第24話:福井-016番ダンジョン
福井駅の西には等身大の動く恐竜のモニュメントが置かれた恐竜広場があるなど、福井=恐竜というイメージが強いが、「恐竜のまち」というフレーズでのPRを行っているのは、多くの恐竜の化石が発掘される発掘現場を有する勝山市である。
東尋坊がある坂井市は高校3年生までの医療費無料・県外からの移住者に対して移住支援金として10~15万円の引っ越し費用を国が負担するなど、老若男女を問わず厚い支援を行うことから「心から、笑顔になれるまち」をPRしている。
「……」
福井県=恐竜という安直な思考はいけない、と出掛ける前に菱川に釘を刺され、「恐竜のまち」ではない坂井市に来たはずなのだが。周囲を見回す。
鬱蒼と茂る巨大植物が自生するジャングルに群青色の海。
何処から誰がどう見ても「恐竜がいそう」と思わず言ってしまいそうな世界・『原始世界』だった。
どうやら小雪たちは浅瀬にある岩壁に空いた洞窟へと出たようで、現在は引き潮なのかさらさらとした砂を足裏が捉える。
「……満潮になったら、ダンジョンの穴がこちらの世界と海底で繋がってしまいますね。……潮が引く前に水棲モンスターを斃した方がいいみたいです」
宵闇とも暁闇とも取れる空と海が混ざり合った世界を見ながら撫霧が言葉を漏らす。
潮汐の主な原因は、地球と太陽・地球と月のそれぞれの位置関係の違いによって、重力の強弱に差が発生するためである。
太陽、もしくは月と地球が近い場所ほど引力が強く、そうでない場所ほど引力が弱い。この位置関係の差によってムラが発生するため、これが潮の満ち引きを引き起こし、おおよそ12時間30分に一回程度の周期で繰り返されると言われている。
しかし、これはあくまで『地球なら』の話である。
小雪たちが住む世界とは異なる物理法則・異なる天体・異なる衛星軌道・異なる歴史を持つこの世界において、果たして地球と同じ周期による潮汐は発生するのか。
小雪たちがいる世界よりも短い周期かもしれないし、長い周期かもしれない。そればかりは視覚だけで判断できなかった。
「こ、これがダンジョンの中なのですか……?」
初々しい仕草できょろきょろと周囲を見回す女性を一瞥する。
龍ヶ崎響。
女性警察官。
『ひしかわ開拓』の大ファンであり、土地勘のない小雪たちにダンジョンのある場所を教えるために派遣され、意図せずダンジョン攻略に巻き込まれた女性である。
「一応確認だけど、響さんはスキルとか使えたりするんですか?」
「いえいえ。私は『英雄』ではありません。ごく普通の一般人です」
ぱちくりと目を動かす。やはり『英雄』ではないらしい。
「とりあえず、あそこの洞窟に入るしかないのかな?」
周囲を見回す。
三方向には背の高い岩壁が聳え、背中側には広大な海が広がる。切り立った崖を登ることを除けば、岩石でできた海岸から2m程度の高さの位置にぽっかりと空いた洞窟と、潮が引いたことによって顕わとなった砂地だけだった。
「……目の前に広がっているのは海のようですが、水棲生物はいないのでしょうか?」
果てしなく続いているように見えた海だが、ここから遠くない場所に、この世界の境界線を示す壁が見える。潮が引いてしまったからか海の範囲はそれほど広くはないようで、大型の水棲生物は残っていないかもしれない。
「……まずは水棲生物を探しましょう。……東尋坊と繋がってしまっては厄介です」
一面に水気を含んだぐしょぐしょの砂利に足を取られないようにしながらも歩き、宵闇とも暁闇とも取れる色をした境界壁の前まで到達する。
「何もないね……」
潮が引いてほとんど水がなくなっていたため、境界線沿いに広がった海は、海というよりは浅い湖のような感じになっていた。海の中を覗き込むと三葉虫やアンモナイト・アノマロカリス・カブトガニ・ダイオウグソクムシといった、比較的危険度の低い生物はいるものの、モササウルスやメガロドンといった狂暴性の高いモンスターは見受けられない。
「うわぁあ……。生きている三葉虫やアノマロカリスがこんなに間近で観られるなんてえ!学会で発表したら歴史が覆るレベルの大事件ですよこれ!!」
「うげえ……。こういう虫系の生き物は、はじめちゃんは嫌いなのだあ」
温度差が真反対の二人を連れながら来た道を戻る。
「となると、やっぱりあの洞窟か……」
ならば、このダンジョンのメインは海に生息するモンスターよりも、洞窟の中に生息するモンスターか。洞窟を見上げる。
「でもさ、ちょっと待っておくんなまし、こゆきちゃん。干潮の時にぽっかりと現れる洞窟ということはさ、満潮になったら海水が入り込んで来るってことじゃん?洞窟の構造次第だけど、これって洞窟探索中にはじめちゃんたちが水没しちゃうんじゃ?」
「その心配はないと思います」
一人だけ『英雄』ではない女性は洞窟の下に立つと岩肌を指で撫でる。
「目視なので正確かどうかは分かりませんが、湿っている部分が洞窟の穴の下までしかありません。ということは、その下までしか水位が増さないということではないでしょうか?洞窟の中に海水が入って来るということはないと思いますよ?」
言われて少し上を見上げてみる。
接続が不安定な空間になったことで太陽光が上手く射し込まないからか、満潮時に海水に浸っていた岩壁が乾ききっておらず、乾いた部分と濡れた部分で色に差が出ていた。
「なるほど。言われてみればそうだな。よく気づいたじゃねぇか」
「えへへ。警察官たるもの怪しい者を取り締まるために、動くパトカーの車内から対向車を確認したりしますからね……。自然と目が肥えてしまったのかも」
岩肌を素手で登る時は手や足を滑らせないようにするために、岩場が乾いてから登るのが鉄則なのだが、乾くのを待つと満潮になってしまう。仕方がないので比較的乾いている場所や足場が安定している場所を探し、丁寧に登っていく。
「「1メートルは一命取る」ともいいますからね!皆さんも気を付けてくださいよ!!」
小さい頃は自然の中で暮らしたタイプなのか、ズボンスタイルの制服で手際よく登り、慣れているはずの『ひしかわ開拓』の面々よりも早く辿り着く。
「ひびきちゃんさあ、はじめちゃんたちは小学生じゃないんだぞう?そんなこと言われなくなって、ちゃんと登れるって」
「あっ!すみません。小学校で交通指導員をやったことがあったので、ついついその癖が出てしまいまして」
全員が登り終わったところで洞窟の中を進む。
「しっかしあれだけのヒントで海面の高さを割り出すなんてすげえじゃねぇか?」
洞窟の中は緩やかな登り坂になっていた。これなら龍ヶ崎の予想よりも水位が高くても洞窟内に海水が流入する心配はなさそうだ。
「一応大学出てますからね!これくらいの知識は持ってます!!」
褒められてまんざらでもないのか、少しだけ満足そうに胸を張る。
「それに、大学では歴史系の学問を学んでいましたので、考古学的なのにも少しだけ詳しいつもりですっ!何か分からないことがあれば、何なりと聞いてくださいませ!!」
「じゃあさじゃあさ!!あれは何?!!」
夜暗森が指した方を追うと、少し歩いた後に辿り着いた小部屋のようになっている空間に、炎が焚かれた薪が出現した。人工的に造られたものと見て間違いないだろう。
藤井が作品を執筆する際、実は結構細かい工夫を頑張って入れていたりするんですけど、藤井の文章技術が拙いせいで、その工夫や努力が読者にちゃんと伝わっていないのではないか、と不安になる時があります。
なので、「こういう努力をしているよ!」って言うのを少しずつ書いていこうかと思います。今回はセグメント構造です。
セグメント構造というのは、主人公が敵と衝突・対立することによって切磋琢磨し、成長していくストーリー構成のことです。
例えば勇者と魔王が登場するRPGがあったとしましょう。
冒険を始めたばかりでレベルの弱い勇者って、村の周辺にいるスライムとは戦いますが、最初から魔王軍の四天王とかとは戦ったりしないですよね?
スライム→ステージ1のボス→ステージ2の野生の敵→ステージ2のボス……といった感じで段々と強い敵と戦っていって、そこから四天王や魔王との戦いになるはずです。
このように、主人公が敵と戦って切磋琢磨する→新たな強い敵が現われる……という流れを連鎖的に繰り返すことで、主人公を成長させたり、敵を段々と強くしたりする手法をセグメント構造と呼んでいます。
藤井は作品を作るに際して、このセグメント構造を非常に大切にしています。
今回の作品においても、
ゴブリン→ホブゴブリン→ハエトリカズラ……
といった感じで、小雪たちが戦っているモンスターたちが緩やかに強くなっていますよね?
そのセグメント構造を各々の世界でやろうかと思っていて、
【原始世界】???
【中世世界】ゴブリン→ホブゴブリン→???
【機械世界】ハエトリカズラ→???
【神話世界】???
【第五世界】???
さらに、それぞれの世界で初めて登場するボスたちの強さも、
ホブゴブリン→ハエトリカズラ→???……
といった感じで強くしていくセグメント構造にしようかと思っています。
……実は前作の「異世界に転生したらラグナロクでした~~前世が飼育員の私が神獣たちを【テイム】して世界を救い、モンスターたちの動物園を作ります!!~~」でも、かなり意識してセグメント構造を取り入れたのですが、そこでは上手く審査されなかったのか、将又、そこまで吟味したうえで藤井の作品は一次選考で落ちたのか。
それとも、巧みに組み込まれたセグメント構造が全く評価の基準に含まれていないのか。真相は闇の中です。
ちなみにですが、このセグメント構造をしっかりと取り入れて綺麗に作られているのが「ダイの大冒険」です。最近になって新装版が発売されて手に入りやすくなったと思うので、セグメント構造の勉強をしたい人は読んでみるといいかもしれませんね。
ではまた!これからもよろしくお願いします!!