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第七話 思い出した

 ショットが治める地区の、採掘現場が崩落した。

 現在、行方がわからない作業員は二十名。

 幸い、空気穴から生存が確認できた。

 採掘現場の通路の一部だけが崩落したようだ。


「補強を急げ! 他の地区にも魔法を使える者の要請だ!」


 ショットが救出の指揮を執る。

 地底の岩盤や土を掘り進む採掘では、細心の注意を払いつつ深く潜る。土中の魔素をたっぷり含んだ魔鉱が深部から採れるのだ。

 ただ、崩落やガス、火災などによる被害が後を絶たない。

 安全のため、避難所や装備が活用されているが命を失う可能性は常に付きまとっていた。


「……」


 アンジェリーヌはただ、立ち尽くす。

 悲鳴や怒号が響き渡り、ドワーフの男たちが百人以上で採掘場の土を掘り始めた。空気穴はパイプで通されているが、いつパイプが損傷するかわからない。

 ドワーフの魔法士らしき者たちが、懸命に土を砕いたり壁を補強したりと救出作業に従事している。

 アンジェリーヌは胸を痛めた。


(こんな、こんなことが起こるんだ)


 アンジェリーヌを案内してくれたドワーフも、仕事が残っているため採掘に戻ると言っていた。

 ついさっきまで、会話していたのに。

 顔が真っ黒でビックリしたが、気のいい人だった。

 無事なのだろうか。


「……ねえ、ジャミー。どうにかできないの?」


 アンジェリーヌはジャミーに声をかけた。

 ジャミーは真剣な表情だ。


「祈りましょう。私たちに出来ることは、ただそれだけです」



 ――その夜半、空気穴のパイプが折れた。

 取り残された二十名の生存は絶望的となった。

 早朝、アンジェリーヌが目を覚ましたときはまだ作業中であった。アンジェリーヌは身支度を整え、朝食を摂らずに作業を見守った。

 ーーもうすぐ昼になろうかとしたとき、護衛の一人が近寄ってきて、アンジェリーヌに耳打ちした。

 伯爵が迎えに来たようだ。

 アンジェリーヌは父に懇願した。

 最後まで見届けたい、と。伯爵は『まずは食事を採ること』を条件にアンジェリーヌの帰宅を延ばした。

 ーーそして午後、採掘現場に新たな通路が貫通した。

 運び出されたのは白い布に包まれた二十の遺体である。

 すぐさま遺体は荼毘に付された。

 遺族には、小さな壺が渡された。

 骨壺である。



 その夜、盛大に篝火が焚かれた。

 送りの篝火である。

 鉱山事故のあとは、盛大に炎を焚く。

 ドワーフ族の生業とも言える『鍛冶』に殉じたのだ。

 誰もが、その死を悼む。


「……」


 無言でショットが杯を掲げる。

 ドワーフが信仰するセラム教でいう、『大いなる意思』と一体化した英霊に酒を捧げた。あとは、集まった者たちで酒を呑む。それが、ドワーフの送り方だ。

 盛大な炎が上がっている。

 ドワーフの男たちばかりでなく、女や子供、多くの者が集う。ショットが治める地区の住人が、入れ替わり立ち替わり来ているようだ。


「……」


 アンジェリーヌもその炎を見つめていた。

 隣には、ジャミーもいる。父である伯爵も席を用意され、客として参加していた。伯爵領とルーム地底王国は密接に繋がっており、関係は良好であった。伯爵とショットは挨拶を交わしていた。

 炎を見つめていたアンジェリーヌは、あることを思い出した。

 炎が揺れる。


「キレイ……」


 アンジェリーヌがポツリと呟く。


「そうかい」


 近くで声がした。

 アンジェリーヌがそちらを見ると、顔を紅潮させたドワーフの男がいた。

 よく見ると、ショットの弟子の一人だ。

 名前は、知らない。


「鉱山で、仲間が逝った時は盛大に炎を上げる。気持ちを示すために、とびっきり大きくな」

「とびっきり大きく……」

「ああ、キレイ火が七色にでも輝いたら、もっといいかもな」

「七色に?」

「ああ、俺たちドワーフにとっては、七色ってもんは……」

「私、行ってくる!」


 アンジェリーヌは思い出した。

 色々なことが、雪崩式に押し寄せてきた。そして、あることを思った。

 この場で、自分に出来ることがある。アンジェリーヌは炎の側へ進んで行く。目当ての人物を見つけ、手を引いた。


「ちょっと、アンジェどうしたの?」


 手を引っ張られて、炎の側へ連れてこられた目当ての人物ーージャミーが声を上げた。

 祭壇のようなものが組まれ、炎からは数メートル離れているが、火の粉がかかる。

 アンジェリーヌがジャミーを見た。


「私、思い出した」

「思い出したーー?」


アンジェリーヌの声に、ジャミーが首を傾げた。


「お願い、力を貸して」

「力を……?」

「うん、お願い。ジャミー……ううん、『チカ』」


アンジェリーヌがジャミーに呼びかける。


「!?」


 アンジェリーヌの言葉に、ジャミーは目を丸くした。


「私、自分のことも、あなたのことも思い出した」

「アンジェ、あなた……」

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