5-1: 「写し身の試練」
洞窟の入り口に立つリバンスとルーン。二人の表情には緊張が走る。深呼吸を一つし、リバンスが一歩を踏み出した瞬間、体中を異様な感覚が駆け抜けた。
「うっ...!」思わず声が漏れる。
「大丈夫?」ルーンが心配そうに振り返る。
「ああ...なんだか体を何かが通り抜けたような...」
ルーンは小さく頷いた。「おそらく写し鏡の魔法ね。これで貴方の影が作られたはず」
二人は慎重に歩を進める。洞窟内は薄暗いが、壁に据え付けられた松明が不気味な明かりを投げかけていた。足元には小石が散らばり、時折水滴の落ちる音が響く。
「モンスターはいないみたいだな」リバンスが囁くように言う。
「ええ。でも油断は禁物よ」
数十分歩いた後、二人は広い空間に出た。中央には一枚の鏡が佇んでいる。
「ここか...」リバンスは息を呑む。
突如、鏡から眩い光が放たれた。「っ!」二人は反射的に目を覆う。
光が収まったかと思った瞬間、リバンスの目の前に青白い光が飛び込んでくる。「アイススピア!?」
死を覚悟した刹那、「ファイアボール!」ルーンの声が響く。
炎の弾が氷の槍をかすめ、空中で爆発を起こした。
爆風に吹き飛ばされながらも、二人は何とか体勢を立て直す。かすり傷程度で済んだことに安堵のため息をつくリバンス。
「ありがとう、ルーン。助かった」
しかし、ルーンの表情は硬い。
「リバンス、あれを見て」
視線の先には、まさにリバンス自身が立っていた。しかし、その目には魂が宿っていない。
「俺の影か...」リバンスは呟く。
「でも、おかしいな。ルーンはまだ魔法を使ってないはずなのに、なんであいつはアイススピアを...」
「もしかして」リバンスの頭に嫌な予感が思い浮かぶ。
「あいつ、俺よりも遥かに高度な複写再現を使えるんじゃ...?」
ルーンが息を呑む。「そういえば、写し鏡の魔法は対象の本来の力をそのまま写し出すと聞いたことがあるわ。リバンス、あなた...とんでもない力に目覚めたのかもしれないわね」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、影のリバンスが動いた。
「複写再現!」
突如として目の前で土煙が巻き上がる。霧が晴れると、そこには...
「レッドオーク!?しかも5体も!?」リバンスの声が裏返る。
巨大な赤い獣人たちが咆哮を上げる。その一体一体が、複数の冒険者でも手こずるほどの強敵だ。鋭い牙と爪、そして筋骨隆々とした体格。その存在感だけで、二人の息が止まりそうになる。
「ルーン、一度撤退しないか?」リバンスが提案するが、ルーンは首を横に振る。
「後ろを見て」
振り返ると、来た道には青白く輝く魔法の障壁が張られていた。
「もう退路はないのよ」ルーンの声は冷静だが、顔には焦りの色が見える。
その時、レッドオークたちが一斉に突進してきた。地面が震動し、粉塵が舞い上がる。
「アイスウォール!」
ルーンの詠唱と共に、巨大な氷の壁が現れる。
レッドオークたちの拳が氷壁に叩きつけられる。ヒビが走り、壊れるのは時間の問題だ。
「リバンス、私の魔法をコピーして。壁ごと吹き飛ばすわよ」
ルーンの杖に魔力が集中していく。青白い光が渦を巻き、空気が重く、熱くなっていく。その姿に、リバンスは息を呑んだ。
「|インフェルノストリーム《業火の流星》!!!」
炎の奔流が氷壁を貫き、レッドオークたちを襲う。リバンスもすかさず複写再現を発動。ルーンの魔法をコピーし、即座にペースト。二つの炎の流れが交差し、轟音と共にレッドオークたちを灰燼に帰した。
熱風が二人を襲う。顔を腕で覆いながら、リバンスは目を凝らす。
だが、影のリバンスは同じ魔法で応戦。炎と炎がぶつかり合い、激しい爆風を巻き起こす。衝撃波が洞窟内を揺るがし、岩塊が降り注ぐ。
「くそっ、どうやったらあいつを倒せるんだ...」リバンスは焦りを隠せない。
「初見の高威力な魔法を叩き込むしかないわね」ルーンが息を切らせながら言う。「でも時間を与えると何をペーストしてくるかわからない。それに、隙を作らないと全て相殺されてしまうわ」
リバンスの頭に一つの策が浮かぶ。
「ルーン、強力な氷魔法を頼む。俺が隙を作る」
ルーンは頷き、再び魔力を集中させる。杖を天に掲げ、氷青色の光が渦巻く。
「アイシクルメテオ!」
巨大な氷の塊が影のリバンスめがけて落下する。その瞬間、リバンスが動いた。
「複写再現!」
リバンスは先ほどのインフェルノストリームをペースト。炎の奔流が氷塊に直撃。激しい蒸気と共に、視界が真っ白になる。
「今だ、ルーン!雷魔法を!」
ルーンの杖が天を指す。青白い電光が走り、空気が振動する。
「プラズマバースト!」
水蒸気に反応した雷撃が、想像を絶する威力となって影のリバンスを貫く。眩い光と共に轟音が響き渡り、洞窟全体が揺れる。
光が収まると、影の姿はなく、そこには焦げた地面だけが残っていた。
戦いの余韻が残る中、ルーンがゆっくりと膝をつく。
「少し...疲れたわね」
そう言って、彼女はその場に倒れ込んだ。
「ルーン!大丈夫か!?」
リバンスが駆け寄ったその時、鏡があった場所が眩い光を放ち始める。
「あそこが...ワープゲート...」意識朦朧としながらもルーンが呟く。
リバンスはルーンを支えながら、決意の表情でゲートに向かう。
「行くぞ、ルーン。ここを抜けたら、ゆっくり休ませてやるからな」
そう言って、二人の姿はゲートの光に飲み込まれていった。




