第37話:絶海・絶壁・絶佳
数日かけてダンジョンから脱出し、関係各所に報連相を行った結果、専門家とモンスター対策庁の別動隊を交えての再調査を行うとのこと。小雪たち先遣部隊の仕事は完全に終了。後は帰るだけとなった。
と、いうことで。
「ふいぃ~~」
場所は東尋坊近くにある温泉街「東尋坊三国温泉」にある温泉施設の一つ。
ごつごつとした岩を組み合わせて造った浴槽の中に身を沈めながら、一行は気の抜けた声を出す。
「東尋坊三国温泉」には全部で3つの温泉施設があり、それぞれの施設が違う源泉を引いているが故に温泉ごとに効能も異なってくるそうなのだが、温泉に関してうるさいメンバーはおらず、「折角東尋坊に来たんだから、綺麗な海を見ながら風呂に入りたい!」というざっくばらんな意見のもと、日本海を望む露天風呂がある施設へとやってきた。生まれたままの姿で五人が横に並ぶ。
「ってか、あたしたちは問題ないけど、響は思いっきり勤務時間中なんじゃねぇのか?こんなところで暢気にお湯に浸かってていいもんなのかよ?」
「電話であれこれ報連相したんですが、『ひしかわ開拓』の皆さんに巻き込まれてダンジョンに入ったのが労災と認定されまして、数日間お暇を頂けるとのことです。いやあ、塞翁が馬ってこういうことを言うんですねえ……」
気持ち良さそうに目を細めながら湯舟の中へと溶けていく龍ヶ崎。
巻き込まれた直後に上長に連絡を入れていたため、「持ち場から忽然と消えて行方不明!」などということはなかったものの、『ひしかわ開拓』の面々と冒険している間が連勤扱いになっていたこと、『英雄』になってしまったこと云々などでいろいろあるらしく、一週間程度の有給が言い渡されたのだという。
……勿論、一年に使用できる有給の数は決まっているため、この件で龍ヶ崎は所持している有給の三分の一くらいを消化してしまったわけだが。
「(ちょっといいかい?ゆいちゃん?)」
何か話したいことでもあるのだろうか。阻むもののない広大な日本海の絶景が目の前に広がるというのに、浴槽の隅で小声で呼ぶ夜暗森に身を寄せる。
「(ゆいちゃんは、はじめちゃんの仲間だよね?)」
「??仲間も何も、一緒に旅してる仲でしょ?何の仲間だっていうの?」
「おっぱい」
小声じゃなかった。
少し距離があるため四方山と龍ヶ崎には聞こえていないようなので、そのままのトーンで夜暗森は続ける。
「どうしてあの二人は、あんなにも立派なモノをお持ちなのさ?はじめちゃんにも分けて欲しいんだが?」
そう言われるとついつい二人を見てしまう。
四方山唯。
大家族の長女で年下の弟や妹の面倒を見る機会が多かったからか、男勝りな性格・服装・口癖をしているが、女性特有の膨らみは『ひしかわ開拓』の誰よりも大きく、身長も高く肉付きも申し分ない。モデルやスポーツ選手だと言われても全然違和感のない引き締まった体格である。
龍ヶ崎響。
肉付きは中肉中背。筋肉質な四方山に比べれば劣る部分は多いものの、女性が持っている『それ』は別段大きいわけではなく、かといって小さすぎるわけでもない、非常に塩梅のいいサイズと丸みをしている。いうなれば『普通』だからこそ持ち合わせている『特別』がそこにあるのだ。
「見てよあれ。特にゆいちゃんは反則でしょ。天が二物も三物も与えすぎでしょ?」
対してここに並ぶは『普通』よりも慎ましい胸を持つ三人組。低い順に撫霧・夜暗森・小雪となっている。
「私も削穢さんもまだ二十歳になってないんだし、成長すればこれから大きくなってくんじゃないの?」
「はじめちゃんは、この歳でこの大きさなんですけど?!はじめちゃんには救いがないってことかゴルァ!!」
「……萌さんっていくつなの?」
「……見た目も心も永遠の高校二年生・17歳だゾ☆。きゃるん☆」
キャラを作るのも大変だ。自分の年齢を自然な流れで吐露しそうになったところを必死に持ち堪える年齢不詳のITuber。
「……私には胸の肉など必要ありません」
いつもの長いポニーテールを頭の上でお団子に纏め、肩までしっかり浸かった女侍が口を開く。
「……剣を握りながら激しい動きをすると、その度に揺れてしまいますから。……剣の道に胸の大きさは不要です」
「何だお前ら?こんなに綺麗な景色が目の前にあるってのに、そんな話をしていたのか?」
ざぶざぶと四方山が一歩を踏み締める度に温泉の水面が揺れるが、それと同時にはち切れんばかりの双丘も揺れる。
「風呂上がったらカニ食おうぜカニ!ここいらではズワイガニが有名なんだってよ!!」
「何せここ福井県坂井市は、古くは越前国と呼ばれていましたからね!別名エチゼンガニと呼ばれるズワイガニは、ここ福井県が一番美味いですよ!!他にも美味しい海産物はたくさんあるので、今日は酒も飲んじゃいましょうよ酒も!!」
ざぶざぶと龍ヶ崎が水面を揺らすが、こちらの双丘は程よい大きさに対して上下の揺れは小さめだ。
「不公平だよう!何で二人はそんなにおっぱいがいっぱいなんだよう!!」
「あん?胸が大きいってのも大変なんだぜ?」
肩を竦める。
「肩はゴリゴリに凝っちまうし、狭い場所は通りにくいし。大きけりゃいいってもんじゃねぇんだよ」
「はじめちゃんもなってみたいね!おっぱいが大きくて肩凝りしてみたいねっ!!」
「ところで響さん。さっきお酒を飲むっていってたけど、響さんって成人してるんでしたっけ?」
「あれ?皆さんに言ってませんでしたっけ?」
首を傾けると首筋をなぞるように水滴が滑る。
「私、29歳なのでバリバリ成人ですよ?ちなみに、日本酒やビール・ワインよりもハイボールとチューハイ派です」
「え゛ぇ゛え゛え゛え゛!!その見た目でアラサーなの?!!はじめちゃんよりも年齢不詳さんでしょこれえ!!」
「20代だとは思っていたけど、アラサーだったんだ……」
「あたしよりも5年も年上じゃねぇか……。年下だと思ってたから全然タメ口で呼んでたぜ…………」
「えっ……。もしかして、私って実年齢よりも若く見えます……?いやあ、そう言われると照れちゃいますねえ……。あ、皆さんはいつも通りタメ口で呼んでくださいねっ!変に改まられるの得意じゃないので」
てっきり20代も前半くらいだと思っていたので、ここ最近で一番の驚きだった。
「ねね、スキンケアとかってどうしているのさ!何か特別な化粧品とか使ってるの?」
「ごく普通の、市販の安いやつですよ?高い化粧品って敷居が高くてどうしても手が出せないんですよねえ」
「はじめちゃんにも美容健康法とかを教えてくれよう!!何なら動画に纏めて出してやるのだあ!!」
「そんな特別なことはしてませんって!無為自然と言いますか、普通の化粧品を使って普通に過ごすのが一番いいかなーなんて思ってまして」
「くそっ。はじめちゃんは奮発して結構高い化粧品を使っているってのに、どうしてこんなにも差が出るってんだよう!神様はどうしてこうも不公なんじゃあ!!はじめちゃんを低ステータスに設定した神様に会わせろやい!!」
おっぱいの話は疾うに何処かへと消えていた。溢れたお湯が排水溝へと流れる音が漣のような音を立てる。
「なろう」にてブックマークが1件増えました!ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!
先週、火曜日の夜にインフルエンザを拾って高熱を出し、翌日39.8度の熱を出してぶっ倒れておりました。
木曜日の朝も微熱があり、やっと熱が引いたのは木曜日の午後。熱が無くなったと言えど後遺症で頭がボーっとしており、先週は執筆活動が全くできておりませんでした。
しかし、藤井は新しい話を投稿する際、執筆作業などをしていて投稿すること自体をうっかり忘れないように、月曜日のうちに校正や改稿を済ませて、指定の日に投稿が行われるようにタイマーを設定して投稿を行っていますので、病み上がりで頭が真っ白になっている状態でも無事新作を投稿することができました!まさに転ばぬ先の杖ですね!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!