第31話:その咆哮に込められたものは――。
「は、はは……」
さすがにこれは想定外だ。引き攣った顔で笑うしかない。
全長10mのティラノサウルスですら斃すのにこれほど苦戦したというのに、その1.5倍サイズの親玉が出現。さらには、その子供と思しき恐竜たちが5体同時に出現したのだ。
「ねえ削穢さん……。兜無視を使って何処まで斃せそう?」
「……小さいモノを2~3匹程度でしょうか?……そこまで斃したところで刀が折れてしまいます」
「何か超必殺技みたいな奥義はないの?」
「……ありますが、衝撃で洞窟が崩壊して、このまま生き埋めになってしまいます」
「急いで逃げれば大丈夫とか?」
「……それができないから、私たちは洞窟の中にいるのではないですか?」
即席で段取りを立てようとしているが、妙案が出て来ない。
「じゃあさ、削穢さんが私の風の剣を使うってのはどう?能力だから何回でも出せるけど?」
「……複野さんの【タロットカード】で生成した武器は、複野さん以外は触ることができませんよね?」
「そうだったね……」
「ぐごおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおっっっっっ!!!!!」
洞窟内部が怒りの声に満ちる。
「本格的にどうすんのさこれえ!はじめちゃん食べられたくないよお!!死にたくないよお!!」
小雪たちの世界で見つかっている最大サイズの化石ですら全長13mだ。それよりも大きいサイズの、しかも怒りを纏った恐竜を目の前にして正気でいられる方がおかしい。
「……」
頭の中に22枚のタロットカードを並べ、自分が持つスキルを整理してみる。
第7番の『|戦車《The Chariot》』を使えば超強力な戦車砲を撃つことができるが、あまりの衝撃の強さに洞窟が崩落して生き埋めになってしまう。
第16番の『落雷の塔』を使えば雷で一撃で斃せるが、あの脚力あの大きさの恐竜を外まで誘導できるとは思えない。
第9番の『隠者』を使えば一定時間認識されないようにできるが、自分だけしか使えないためあまり意味はない。
第0番の『愚者』を使えば対象に幻覚を見せることができるが、有効か否かが分からない。
第21番の『世界』を使えばその場でダンジョンの構造を自由に変更できるが、ダンジョンに潜む危険因子を全て排除しない限りは『攻略した』と見做されないため、問題の先延ばしにしかならない。
「…………」
後は使えそうなのは、この二枚くらいか。指の間に二枚のカードを出現させる。
一枚目は第5番『|法王《The Hierophant》』。
小雪が持つスキルのCTを一つだけリセットできるスキルである。
このカードを使って『|奇術師《The Magician》』のCTをリセットすれば瞬時に崖上まで逃げることができるため、一度引き返して体勢を整えたり、他の『開拓屋』へと依頼を回したりすることができる。
あと5時間程度でCTが消える『|奇術師《The Magician》』を即座に再利用できる反面、『|法王《The Hierophant》』のCTは8,760時間。このカード1枚のCTを消すためだけに使うには、あまりにも代償が大きいし、ダンジョンを出てから東尋坊の崖上へと戻るためにもう一度『|奇術師《The Magician》』を使う必要があるため、使用後に恐竜たちから24時間逃げ続けなければならない。
二枚目は第15番『悪魔』。
強力な悪魔を一柱召喚するスキルである。
迂闊に使うのは危険だと思い一度も使ったことがないため、召喚した悪魔が小雪に憑依することで圧倒的な力を得るのか、それとも一定時間悪魔に飲み込まれるのか、召喚した悪魔を使役できるのか、それとも縦横無尽に暴れるだけなのか、呼び出せる悪魔はカードに描かれたバフォメットだけなのか、それともソロモンの72柱と呼ばれる悪魔たちを選んで使役できるのか、呼び出す悪魔を選ぶことができないのか。その全てが謎に包まれたスキルである。
CTが480時間になっているところを見ると、それだけ強力なスキルに位置付けられているようなので、さすがに自我を乗っ取られて暴走するようなことはないだろうと思うが、使うとなったら細心の注意が必要だ。
(どちらかを決めなくちゃ)
正面に立つのは自分たちよりも遥かに大きい肉食獣。しかもその数は六体。
悠長に決断する時間など与えてくれるわけがなく、どちらかを選ばなければ最悪の場合全滅してしまう。
「ぐあぉおおぉっっ!!」
撤退か交戦か。
『|法王《The Hierophant》』か『悪魔』か。
猛獣はしきりに鳴き、威嚇し、小雪たちを殺そうとする。
だから気付かなかったのだろう。
「きゃるるるるる!!!」
明らかに人工的に切り抜かれたであろう石の扉の隙間から、幼体のティラノサウルスが二体出現し、背後に迫っていたことを。
「っ!!しまった!!」
あの鳴き声は威嚇や怒りを示すためではなく、背後から迫っていた仲間たちの足音を掻き消し、正面に釘付けにするためだったというのか。
「……龍ヶ崎さん!!」
「えっ……?」
気づいた時には遅かった。
バキバキゴリゴリガリゴリリっ!!
硬質な物を噛み潰す音が響いたかと思うと、くちゃくちゃと粘質な音。その後にだぼだぼと大量の水分を含んだモノが落ちる音が聞こえる。
一説ではティラノサウルスは家族単位で狩りを行っていたのではないかとされている。
小さくて機動性のある子どもが大きな獲物を追い駆け、追い込み、獲物が疲れたところで親が確実に仕留めるという作戦だ。
「いやあぁぁぁああああぁぁぁあああああああぁぁぁああああああああっっっっっ!!!!」
カラコロと軽い音を立てながらピンク色のスマートフォンが岩でできた床の上を転がるが、そんなことを心配している場合ではない。
仲間が眼前で喰い殺されたことにより、夜暗森の恐怖がピークへと達する。
「ひ、ひびきちゃん!ひびきちゃああぁぁあああぁぁぁああああああああああぁぁんんんんん!!!!」
「……すみません。……複野さん」
撫霧を纏うオーラが黒く冷たいものへと一瞬で変化した。
「……この外道共は私が確実に殺します!……洞窟が崩壊するかもしれませんが、その時は全員を救い出してください!!」
眼光はギラギラと光り、血を流さんばかりに唇を噛み締める。殺すことを躊躇う殺人刀使いの穏やかな瞳の色は何処かへと消え、要人を守るためであればどれだけでも血を浴びる種族・撫霧家の剣客の顔へと変貌していた。
あの時言ったではないか。「向かってくる敵は全て処理し、必ずやあなたを無傷で連れ出してみせます」と。
そして、彼女は快く背中を任せてくれたし、『ひしかわ開拓』の旅にも文句を言うことなく最後まで同行してくれた。
なのに、待っていたのはこんな最期だというのか。
「……撫霧流奥義・頽龍!!」
ガギンッッ!!
和装にポニーテールの少女が強く刀を地面に突き立てると、衝撃が加わった地点を中心に9本の亀裂が広がり、途轍もない速度で地面を駆ける。
「ぐるあぁぁぁあああ!!!!」
「ぎぃるあぁあああ!!!」
衝撃の波が直撃した恐竜は鱗を粉々にしながら一瞬で肉塊となり、亀裂に巻き込まれたモノたちは為すすべなく奈落へと落下していく。
「っ!!『|法王《The Hierophant》』からの『|奇術師《The Magician》』!!」
このままでは技を使った本人である撫霧まで崩壊と亀裂に巻き込まれてしまう。半ば強引に袖を掴むと、恐竜たちの断末魔を聞きながら『|奇術師《The Magician》』を起動する。
目に見える範囲までしか移動できないため、移動先は洞窟の外。
「ぐるぁあ……」
何とか攻撃を避けて洞窟の外へと逃げようとした恐竜は行く手を頭上から落下した巨岩に阻まれ、土煙と岩雪崩に飲み込まれて姿を消した。めきめきと何かが潰れる音が聞こえたため、助かることはないだろう。
「……【タロットカード】の中には、死んだ人間を生き返らせるものもあるんだよね?」
感情が消えた瞳から静かに涙を流しながら夜暗森は零れるように呟く。
「早くそれを使ってよ……。使ってひびきちゃんを生き返らせてよ……」
「…………」
天空から現れた翼を生やした男がラッパを吹き鳴らし、それを棺の中から起き上がった全裸の男女が称賛する絵が描かれたカードが、小雪の人差し指と中指の間に出現する。
大アルカナの20番。
『審判』。
任意の人間を生き返らせるスキルである。
「それを使えばひびきちゃんを生き返らせられるんでしょ?!!早く使ってよ!!」
「……いい加減にしろよ?てめぇ」
四方山がふりふりのスカートを履いた女性の胸倉を掴む。
「【タロットカード】を持ってるだけで小雪はあたしたちと同じ人間だ!神様なんかじゃねぇ!!「生き返らせて」なんて易々と言うなよ!!」
「ゆいちゃんはこのままでいいの?!!こゆきちゃんが『|刑死者《The Hanged Man》』を使った時と違って、本当に死んじゃったんだよ?!!嫌だよお!はじめちゃんはこんなの絶対に嫌だよお!!」
「……使おっか。『審判』」
カードを挟んだ指が小刻みに震える。
「不甲斐ないよね。『英雄』が四人もいるのに一般人の一人も碌に守れないなんて……。この程度の力しかないようじゃ、神を名乗っていたバーナードたちに勝つなんて、絶対に無理だよね……。だったらさ、遠くに見える目標よりも、目の前の惨劇から身近な人を救いたい」
何処か儚く微笑むと、その目からは頬を伝って雫が流れ落ちる。
「これを使って響さんの家族や友達が喜ぶんだったら、私はその笑顔のために使いたいんだ」
「……てめぇはそれでいいのかよ?」
夜暗森を解放すると少女へと噛み付く。
「『審判』があるのにモンスターに殺された両親を生き返らせなかったってことは、「これは絶対に使わない」っていう強い信念が小雪の中に一本通ってたからじゃねぇのかよ?!!」
「……幸造さんがいつか言っていたんだ。「何を選び取り、何を諦めるか。その選択をすることもなく、圧倒的な力で全てを救ってしまうモノこそが本当の英雄なんだ」って。無辜な市民一人すら守れない弱い私には、「『審判』は絶対に使わない」っていう信念すら諦めないと戦えないみたい。だったら、どれだけ矮小な存在になってもいいから、私は響さんとその家族にとっての英雄になりたい」
指に挟まれたカードの上端が光の粒子へと変換される。スキルを使った証拠だ。
「『審判』よ。龍ヶ崎響を生き返らせて」
光の粒子は尾を引く蛇のように空中を漂うと、一人の人間を形成し始める。
そして――。
では今回は「ポケモンスリープ」の不満点について少し。
藤井はサービス開始してから約2か月の間、毎日「ポケモンスリープ」を遊んでおります。
睡眠計測の時にパーティに配置した5匹のポケモンと一緒に眠るとポケモン毎に「一緒に眠った時間」がカウントされ、一緒に寝たポケモンにのみ経験値が入る仕組みになっているのですが、使用頻度の高いポケモンを挙げると、
・フシギソウ……レベル18・一緒に眠った時間が396時間。
・タマザラシ……レベル15・一緒に眠った時間が322時間
・バタフリー……レベル15・一緒に眠った時間が308時間。
・ニンフィア……レベル15・一緒に眠った時間が262時間。
※いずれも2023年9月21日現在
と、なっています。
一部のポケモンはキャンペーンなどでもらえる「ばんのうアメ」を使ってレベル上げや進化をゴリ押したりしていますが、それでもこれくらいしか成長していません。
はっきり言います。
レベルが上がりにくすぎです。
各々のポケモンには、レベルアップで獲得できるサブスキルが設定されていますが、一匹一匹にここまでランニングコストがかかるとなると、「レベル10になるとこんなスキルが解禁されるよ!」・「レベル30になるとこんな食材を持ってくるようになるよ!」と言われても、そこまでレベルを上げる前に飽きてしまいます。「レベル100でこんなサブスキルが!」とか言われても無理です。
あくまで藤井の感覚ですが、大体一日6~7時間くらいの睡眠を一週間くらいするとレベル10程度になるくらいでいいんじゃないですかね?フシギソウに至っては、2か月以上一緒に寝て、さらにアメをゴリ押してこれですからねえ。レベル100なんて本当に到達するんでしょうか?
え?だったら課金しろ?
投げ銭、いつでも待ってますよ!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!