二枚爪
前編
ガラガラガラ。
今日も空は曇っている。
僕は半分体を濡らして、足早に洗濯物を引き入れる。
白いTシャツは、こころなしかグレーに汚れて見えた。
ここで一人になってから、もう十年以上が経つ。
かつての同居人は、ここから見える景色に何かを感じ取り、良く詩を書いていた。
読ませてもらったことも何回かあるが、僕には文字は読めても、あまり深く共感したりすることはできなかった。
だからとにかく、凄いね、流石だね、と返す。
「君にはどうせ分からないでしょ」
僕の反応が不満なのか、眉間に少し皺を寄せて、君はいつもこう言った。
お互いの小さな、小さな棘が、刺さり合って、傷つけ合って、ひずみを大きくしていく。
気づけばもう、一緒にいる理由が分からなくなっていた。
君の特別なところが好きで
何かを考えている横顔が好きで
そばにいるのが何となく面白くて
だけど
分からないでしょ、と言われるたび、
僕の中の、あまり褒められないものが沸々と滲み出てくる。
それはやがて。
言葉の刃となって。
鋭利な棘となって、相手をグサリと刺す。
君の目から涙が溢れる瞬間を、残念ながら、僕ははっきり、見てしまっている。
あのときの大きな目。
今も頭から離れてはくれない。
白いTシャツを部屋の隅に干し直していると、その表面に、薄っすらと文字が大きく浮かび上がっていた。