March of the Heroes into Valhalla ‐最後の戦い‐
蝋燭の火が光を放ち揺らめいている。ここは巨大な砦の一室。そこに座る一人の男が武器の手入れをしていた。
その肉体は鋼を身に纏っているが如く鍛えあげられている。右目は潰れ顔に幾つもの傷跡が目立つ。彼こそが大陸最強にして最後の将軍。
コンコンと扉を叩く音がする。
「入れ。」
将軍はすぐさま言葉を発し、報告に来た兵を部屋に入れる。
「報告します。決死隊の陽動により奴らはこちらに向かってきているとのこと。」
将軍は背を向けたまま報告を聞き武器と手入れ道具をテーブルに置き立ち上がり返答する。
「そうか。陽動が成功したということは、兄弟たちは先にヴァルハラへと旅立ったか。」
兵は表情を崩さずに将軍の背中を見つめている。将軍は兵と正対し最後の命令を告げる。
「奴らは明朝にはここに到達するだろう。次は我々がヴァルハラへの道を歩む時だ。」
将軍も報告に来た兵も自然と笑みがこぼれる。ふっ、と将軍が鼻で笑い言葉を続ける。
「皆に伝えよ。明朝に我等のラグナロクが始まるとな。その時が来るまで各々、準備をしておけ。」
兵は頭を下げ足早に出て行った。
「神々よ、次が我等が最後の戦いになるであろう。見届けよ、我等真の戦士による闘争を。」
1人になった将軍は窓から月が輝く空を見上げ、最後の戦いを神々に語り掛けた。
明朝、地平線の奥で舞い上がる土埃。奴らが来た。
人でも獣でもない異形、どこから現れたのかもわからない化物ども、わかっているのは唯一つ、人類の、彼らの敵であるということ。
将軍が後ろを振り返ると黄金の鎧を身に着け槍と盾を持った千人の戦士たちが砦の奥から現れる。彼らこそがこの大陸最後にして英雄の部隊。
戦士たちは砦中央の広場に美しく整列した。
彼らの姿を見た将軍は軽く息を吐き笑みを浮かべた。
将軍は戦士たちの正面に立つ。居並ぶは歴戦の英雄、血の誓い結んだ兄弟たちだ。将軍は彼ら一人一人の目を見ながら最後の激を放つ。
「英雄よ!血の兄弟たちよ!最後の戦いの時が来た!幾万の敵が来ようと我らがやるべきことただ一つ!
兄弟たちよ、迷うな!退くな!臆するな!戦え!そして前に!前に進め!武器を失おうと、腕を食いちぎられようと、死せるその時までひたすらに戦い前に進め!」
将軍の激に兄弟たちは体を震わせる。恐れからではない、血が騒ぎ肉が躍る。そして皆が無意識のうちに槍と足で大地を打ち鳴らす。
「我等が神々は敵を前に、前進を止める者を戦士の殿堂に招き入れてはくれぬ!集おうではないか!ここにいる皆で戦士の殿堂に!そして先に旅立った兄弟たちに聞かせてやろうではないか!我等こそが史上最も勇敢に戦い、最大の栄光と名誉を手にした戦士であるということを!そして我等の戦いは不滅の栄光の中で永遠に輝きを放ち、語り継がれるであろう!」
将軍は満足した顔で兄弟たちに背を向ける。
「開門せよ!}
城門が開く。ゆっくり低い音を鳴らしながら。少しづつ開きやがて敵の姿が見えてきた。
そして将軍の最後の指令が下される。
「進むぞ、兄弟たちよ!」
英雄達の雄叫びは天に、地に、そして世界に響き渡る。
前進する、血の兄弟たちは天上への道に向かうため、誰一人立止まることなく。