性別不明の恋愛リアリティー:後編
「こんにちは!ジェンダーニュートラル、第九話です!」
今回も神谷の挨拶で始まる。
「先週、桃百さんは碧さんが気になってるってことが明らかになりましたね」とめるぽ。
「ももしろかと思いきや、あおももでしたね〜」と佐山。
「まぁ碧さんがどう思ってるかはまだわからへんけどな」と神谷。
「そこが気になりますよね!」とめるぽ。
「ついに恋愛が始まってきたって感じですね」と佐山。
「今日はこの辺にしてさっそく見ていきましょう。どうぞ」
神谷が手を振り、画面が切り替わった。
「素敵なお店だね」
木目調の家具や観葉植物が配置された温かみのあるカフェに、碧と翠蓮がやってきた。
「ここ、翠蓮のイチオシなんでしょ?」
「うん!」
「翠蓮はカフェに詳しそうだよね」
「カフェ大好きだから。特にほっこりするカフェが好きなんだぁ」
「こことかまさにそうだね」
「うん!碧は何にする?」
「本日のブレンドにする」
「私はカフェラテにするね」
二人のもとにドリンクが届く。
「レインボーハウスに住み始めてもう1ヶ月半経ったね。翠蓮は楽しめてる?」
「うん!みんなとおしゃべりするの楽しいよ」
「恋愛の方はどう?」
「恋愛か……」
「その顔は何かありそうだね」
「え!よくわかったね」
翠蓮が頬を染める。
「私、紫月とちょっと色々あったでしょ?」
「うん。あれはびっくりした」
「その節はごめんね」
「ううん。謝ることじゃないよ。あれがあったからこそ、二人はもっと仲良くなれたみたいだし」
「そうだね!……それでね、そのとき仲裁してくれた柚黄さんが、有り難かったし、かっこよかったなって思って」
「ああ、柚黄が真っ先に仲裁してくれたよね」
「うん。私のことも紫月のことも否定せずに、凍った空気を溶かしてくれて。本当に救われたんだ」
「たしかに柚黄かっこよかった。柚黄だって、あの場であんなことが起こるなんて予測してなかっただろうに」
「うん。それに普段から社交的だし、仕事に対しても一生懸命だし、スマートだし」
「ふふ。大好きなんだね」
「え!そんな」
翠蓮の顔がますます赤くなる。
「大好きだなんて。でも、たしかに今一番気になってる人なんだよね」
「そっかぁ、いい人が見つかってよかったね。これからアプローチするの?」
「うーん。アプローチしたほうがいいのはわかってるんだけど、何をしたらいいかわからなくて」
「とりあえず二人で出かけてみたら?」
「え!二人で?いきなり二人はちょっと緊張するかも」
「そうなんだ。じゃあ複数人の方がいい感じ?」
「うん。できれば」
「ならスポタ行ったときみたいに、またみんなで出かけてみる?なんやかんや、全員で出かける機会ってなかったし」
「それができたら一番理想かも。ただ、みんな忙しいから都合が合うかな?」
「聞いてみようよ。グルチャで聞いてみるね」
「えっ、今?」
「今」
碧がスマホを取り出し、軽やかに指を動かす。翠蓮も自分のスマホのチャットアプリを開く。碧から一件送られてきていた。
碧「そろそろまたみんなでどこか行きたいなって思ってるんだけど、どうかな?」
桃百「いいわね。遊園地系にする?」
舞白「いいですね!フラワーランド行きたいんですけど、どうですか?」
紫月「私はOK」
水斗「日程調整しようぜ」
翠蓮がスマホから顔を上げる。
「トントン拍子で日程調整まで進んだね。すごい……」
「フラワーランドなら、ふたりきりで話せるタイミングもありそう。よかったね」
碧が微笑む。
「ありがとう、碧。私がんばるね」
「うん。がんばって」
「碧の方はどうなの?気になる人できた?」
「うーん。みんなそれぞれ魅力的だと思うけど、今はまだわからないかな」
「そっかぁ。もし気になる人ができて、碧が教えてもいいって思ったら、教えてね」
翠蓮が柔らかい笑顔で言う。
「うん。気になる人ができたら教えるね」
碧も微笑んだ。
「ねぇねぇ、フラワーランド何着ていくの?」
夕食後のリビングでみんなが思い思いにおしゃべりを楽しんでいる中、桃百が舞白に話しかける。
「迷ってます。映え重視でいいのか、アクティブな格好がいいのか……正直に言うとスカートで行きたいです」
「わかる。フラワーランドって全体的には映え重視だけど、二つだけ激しいアトラクションあるわよね。スカートで行くと乗れなくなる」
「そうなんですよね。でも俺、元々激しいのあまり好きじゃないので、スカートにしようかなと思ってます」
「そうね。私もスカート履きたいし、もしみんなが激しいの乗るなら、舞白と一緒にいよっかな」
「いいですね。二人で写真撮りましょう」
「それは必須よ。撮りまくるわよ」
「YouTube用の動画は撮らないんですか?」
「ロリータよりもう少し軽いの着るし、その日はみんなと遊ぶのに集中したいから撮らないことにするわ」
「了解です」
「桃百も激しいの苦手なの?」
会話を横で聞いていた碧が桃百に問いかける。
「苦手ではないわ。普通に乗れる。むしろ三半規管は強いほうよ」
「そうなんだ。てことは、コーヒーカップとか得意なの?」
「大得意よ。負けたことないわ」
「毎回勝負してる前提だね」
「もちろんよ。あのアトラクションは戦うためにあるのよ!」
冗談を言って桃百が笑うと、碧もつられて笑う。
「碧は?なんかなんでも得意そうに見えるけど」
今度は舞白が碧に聞く。
「俺はただ高いだけのジェットコースターは得意だけど、遠心力がすごいやつは苦手かな。体がふわっとするアトラクションは苦手」
「あ、それわかるよ。私も垂直に落ちるのとかは体がふわっとするから苦手だもん」
翠蓮も会話に参加する。
「お化け屋敷は?みんな得意?」
桃百が三人に聞く。
「俺はお化け屋敷が怖かったことがないですね」
舞白が言う。
「ほんとに!?すごいわね」
桃百が驚く。
「そうですか?作り物だとわかってれば、あんまり怖くないと思いますけど」
「いやいやいや、作り物でも怖いものは怖いでしょ!それにああいう場所こそ、霊が集まってくるって言うじゃない?」
桃百が自分を抱きしめるようにしながら言う。
「桃百、苦手なんだ」
碧がからかうような調子で言う。
「なによ、その獲物を見つけたような目は」
桃百がきっと碧を睨む。
「ふふ。俺お化け屋敷は桃百と入りたいな〜」
「うっわ!趣味悪い!私を笑いものにするつもりでしょ!」
「うふふ、二人ってほんとに仲良いよね」
翠蓮が微笑ましく見守っている。
「俺も桃百さんと入りたいな」
「舞白まで!もう、ろくなやついないんだから!」
「翠蓮は誰と入りたい?」
碧が翠蓮に水を向ける。
「えっ、私は……」
「え!何その感じ。好きな人いるの?」
翠蓮が意味ありげに口籠ったので、桃百が翠蓮に詰め寄る。
「桃百、声大きいよ!」
翠蓮が焦る。
「ごめん、今のは意地悪だったね」
碧が翠蓮に謝る。
「え!何よ、その感じ!まさか碧は知ってるの?」
桃百が今度は碧に詰め寄る。
「ふふ、どうだろうね?」
碧が愉快そうに笑う。
「もう!なんで碧には言って私には言わないのよ!」
「翠蓮さんが桃百さんを好きな可能性もありますよね?」
舞白が最もなことを言う。
「あ!そっか。センシティブね……」
急に桃百が大人しくなったので、三人が笑った。
ここで画面はナビゲーターに切り替わる。
「はい!ジェニュー第九話はここまでです!」と神谷。
「わ〜!また進展がありましたね!」とめるぽ。
「翠蓮さん、柚黄さんのことが気になってたんですね!」と佐山。
「いや、気になってるじゃないよ。『大好き』やで!」と神谷。二人が笑う。
「本人はそこまで言ってないですけどね」と佐山が軽くツッコむ。
「仲裁に入ってくれた柚黄さん、たしかにかっこよかったですよね〜」とめるぽ。
「あの場にいたみんながそう思ったやろな」と神谷。
「柚黄さんは今まであまりフィーチャーされてませんけど、これからどうなるのか楽しみですね」と佐山。
「あと、あおももがなんかイチャついてませんでした?」とめるぽ。
「あれ、イチャついてたんですか?」と佐山。
「碧さんが桃百さんのことをからかってたよね。『お化け屋敷、苦手なん?』みたいな」と神谷。
「このままいくと、あおももがお化け屋敷でイチャつくんじゃないですか?」と佐山。
「でも、舞白さんも一緒に入りたいって言ってましたよね。どうなるんだろ〜」とめるぽ。
「舞白さんの気持ちも気になるよね。桃百さんのこと、好きなんかな?」と神谷。
「うーん」とめるぽと佐山が腕を組んで唸る。
「難しいところですよね。ただ友達として仲がいい可能性もありますし」とめるぽ。
「でも前に桃百さんのこと『可愛い』って言ってましたよね。桃百さんが照れたときは顔を隠すのを見て」と佐山。
「来週以降、舞白さんの気持ちも聞けるといいね」と神谷。
「来週も楽しみです!」とめるぽ。
「それではみなさん、また来週お会いしましょう。さようなら〜!」
三人が視聴者に向かって手を振る。
リサはパソコンを閉じた。
(今週はゆずれんが浮上してきたな。柚黄さんはあまりフォーカスされてこなかったから、気持ちも全然わからないな。そしてここへ来てのあおももね!桃百さんが碧さんを好きっていうフィルター通して見てるせいか、ラブラブに見えたな……)
リサはSNSを開く。
「あおももだ!万歳!!」
「舞白さん、二人の間に割って入りたいのかな?それとも純粋に怖がってる桃百さん見たいのかな?」
「ゆずれんの可能性出てきた!」
「柚黄さんの仲裁か。あれは惚れるよな。俺も惚れた」
「フラワーランド回たのしみ!」
(私もフラワーランド回楽しみだな〜)
リサはSNSを閉じた。
「こんにちは!ジェンダーニュートラル、第十話です!」
今回も神谷の挨拶で始まる。
「前回は翠蓮さんが柚黄さんを気になってるってことが判明しましたね」とめるぽ。
「ゆずれんの可能性が出てきましたね」と佐山。
「一方で碧さんは桃百さんのことが好きなのかと思いきや、『わからない』って言うてはったね」と神谷。
「そうですね。碧さんがどんな気持ちなのか、もっと聞きたかったな〜」とめるぽ。
「そしてみんなでフラワーランドに行くことになりましたよね」と佐山。
「桃百さんが舞白さんに『何着ていく?』って聞いてたね。桃百さんは舞白さんのこともかなり好きではあるみたいやな」と神谷。
「そうですね。でもそれは友達としての好きだったのかもしれませんね」とめるぽ。
「色々な想いが交差する第十話です、どうぞ」
神谷が手を振り、画面が切り替わった。
「着いた〜!」
フラワーランドの入り口で、桃百がテンション高く叫ぶ。
「耳買いましょう!」と舞白も隣で興奮気味だ。フラワーランドは花の妖精たちがテーマになった遊園地である。そのため、エルフのような尖った耳に花飾りがついたカチューシャをつけて園内を回るのが主流になっている。
「わぁ、どれも可愛い」
翠蓮が呟く。ずらりと並んだカチューシャは、様々な種類の花飾りがついていて、中には花嫁のようなヴェールがついたものもある。
「碧!これどう?」
桃百がピンクや白の花飾りがついたカチューシャをつけて、碧に感想を求める。
「可愛い。服にも似合ってるよ」
碧がにこりと微笑む。
「んふ、カチューシャを予習してコーデ組んだもの、当然よ」
桃百が自慢げに胸を張る。
「ふふ、なら俺の意見聞かなくてもいいんじゃない?」
「え!そんなことないわよ。碧がどう思うかは、私にとって大事だし……」
「そうなの?」
「うん……あ、舞白!それにするの?」
桃百が近くにいた舞白に声をかける。手には白と水色の花飾りがついたカチューシャがある。
「はい!俺もカチューシャ予習してきたので!これまだ残っててよかった〜!」
「つけてみてよ」
桃百に促され、舞白がカチューシャを頭につける。
「可愛い!似合ってるわよ!」
「ありがとうございます」
舞白が少し照れくさそうに言う。
桃百と舞白はそれぞれの写真を撮るために、メリーゴーランドに交代で乗る。碧は舞白の後ろの馬に乗り、二人を微笑ましく見守る。それを見た桃百が声を上げる。
「ちょっと!碧が白馬乗ってるとガチ王子なんだけど!?」
そう言って碧にもスマホを向ける。碧がサービスで髪をかきあげる仕草をしたので、桃百が大笑いする。それを見て舞白も後ろを振り向く。碧が舞白に気づき、優雅に手を振ってみせる。舞白も笑った。
回転ブランコに乗りながら三人の様子を見ていた翠蓮が、隣の紫月に向かって言う。
「うふふ、あの三人ほんとに楽しそう」
「ほんと。あんなにはしゃいでみたいな」
「はしゃごうよ!まずこれ降りたら顔はめパネルにいこう!あれやるとなぜかテンション上がるから!」
「ふふっ、翠蓮、顔はめパネル好きなの?」
「うん!私が紫月の写真撮るよ!」
「ありがと」
「え、やべ、割と怖くね?」
回転ブランコに乗った水斗が隣の柚黄に共感を求める。
「あら、そう?隣に私がいるんだから大丈夫よ。死ぬときは一緒よ」
「いや、死にたくねぇわ!」
二人が笑い合う。
「水斗はふたりきりになりたい人いるの?」
「まぁ、いるな」
「あら、協力しましょうか?」
「いいの?ってか、お化け屋敷入るときにどうせふたりきりになるだろ」
「そうね。みんなお化け屋敷はふたりずつ入ろうって話してたし。一組だけ三人になるけど」
「え?七人目だけひとりで行くのかと思ってた」
「そんなわけないでしょ!鬼畜すぎるわよ」
「次、お化け屋敷行きましょ!」
桃百がみんなに向かって言う。
「え、もう行くんですか?もっと暗くなってからの方がいいんじゃ?」
舞白が言う。
「何言ってんの!暗くなったら怖いでしょうが!」
「だからいいんですよ」
「嫌なことは早めに済ますのよ!」
他の面々が二人の会話を見守っている。
「ここにはお化け屋敷が二つあるらしいから、一つをみんなで今から行って、もう一つは行きたい人が後から行けばいいんじゃない?」
柚黄が案を出してくれたので丸く収まった。
「くじ引きにする?」
紫月が聞く。
「俺は桃百と入りたいな」
碧が言う。
「出た、私のことバカにする気よ、絶対」
「俺も桃百さんと行きたいです」
舞白も言う。
「じゃあその三人で行ったら?それで水斗と紫月がペアになるといいわ。回転ブランコのときは翠蓮と紫月がペアだったから、シャッフルしましょ」
またも柚黄の提案にみんなが乗る形で落ち着いた。
「うわ、意外とえぐいな」
このお化け屋敷は廃病院をモチーフとしている。悪魔が人間を連れ去って人体実験をしていた過去がある、という設定だ。入っていきなり腹を掻っ切られている遺体の人形がベッドに横たわっており、それを見た水斗と紫月が息を呑む。
「水斗、意外とこういうの苦手なんだ?」
紫月は強気に言いつつ、右手は水斗のTシャツの裾をぎゅうと握りしめている。
「おい、Tシャツ伸びるだろ。握るならこっち」
そう言って水斗は紫月の右手を握った。
「えっ」
紫月は驚いて水斗を見上げるが、水斗は真っ直ぐ前を向いて歩みを進める。
「誰かに見られたら、からかわれるよ」
「ちゃんと間隔空いてるし大丈夫だろ」
「そうだけど……きゃあっ」
「おわっ、びっくりした」
黒幕をくぐると、突然幽霊が飛び出してきた。二人で悲鳴を上げる。そのとき、後ろの方から耳をつんざくような悲鳴が聞こえてくる。
「わっ、これも演出かな?」
「いや、この声……桃百じゃね?」
「え?」
たしかによくよく耳をすませば桃百の悲鳴だ。二人は安堵し、笑い合った。
「桃百ってば、こんなに怖がりだったなんて」
「普段は気強いのにな」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
「うっわ、うるさ」
「ひどい!ひどいわ、舞白!」
次々に現れる幽霊と遺体人形に桃百が悲鳴を上げる。舞白は桃百をからかいながら進んでいる。
「そうだぞ、桃百。うるさいぞー」
碧が舞白に加勢する。
「もう!あんたらなんかと来るんじゃなかった!」
「じゃあ俺たち、先に行ってようか?」
碧が言う。
「嫌よ!なんでそんなこと言うの!そばにいて!」
桃百が碧の腕にしがみつく。
「絶対逃さないんだから……!」
「はは、桃百の方が怖いよ」
「いいな、俺もしよ」
舞白も碧の空いている左腕に自分の腕を絡める。碧は両隣から腕を絡められているが、気にした様子はない。
「速く歩いて水斗たちに追いつきましょうよ」
「いや、足ガクガクな人にそんなこと言われても」
碧が桃百の足元を見て笑う。
「きゃっ!」
足元に転がった生首を見て、翠蓮が声を上げる。
「あら、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
「翠蓮は見た目通り、怖いのが苦手なのね」
「ごめんね……なるべく速く歩くから」
「ゆっくりでいいわよ。転ばないようにね」
「うん。ありがとう。柚黄は平気なの?」
「そうね。急に出てこられるとびっくりするけどね」
「そうだよね。あれは誰でも驚くよね」
翠蓮が真剣な顔で頷く。
「ふふ。でも翠蓮の可愛い姿が見れてよかったわ」
「え!?」
「あら、気に障った?」
「え、ううん!全然!」
翠蓮が俯く。
「怖いなら繋ぐ?」
柚黄が翠蓮に手を差し出す。
「いいの?」
「うん。みんなには内緒ね」
「うん。ありがとう」
二人はそっと手を繋いだ。
ここで画面はナビゲーターに切り替わる。
「はい!ジェニュー第十話はここまでです!」
「えぇー!みんなラブラブやん!」
めるぽが天を仰ぎながら言う。
「これいいんですか?もうカップルほぼ確定してません?」と佐山。
「整理すると、まず水斗さんと紫月さんが手を繋ぎました」と神谷。
「碧さんは両腕を桃百さん、舞白さんにがっちり掴まれています」とめるぽ。
「そして柚黄さんと翠蓮さんも手を繋ぎました」と佐山。
「この三組で確定なんちゃう?」と神谷。
「桃百舞白碧はどうなるんですか?」とめるぽ。
「ハーレムよ、ハーレム」
神谷の言葉に二人が笑う。
「桃百さんは碧さんが好きだけど、舞白さんや碧さんの気持ちはまだ明かされてませんよね」とめるぽ。
「まぁ、来週あたりに明かされるんちゃう?来週はフラワーランド後編やし」と神谷。
「僕は柚黄さんが水斗さんの恋愛をサポートしてたのも気になりました。サポートするってことは、柚黄さんの好きな人は水斗さんじゃないってことなんですかね?」と佐山。
「どやろな〜。柚黄さん、大人やから、自分の好きな人の恋愛も応援しそうな雰囲気あるけどな」と神谷。
「たしかに。好きな人が幸せならそれでいいっていうタイプかもしれませんね」とめるぽ。
「でもワンチャン、自分が誘われたかったっていう可能性もありませんか?」と佐山。
「あぁ〜、その視点はなかったわ。でもありうるな」と神谷。
「佐山さんから見ると、柚黄さんは水斗さんを好きなように見えるってことですか?」とめるぽ。
「いや、確信があるわけじゃないですけどね。柚黄さんはゲイなんじゃないかなって。俺の友達にもゲイで柚黄さんみたいな雰囲気の人がいるんです。で、もしゲイなら、見た目も中身も男らしいのって水斗さんくらいじゃないですか。だからゆずとなのかなって」と佐山。
「あ〜、なるほど。まず性的指向から考えてみたってことですね」とめるぽ。
「俺も柚黄さんはゲイやと思うけど、でも雰囲気だけで判断するのもね、なんかダメな気がするし」と神谷。
「でも誰の性別がなんなのか予想しながら見るのがこの番組の醍醐味なので、いいんじゃないですか?分析する分には」とめるぽ。
「たしかに」と神谷が笑う。
「みなさんの考察もSNSなどで聞かせてください!それではジェニュー、また来週〜」
三人が視聴者に向かって手を振る。
リサはパソコンを閉じた。
(かなり動いたな〜!水斗さん、さりげなく紫月さんと手繋いでたし、好きなんだろうな。ゆずれんの方も見逃せないな。柚黄さんは優しさで繋ごうって言ったのか、それとも翠蓮さんに好意があるのか……。でも私も柚黄さんはゲイだと思ってた。実際どうなんだろう?)
リサはSNSを開く。
「水斗くん、かっこいい!スマートに手繋いだ!」
「桃百さんの怖がり方がガチだった笑」
「ゆずれんあるのか!?」
「翠蓮さん好きな人に手繋がれたってことでしょ?やばくない?絶対嬉しいよね」
(今週は特に盛り上がってるな〜)
リサはSNSを閉じた。
「こんにちは!ジェンダーニュートラル、第十一話です!」
今回も神谷の挨拶で始まる。
「前回はフラワーランド前編でしたね。ニ、ニ、三に分かれてお化け屋敷に入ってました」とめるぽ。
「しみず、ゆずれんが手を繋いでましたね。特に水斗さんの手の繋ぎ方がとてもスマートだとSNSでも話題になってました」と佐山。
「しみずはもうカップル確定なんちゃう?」と神谷。
「どうでしょうね?紫月さんの気持ちはまだ明らかになってませんからね」とめるぽ。
「でも毎朝一緒に筋トレしてたら絆も深まるんじゃないですか?」と佐山。
「せやな。そして俺的にはゆずれんも見逃せへんな。翠蓮さんは柚黄さんを好きなわけやから、これは期待してまうで」と神谷。
「あれはダメですよ〜!あんな簡単に手繋いじゃダメ!」とめるぽ。
「なんでなん?めるぽ的にはまだ早かったん?」と神谷。
「早いですよ。少なくとも我々視聴者はゆずれんがイチャついてるの初めて見たわけですからね。いきなり手は早い」とめるぽ。
「じゃあ何から始めたらよかったんですか?」と佐山。
「うーん。お喋りかな。二人が喋ってるシーンほとんど見たことないもん」とめるぽ。
「めるぽ的には急に心臓に悪い展開が来たわけやな」と神谷。
「そうです。でも早く本編見たいので、神谷さんV振りお願いします!」とめるぽ。
「了解!それではジェニュー第十一話、お楽しみください」
神谷が手を振り、画面が切り替わった。
「はぁ、やっと終わった」
お化け屋敷の外に出た紫月と水斗は、外の眩しさに目を細める。
「まだ真っ昼間だな」
「そうね。私喉乾いちゃった」
「割と叫んでたもんな。なんか買うか」
「叫んでないから。水斗の方が怖がってるように見えたけど?」
「は?んなわけねーだろ、あんなもん余裕だわ、余裕」
二人は互いに言い合いながら、飲み物を買うためキッチンカーへと向かった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
桃百が叫びすぎて喉を潰した状態でお化け屋敷からよろよろと出てくる。
「桃百、大丈夫?声枯れてるよ」
「だ、大丈夫……じゃないわ。飲み物ほしい」
「買いに行こっか」
「桃百さん、大丈夫ですか?顔やばいですよ」
「失礼ね」
「いや、青ざめてますよ。血の気引いてるんじゃないですか?」
「え、ほんと?」
桃百が手鏡で自分の顔色を確認する。
「うわ、ほんとだ。カメラ回ってるのに最悪……ちょっとトイレ行ってくる」
「俺も行きます」
「じゃあ俺が二人の飲み物買っておくよ」
「ありがとうございます。お願いします」
「あら?みんないないわね」
柚黄と翠蓮もお化け屋敷から出てきた。さり気なく離れた手に、翠蓮が少しだけ寂しそうな顔をする。
「ほんとだね。トイレとか飲み物とかかな?メッセージしてみる?」
「まぁしばらく別行動でもいいかもね。翠蓮は二人きりで話したい相手とかいる?」
「え!えっと、私は」
翠蓮が言い淀む。そして意を決して意中の相手の顔を見る。
「わたし、は、柚黄と話したかった」
「あら!そうなの?嬉しい」
柚黄がにっこり笑う。翠蓮が恥ずかしそうに笑い返す。
「涼しいところに座りましょうか」
「うん!」
二人は花型のパラソル付きの椅子に腰掛けた。
「お化け屋敷、なかなか作り込まれてたわね。お化け屋敷と言ってもフラワーランドなんだからもっとマイルドだろうと思ってたわ」
「そうだね。びっくりした」
「翠蓮は遊園地に来るの久しぶりなの?」
「うん。一年ぶりくらいかな?」
「あら!だいぶ久しぶりね。と言っても大人になったらそんなもんよね。むしろ多い方かも」
「大人になるとなかなか遊園地行こうってならないよね」
「そうね。極力疲れないプラン組んじゃいがち。アフタヌーンティーだけして解散とか」
「柚黄もアフタヌーンティーとか行くの?」
「私は誘われればどこでも行くからね」
「そうなんだ。柚黄自身が今一番行きたいのはどこなの?」
「私自身が行きたいところ、か」
柚黄がちょっと遠い目をする。
「久しくそんなこと考えてなかったわ。美容学校の同級生とお店を持って、それを軌道に乗せることに一杯一杯だったから」
「そうだったんだ。だから恋人もしばらくいなかったの?」
「ええ。恋人を大切にできる自信がなかったし、それに出会いもなかったしね」
「美容師さんはお客さんに連絡先もらったりすること、多そうだけど」
「私はゲイだからね。お店は女の子のヘアアレンジや着物の着付けがアピールポイントだから、男性のお客さん自体が少ないの」
「そう、なんだ」
「うん。翠蓮は?ヘテロなの?」
「うん。ヘテロって異性愛者だよね。私は性自認が女性で男性が好きだから、ヘテロだよ」
「そう。カフェ店員もナンパされること多そうだけど、実際どうなの?」
「同僚にはナンパされてる男性もいたけど、私は全然。女性のお客さんの方が多いしね」
「そっか。私たち、お互い出会いなかったのね」
「そうみたい」
翠蓮がひとくちジュースを飲む。
「柚黄は、レインボーハウスで気になる人できた?」
「そうね。できたわ」
「え!そうなの?誰なのか聞いてもいい?」
「今はまだ内緒。翠蓮は?」
「内緒かぁ〜。私も気になる人できたけど、内緒にしようかな」
「ふふ、恋バナを一瞬で終わらせちゃってごめんね」
「ううん!全然。私はもっと柚黄のこと知りたい。まずは好きな食べ物から教えて!」
「いいわよ」
「ふぅ〜」
桃百が白いベンチに腰かけ、深いため息をつく。
「大丈夫ですか?」
「うん。だいぶ落ち着いてきた。ありがと」
「桃百、お待たせ。カルピスにしたけどよかった?」
「ちょうどカルピス飲みたいなって思ってた!よくわかったわね」
「なんとなくだよ」
「桃百さん、顔が青白かったから温かいものがいいのかと思ってました」
「外は暑いからね。冷たいカルピスが一番」
桃百がカルピスをおいしそうにちゅーっと吸い上げる。
「ふふ、よかった。はい、舞白の分もカルピスにしたけどよかった?」
「はい!ありがとうございます」
舞白が碧からカルピスを受け取り、ストローに口をつける。
「いやぁ、お化け屋敷楽しかったねぇ」
碧がニコニコして言う。
「何それ、私への当てつけ?」
「桃百がいたおかげで楽しかったんだよ」
「全然嬉しくないから」
「俺も楽しかったです。こんなおもしろいリアクションする人、初めて見ました」
「だから嬉しくないってば」
「まぁまぁ、しばらく休憩しようよ」
「そうね。碧は自分の分、何買ったの?」
「俺はアイスティーだよ」
「ほんと紅茶好きよね」
「コーヒーも好きだよ」
碧と桃百の声が被る。
「んふ、言うと思った。私が『紅茶好きよね』って言うと、毎回『コーヒーも好きだよ』って言うのよね」
「予測されちゃったなぁ」
その様子を見ていた舞白が目を瞬く。
「すごい。二人は息ぴったりですね」
「そう?まぁ普段からよく喋ってるからね」
桃百が涼しい顔で言う。
「ねぇ、碧」
「なに?」
「ずっと言おうと思ってたの。以前の私は、自分の承認欲求に囚われてた。ロリータ服の数とか、フォロワーの数とかばっかり気にしてた。でも、碧が『桃百はロリータを広めたいっていうのが一番深いところにあるんじゃないかな』って言ってくれたでしょ?あれで私、自分の本当の気持ちに気づけたの」
桃百がカルピスを飲む。そして、碧の方を向く。
「だから、ありがとう」
桃百がまっすぐに碧を見つめ、照れくさそうに言う。碧が静かに笑い返す。
「よかった」
「……あの、なんか俺お邪魔ですかね?」
舞白が二人をおずおずと見ながら聞く。
「全然そんなことないわよ!ごめんね、いきなりこんな話」
桃百がわたわたと手を振る。桃百の慌てた様子に舞白と碧が笑う。
「水斗って意外と怖がりなんだね。レインボーハウスで話してるときは『余裕、余裕』って言ってたのに」
「そんなことねぇわ。つーか、いきなり飛び出してくるのは全人類ビビるだろ。あれビビらないやつは逆にヤバいぞ。何かが不足してる」
「たしかに。本当の命の危機のときに対応できなさそう」
「だろ?なぁそれ、うまい?」
「ラテ?おいしいよ。飲む?」
「うん」
紫月が差し出したラテのストローだけ摘んで、水斗がラテをもらう。
「うま。ありがと」
「私もそっち飲みたい」
「ん、どーぞ」
今度は水斗が持っているソーダのストローを紫月が摘む。
「ありがと。おいしいね。でも水斗が炭酸飲んでるの初めて見た」
「まぁ普段は健康管理してるからな。今日は特別。てか、紫月がラテ飲んでるのも初めて見た」
「え、そう?私はよく飲むよ。でもたしかに水斗の前ではあまり飲まないかも。思えば私たち、二人で出かけたことなくない?」
「あ、たしかに」
「ね」
「今度どっか行く?」
「行く」
紫月が即答する。
「どこがいい?」
「映画行きたい。水斗が観たいのを観たい」
「俺は紫月が観たいのを観たい」
「えー」
二人が笑う。
「じゃあせーので観たいやつ言おうよ。せーの」
二人はそれぞれ別の映画名を挙げる。
「被んねーのかよ!」
水斗の言葉に紫月が笑う。
ここで画面はナビゲーターに切り替わる。
「ジェニュー第十一話はここまでです」
「え!もう終わったんですか?なんか早かったな〜」とめるぽ。
「ゆずれんの絡みをもっと見たかったですよね」と佐山。
「見たかったね〜。柚黄さんの好きな食べ物知りたかったわ〜」と神谷。
「ほんとですか?」とめるぽが笑う。
「翠蓮さんが勇気出して『私が話したいのは柚黄だよ』って言ったの感動しました!」とめるぽ。
「あれよかったですよね〜。柚黄さんも『そうなの?嬉しい!』ってカラッとしてて」と佐山。
「でもなんかカラッとしすぎちゃう?あれ見て俺は柚黄さんは翠蓮さん相手に全然緊張してへんように見えたわ」と神谷。
「緊張しないのはいいことなんじゃないですか?」と佐山。
「でも全く緊張しないのは、恋愛対象として見られてない気がして落ち込むかも」とめるぽ。
「せやろ?俺もそう思った。柚黄さんは誰のこと好きなんやろな〜」と神谷。
「しみずはもうゴールイン直前じゃないですか?だって積極的に間接キスしてましたよ」と佐山。
「たしかに!紫月さんの方からも水斗さんのドリンク飲みに行ってたから、もう両思い確定な気がするな〜。すっごくいい雰囲気だし」とめるぽ。
「最後もよかったよな。『被らへんのかい!』ってな」と神谷。
「あおももしろがどうなるのかも気になりますね。碧さんは桃百さんのことどう思ってるんだろう!」とめるぽ。
「フラワーランド編で碧さんの気持ちを聞けるかと思ってましたけど、聞けませんでしたね」と佐山。
「でも桃百さんがいいこと言ってたよね。『承認欲求に囚われてた私に、本来の気持ちを気づかせてくれてありがとう』って」と神谷。
「あれはよかったですね〜」とめるぽが頷く。
‼️「よかった」と「よかった」はどっちがいい?‼️
「俺は舞白さんが誰を好きなのか気になります!桃百さんなのか、違う人なのか」と佐山。
「舞白さんは『桃百さんとお化け屋敷入りたい』って言ってたけど、もしかしたら碧さんがいるからこそ、そう言ったのかもしれませんしね」とめるぽ。
「え!あおしろってこと?」と神谷。
「その可能性もありませんか?」とめるぽが二人の顔を交互に見る。
「あるかも」と神谷と佐山の声が被ったので、めるぽが笑う。
「みなさんの考察もSNSで聞かせてください。それではジェニュー、また来週〜!」
三人が視聴者に向かって手を振る。
リサはパソコンを閉じた。
(しみずはほぼ確定だな。あとはあおももしろがどうなるのか気になるところだな)
リサはSNSを開く。
「俺は舞白さんは桃百さんが好きだと思う」
「私は碧さんと桃百さんが両思いに見える!桃百さんが飲みたいものをぴったり当てるとか流石すぎた」
「柚黄さんの好きな人が気になり過ぎるんだが」
「しみずは結婚しろ」
「しみずのデート見れる感じ?」
リサはSNSを閉じた。
(しみずは何の映画観るんだろうな。水斗さんは無理に相手に合わせることはしないって言ってた気がする。あれ?でもそれならなんで今回は「紫月が観たいものを観たい」って言ったんだろう?本気で好きになると辻褄が合わなくなるからかな?)
「こんにちは!ジェンダーニュートラル、第十二話です!」
今回も神谷の挨拶で始まる。
「前回はフラワーランド後編でしたね」とめるぽ。
「柚黄さんが自分はゲイであることをさらっと翠蓮さんに伝えてましたね。そして睡蓮さんはヘテロで性自認は女性と言っていました」と佐山。
「恋愛で進んだペアはと言うと、しみずがラブラブでしたね。お互いの飲み物を飲んだりね」と神谷。
「映画に行く約束もしてましたよ!観たい作品は被ってなかったみたいですが」とめるぽ。
「桃百さんが承認欲求について話してたのも印象的でしたね」と佐山。
「そうやね。桃百さんは碧さんのおかげで自分の目的を見据えられた感じやね」と神谷。
「そうですね。私はこの二人からは特別な絆を感じてます。舞白さんの気持ちも気になるところですね」とめるぽ。
「それでは第十二話をお楽しみください」
神谷が手を振り、画面が切り替わった。
「おはよ」
筋トレルームで先にストレッチをしていた紫月に水斗が声をかける。
「おはよ。今日ちょっとだけ遅かったね」
「久々に二度寝しちゃった」
水斗が苦笑いをする。
「ふふ、まぁたまにはいいんじゃない?」
「いや、大会近いし気を引き締めないとな」
「あぁ、前に言ってたね。チームで優勝目指してるんでしょ?がんばってね」
「うん、ありがと」
「この時期に映画行ってて大丈夫なの?」
「うん。一日なら平気。個人的には楽しみにしてるし」
「私もだよ」
紫月が水斗に微笑みかける。
「柚黄、一緒にお酒飲まない?」
「いいわね。明日は休みだし、飲みたい気分だったのよ」
「俺、何か作るよ。何系がいい?」
「あら、いいの?じゃあオレンジジュース使ったドリンク作ってほしいわ」
「いいよ。待っててね」
「横で見ててもいい?」
「うん。もちろん」
碧が作ったカクテルを持って、二人がリビングのソファに腰かける。ここからは控えめにライトアップされた庭が見える。夜空にはぽっかりと満月が浮かんでいた。二人は静かにグラスを合わせ、カクテルを口に運ぶ。
「おいしい。さすが碧ね」
「よかった」
碧が柚黄を見て微笑み、庭の方を見る。二人は庭を見つめたまま話す。
「はぁ。やっぱり休日前夜って好きだわ。心からリラックスできる」
「そうだね。俺も明日は休みだから寛ぐなぁ」
「明日は予定あるの?」
「舞白と水族館に行くよ」
「あら、そうなの。舞白って碧によく懐いてるわよね」
「俺が言うのもなんだけど、そうかもね」
「でも二人で水族館なんて期待しちゃうんじゃない?」
「そうなのかな……」
「碧は舞白のこと、どう思ってるのか聞いてもいい?」
「うん。俺は、正直に言うともう気持ちは固まってるんだ。そして、その相手は舞白じゃない」
「あら、そうなの」
柚黄が庭を見つめたまま沈黙する。
「まぁ、全員が幸せになるのは難しいものね」
「そうだね。俺たち元々七人だしね。どんなに上手くいっても、誰かひとりは失恋することになるよね」
「そうね。多数性愛者はいないみたいだしね」
「柚黄はどんな様子なの?」
「私ねぇ」
柚黄がカクテルをひと口飲む。
「私、今までは男性しか好きになったことなかったの。でも、今気になってるのは女性なのよ」
「そうなんだ。もしかして、紫月?」
「あら、よくわかったわね。ここにいる人たちは、もちろんみんな懸命に生きてるんだけど、紫月は特に自分の殻を破ろうと必死なように見えるの。それを見てると、そばにいて、支えられたらって思うのよね」
「柚黄が紫月を見つめる目は、少し切なそうで、それでいて紫月と水斗のことを温かく見守っているように見える」
「なんだか照れるわね」
「柚黄は自分の気持ちより、好きな人の気持ちを優先するタイプなの?」
「そうみたい。好きな人が幸せなら、それでいいわ」
「でも、自分の幸せはどうするの?」
柚黄が虚をつかれたような顔をする。しばらく沈黙した後、口を開く。
「自分のことも、幸せにしてあげなきゃね」
「応援してるよ。俺にできることは限られてるけど」
「ありがとう。気持ちがすごく嬉しいわ。私も碧のこと、応援してるわよ」
「ありがとう。最終的には自分の気持ちを相手に伝えるつもりだから、がんばるよ」
「うん。がんばってね」
「今日は付き合ってくれてありがとうございます」
水族館内のカフェで舞白が碧に言う。
「いえいえ。水族館は久しぶりに来たけど、楽しいね。陸の上の動物たちとは姿形が違うから、見てるだけでおもしろい」
「そうですね。俺も癒されました」
碧がサメスムージーをひと口飲んで口を開く。
「俺、正直に言うと最初の方は、舞白って少し感情が読み取りにくいなって思ってたんだ。でも、一緒にいる時間が長くなればなるほど、舞白が今どんな感情なのか何となくわかるようになってきた」
「え、すごいですね。俺、友達からも『表情変わりにくくてわかりにくい』ってよく言われるんです。碧さんは俺の気持ち、わかるんですね」
「もちろん百パーセントではないけどね」
「俺、碧さんといるときが一番落ち着きます」
「そうなの?」
「はい。初めて二人でカフェに行ったとき、無理に敬語外さなくていいよって言ってくれたじゃないですか。あのときすごくホッとしたんです」
「そうだったんだ」
「それ以降も、いろんな人と二人で出かけてみたけど、やっぱり碧さんが一番しっくりくるなって思ってます」
「嬉しいな」
舞白がクラゲジュースを飲み、碧に尋ねる。
「碧さんは、俺と過ごしてるとき、どんな気持ちなんですか?」
「俺?俺は……」
碧が考え込む。舞白は碧を見つめたまま、答えを待つ。
「俺も舞白と一緒にいると落ち着くよ。それに、舞白は俺とふたりきりのとき、よく喋るでしょ?それも嬉しいよ」
「えっ。あ、たしかに俺、碧さんといるときが一番喋るかも」
「ふふ。まぁ桃百とも仲良さそうに見えるけどね」
「そうですね。桃百さんはおもしろい人ですよね。感情表現が豊かなところとか、お化け屋敷でガチで怖がるところとか」
「ね!あんなに叫ぶ人は初めて見たよ。足もガクガクでさ、全然前に進めないの。また桃百とお化け屋敷行きたいなぁ」
舞白がちょっと寂しそうな顔をする。しかしその表情はすぐに引っ込める。
「いいですね。桃百さんとも二人で出かけてるんですよね?」
「うん。買い物とかカフェとかね。あ、そうだ。今度桃百とアフヌン行くから、舞白のことも誘っておいてって言われてたんだった。舞白も行くでしょ?」
「いいですね。行きたいです」
「ロリータ服で行くとめっちゃ映えるらしいよ。白を基調としたインテリアだけど、壁はピンクなんだって。それとティーカップをどれにするか選べるらしいよ」
「素敵ですね。俺もロリータで行こうかな」
「いいじゃん!舞白、ロリータ似合うもんね」
「ありがとうございます。碧さんはロリータ着てみたいとかないんですか?」
「うーん、正直ないね。俺は今みたいな格好が一番落ち着くから」
今日の碧は白シャツに黒いスキニーを履いている。碧はいつもシンプルな服を着ることが多く、色はモノトーンが好みだ。
「俺は碧さんのロリータも見てみたいですけどね。碧さんは甘いのよりゴスロリとかの方が似合いそう」
「ゴスロリかぁ。似合う自信ないなぁ」
「まぁ碧さんが嫌ならいいですけどね。無理に着るものではないですし」
「うん。気が向いたらね」
「それ絶対気が向かないやつですよね」
「あ、バレた?」
碧がふふ、と笑う。舞白もつられて笑う。
ここで画面はナビゲーターに切り替わる。
「ジェニュー第十二話はここまでです」
「うわ〜!これ碧さんは桃百さんが好きな感じですよね?」とめるぽが興奮気味に二人に同意を求める。
「そうなんかなぁ?まぁ今までの感じを見るとそうよね」と神谷。
「もう確定だと思いますよ。だって桃百さんの話になった途端、饒舌でしたし。『また一緒にお化け屋敷行きたいな』って言ってましたし!」とめるぽ。
「僕的には、碧さんがそれを言ったとき、舞白さんが寂しそうな顔をしたのが切なかったです」と佐山。
「舞白さんはよく『感情がわかりにくい』って言われるらしいけど、あの瞬間は視聴者全員わかったやろな」と神谷。
「『あ、俺はそこにはいれないんだろうな』って思ってる感じが伝わってきて苦しかったですね」とめるぽ。
「まぁでも柚黄さんが言った通り、全員がハッピーエンドを迎えることは難しいもんね」と神谷。
「柚黄さんと碧さんがふたりきりでお酒飲んでるシーン、すごく雰囲気いいなって思ったの僕だけですか?」と佐山。
「あれはよかったよね〜。しっとり大人の落ち着きを感じるシーンやったね」と神谷。
‼️「よかった」→「よかった」
「柚黄さんが紫月さんに惹かれてること、全然気づかなかったな」とめるぽ。
「あまりフィーチャーされてないペアだったもんね。でも近くで見てた碧さんは気づいてたんやね」と神谷。
「しみずは今回もよかったですよね。紫月さんが水斗さんに『私も楽しみにしてるよ』って微笑むシーン最高でした」と佐山。
「あれは可愛かった!」とめるぽ。
「しみずは確定やと思ってたけど、柚黄さんの気持ちを思うと複雑やね」と神谷。
「整理すると、しみずはいい感じで、紫月さんのことを柚黄さんが好きで、柚黄さんのことを翠蓮さんが好きなんですよね。ここ、四角関係ですね」とめるぽ。
「あ!そうや。翠蓮さんもいるから四角関係や。複雑やな〜」と神谷。
「そしてどうやら桃百さんと碧さんが両思いで、舞白さんは碧さんが好きっぽいですよね。ここは三角関係ですね」と佐山。
「恋愛番組になってきたやん!」と神谷が喜ぶ。
「ほんと。神谷さん『早く恋愛が見たい』ってずっと言ってましたもんね」とめるぽが笑う。
「ほんとよ。これこれ〜!」
神谷の言葉に二人が笑う。
「それではジェニュー第十二話はここまでです。さよなら〜」
三人が視聴者に向かって手を振る。
リサはパソコンを閉じた。
(おぉ〜!舞白さんは碧さんに矢印向いてるっぽいな。碧さんの前では饒舌になるのとか可愛いな。でも碧さんに「俺の前だと饒舌だね」って言われた後で、碧さんが桃百さんの話になると饒舌になるの見たら、メンタルやられそうだな……。舞白さん、大丈夫かな?それと柚黄さんは紫月さんが気になってたなんて、全然気づかなかったな。まぁあまりフィーチャーされてないペアだったもんな)
リサはSNSを開く。
「ゆずしづの可能性ある!?でも紫月さんは水斗さん好きっぽいしなー」
「あおもも尊い。でも舞白さんの気持ちを思うと……」
「『でも、自分の幸せはどうするの?』が刺さったわ〜。柚黄さん、どうか自分のことも大事にしてください」
リサはSNSを閉じた。
「こんにちは!ジェンダーニュートラル、第十三話です!」
今回も神谷の挨拶で始まる。
「前回は、柚黄さんが紫月さんのことを好きだと、碧さんに明かしていましたね」とめるぽ。
「ですね!ゆずしづの絡みって今まであまり放映されていなかったので、意外でした」と佐山。
「あれは俺も驚いたわ。でもしみずはラブラブやったしな〜。割って入っていける隙はあるんやろか」と神谷。
「そして、ももあおしろに三角関係疑惑が浮上しました」と佐山。
「桃百さんが碧さんを好きなのは確定で、私たちの予想だと碧さんは桃百さんを好きで、舞白さんは碧さんを好きに見えるんですよね」とめるぽ。
「ややこしくなってきたけど、おもろなってきたで〜」と神谷。
「そうですね!しかももう一方では、翠蓮さんが柚黄さんを、柚黄さんが紫月さんを好きと判明しています。その紫月さんは水斗さんといい感じみたいですし」とめるぽ。
「三角関係と四角関係なわけですね。切ないシーンが増えそうだな〜」と佐山。
「それではジェニュー第十三話です。どうぞ」
神谷が手を振り、画面が切り替わった。
インテリアは白を基調とし、壁はピンクに塗られたカフェ。アフタヌーンティーはもちろん、推し活に向いていることからも人気のお店に、碧、桃百、舞白が訪れる。桃百はたっぷりフリルがついたブラウスに、苺柄のパニエを履いている。舞白はレースがあしらわれた白のブラウスに、フリルとビジューがついたパニエを履いている。そして意外なことに、碧がゴスロリを着ていた。胸にリボンがあしらわれた黒のブラウスに、レースが美しいパニエを履いている。頭にはヘッドドレスをつけている。
「碧、ゴスロリ本当に似合ってるわよ!」
桃百が興奮気味に言う。
「ありがとう。二人が選んでくれたおかげだよ。正直、かなり落ち着かないけどね」
碧が困ったように笑う。
「ロリータのレンタル店ってあんな感じなんですね。所狭しとボンネットとかヘッドドレスが並んでて壮観でした」
舞白が先ほど三人で訪れたロリータファッションのレンタル店を思い出しながら言う。
「そうね。ロリータ服の数も100着だから、迷っちゃうわよね」
桃百の言葉に舞白が頷く。
「今日の二人、お姫様みたいだよ。可愛い」
碧が爽やかな笑顔で二人を褒める。
「あら、私はいつだってお姫様よ」
桃百が得意そうにフフンと鼻を鳴らす。その様子に舞白が笑う。
「碧さんも素敵ですよ。いつものかっこいい服も似合ってますけど、顔が整ってるからゴスロリも似合います。肌も白いし」
「ありがとう」
舞白の言葉に碧が微笑む。
「ねぇ、最初に一枚、写真撮っておきましょうよ」
「いいですね。どんなポーズで撮りますか?」
「ちゃんと用意してきてるのよ。ほら、これ」
桃百がバッグから三体のくまのぬいぐるみを取り出す。
「どうりで今日、荷物が多かったわけだ」
碧が合点がいったというように頷く。
「このぬいで顔隠してるのと、顔の横にぬいを持ってくるのと、三人でぬいをテーブルの中央に寄せてるのを撮るわよ!」
「桃百、張り切ってるねぇ」
「当然よ!なにせ今回は碧もロリータ着てくれるって話だったからね!さっ、撮りましょ!」
三人は撮影会を始めた。
「おもしろかったね」
映画館を出てすぐ、紫月が水斗に言う。
「うん。おもしろかった。後でカフェで語ろうぜ」
「いいよ。この後すぐ行こっか」
「うん」
二人はチェーンのカフェに入り、映画の感想を話し合った。
「水斗とは感じ方が似てるのかも。意外だな」
「え、意外なん?俺は俺ら似てると思ってたけど」
「え、そうなの?知らなかった」
「言ってなかったからか」
「うん。水斗って他の人ともよく出かけてるよね?」
「レインボーハウスの人ってことなら、最近あんま出かけてないかな。この前は翠蓮と柚黄と一緒に買い物行ったけどな」
「へぇ、そのメンツで行ったんだ」
「うん。でも翠蓮と柚黄がなんか距離近くてさ、俺ちょっとアウェイみたいな」
「え、そうなの?水斗がアウェイになるの想像できないけど」
「いやー、あの二人絶対何かあったと思う。前からあんなんじゃなかったし」
「水斗って意外とそういうの聡いもんね」
「意外とって失礼だな。俺はいつでも聡いぞ」
水斗も本当に気を悪くしたわけではなく、二人でじゃれあっているようだ。
「俺はお化け屋敷で距離が縮まったと見てる」
「なるほど。あの二人ペアだったもんね。しかもあの組み合わせにしたのって柚黄だったよね?」
「あ、そういえばそうだ。柚黄、翠蓮のこと気になってるんかな?」
「どうだろうね。翠蓮と最近恋バナしてないし、してみようかな」
「ん、いいかもな。俺は勝手にそれを聞くのは悪いから、聞きたくなったら自分で聞くよ」
「うん。わかった」
「紫月さんはどうなんですか?」
「え?私?」
「気になる人いんの?」
「え、そりゃあ、いるでしょ」
「そりゃあって」
水斗が笑う。
「目の前にいるけど?」
「え」
紫月の言葉に水斗が驚く。
「何?気づいてなかったの?」
「いや、うっすらそうかな?とは思ってたけどさ」
「ふーん」
紫月が下を向く。
「俺も気になってるよ」
「え」
紫月が顔を上げる。水斗の耳が少し赤く染まっていた。
「柚黄さん、一緒に例のソーダ飲みませんか?」
夕食と入浴を終えた舞白が、リビングのソファで寛いでいた柚黄に声をかける。
「碧がお店でもらったっていうソーダね。いいわよ。一緒に準備しましょ」
青いビンの蓋を柚黄が開け、中のソーダをグラスに注ぐ。二人はリビングのソファに座ると、グラスを合わせて乾杯した。
「柚黄、俺、気になる人できた」
「あら、そうなの」
「うん。誰か、なんとなくわかるでしょ?」
「ええ」
「当ててみて」
柚黄はソーダをひと口飲む。
「バーテンダーの人でしょ」
「うん、そう。最近碧さんと桃百さんとアフヌン行ったんだけどさ、そのときに二人が仲良くしてるの見て、俺、どす黒い感情になっちゃったんだ」
「どんな感情?」
「碧さんが、俺だけ見ててくれたらいいのにな、って」
「舞白にとって、これは初恋なの?」
「うん。そうだよ」
「そう。恋をしてるときにどす黒い感情になっちゃう人はたくさんいるわよ。私だって経験あるし、これから先またそういう感情を経験するかもしれないし。だから、その感情になってしまうこと自体は気にする必要ないと思うわ」
柚黄の方をじっと見て話を聞いていた舞白は、ちょっと意外そうな顔をした。
「そうなんだ。多くの人が経験することなの?」
「ええ。そうよ」
「そっか……。なら、よかった」
「舞白にとっては初めて抱く思いなのに、私に話してくれてありがとうね」
「ううん。むしろ、誰かに話してしまいたかったんだと思う。ひとりでは、抱えきれないから」
「そう」
柚黄は複雑な表情をしている。
「俺、アプローチした方がいいのかな?何をすればいいのかわからなくて」
「アプローチか。私もアプローチの仕方はよくわからないわね」
「そうなの?柚黄は経験豊富でしょ?」
「うーん、いつも自然の成り行きみたいに付き合うことが多いからね」
「え、それすごいね。告白もしないってこと?」
「そうね。『付き合う?』くらいは聞かれるかもしれないけど」
「そうなんだ……。なんか、大人だね」
「そうなのかしら?私の周りには中学生の頃からそんな感じの付き合い方をしてた人もいるわよ」
「えぇ、すごいな。ていうか、中学生で恋愛するのって早いよね。少なくとも俺は早いなぁって思う」
「そうねぇ。私は中学生くらいで自分がゲイであることを自覚したのよね。でも実際に男性と付き合えたのは、大学生になってからだったわ」
「そうなんだ。それまでにも、好きな人はできてはいたの?」
「ええ。初めて好きになったのは先生だったわ」
「学校の先生?」
「ええ。まぁ若い子が先生に憧れるのはよくあることだけど」
「あぁ、話ではよく聞くかも」
「そうでしょ。話逸らしちゃったけど、舞白はどんなアプローチをしようと思ってるの?」
「うーん。二人で出かけるとかかな。手を繋ぐとかは付き合ってからすることなイメージだし。俺にできることって意外と何もないな……。なんかネットで調べたら、『旅行に行ったとき、その人にだけ別のお土産を用意して特別感を演出』みたいなの出てきたけど、旅行は行く予定ないしな」
「旅行行くならたぶん全員で行くわよね」
「そうだね。ここにいる間はそうなるだろうね。ていうか、最終告白するかどうかは、当人次第なんだよね?柚黄は誰かに告白する予定なの?」
「今のところは予定ないわね」
「気になる人いないってこと?」
「ううん。いるけど、たぶんしないわ」
舞白がじっと柚黄の顔を見つめる。
「どうかした?」
「柚黄の好きな人って、俺?」
柚黄がブッと吹き出す。
「ふふふ、ごめんなさいね。笑うとこじゃないわよね。でも、舞白があまりにも直球だったから、ついね」
柚黄が口を手で抑えながら笑う。
「勘違いだったんだね。ごめん」
「ううん。いいのよ。なんでそう思ったの?」
「柚黄は自分をゲイって言ってて、生物学的に男性なのは俺と水斗だから、そのどっちかかなって」
「ああ、そういうこと」
柚黄は庭を見やる。
「私の好きな人ね、女性なのよ」
「え?そうなの?」
「うん。私、バイなのかも」
「そうなんだ。女性を好きになったのは初めて?」
「ええ。初めてよ」
「そっか。俺じゃ力になれないかもしれないけど、俺は柚黄のこと応援するよ」
「ありがとうね」
ここで画面はナビゲーターに切り替わる。
「うわ〜!」
三人の声が被る。
「なんかイベント詰め詰めの回でしたね!」とめるぽ。
「しみずは両思い確定しましたね」と佐山。
「いや、あれは最終告白まで取っといておかなあかんで」
神谷の言葉に二人が笑う。
「まぁ番組的にはそうですけど、話の流れですから仕方ないですよ」とめるぽが取り持つ。
「でもしみずが両思いってなってくると、柚黄さんは辛い立ち位置ですよね。紫月さんを好きなわけですから」と佐山。
「そうですよね。しかも柚黄さん今回『最終告白はしないつもり』って言ってましたよね」とめるぽ。
「やっぱり好きな人の幸せを最優先にしてしまうんやろな」と神谷。
「そして舞白さんが柚黄さんに『碧さんが気になってる』と言っていました。でも柚黄さんは碧さんから『舞白さんは好きな人じゃない』って聞いてるわけですから、複雑な気持ちだったでしょうね」と佐山。
「辛いですよね。でも柚黄さん、先に話してくれた碧さんには『応援するよ』って言ってましたけど、舞白さんには『応援するよ』って言わなかったんですよ。それ見て私は誠実だなって思いました」とめるぽ。
「たしかにな。両方にいい顔するっていうことはしなかったんやな」と神谷。
「でも舞白さんは柚黄さんに『応援します』って言ってましたよね。柚黄さん複雑だっただろうな〜」と佐山。
「だーれもロリータ撮影会の話しいひんやん」
神谷の冗談に二人が笑う。
「だって、他が動きすぎてますもん」と佐山。
「でも、あのアフヌンをきっかけに舞白さんは自分の気持ちを自覚したんですよね。それなら意味のあるシーンだったんじゃないですか?」とめるぽ。
「たしかに。だから流したんか。俺は正直『このシーン流す必要ある?』って思ってしまったわ」と神谷。
「神谷さんバラエティ慣れしすぎて厳しくなってますよ」とめるぽが笑う。
「それではジェニュー第十三話はここまでです。また来週〜!」
神谷が手を振り、画面が切り替わった。
リサはパソコンを閉じた。
(今回も大きく動いたな〜。しみずが両思い確定して、舞白さんは碧さんが好きだと判明した。柚黄さんと翠蓮さんの動きが気になるところだな)
リサはSNSを開く。
「しみず両思い確定おめでとう!」
「柚黄さん、いろんな意味でつらー」
「こっからあおしろになることを俺は信じる」
「あおももの絡みもっと見たい」
「てか碧さんのゴスロリ可愛すぎた」
「イケメン女子って美人にもなりうるから怖いよな」
(たしかに碧さんのゴスロリは衝撃だったけど可愛かったな〜!)
リサはSNSを閉じた。
「こんにちは!ジェンダーニュートラル、第十四話です!」
今回も神谷の挨拶で始まる。
「次回が最終回ですよね。長かったような短かったような、不思議な感覚です」とめるぽ。
「前回はしみずが両思いであることが発覚しました。紫月さんに『俺も気になってるよ』って言ったときの水斗さんの耳が赤く染まっていたことがSNSでもよく話題に上がってましたね」と佐山。
「あれは可愛かったよな〜」と神谷。
「そして舞白さんは柚黄さんに『碧さんのことが好き』って明かしてましたね」とめるぽ。
「舞白さんが『柚黄の好きな人って俺?』って大真面目に聞いたのがおもしろかったです。まぁ我々は柚黄さんが紫月さんのことを好きだと知ってるからこそ笑えたのかもしれませんが」と佐山。
「あれはジェニューのハイライトに使われそうなシーンやったね」と神谷。
「結局、碧さんが桃百さんを好きなのかはまだ明言されてませんよね。まぁ私は絶対そうだろうと思ってますけど。碧さんは桃百さんといるときが一番楽しそうに見えますから」とめるぽ。
「いや、ここからあおゆずになるかもしれませんよ?あの二人が話してるときの空気、すごくいい感じでしたし」と佐山。
「あおゆずはない気がすんねんな〜。柚黄さんと話してるときの碧さんは、すごくリラックスはしてるみたいやったけど、恋してるって感じではなかったと俺は思う」と神谷。
「そうですね。碧さんも柚黄さんの恋愛を応援するって言ってましたし」とめるぽ。
「え〜、俺はあのペア結構好きなんだけどな〜。友達としてでもいいから、番組が終わってからも付き合いを続けてほしい」と佐山。
「まぁそれは碧さんが誰に告白するか次第やな」と神谷。
「そうですね。恋人が『柚黄さんとはあまり会わないでほしい』って言うようなら、疎遠になるかも。まぁレインボーハウスの人はそういうの寛容そうですけどね」とめるぽ。
「わからんで。意外と嫉妬深い一面を持った人がおるかもしらんしな」と神谷。
「それじゃ、早くVTRいきましょう!」
「そうやね。それではジェニュー第十四話です。どうぞ」
神谷が手を振り、画面が切り替わった。
「わぁ、おいしそう!」
生クリームが盛られ、ベリーで彩られたパンケーキを見つめ、翠蓮が言う。
「おいしそうだね。俺が取り分けるよ」
碧が器用にパンケーキを当分する。今日は二人で海辺のカフェに来ている。
「今日は翠蓮に報告があるんだ」
「報告?なんだろう」
「俺、気になる人ができたら教えるって言ってたよね」
「え!できたの?」
「うん。その人はここ数ヶ月ですごく成長した人で、だけど子供っぽくて無邪気な側面もある、おもしろい人なんだ」
「ふふ、あの人のことだね」
「すぐ伝わったね」
「うん!そんな気がしてたよ。あの人といるときの碧は、すごく自然体に見える。それでいてワクワクしてるような」
「そうなんだ。なんか客観的に言われると恥ずかしいな」
「素敵なことだと思うよ」
「ありがとう。翠蓮の方はどんな様子?」
「私は最近、柚黄と水斗と買い物に行ったよ。そのときは柚黄が私の服とかアクセサリーとかを真剣に選んでくれて嬉しかった!柚黄の好みも知れたし」
「そうなんだ。楽しそうで何よりだよ」
「うん。でも柚黄が楽しんでくれてたかどうかは自信がないな」
「きっと楽しかったと思うよ」
「柚黄はいつもニコニコしてるから、逆にどんなときが一番楽しいのかわかりにくいかも」
「それはあるかもね。社交的だし」
「もうすぐ最終告白だけど、まだ伝えるか迷ってるの」
「そうなの?俺は翠蓮のタイミングで言えばいいと思うよ」
「そうだね。これが終わっても会っていいらしいし」
「うん。俺もみんなとこれからも会いたい」
「柚黄」
「翠蓮。どうしたの?」
「い、一緒にお酒飲まない?」
「いいわよ。注ぎに行きましょうか」
翠蓮と柚黄は缶チューハイをグラスに注いだ。
「翠蓮はお酒飲むときはいつも私の休日の前夜に誘ってくれるわよね。気遣ってくれてありがとうね」
「ううん!そんな。私がゆっくり飲みたいっていうのもあるから」
「そう。今日はどんなことがあったの?」
「今日はね……」
二人はお互いを見たり庭を見たりしながら、しばらく話した。
「もうすぐここでの暮らしも終わるね。寂しいな」
翠蓮がぽつりと言う。
「そうね。でもこれが終わっても連絡取り合っていいんだからよかったわよね。これからも会いたいもの」
「うん!そうだね。もうすぐ最終告白だけど、柚黄はする予定あるの?」
「私はしないと思う」
「えっ、そうなの?」
「うん。その人、今は他の人といい感じだから、邪魔したくないの」
「そうなんだ……」
翠蓮が俯く。
「ふふ、どうして翠蓮がガッカリしてるのよ」
「柚黄に、幸せになってほしいからだよ」
翠蓮が真剣な目を柚黄に向ける。柚黄は黙って翠蓮の方を見て、庭の方に目を移す。
「うん……。でも、みんなが幸せにってわけにはいかないからね」
「それはそうだけど」
翠蓮が次の言葉を探して目を泳がせる。でも結局見つからなかったようだ。
「うわ、すごい!」
水斗と紫月はフォトジェニックさで話題のスポットへ来ていた。今二人が入った部屋では、四面が鏡でできており、天井から無数の薔薇が吊るされている。
「薔薇はフェイクみたいだね。だけど綺麗だなぁ」
紫月が感嘆の声を漏らす。水斗が嬉しそうに紫月の方を見ている。その後も床一面が向日葵で埋め尽くされた部屋、空間全体がコスモスで埋め尽くされた部屋などを観覧していく。最後のスクリーンで雪が降る様子を表している部屋で二人は座り込み、話す。
「紫月、こういうの好きだったんだな。一緒に来れてよかった」
「うん。好きだよ。私は冷たく見られることが多くて、好奇心も少なめなのかなって思われることが多いんだけど、実は好奇心旺盛なんだよね」
「そうだな。紫月の好奇心は序盤からびしびし感じてた」
「びしびし?」
紫月が笑う。
「ひしひし、じゃなくて?」
「ひしひしより強く感じてたんだって!」
二人が笑い合う。
「私も水斗とここに来れてよかった」
「これからも二人でいろんなところ行って、いろんなもの見ような」
「うん。いつか旅行も行きたいね」
「そうだな」
「見てみて!薔薇のゲートがある!」
美しい紅の薔薇で造られたゲートを前に、桃百が飛び跳ねる。今日は白のブラウスに、ピンクのパニエを履いている。パニエには近くで見たらわかるくらいに薔薇の模様があしらわれていた。
「写真撮ります?」
舞白が聞く。舞白は白いワンピース姿だった。クラシカルなロリータ服だ。
「これで撮って!」
桃百がバッグからごついカメラを取り出す。最近、YouTubeやインスタの撮影用に良いカメラを購入したのだ。
「えっと、どうやるんだっけ」
舞白がまごついていると、後ろから碧が顔を覗かせる。
「俺がやるよ。舞白も後で写真に入っておいで」
「ありがとうございます」
碧がカメラを構える。桃百のソロショットを撮り、続いて桃百と舞白のツーショットを撮った。
「碧も入りましょうよ!」
「あ、じゃあ俺が撮りますよ。さっき碧さんのやり方見てたのでわかりますし」
「ありがとう」
舞白が桃百と碧のツーショットを撮る。桃百が碧の腕に自分の腕を絡める。舞白の表情が少し硬くなる。
「次は二人を撮ってあげる!」
桃百が舞白からカメラを受け取る。舞白は碧の隣に立ち、碧の方に手を伸ばす。しかし、結局その手はどこにも触れることなく宙を彷徨い、背中に仕舞い込まれた。
「はい、チーズ」
薔薇園にシャッター音が響いた。
ここで画面はナビゲーターに切り替わる。
「はい!ジェニュー第十四話はここまでです!」
「うわー……最後のしんどいな」
めるぽが天を仰ぐ。
「桃百さんと碧さんが密着してて、舞白さんが悲しそうな顔してましたね。そして自分の番になったときも、碧さんに触れることはできなかった」と佐山。
「しかも碧さんが翠蓮さんに言ってた好きな人って、ほぼ確定で桃百さんやんな」と神谷。
「あおももが両思いなのは尊いんですけどね〜。舞白さんの気持ちを思うと辛いですよね」とめるぽ。
「まぁ柚黄さんも度々言ってるように、みんなが幸せになるのは無理やからなぁ」と神谷。
「翠蓮さんが勇気を出して柚黄さんを誘ってましたけど、その柚黄さんは他に好きな人がいるってことを仄めかしてましたね」と佐山。
「せやな。翠蓮ちゃんも誰のことかわかったかもしれんよな」と神谷。
「待ってください。翠蓮さんは柚黄さんがゲイだと思ってるから、もしかしたら『柚黄さんは水斗さんを好きなのかな?』って思ってるかもしれませんよね?」とめるぽ。
「あ〜、そうか!ゲイってことは聞いてるけど、『今好きな人は女性』とは聞いてないもんな。たしかにそうやわ。誤解生んでるかもしれへんな」と神谷。
「しみずが平和なのがホッとしますよね。他が切ない展開になってきてるから」とめるぽ。
「せやな〜。あの2人はもう確定やもんな。どっちが告白するか楽しみやな」と神谷。
「え、水斗さんの方からいくんじゃないですか?」と佐山。
「他の番組と違っていろんな性別の方がいるという前提の元で進んできましたからね。どんな性別の人が告白するかは自由なんですよ」とめるぽ。
「あ、そっか。俺はなんとなく、告白は男性からすべきものだと思ってました。でもそれもある意味、性差別ですよね」と佐山。
「まぁ性差別っていうほど強い言葉は使わんでもええかもしれんけどな。でも佐山さんはこの番組を通して自分の思考の癖みたいなものにたくさん気づけてるよな」と神谷。
「これを見てる視聴者の方も、自分が知らず知らず築いていた『性別観』みたいなものに気づけているといいですね。佐山さんみたいに『告白は男性からすべき』みたいな性別観を抱いている人もいるかもしれませんし」とめるぽ。
「性別に対するイメージとか価値観は簡単には変えられないものやと思う。だから自分が偏った考え方をしてるなって気づいたとしても、あまり気に病む必要はないと思うわ」と神谷。
「そうですね。『自分にはこういう考え方の癖があるな』って知っておくだけでも、人と話す場面で役立ちますよね。『あまり偏見を押しつけないようにしよう』って心がけられますし」と佐山。
「そうやね。この番組は来週で最終回やけど、みなさんも考えたこととかあればいつでもSNSに書いてほしいです。それではまた来週〜」
三人が視聴者に向かって手を振る。
リサはパソコンを閉じた。
(最後メッセージ性が強かったなぁ。たしかに私もいろんなこと考えたな。男性の多くは女性を好きになると思ってたけど、女性の見た目をしてても生物学的に男性の場合もあるし、生物学的には女性だけど性自認は男性の人もいるし、性自認は女性だけどバイの人だっているし。あとアセクシュアルとかアロマンティックがあるってことも、この番組をきっかけに自分で調べて知ったんだよな。私は今まで、女子との会話に困ったらとりあえず恋バナをしておけば盛り上がると思ってたけど、恋バナ自体が負担に感じていた人も、もしかしたらいたのかもなぁ)
リサはSNSを開く。
「柚黄さんみたいに人生の途中で性的指向が変わる場合もあるんだな」
「あおもも確定したやん」
「私も告白は男性からするのが理想だと思ってたけど考えを改めようかな」
「普通の恋リアだと男性側と女性側がはっきり区別されてて、男女で恋愛するのが当たり前みたいな感じで進んでいくけど、ジェニューはそういうのがないからこそハマったのかも」
リサはSNSを閉じた。
「こんにちは!ジェンダーニュートラル、第十五話。最終回です!」
今回も神谷の挨拶で始まる。
「遂に最終回か〜」とめるぽ。
「今回は告白もあるので楽しみですね!すでにほぼカップル成立してる人たちもいますが」と佐山。
「前回は碧さんが翠蓮さんに『好きな人ができた』と伝えていましたね」とめるぽ。
「あの描写はほぼ確定であの人ですよね」と佐山。
「せやな。視聴者もみんなわかったやろな」と神谷。
「そして翠蓮さんが柚黄さんに『柚黄に幸せになってほしい』と真っ直ぐ伝えていたことも話題になっていました」と佐山。
「私もあれはかっこいいなと思いました。もちろん恋愛リアリティーショーだからこそ翠蓮さんもあそこまで言えたのかもしれません。だけどそれを鑑みても、やっぱり大切な人に大切に想ってるってことを伝えられるのって、尊いことだなと思いました」とめるぽ。
「そしてしみずがデートをしてました。あのペアがデート数最多らしいで」と神谷。
「たしかに一番デートシーン多かったですね。今回どちらから告白するのか楽しみですね」とめるぽ。
「なお、参加者には最終告白は6月25日から30日の間におこなうように頼んでいます」と佐山。
「それではジェニュー最終話です。どうぞ」
神谷が手を振り、画面が切り替わった。
水斗と紫月が海沿いの丘の上でピクニックをしている。周りには白や黄色の花々が咲いている。
「東京とは思えないほど、のどかだね」
「だな。紫月が作ってくれたたまごサンドめちゃうまい」
「よかった。水斗が作ってくれた唐揚げもすごくおいしいよ」
「うちの秘伝の味だからな」
「ふふっ。それしきりに言ってるよね。覚えたから私も秘伝の味使えるようになっちゃったよ?」
「紫月はいいんだよ。特別」
「特別?」
「うん」
「ふーん」
紫月がニヤケを抑えながら近くの花を見つめる。
「わぁ」
桃百、碧、舞白の三人は森の中にあるカフェに来ていた。カントリー調の家具で統一された店内を三人が見回す。メニューとお冷が運ばれてくる。
「後で写真撮りましょうね」
桃百がワクワクした様子で言う。今日は店に合わせて白を基調としたクラシカルなロリータに身を包んでいる。
「もちろんです!」と舞白が強く頷く。舞白も今日は上下真っ白だ。碧は白シャツにワインレッドの棒タイをつけ、黒いパンツを履いている。
「ここ、チーズケーキが有名なんですって」
桃百がメニュー表を指して言う。
「そうなんだ。桃百、チーズケーキ好きだから頼んでみたら?」
「そうなのよね〜。でも苺タルトもおいしそうなのよね。迷う〜!」
「なら俺が苺タルトにしようか?そしたら半分こできるよ」
「え!いいの?」
桃百が目を輝かせる。
「俺はガトーショコラにします」
舞白が言う。
「おっけ〜!店員さん呼ぶわね」
桃百が手を挙げた。
「柚黄さん、お酒飲みませんか」
リビングのソファで寛ぐ柚黄に、舞白が声をかける。
「いいわよ」
二人で缶チューハイをそのまま飲む。
「俺、桃百さんが苦手です」
舞白が両手で持った缶チューハイを握りしめる。
「そうなの」
「はい。桃百さんは魅力的な人だし、俺に優しくしてくれてるのもわかります。でも、それを差し引いても、話してて緊張します」
舞白がチューハイをがぶりと飲む。
「好きな人の、好きな人だから」
静かに舞白の言葉を聞いていた柚黄が口を開く。
「それでいいと思う」
「え?」
意外な言葉に舞白が驚く。
「好きな人の好きな人なんて、愛せないのが普通よ。だって恋敵なんだもの」
「普通、なんですかね」
「ええ。好きな人の好きな人まで愛せるのはよっぽどの人格者だけよ」
「そうなんですかね」
「うん。私だって愛せないわ」
「柚黄さんは人格者ですよ。謙遜しなくていいです」
「ありがと。でも私は水斗を愛せないわ」
柚黄の言葉に舞白が黙る。リビングに沈黙が広がる。
「そうなんですね」
舞白がやっとのことで沈黙を破る。
「ええ。でもそんな自分のことも好きでいてあげなきゃね」
柚黄がにこっと微笑む。舞白の表情が思わず緩む。
「柚黄さん、意外と小悪魔というか、メンタルが強いんですね」
「まぁね」
柚黄が胸を張ってみせたので、舞白が笑った。
「ありがとうございます。なかなか難しいことだけど、俺もこんな俺を好きになりたいです」
「うん。少しずつでいいのよ」
「はい。がんばります」
「ふふ。肩の力、抜いていきましょうね」
「……がんばります」
硬い表情の舞白に柚黄が思わず笑う。
最終告白をしていい5日間が始まった。初めに動いたのは水斗だった。紫月とプラネタリウムへ行き、外に出るともう暗くなっていた。街灯の灯りを頼りに海がすぐ隣にある道を歩く。
「紫月」
「うん?」
「俺さ」
「ちょっと待って」
「え?」
紫月が水斗の言葉を止める。
「私、自分から告白したことないの。だから、今回は私にさせて」
水斗がぽかんとした後、ふっと笑う。
「俺だって言いたいんだけど?」
「じゃあせーので言おうよ」
「小学生みたいだけど、いいよ」
「せーの」
二人が息を吸う。
「好き!」
二人の言葉が重なる。一瞬の沈黙の後、二人が笑い出す。
「丸被りするとは思わなかった」
「うん、私も。シンプルすぎるかなとも思ったけど、もういいや!って」
「初めての告白がそんなんでいいの?」
「いいの。楽しかったし」
「そりゃよかった」
水斗が微笑む。その瞳に映る恋人も、微笑み返していた。
二日目。碧と桃百はスポーツタウンのカフェのハンモック席に座っていた。ここは二人が初めてふたりきりで話した場所だ。
「あのときはまだ敬語だったわよね」
「そうだね。三ヶ月って長いような短いような、不思議な気分だな」
「私は短く感じたわ。楽しかったから」
「そうだね。みんなとたくさん会話できて、遊びにも行けて、楽しかった」
「アフヌンに碧がゴスロリで来てくれて嬉しかったわ」
「あれは照れくさかったな……」
碧がその日のことを思い出して苦笑する。
「そう?似合ってたわよ」
「ありがとう。桃百は、レインボーハウスでかっこいい人見つかった?」
「うん。今私の目の前にいる人」
「俺?」
「うん。見た目も好きだし、一緒にいて落ち着くところも好き。私の発信活動にヒントをくれたのも碧だった」
「お役に立てて光栄です」
「そういうのいいから!返事聞かせてよね」
「返事?今のって告白だったの?」
「当然でしょ!なんで碧がそれわからないのよ!」
「俺、桃百に恋愛対象として見られてるか不安だったんだ。ただのお兄さんポジションになってるのかもって」
「そんなことない。私は碧をただの友達って思ったことなんて一度もない」
「そうだったんだ」
「ええ。最初からいいなとは思ってたから」
「嬉しい」
碧が珍しく頰を赤く染めている。
「俺も桃百のことが好きだよ。桃百といるときの自分も好き。ずっと桃百と一緒にいたい」
「えっ」
桃百がキラキラした目で碧を見る。そして目を伏せる。
「……嬉しい」
両手で顔を隠しながら呟いた。
「柚黄」
上の階から降りてきた翠蓮が、リビングのソファにいた柚黄に声をかける。
「あら、翠蓮がこんなに遅くまで起きてるの珍しいわね。明日仕事お休みなの?」
「うん。お休みだよ。柚黄に話したいことがあって」
「そうなの。何かしら?」
「あのね。柚黄に好きな人がいることはちゃんとわかってるんだけど、それでも伝えたくて。私……」
翠蓮が柚黄を真っ直ぐに見つめる。
「私、柚黄が好きだよ。恋人になりたいっていう意味で、好き」
柚黄が息を呑む。
「あ!」
翠蓮が突然声を上げる。
「柚黄!たった今、六月三十日になったよ。お誕生日おめでとう!」
「ほんとだ。ありがとう」
柚黄が翠蓮に微笑みかける。
「好きって言ってくれたこともありがとう。正直に言うと翠蓮のことは、可愛い妹みたいに思っていたの。でも、これから翠蓮のこと、恋愛対象として見てもいいかしら?」
「うん!なんていうか、願ったり叶ったりだよ!」
翠蓮の言葉に柚黄が笑う。
「願ったり叶ったり?ふふふっ」
「えっ、そんなに変だったかな」
翠蓮が赤面する。
「ううん。翠蓮のワードセンス好きよ」
「へへ、よかった」
上の階がドタバタとうるさくなった。レインボーハウスの住民がぞろぞろと降りてくる。
「せーの」
「柚黄!お誕生日おめでとう!」
水斗の掛け声に合わせてみんなが声を揃える。クラッカーが鳴らされた。
「わぁ。びっくりしたぁ」
柚黄が目を丸くしている。
「さっ、部屋の灯り消して!ケーキの蝋燭を吹いてもらうわよ!」
桃百に促され、碧が灯りを消す。
「ちょっと待って!まだケーキ取り出してないから!」
紫月が焦った声を出す。一旦灯りがついた。舞白が冷蔵庫からケーキを取り出す。すでに刺してあった蝋燭に水斗がマッチで火をつけていく。
「んふ、私たちめっちゃドタバタしてるわね」
桃百が笑う。
「俺たちらしくていいんじゃない?」
碧も笑顔だ。
「はい!改めて電気消して!」
「はーい!」
レインボーハウスがお祝いムードに包まれていった。
ここで画面はナビゲーターに切り替わる。
「これにてジェンダーニュートラルは完結です!」
神谷の言葉にめるぽと佐山が拍手する。
「紫月さんの告白、可愛かったですね」とめるぽ。
「せーので言うやつね」と佐山。
「水斗さんも言ってはったけど、小学生みたいで可愛いかったわ」と神谷。
「しみずは最初から最後までハッピーな感じでしたね。付き合っていけばいろんな問題や喧嘩が発生するかもしれないけど、この二人なら乗り越えていってくれそう」とめるぽ。
「せやな。俺は桃百さんが碧さんから『俺も好きだよ』って言われたときに両手で顔を隠したんがよかったわ〜。なんか伏線回収って感じやったわ」と神谷。
「伏線回収?」と佐山が首を傾ける。
「今までも桃百さんは嬉し恥ずかしのときはスマホとかで顔を隠してましたよね。それで最後、恋が成就したときもその癖が出たから、伏線回収なんじゃないですか?」とめるぽ。
「あ〜、なるほど!桃百さんは舞白さんとのデートでも顔隠してましたよね。あのときは二人がライバルになるとは思ってませんでした」と佐山。
「そうやね。舞白さんがどんな気持ちでレインボーハウスでの生活を終えたのか、聞いてみたかったわ」と神谷。
「たしかに、最終話なのに舞白さんがあまり出てこなかったですよね」とめるぽ。
「それに関しては、追加のVTRがあるらしいですよ!」と佐山。
「なんで君が進行してるのよ!司会者の立場奪わんといて!」
神谷の冗談に二人が笑い、画面が切り替わった。
「みなさん、お世話になりました。ここでの生活は短かったですけど、すごく楽しかったです。人生の先輩方に話を聞いてもらったり、逆に話をしていただいたりできて、すごくありがたかったです。俺はこれからも自分が美しいと思う方向に進んでいきます。みなさんも、ずっと幸せでいてくださいね」
舞白がみんなを穏やかな顔で見回す。翠蓮や桃百が涙ぐんでいる。みんなで舞白を取り囲み、「がんばってね」「舞白も幸せになれよ!」と声をかける。最後に碧が舞白に近づく。
「舞白、おいで」
両手を広げた碧の胸に舞白が潤んだ瞳で抱きつく。
「舞白と過ごした時間、すごく楽しかったよ。また連絡するね。元気でいてね」
碧が優しく舞白の背中をさする。
「……はい。俺もすごく楽しかったです。それに、桃百さんのことも本当は大好きです。二人に、幸せになってほしいです」
舞白が顔を上げる。
「俺も絶対幸せになります」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で舞白が笑う。こうして舞白はレインボーハウスを去っていった。
他の面々も、別れの言葉を告げて去っていく。最後に紫月が部屋を見回し、「ありがとう」と呟いて、ドアを閉めた。
「いいVTRだったわ〜」
神谷がため息をつく。
「ほんとですね。感情がわかりにくいと言われてきた舞白さんが、最後に感情を爆発させてて、すごくよかったです。レインボーハウスの人たちの前では、感情を表に出せるようになったんですね」とめるぽ。
「舞白さん、やっぱり尊い……。これからタレント活動をするのかどうかはわかりませんけど、俺は舞白さんを永遠に応援していきたいです!」と佐山。
「そうやね。俺もレインボーハウスのメンバーみんな好きになったわ。応援していきたい」と神谷。
「私もすでに全員のSNSをフォローしてるので、これからも見守らせていただきます」とめるぽ。
「これでジェニューは完結となります。みなさんが性別や恋愛について少し立ち止まって考えるきっかけになっていれば幸いです。それではまたどこかでお会いしましょう。さようなら〜」
神谷、めるぽ、佐山が手を振る。
リサはしばらく再生終了した画面を見つめていた。
(最初は「性別不明の恋愛リアリティー」ってどんなのだろうって思ってたけど、始まってみると意外と他の恋愛リアリティーと同じテンションで見れたな。他と比べて一番違うのは、全員が全員に対して恋愛対象になる可能性を持っているってところかな。他の番組は男性と女性が恋愛してカップルになるって形式だけど、ジェニューは参加者全員がそれぞれの性的指向を持ってるから、本人以外の全員と恋愛する可能性を持ってるよね。だからこそ生まれるシーンとかもあったな。もう一周してみようかな?)
リサはSNSを開く。
「しみずの告白ほんと可愛い」
「紫月さん、自分から告白したことなかったんだ!」
「ロリータ二人の横に座る碧さんはもう執事そのものなんよ」
「桃百さんの伏線回収よかったな。キラキラした目をしてたのも印象的だった。恋する人は可愛い」
「柚黄さんの誕生日サプライズがドタバタでかわいい笑」
「舞白さんの去り際めっちゃ泣いた」
(レインボーハウスの全員に愛着湧いたな。これからもSNSとかで見守りたい。そして友達にもこの番組のこと、もっと布教してみようかな?性別について話しやすくなるかも)