このくそじじいが
「心配性だなぁ。俺がどれだけ真面目な男なのかくらい今まではなしてれば十分理解できただろう? その俺に監視なんてつける必要があるのか? 仕事なさ過ぎて途中で放り出すのがオチだぜ」
「本気で言ってるあたりが相当まずいのぉ。まぁよいわ、わしが決めることじゃからな。おぬしに決定権などないんじゃよ」
「だからいらないって。俺だって一人でまったりと異世界生活を楽しみたいんだよ。監視なんてついてたら楽しさ半減どころの騒ぎじゃないぞ」
「仕方あるまい。おぬしのことなんぞ微塵も信用できんのじゃからな。まあ、真面目にしておれば監視も外してやろう。そこはおぬしの頑張り次第じゃぞ」
このじじい、どうあっても俺に監視をつける気でいやがる。
何とかして、この話を白紙に戻さなくては。俺の気ままで気楽な異世界生活が堅苦しいものになってしまう。そんなのは許されないんだよ。
しかし、どうやってなかったことにしようか。今更、態度を改めたところでじじいの気が変わるのはありえないとして、そもそも俺はこれが素なんだし、変に取り繕おうとしてもぼろが出るだけだな。ありのままの自分をさらけ出そう。そうすれば、じじいも俺が真面目な高青年だということに気が付いてくれるはずだ。
「はぁ、空気が美味しいぜ!! 今日もいい天気だなぁ、じじい」
「気でも狂ったか」
「誰の頭がおかしいって? このくそじじい、布団と一緒に干してやるぞ」
「ほら見たことか。ちょっと腹が立てばこれじゃ。こんな危険な奴にチート能力なんてものを持たせて世界に転生させるわけには行かんじゃろ。おぬしはやらかしそうじゃ」
しまった。つい、高青年を装うつもりがじじいの挑発に乗ってしまった。
こうなっては仕方ない。もう勢いで押すしかない。
「いやだいやだいやだいやだいやだぁぁぁぁ!!!」
「なんじゃ急に、うるさいのぉ。黙らんと、監視を二人にするぞ。静かにせい」
「はい。静かにします」
監視を二人に増やすなんて人間のすることじゃねぇ。このじじいには心ってもんがねぇのかよ。一人でこれほど嫌がっている俺に対して、二人にするなんて脅しは死ねって言っているようなもんだろうが。
参ったな。これは本格的に監視を覚悟しないといけないのかもしれない。
「人選はわしに任せておくのじゃ。とびきり優秀な者をつけてやろう」
「嘘だ。俺に監視なんて嘘だ」
「現実逃避をしている場合か。おぬしはこれから異世界に行って魔王を倒さないといけないのじゃぞ。そうじゃな、倒したあかつきにはおぬしの願いを極力かなえてやるとしようかの」
「本当か? 願いを何でも? よっしゃーー!! やる気が湧いてきたぜ」
「何でもとは言っておらんからの。そこは勘違いするんじゃないぞ。無理難題を言ってきても知らんからの」
ちっ、これもダメか。
折角何でも願いをってことに勢いで持っていこうとしたってのに失敗か。このじじいいい反応してやがるぜ。
魔王を倒すだけで願いをかなえてもらえるのか。しかも、その力はじじいが与えてくれるんだろ? それなら、楽勝じゃねぇか。いくら実力が拮抗しているは言え、勝てないなんてことはありえないからな。俺の根性でそこは上回って見せるぜ。
「監視の者は異世界に着いてからのお楽しみということにしておくとするかの。おぬしもきっとわしに感謝することになるぞ。期待しておくのじゃ」
「やったぜ。まったくうれしくねぇけど、ここは喜んでおいたほうがいいだろうな」
「また、心の声が漏れておるぞ。それと、間違っても監視のものに攻撃を加えようなんて考えるのでないぞ。対策済みじゃから痛い目を見るのはおぬしになるからの。邪魔者は消しておこうなんてのは通じんからの」
おっかしいなぁ。俺は別にそんな物騒なことまで考えちゃいないってのにな。
俺の信頼はそこまでのものだったのかよ。じじいも少しくらいは俺のことを信用してくれよ。人を殺そうなんて考え、生まれてこの方抱いたことすらないぞ。
「詳しい説明は監視のものから聞くとよい。わしがここで説明したところでおぬしはあまり聞いてなさそうじゃからの。本当に知識が必要になった時に覚えるといいじゃろう」
「気が利くな、じじい。俺もじじいの話なんて聞きたくなかったんだ。俺の意思をくみ取ってくれてサンキューな」
「おぬしやはりわしが神ということを理解しておらんようじゃな。今までの説明が無駄にはなるが、転生するものをおぬしから変えることなぞ、造作もないことなんじゃぞ?」
「おじいさま。ありがとうございました。俺を選んでくれたことを異世界に行ったとしてもきっと忘れません。この恩は魔王を倒すことでしっかりとお返しします」
「恩を返すということは願いはいらんということじゃな。まったく、殊勝な心がけよのぉ」
「はぁ? ふざけんなよ!! 誰が報酬もなくてそんな面倒なことするかよ。調子に乗るんじゃねぇぞ」
「もうよい、おぬしのそれにももう飽きたわ。さらばじゃ。しっかりとやるんじゃぞ」
「え? ちょっとまって……」
俺の視界は真っ白にそまった。