4-3: 「癒しの薬、柔らかな素顔」
朝日が窓から差し込み、部屋を優しく照らしていた。リバンスはゆっくりとベッドから起き上がり、深呼吸をした。腕を伸ばし、首を回し、足首を軽くひねる。わずかな痛みは残っているものの、ほぼ回復したことを実感した。
「よし、ほとんど治ったみたいだな」
リバンスは満足げに呟いた。
部屋の隅では、ルーンが静かに本を読んでいた。彼女の周りには、何冊もの本が積み重ねられている。リバンスは彼女の横顔を見つめ、微笑んだ。
「ルーン、そろそろ出発の準備をしようか」リバンスは声をかけた。
「ただ、回復薬を使い切っちゃったんだ。この町で買えるかな?」
ルーンは本から顔を上げ、首を横に振った。その表情には少し困惑の色が見えた。
「この町では売ってないわ。冒険者ギルドもないし、そういった文化がないみたい」
「え?ちょっと心配だな...」リバンスは眉をひそめ、腕を組んだ。回復薬がないのは少し不安だ。彼は部屋の中を行ったり来たりし始めた。
ルーンはリバンスの様子を見て、静かに言った。
「材料があれば作れるわよ」
リバンスは足を止め、驚いて目を見開いた。
「そんなこともできるのか。ルーンはどこまで多才なんだ」
ルーンは少し照れたような表情を見せた。彼女の頬が僅かに赤くなる。「別に...普通よ」と言いながら、視線を逸らした。
「よし、じゃあ早速材料を集めに行こう!」リバンスは元気よく言った。その声には、新たな冒険への期待が混じっていた。
二人は町を出て、近くの森へ向かった。森の入り口は鬱蒼としており、木々の間から漏れる光が地面に模様を描いていた。道中、小さなスライムやゴブリンとの遭遇もあったが、リバンスの複写再現とルーンの魔法で軽々と撃退しながら、順調に薬草や鉱物を集めていく。
「ねぇ、ルーン」リバンスは薬草を摘みながら声をかけた。
「どうして回復薬の作り方を知ってるんだ?」
ルーンは少し遠い目をして答えた。「王宮で教わったの。万が一のために、色々な知識を身につけておくようにって...」
その言葉に、リバンスは返答に詰まった。ルーンの過去を思い出し、何と声をかければいいのか分からない。
突然、背後の草むらから「ガサガサ」という音が聞こえた。二人は警戒して振り返る。リバンスは剣に手をかけ、ルーンは魔法の詠唱の準備をする。
しかし、草むらから飛び出してきたのは、小さな白兎だった。その姿は、まるで雪の塊が動いているかのようだった。
「あー、びっくりした。ただの兎か」リバンスは胸をなでおろした。彼は剣から手を離し、緊張した体をほぐす。
ふとルーンに目をやると、彼女は瞳を輝かせて兎を見つめていた。その表情は、今まで見たことのないほど柔らかく、幼い少女のようだった。
「もしかして、兎が好きなのかい?」
リバンスが聞くと、ルーンは「ハッ」として我に返った。
「ふ、普通よ」
ルーンは少し慌てた様子で答えた。彼女は急いで視線を逸らし、いつもの冷静な表情に戻ろうとする。
(へぇ、意外な一面があるんだな)
リバンスは微笑ましく思いながら、少し癒される気がした。ルーンの新たな一面を見られたことが、どこか嬉しかった。
町に戻ると、ルーンは集めた素材を使って回復薬の調合を始めた。彼女の手さばきは素早く、正確だ。薬草を刻み、鉱物を粉砕し、それらを適切な比率で混ぜていく。
その様子は、まるで芸術のようだった。
リバンスはその様子を興味深く見守った。「本当に多才だな、ルーンは」
ルーンは黙々と作業を続けながら、少し頬を赤らめた。「これくらい、誰でもできるわ」と言ったが、その声には少しだけ誇らしげな響きがあった。
必要な分の回復薬が完成すると、ルーンは「これで出発の準備は整ったわね」と言った。彼女の表情には、少しだけ達成感が見えた。
リバンスはにやりと笑い、「兎は連れて行かなくていいの?」と茶化した。
ルーンは恥ずかしそうにしながらも、少し怒ったように「必要ないわ!」と返した。その反応に、リバンスは思わず笑ってしまった。
翌朝、二人はミストヘイブンを後にした。朝霧の中、アーカルムへの道のりが始まる。
リバンスは軽く伸びをしながら言った。
「よし、行くか」
ルーンは頷き、黙々と歩き始めた。
二人の姿が徐々に霧の中に溶けていく。




