第32話:古代の祭壇にて
「ん…………」
ここは一体何処なのだろう。龍ヶ崎響は周囲を見回す。
年季の入った黄色っぽい煉瓦を組み合わせて作った石造りの建物の内部には、出口もなければ入口もなく、窓もない。暗い室内を壁に架けられた松明が仄明るく照らし、正面には緩やかな階段が真っすぐ伸びる。
「あれ……?私、死んだんじゃ…………?」
確か、自分は恐竜にガリゴリと噛み砕かれて死んだはずである。
ここは天国か。
そう呼ぶのにはあまりにも殺風景だ。
ならば地獄か。
そう判断するには禍々しさが足りない。
精緻に石が積まれた古代遺跡と聞いて、真っ先に浮かんだのがエジプトのピラミッドやインダス文明のモヘンジョ=ダロだったが、それらの遺跡に飛ばされる覚えは何一つない。
「まさか、異世界に転生しちゃった、とか?しかも、古代エジプトとかインダス系の!!」
今時の若者らしい短絡的な判断だが、それを見越してか聞いて呆れてか、
「目を覚ましたか。娘よ。さっさとこちらへ来るがいい」
階段の上から男の声が降る。
「あなたは……?」
「話は後だ。現状を理解したいのであればこちらへ来い」
長い階段を昇った先は扁平な祭壇となっているため、声の主の姿はここからは見えない。この場で留まっていても仕方がないため、モンスターに襲撃された時の護身用に差していた拳銃を抜いて、階段をゆっくりと歩く。
「娘よ。儂が言うのもアレかもしれんが、一応言っておこうではないか」
階段はそれほど長くはなかったため、段を上っているうちにすぐに男の姿が見えた。玉座に肘をついて退屈そうに目を細める男が正面に現れる。
「このような場所このような空間で、何の変哲もない拳銃が通じる相手が出てくると思うか?「銃があるから安心」という変に固まった思考を産む分、むしろ自分の身を危険に晒すことになるかもしれんぞ?」
さらさらとした長く茶褐色の髪を持つ褐色人種の若い男の姿で、動きやすそうな薄めの肌着を着用している。暑さ対策のためか半裸となっており、上半身には筋肉質な胸板と腹筋を惜しみなく晒している。
「何者ですか?あなたは?」
頭に豪華な冠を載せ、耳には豪華な耳飾り、指には大きな宝石の嵌まった指輪、左右の腕には細かい装飾が施された腕輪をしている姿からは、何処かの王族のような雰囲気を醸し出している。
「儂の名前は那羅延天。少しは歴史に詳しい君なら、何者かはすぐに分かるだろう?」
那羅延天とは仏教においての上位・天部に属する神である。
仏教の守護神である十二天の一柱で、ヒンドゥー教における最高神・ヴィシュヌが仏教へと組み込まれた際に名付けられた。那羅延天とヴィシュヌは同じ神を指す。
ヒンドゥー教では創成された世界の維持・管理をする神であり、創造神のブラフマー・破壊神のシヴァと共に最高神に位置付けられる。
「那羅延天……?その那羅延天が私に何の用ですか?」
「説明するよりも見せた方が早いな。まずはこれを見てもらおう」
パチン、と格好よく指を鳴らすと、脇にあった台座に40インチの超薄型テレビが置かれる。
「え……?薄型テレビ……?随分現代的ですね…………?」
「神様が全員が全員、白いトーガを着て大衆浴場で湯浴みをするような生活をしていると思うなよ?時に神様たちというのは、人間よりも人間らしい生活をしているのだよ」
そういうものなのか、と何処か納得してしまうのはいいのか悪いのか。那羅延天|(自称)が人差し指を向けるとテレビが点く。
「これはカミサマTVと言ってな、儂ら神が人間たちの営みを天界から見守るために使っているものだ」
テレビが起動すると映像が映し出される。
「っ!これって!!」
その映像は、まさに自分がティラノサウルスの幼生に喰い殺された所だった。二体の恐竜が争うように龍ヶ崎の肉を引っ張り合う。
「自分が死ぬシーンを見せられるのって、何だか残酷ですね……」
「君の一生はここで終わるが、他のモノたちの一生はここでは終わらぬ」
その後の映像には修羅の如くとなった撫霧の顔、撫霧流奥義の頽龍によって崩壊する洞窟、生き埋めになる恐竜たち、『|奇術師《The Magician》』によって洞窟の外へとワープする『ひしかわ開拓』の面々が映し出される。
『……使おっか。『審判』』
画面には諦観と寂寥に満ちた表情の小雪が登場する。
『不甲斐ないよね。『英雄』が四人もいるのに一般人の一人も碌に守れないなんて……。この程度の力しかないようじゃ、神を名乗っていたバーナードたちに勝つなんて、絶対に無理だよね……。だったらさ、遠くに見える目標よりも、目の前の惨劇から身近な人を救いたい』
「あ……」
小雪の言葉を最後にブロックノイズが走り、乱れた静止画で画面は止まる。
「貴重なスキルを使って私を生き返らせようとしていたんですね」
「だが、それでは我々が困るのだ」
神の傲慢そうで気怠げな雰囲気は変わらない。
「人間がいつ生まれ、いつ死ぬかというのを決めるのは我々神の仕事であって、人間が決定するものではない。だから、任意の人間を生き返らせることができる『審判』のスキルを使うと、運命が大きく歪んでしまうのだ」
「どういう、ことですか……?」
「君は「死神の名付け親」というグリム童話を知っているか?」
ある貧乏な家に一人の男の子が生まれた。
その男は死神に名前を付けられた後、こう契約した「私|(死神)が病人の枕元に立った時は薬草を飲ませろ、そうすればその病人の命は助かる。だが、私が病人の足元に立った時はどうやっても助からぬから諦めろ」と。
死神の言いつけを守った男は名医として名を馳せ、富や名誉を手に入れていったが、ある時、国王が病気に罹った時に、死神が足元に立っていたにもかかわらず、死神を騙して治療を行った結果、約束を破ったことに激怒した死神が男を地獄へと連れて行った。そこには、今にも炎が消えそうな男の命の蝋燭があった、という話である。
「一国の王様が死ぬ運命にあったのを死神を騙して男が覆したように、我々神が決定した運命を彼女は『審判』を使って覆そうとしている。……ここまで説明すれば事の重大さが分かるか?」
「じゃあ、私が生き返りそうになったのをあなたが阻止したということですか?」
「このままでは運命が大きく狂ってしまうからな。この世界の理を維持するために私が待ったをかけたのだ」
仏教における仏としての那羅延天には世界を維持・管理する役割はなく、怪力を持つ神だ。那羅延天を名乗っているものの、ヴィシュヌとしての神性の方が強いらしい。
「そもそもの話、人間を生き返らせるのは神でも無理なことなのだよ」
「そん……、な…………」
冷酷に放たれたその言葉が大口を開けて龍ヶ崎を呑み込む。
衝撃を受け止めきれない頭の中には様々な人の顔が浮かんだ。
不器用ながらも一生懸命に自分のことを育ててくれた父の顔。
我が子の帰りを料理を作りながら待っている母の顔。
何かとドジをする自分を陰ながらに支えてくれたしっかりものの妹。
警察学校時代から仲の良かった同僚たち。
そして、『ひしかわ開拓』の面々。
もう二度と会うことができないのか。
もう二度と話すことができないのか。
もう二度と肌と肌とで触れ合うことができないのか。
那羅延天の言葉が時間差で波のようにのしかかる。
「儂の属するヒンドゥー教では五火二道説、仏教では輪廻転生が有名だな。君の住む日本では大乗仏教が主流だし、輪廻転生で良いだろうか?」
玉座の後ろにある壁に手を翳すと豪華な両開きの扉が出現し、こちらへ向かってゆっくりと開く。
「本来は死んでから四十九日が経過しないと生まれ変わることはできないのだが、ここは生と死の狭間の時空。現在・過去・未来。この場所には人間たちの作った時間などという概念は存在せぬ。この通路を抜けた先の扉を潜れば、君は新たな生を受けるであろう」
激しい戦いが常に繰り返される修羅道に生まれるか。
動物として地上で暮らす畜生道に生まれるか。
常に飢えに苦しむ餓鬼道に生まれるか。
人間道で再び人間としての生を受けるか。
大きな扉を抜け、那羅延天の先導で地獄の宮殿のように薄暗い通路を歩いていると、
「――ぅおおぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおん」
何やらラッパのようなものを吹き鳴らす音が暗闇から木霊する。
直後、圧倒的な重量を持った足音。
「ほう」
何処か関心したように呟く神の目の前に、四本の腕を持つ象の頭をした巨人が現れた。
先日、近所で花火大会があったので兄と一緒に行ってきました。
そこで紐くじの屋台があったので景品を見てたのですが、景品の中に「プリ☆チャン」一期のコーデセットがありました。
「プリ☆チャン」一期の放送開始が2018年4月なので、その時の景品がまだ置かれているとなると、約5年間特賞が出てないことになります。
控えにはそれよりも古そうな「アイカツ」コーデセットもありましたので、本当に当たりくじが入っているかどうか少し怪しいところです。
別の屋台では首筋にタトゥーが入った若いお兄さんに「唐揚げ食べていかない?」って誘われましたし、お祭りの屋台は闇が深いです。皆さんも、屋台で飲食物を買う時は、なるべくキッチンカーで店舗販売している、ブランド名の高いお店にしましょうね!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!