2-3: 「芽生える自信と妬む者」
リバンスは草むらに身を隠し、目の前の光景をじっと見つめていた。そこには、身の丈が自分の倍以上あるレッドオークが立っていた。レッドオークは手に巨大な棍棒を持ち、時折うなり声を上げながら周囲を見回している。ここは草原の真ん中で、リバンスは今、単独でこの危険なモンスターに挑もうとしていた。
「いけるか…?」
リバンスは自分に問いかける。あの洞窟で手に入れた「複写再現」の能力があれば、もしかしたらレッドオークに立ち向かえるかもしれない。しかし、サラマンダー以降、強いモンスターを相手にこの能力を使ったことがないため、少なからず不安を感じていた。
「いや…試してみよう!」
リバンスは決意を固め、静かに草むらから姿を現した。そして、「複写再現」の呪文を唱え、コピーしておいたスティールラビット2匹をペーストする。
「ペースト!」
瞬時に、リバンスの前には2匹のスティールラビットが現れた。彼らはすぐにレッドオークに向かって駆け出し、足元で攻撃を仕掛け始める。スティールラビットたちはその小柄な体を活かし、ヒット&アウェイの戦法でレッドオークの注意を引いている。レッドオークはうなり声を上げながら棍棒を振り回し、彼らを追い払おうとするが、その素早い動きにはついていけない。
「よし、今だ…!」
リバンスはチャンスを見計らい、レッドオークをコピーするために「複写再現」を発動した。しかし、まだ未熟な能力のためか、レッドオークの強大な存在をコピーすることができず、何度も失敗してしまう。リバンスは焦りを感じながらも、心の中で叫ぶ。
「どうして…サラマンダーはできたのに…レッドオークがコピーできないなんて…!」
スティールラビットたちはまだレッドオークの攻撃をかわし続けていたが、その一匹がついにレッドオークの棍棒の直撃を受けて消えてしまう。リバンスは焦りを感じつつも、残りの1匹がまだ攻撃を続けていることを確認し、もう一度集中し直す。
「もう1匹がやられてしまえば次は俺の番だ。ここで決めるしかない…!」
リバンスは深呼吸をし、冷静さを取り戻そうと努める。残りのスティールラビットが必死にレッドオークの攻撃をかわしている中、再び「複写再現」を試みる。必死に集中力を高めながら、リバンスは頭の中でレッドオークの姿を思い浮かべる。だが、その瞬間、レッドオークの棍棒がスティールラビットにかすり、地面に倒れ込んでしまう。
「コピー…!」
レッドオークは倒れたスティールラビットに邪悪な笑みを浮かべ、棍棒を振り上げた。
次の瞬間、レッドオークの頭部が棍棒によりぐしゃっと潰された。巨体はぐらりと揺れた後、崩れ落ちて動かなくなった。その後ろには、リバンスがペーストに成功したもう一体のレッドオークが立っていた。
リバンスは追い込まれた状況の中なんとかコピペを成功させ、見事にレッドオークを倒すことに成功した。疲れで膝をつきながらも、自分の能力で勝利を収めたことに安堵し、少しだけ誇らしい気持ちになった。
「この力で…戦っていけるかもしれない…」
妹の治療費を稼ぐために、この力をもっと磨いていこうと、リバンスは新たな決意を胸に抱いた。
その頃、宿の一室では、グレンがソファに深く腰を沈め、苛立ちを募らせていた。彼の頭の中では、洞窟でリバンスに助けられた屈辱的な瞬間が何度も再生されている。
「なんで俺が、あんな奴に…」
彼の拳は、気づかぬうちに強く握りしめられていた。無能だと思っていたリバンスが突然能力に目覚め、自分を助ける立場に立ったという事実が、彼のプライドを打ち砕いていた。
さらに、ギルドへの不満も彼の苛立ちを増幅させていた。当初は簡単な依頼だったはずが、サラマンダーがなぜか現れるというアクシデントにより、事態は一変し、危険な状況になったのだ。それに対するギルドの対応は、ただの軽い謝罪だけだった。
「ふざけるな…こっちは仲間を失い、さらに死にかけたんだぞ…」
グレンの中で、リバンスへの嫉妬と怒り、そしてギルドへの不満が混ざり合い、彼の心をさらに混乱させていく。
「もう一度、あいつに立場をわからせる必要がある…」
グレンは決意を固め、リバンスに再び自分の存在を示すための行動に出ることを心に誓った。その瞳には、リバンスへの対抗心と、自尊心を守ろうとする強い意思が宿っていた。