜!お金は絶対渡しません!!」

 「・・・ウァレフォル盗め」

 「キッヒヒヒヒ!」

 

 私の手元にすら無かったお金がいつの間にかソロ先輩の手元にどっさりといきなり現れた。

 しかもその額は今回の報酬ぴったりだった。


 「あっ!せ、せんぱーい!!!」

 「あっはは!じゃーなー貰ってくぜー!!!」


 そう言って先輩は悪魔のような笑みを浮かべて走っていった。

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