第3話「共通点」
自宅に帰り着き、速攻でシャワーを浴びて体に纏っていた汗と熱を洗い流した私は、のどかに用意してもらった時間割と自分のクラスのそれを並べ、該当する時間帯にマーカーを入れはじめた。
まず私のクラス…A組では、この三つの曜日と授業中に非常ベルが鳴動していた。
月曜二限:数学Ⅰ
水曜三限:英語コミュニケーションⅠ
金曜六限:数学Ⅰ
これだけでは何も分からないと思っていたけれど、他クラスのものと比べて見ると気になる点を見つけ出した。
B組
月曜二限:地理総合
水曜三限:現代の国語
金曜六限:生物基礎
C組
月曜二限:歴史総合
水曜三限:数学Ⅰ
金曜六限:芸術
D組
月曜二限:化学基礎
水曜三限:言語文化
金曜六限:情報Ⅰ
なるほど上手い具合に分散されているように見える時間割だけれど、私のクラスと共通する科目がたったひとつだけ存在していた。
『C組 水曜三限:数学Ⅰ』
私のクラスでは、この『数学Ⅰ』と英語コミュニケーションⅠの授業中にしか事は起きていなかった。
どのクラスでも、その授業イコール非常ベルが鳴る時間として認識されているのだろうが、何度見返しても他のクラスと同じ授業は数学Ⅰ以外になかった。
本当はもう少し重なっているかと思っていたけれど、案外アッサリと手がかりらしいものを手中に収めることに成功した。
「数学に恨みでもある人なのかな…」
まだ断定は出来なかったけれど、残念なことにC組…だけでなく他のクラスに顔見知りのいない私は再び、のどかに頼らざるを得なかった。
もう部活も終わって家に帰り着いているであろう彼女に、メッセージで助けを求めた。
【理】さっきはありがとう。C組の人から話を聞きたいんだけれど、誰か知り合いっている?
【のどか】全然へーきだよ!C組なら理ちゃんも知り合いがいるじゃない
【理】え?知り合いなんていないけど?
【のどか】美織ちゃんがC組だよ?
(鶴山か…よりによって何でC組なんだよ)
【理】他に知り合いはいないの?
【のどか】C組の知り合いって美織ちゃんしかいないんだよ〜!ごめんね!
(詰んだな…)
美織にだけは頼み事なんてしたくなかった。どうせまた得意気にものを言ってくるに違いない。
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憂鬱な気持ちを胸に抱いたまま、迎えた週明け月曜日の二限。
数学Ⅰの授業を受けていた私は、ある賭けに出るため時計と睨めっこしていた。
(【10:20】…そろそろ頃合いかな)
「あの先生、お手洗いに行ってきても良いですか?」
数学教師は私の申し出に少し驚いたような素振りを見せたけれど、右手にはめている時計で時間を確認してから私にこう告げた。
「いま次の試験範囲の重要なところの説明をしているから、あと五分だけ席に着いていてくれないかな?」
(まあいいか…ここは大人しく従っておこう)
「わかりました…」
それから何分経っただろうか…いや、教師の告げた『五分』すら経過していなかった。
私は膝に乗せていたスマートフォンで時間を確認をしていた。
(【10:24】 思っていた通りだ…)
火事を知らせるための非常ベルは、けたたましく校内にその音を響かせ始めた。