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第五話 【七鐵】

 【七鐵】の一人であるショット。

 彼は現在、ルーム地底王国の代表を務めている。代表の任期は十年。この期間は『王』を名乗り、外交を取り仕切る。

 とは言っても鍛冶をに生きるドワーフである。彼は煩雑な外交を捌きながらも、自己の率いる鍛冶師たちをまとめ、自身も鍛冶に精を出していた。

 また、彼にはひとつ趣味があり、鍛冶の合間に没頭していたーー。


「……」


 厳しい眼光で、ショットは自分の手元を睨む。

 ショットは無骨な椅子に腰掛け、焼き上がったばかりの陶器を手にとっていた。ショットの趣味とはーー陶芸である。

 ショットは陶器を丹念に調べ、理想の形が造り上がったかどうか確認する。

 ーー色は良い。触った感触も申し分なく、追求した曲線を描いている。完璧な仕上がりだ。


「……」


 ……しかし、なにかが違う。

 なにかが違うと感じるのだが、さっぱりわからない。ショットは、出来上がったばかりの陶器を地面に投げつけた。

 陶器は細かく砕け散った。


「ーー親方、そろそろ」


 弟子が声をかけてくる。


「おう! いま行く!」


 ショットはその声に応じた。

 今日も一日が終わるが、その前にショットには鍛冶の親方としての仕事が残っている。



 ーーショットは、ドワーフと呼ばれる種族であり、鍛冶仕事などの魔鉱を扱う作業が天職である。鍜冶は、かなりの魔力を込めて槌を振る作業が多く、どちらかと言えば力仕事だろう。

 その一方で、陶器造りは土をこねる段階から繊細さが求められ、鍛冶とは正反対のもののように思われる。しかし、根底の精神的な部分では相通ずるものがあるとショットは感じていた。



 ショットに鍛冶を教えてくれたのは父親で、先代の【七鐵】の一人でもあった。だが、ショットが一端の仕事ができるようになった頃ーー今からおよそ四十年前、鍛冶に必要な魔鉱を採掘中、落盤事故に巻き込まれ、命を落とした。

 


 ――父の死から、十年経ったくらいのことだったか。

 ショットは苦悩していた。

 思うように鍛冶技術が向上しない。

 それなのに、不相応にも未熟なまま【七鐵】を引き継いでしまった。もちろん技術の向上に全力を傾け、寝食を削っているのだがーー。

 他の【七鐵】から指導を受けたが、思うような作品を生み出すことが出来ない。

 自己分析するが、重圧を感じ、伸び伸びと鉄が打てないような気がする。自分の理想と、かけ離れていくーー理想を見失ってしまっていた。

 ーーショットは、それでも鉄を打ち続けていた。苦しく、忍耐の日々である。



 そんな時、現れたのがもう一人の師匠であるキラだった。

 キラは、人間族である。放浪の末、王国に迷い込んだとのこと。

 キラは老人で、年齢は百歳を超えたばかり、と言っていた。小太りの柔和な男で、寿命の長いショットから見れば、かなりの老齢に見えた。

 ーードワーフ族は長命種であり、エルフ族と同じく三百歳程度の寿命がある。人間族は百五十歳に届かない。



 王国としては数日間保護をして、キラを街道まで送り届けるつもりであったが、キラが高い技術を持った【匠】であることを知ったため、ショットが滞在を懇願した。

 キラの【匠】の技とは、


「せめてもの礼にーー」


と土をこねはじめ、杯を造りあげて判明したのだが『陶芸』であった。

 キラは土をこね、素焼き、乾燥、本焼きという工程を魔力を使って行い、杯を焼き上げた。杯を渡されたショットは、徐々に身体が熱くなるのを感じた。

 杯は、全体に柔らかい風合いで下半分がほんのりピンク色をしていた。柄を入れたりの装飾はないが、細かいヒビのような模様が入った独特の風合いだ。

 杯の底部分である高台は無骨そのもので、切り込みまである。


「……」


 ショットは言葉を失った。


(これが……杯……)


「どうですかな? 酒を呑むのに、ちょうど良いでしょう」


 キラは、にこやかだ。


「……」


 ショットは自分の感情が理解できない。

 ただ、


(この陶器について詳しく知りたい。自分でも、造ってみたい)


と、強く思った。

 そう思った直後、キラの手を掴み頭を垂れた。これまで、心から、他人に頭を下げたことがなかった。


「ーー私に、陶器造りを教えてください!」


 自然と頭が下がり、心の底から教えを請うた。



 キラは、いつも柔和で笑みを絶やさなかった。

 土をこねる手つきはどこまでも柔らかく、繊細だった。

 土の焼き上げや乾燥には魔力を込めたり魔法を使うが、土をこねるときは一切の魔力を消した。

『ろくろ』という回転式の台の上で土をこねる手つきは丁寧だ。

 ショットはキラの手つきに魅入った。

 顔つきはあくまでも穏やかで、手つきは繊細。

 鍛冶にどう繋がるのか自分でもわからなかったが、鍛冶作業をする上でどうしても学ばなければならないものだと直感した。

 鍛冶と陶芸。

 相通じるものがあり、『技術』は同じではないか、と思う。

 ショットはどっちつかずになることを恐れつつ、全身全霊をかけて陶器造りに取り組んだ。

 ある一定の期間は、鍛冶作業を休んで土をこねた。キラには、鍛冶に活かすためだが真剣に学ぶ、と伝えている。

 キラは『面白い』と応じてくれた。



 数年経つと、陶器が自分の表現したい形になるようになった。


(――不思議だ)


 派手さはない。

 取り立てて、芸術性も感じない。高級感や重厚感とも違う。

 割れたら破片が微細で、怪我をしやすく片付けも大変だ。ヒビの模様も、一歩間違えれば壊れそうな危うさを醸し出す。高台部分の、素材むき出し感がちぐはぐに思えることがあった。 

 ーー素朴な陶器である。

 だが、ショットはキラの造った陶器に惹かれ続ける。

 まじまじと見ると、


『凛』


とした印象を受け、思わず背筋が伸びる。

 初めてもらった杯は、今では大事な宝物だ。

 無骨な高台は焼き物の印象を左右し、繊細さも無骨さも表現できる。ヒビの模様は全体の表情を豊かさを出す。

 土の配合で色が変わり、焼くことにより偶然に生み出された独特な風合いが面白い。キラの生み出す陶器に対し、ショットは表現する言葉が見つからない。

 ――ただ、惹かれた。



 ある日ショットは器を焼き上げ、会心の笑みをこぼした。

 追い求めた形が表現できていた。

 少し全体のバランスや色味に違和感を覚えたが、自信作である。

 キラに見せたところ、キラからも褒められた。


「やった……!」


 ショットは素直に歓喜の感情を表に出した。

そして、緊張が緩んだ。


「人生の最高傑作だ……!」


 と、ショットは思わず漏らした。

 ――これに、キラが思わぬ激しい反応を見せた。


「なにを言うか! たかだか数年で、『陶芸』に満足したのか! 『真剣に学ぶ』と言ったのは、嘘だったのか!」


 ーーと。

 いつもは柔和なキラが、強い口調だった。初めて見せた激しさだった。

 ――情熱だった。


「ーー!」


 ショットは、キラが自分以上に真剣であったことを悟った。


(ーー自分は、キラに、土に、そして鍛冶に真剣に向き合っていたのか)


 数日間、ショットは自問自答した。

 それからまた、土をこねた。キラは、傍らで見守ってくれた。ショットは、キラから匠の心構えを教わったと思った。



 ――その数日後、ショットはキラから


「教えるべきことは、全て教えた」


と言われた。

 ショットは戸惑う。まだ、わからないことばかりだ。技術的にキラに及ばないし、足元にも及ばないどころか、足元がどこにあるかもわからない。

 そんなショットに、キラはただ一言。


「あとは、心を入れなさい」


 そう優しく言い残すと、キラは旅立った。

 引き留めることは叶わなかった。

 ……それからも、ショットは土をこね続けた。

 ――そして現在、ショットの鍛冶製品は【七鐵】として認められるようになっていた。

 生み出した製品が、類い稀な曲線を描くのだ。

 剣を叩けば斬れ味の鋭い名剣。

 鎧を打てば攻撃を反らす丈夫な鎧。

 これは、焼き物で得た繊細さや曲線を取り入れた結果であった。

 他の【七鉄】の職人たちからも一目置かれ、信頼を得た。

 ショットは望んだ地位に名実ともに辿り着くことが出来た。


「……」


 しかし、ショットは今日も憂鬱そうな表情で土をこねる。

 ショットは思考を続け、黙々と土をこねる……。



 ーーそんなショットに、ある日弟子から声がかかった。


「……親方、すいません」


 工場の外からだ。

 土をこねる時は、声をかけるなと言いつけてある。

 余程のことがあったのだろう。


「どうした?」


 ショットが弟子の声に応じる。


「それが、王国の入口に人間の女が二人迷い混んだみたいで……」

「ん……?」


 ショットは、片眉を上げた。

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