6-2: 「故郷への帰還」
洞窟を出た二人の周りに、重い空気が漂っていた。リバンスは、ミラとの出会いからわずかな時間しか経っていないにもかかわらず、胸に深い悲しみを感じていた。その傍らで、幼少期からミラと親交のあったルーンの憔悴し切った表情を見れば、その悲しみがいかに計り知れないものかが痛いほど伝わってきた。
しばらくの沈黙の後、リバンスが口を開いた。
「ルーン...アーカルムに行く前に、妹の所へ寄りたいんだ。しばらく顔を出せないかもしれないし」
ルーンは小さく頷いた。「そうね。家族のもとへ帰るのは大切だわ」
リバンスは微かに微笑んだ。「病気していて、家で母と安静にしている。俺が旅する理由は妹の治療費を稼ぐためなんだ」
「そうだったの...」ルーンの声には同情の色が滲んでいた。「妹さんの名前は?」
「ルミアっていうんだ。俺より7歳下でね」
「ルミア...素敵な名前ね」ルーンは優しく微笑んだ。「どこに住んでいるの?」
「アンバーリッジ村という場所さ。アーカルムへの直行馬車も出ているから、そこまで遠回りにはならないと思う」
ルーンは頷いた。「わかったわ。一緒に行きましょう」
二人はアンバーリッジ村へ向かう馬車に乗り込んだ。
揺られる車内で、リバンスはルミアについて語り始めた。
「ルミアは、幼い頃から体が弱くてね。病気の治療法もなかなか見つからなくて...」
リバンスの声には、苦悩と愛情が滲み出ていた。
馬車がアンバーリッジ村に到着すると、二人は急いでリバンスの家に向かった。途中、村人たちの視線を感じる。どうやら、久しぶりに見たリバンスの姿に驚いているようだった。
家に着くと、母が出迎えてくれた。
「リバンス!」母は息子の成長した姿に目を潤ませた。
「ただいま、母さん」リバンスは照れくさそうに笑った。
母はルーンの存在に気づき、少し戸惑いながらも温かく迎え入れた。
リバンスは母に尋ねた。「仕送りは足りてる?ルミアの具合は?」
母は安心させるように微笑んだ。「ええ、おかげさまで十分よ。それに最近、薬の値段が少し下がったの。しばらくは大丈夫よ」
その言葉にリバンスはほっとした表情を浮かべた。
ルミアの部屋に入ると、か細い少女が横たわっていた。しかし、リバンスを見るなり、その顔に大きな笑顔が広がった。
「お兄ちゃん!」
「ルミア...元気にしてたか?」リバンスは妹の手を優しく握った。
ルーンは静かにその光景を見守っていた。彼女の目には、兄妹の絆を見て感動している様子が浮かんでいた。
リバンスはルーンをルミアに紹介した。ルミアは好奇心旺盛な目でルーンを見つめ、たくさんの質問を投げかけた。ルーンは優しく、丁寧に答えていく。
その日の夕方、リバンスは母と家の修繕を手伝い、ルーンはルミアと一緒に庭で過ごした。ルミアは、ルーンに魔法のことや、外の世界のことを熱心に尋ねていた。
夜になり、家族で夕食を囲んだ後、リバンスとルーンは村の小高い丘に座り、星空を見上げていた。
「ルミアちゃん、とても優しそうな可愛い子ね。あなたににているわ」ルーンが柔らかな声で言った。
リバンスは思わず顔を赤らめ、視線をそらした。「そ、そうかな...」
ルーンは微笑みながらリバンスの横顔を見つめた。月明かりに照らされた二人の姿が、丘の上に優しい影を落としている。
「リバンス...」
「ん?」
「ありがとう。一緒に来てくれて」
リバンスはルーンの方を見た。彼女の瞳に星空が映り込み、きらきらと輝いていた。二人の視線が重なり、言葉にできない何かが流れる。
しかし、すぐにリバンスは我に返ったように咳払いをした。「あ、ああ。俺こそ、付き合ってくれてありがとう」
その言葉の後、二人の間に微妙な空気が流れた。
「そろそろ、戻ろうか」リバンスが言った。
ルーンは小さく頷き、二人は無言で家路についた。
翌朝、二人は家族に別れを告げてアーカルムへ向かう準備を始めた。
ルミアはリバンスに「また帰ってきてね」と笑顔で言い、リバンスも「必ず戻ってくる」と約束した。
新たな旅立ちの時、リバンスの胸には家族への思いと、これから待ち受ける試練への覚悟が宿っていた。そして、その隣には頼もしい仲間の姿があった。




