第4話:罪を憎んで人を憎まず
「「罪を憎んで人を憎まず」か、貴殿の生きる世界には温かい言葉があるのだな」
ゴブリンたちの輸送先である愛知-006番ダンジョンまでは車で約一時間。
ただ移動するのも暇だから、という理由で話相手として駆り出された小雪は、動物輸送車の中で揺れるホブゴブリンの隣に座る。
「貴殿にそのような信念を抱かせるのには、徳のある親と高い教養があったからなのだろう?実に面白い世界だな」
「ううん。あってるけど違うよ。だって、私にはもう父さんも母さんも、もういないし」
「……あ?」
時速50kmで走る鉄の箱の外では高速で景色が流れ去っていく。
「貴殿はワタシに説明してくれていたではないか?この世界は教育や医療技術が高度に発達し、病気や破傷風で死ぬことも少なくなった。戦争も少なくなり、戦死者の数も減っていると」
どうやらホブゴブリンが生きていた世界は、何らかの分岐により中世ヨーロッパ並みの生活水準のまま社会の成長が止まってしまった平行世界らしく、現在でも宗教観の違いや宗派の主張・信徒の獲得などを巡って戦争が絶えず行われている宗教戦争の世界なのだという。
中世ヨーロッパ並みの生活水準となると、文字を読み書きできるのは有識者だけ、「風呂に入ると病気になる」という考え方が通例だったために入浴する文化はなく、剣で怪我を負った時は『共感の粉』と呼ばれる粉薬を、自身に傷を負わせた剣やナイフに塗ることで怪我が治ると信じられていた。
それほどまでに価値観や技術力が違うと驚くのも当然で、ホブゴブリンから様々な説明を求められていたので、小雪は送迎のためのバスと動物輸送車が届くまでの待ち時間に、自身がいるこの世界について多少の説明を行っていた。
「これほどまでに技術が発達している世界であるというのに、一体何があったというのだ?」
「私が留守にしている間にモンスターに殺されちゃったんだよ。二人ともね」
トンネルにでも入ったのか、車内に暗い影が落ちる。
「どうしてなのかは分かんないけど、そのモンスターは周りに住んでいる人には一切危害を加えずに、私の父さんと母さんだけ殺して何処かへ行っちゃったんだって。運良く私だけ生き残ったというか、不幸にも取り残されたというか、不思議な話だよね」
「そのモンスターはどうなったのだ……?」
「まだ見つかっていないよ。「背中に翼を生やした人型モンスター」っていう特徴しかないから、天狗か吸血鬼か、それとも『機械世界』で造られた人造人間か、それすらも分からないんだよ」
『開拓屋』の活躍によってダンジョンから持ち込まれた財宝や遺物・遺跡の痕跡などの研究が進んだ結果、小雪たちがいる世界に接続される平行世界は、おおよそ五種類に分類されることが判明している。
まだ人類としての歴史すら始まっておらず、神や悪魔・精霊への信仰を主とする『原始世界』。
中世ヨーロッパに非常によく似た生活様式で、様々な宗教が混在している『中世世界』。
この世界より遥かに文明レベルが進んだ『機械世界』。
神話の世界に登場する、非常に狂暴なモンスターばかりが棲息する『神話世界』。
そして、これらのどの特徴とも合致しない『第五世界』。
ホブゴブリンたちがいた愛知-012番ダンジョンは聞き取った特徴からすると、『中世世界』に分類されるようだ。
「だから、私は何としてでもそのモンスターを探し出して聞きたいんだ。どうして私の父さんと母さんを殺したのか、殺さなくちゃいけなかったのかをね。人型ということはある程度の知能があるはずだし、きっと何か理由があるはずなんだよ」
車がトンネルから抜け出したようだ。決意を込めて拳を握った小雪の横顔に、鉄格子から漏れ出た太陽の光が差し込む。
「ふん。言っていることとやっていることが食い違っているではないか」
少女の思いと少女に射した一筋の光明を見ながら、緑色のモンスターはこう評する。
「貴殿はモンスターに親を殺されて、モンスターが憎くて仕方がないのだろう?だったら、例え相手が誰であろうと、なりふり構わず殺してしまえばいいではないか?どうしてそのような生温いことをやっているのだ?」
もし小雪がモンスターたちに対して悪辣無比な性格で、出逢ったモンスター全員を殺すような性格であったら、自分は対峙した直後に惨殺されていただろうし、30体のゴブリンも殲滅されていただろう。
だからこそ知りたかった。
肉親を殺されたことでモンスターたちに深い怨念を持つはずの小雪が、どうしてモンスターたちを殺さないのか。
自分たちは何故生かされたのかを。
「私はモンスターの生態に関しては全然分かんないけど、モンスターたちにだって家族がいて恋人がいて友達がいるんでしょ?私が無差別にモンスターたちを殺しちゃったらさ、私は罪のないモンスターたちから家族や恋人・友人を奪っていることになるんだよね。それって私の両親を殺したモンスターとやってることは同じじゃん?それは『英雄』がやることじゃないでしょ?」
罪を憎んで人を憎まず。
犯した罪は憎むべきであるが、その罪を犯した人間は憎んではいけないという意味の慣用句である。
自分の両親は理不尽に殺されてしまったが、憎むべきは両親を殺したことであり、殺したモンスターのことは憎まないということか。
「他の人間には一切手を加えなかったということは、私の両親を殺さなくちゃいけない何かしらの理由があってってことでしょ?だから私は仇のモンスターにあって、その理由を直接聞きたいんだ。これ以上、私のような目に逢う人を増やさないためにもね」
左右を老緑に囲まれた林道の真ん中で、ゴブリンたちを乗せた観光バスと動物輸送車は停まった。どうやら目的地の周辺に着いたようだ。
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本日はデュエルマスターズの新殿堂発表日ですね!!
大会には出ないエンジョイ勢なので、環境とかにはあまり詳しくないですが、藤井の予想では絶望神サガ・CRYMAXジャオウガ・神の試練・シャコガイル辺りが殿堂するのでは?と思っています。
DOOMも殿堂しそうな雰囲気はありますが、最近でトレジャーになって再録したことから考えると、「環境で暴れているけど公式が殿堂させたくないカード」のような気もします。
……すみません。ちょっと素敵(?)な話というのは、この程度のこんな感じのお話です。これを期待してブックマークしてくださったのであれば申し訳ないです。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!