第六話 崩落
ショットは、アンジェリーヌという少女から平謝りされた。
ショットが、離れで器を眺めるアンジェリーヌに声をかけたため、アンジェリーヌが器を一つ、床に落としたからだった。ショットは笑い、アンジェリーヌを作業場が設けられた奥に招き入れた。
「形あるものは、いつか壊れる」
ショットは手早く液体を塗り、乾燥させる。
ピタリと割れた器がくっつくのを見て、アンジェリーヌが目を見張った。
「凄い」
「あと、完全に乾いたら金や銀で装飾する。素朴な陶器だが、修復して少し派手にしても風合いが出て面白い」
ショットは、アンジェリーヌに説明する。
アンジェリーヌは、見たもの全てが新鮮そうだ。つい、調子に乗ってあれやこれやと話してしまう。
アンジェリーヌが真剣に聞いているので、ショットも話が弾む。
久方ぶりに陶器の話をできて、少し嬉しくなった。
「あ……!」
ショットが勧めると、色々器を見て回ったアンジェリーヌが、奥の棚に置かれた杯に目を止めた。
キラの造った杯だ。
これは、作風が違う。
ーー表現は難しいが、雑味があり、深い感じを与える。
「これは、ショットさんが造ったものじゃないんだね」
アンジェリーヌが言った。
「はは、わかるのか?」
ショットは、笑いながら杯を手に取る。
手つきが、自然と丁寧になる。
「うん、なんとなく。他のはショットさんが造ったもの。これは、誰かがショットさんのために造ったもの」
「……わかるのか」
「見たら、何かが違ったから。味があるというか……。それに、その杯を手にしたショットさんの手にピッタリだもの」
「ーーッ!」
ショットは雷に打たれたかのように身体を震わせた。
杯を無意識に撫でる。
「それにね、杯の形はちょっと雑なようだけどフンワリ優しい感じ。ショットさんの器はきっちり固められてキレイだけど……」
アンジェリーヌは言葉を続ける。
「……」
ショットは息が詰まる。
「わあ、よく見たらヒビの模様が、ほんのり色付いてる!? 凄い! 杯が生きてるみたい!」
アンジェリーヌはさらに言い募る。
「……!」
ショットは目を見張った。
(なに……? ヒビに色付き? 生きている?)
そして、困惑する。
「使い込んで、味が出たのかしら!? ショットさんに、馴染んできたのかな?」
「……」
アンジェリーヌの言葉に、目を閉じて天井を仰ぐショット。
(杯に『使い込んだ味』が出てる……。手に『馴染む……』だと。しかも、俺の手に)
ショットは、キラ姿を、手つきを思い出していた。
「……あ、あら?」
ようやくショットの変化に気がついたアンジェリーヌ。
なにかやらかしたかとばかりに、目が泳ぐ。
瞼を閉じ、天井を仰いでいるショット。
ズズズ…………ン……
ーーと、その時、建物の床が揺れた。
続いて、地鳴りが聞こえる。
「今のは!?」
慌てるアンジェリーヌ。
「……崩落だ」
ショットは一言漏らすと、建物の外に駆け出した。