第三話 地底の悪魔……
翌朝、アンジェリーヌがジャミーと一緒に外出した先は『ロック・ジャーキー』である。
館からは馬車で二時間程の距離にある『ロック・ジャーキー』は、およそ三十メートルはあろうかという岩が乱立する奇景が楽しめた。
また、ドワーフ族のルーム地底王国への入口の一つとして知られている。
ドワーフ族の造る武具を求めて人間族はルーム地底王国を訪れるが、それはまた別な入口であり、『ロック・ジャーキー』を訪れるものは純粋に観光目的の者ばかりだ。
「わあ、壮観だねー」
アンジェリーヌは小高い丘から、奇岩群を眺める。
「あまり、身を乗り出さないで」
「へいへい」
ジャミーからの注意に、軽く応じながらも目は奇岩から離さない。
館の作られた庭とは違い、雄大な自然に身を浸すことができる。目が離せない。
「ちょっと岩に近づいてみよう」
「いいけど……。気をつけてよ」
「うん!」
アンジェリーヌは、ジャミーに元気な返事をして丘を駆け降りる。
そしてアンジェリーヌは岩に近づいた途端ーー、
「……ひいぃぃぃ!」
穴に滑り落ちた――。
ーーチカチカチカ。
アンジェリーヌは暗闇の中を滑落する。滑落しながら、点滅する光を見た。
ーーまるで、夢の中のようだ
ーーそこは、暗い場所だった
と言っても、目の前を浮遊するチカチカが七色の光を放っている。
『…………』
チカチカが話しかけてくる。
(なに? なんか聞こえた?)
チカチカは良く見ると周囲にたくさんあった。
(なんか、このチカチカ見たことがある?)
遠い昔に、見たことがあるような。
しかし、思い出せない。
チカチカチカ……。
――十数秒後、
「ひいぃぃぃ!」
アンジェリーヌはドサリ、と柔らかい砂の上に落ちた。
アンジェリーヌは我に返る。近くにいたジャミーが『風の魔法』をかけてくれたようで、滑落による怪我はない。
「……っ」
ただし、ジャミーが足を捻ったのか、足を気にする仕草を見せた。
アンジェリーヌはジャミーに駆け寄り、しおらしく謝る。
ジャミーは気にしないようアンジェリーヌに良い、
「それにしても、上まで登れるかしら?」
と上方を見上げた。
遥か上方からは光が差し込み、以外と明るい。
高い。とても、よじ登るのは不可能だ。
「……」
「まあ、待っていれば、護衛の人たちが助けに来てくれるでしょう」
アンジェリーヌが押し黙ってしまうと、ジャミーが明るく声を出した。
「……うん」
ジャミーに励まされ、アンジェリーヌは頷く。
――と、
ザッザッ
複数の足音がして、人の気配がした。
暗がりの中、アンジェリーヌたちの周りを真っ黒の影が取り囲む。
ギョロリ、とした目玉だけが白く、アンジェリーヌは思わず飛び上がった。
「ひ、ひぃぃぃっ!?」
もしや、地底から湧き出てきた悪魔か!?
アンジェリーヌは思わず飛び上がった。
「神様、仏様、セラム教の大いなる意思様!」
アンジェリーヌは祈ったーー。
「ーーなんでえ、嬢ちゃん。脅かしちまったか?」
「しゃ、喋った~!」
「おう、口があるから喋るだろう?」
「ひい! 口ッ!? 食べられる!」
「……食べないぞ」
「……ほんと?」
「……俺たちを何だと思ってんだ?」
「悪魔?」
「食べるぞ」
「ひぃぃぃ!」
アンジェリーヌは逃げようとしたが、ジャミーが怪我をしているのを思い出し、踏みとどまった。
「ーーアンジェ、落ち着いて。彼らはドワーフみたいよ」
「へ? ドワーフ!?」
ジャミーがアンジェリーヌに声をかけ、アンジェリーヌは黒い影たちをしげしげと見つめた。
「おう、俺たちはドワーフだ」
黒い影は目をギョロリとさせて笑った。
ガハガハと笑いながら、ドワーフたちは布で顔を拭う。
上方から差し込む光がドワーフたちを照らす。現れたのは赤黒い顔。彼らは魔鉱を採掘中で、土にまみれていたため顔が真っ黒だったのである。