第1話:「ゆぶそま」のようなもの
※投稿予約の設定ミスで「ノベプラ」版の発表が一時間程度遅れました。申し訳ないです……。
「ゆぶそま」という言葉がある。
「ドラゴンクエストⅢ」において理想とされるパーティ構成のことで、「勇者」・「武闘家」・「僧侶」・「魔法使い」のそれぞれの頭文字を取って付けられた名称だ。
それと同じように『開拓屋』にも理想のパーティ構成というものが存在する。
前線でモンスターたちの攻撃を受け止めるタンク。
高い火力を出し続けることが求められるディーラー。
ディーラーの補助を行うサブディーラー・バッファー・デバッファーから一人。
パーティの体力を管理するヒーラー。
これらのメンバーを一人ずつ揃えることが理想とされ、最小の人数で組める最も効率のいいパーティである。
『ひしかわ開拓』で当て嵌めた場合、タンクは撫霧削穢・ディーラーは複野小雪・バッファーは四方山唯・ヒーラーは夜暗森萌となる。サブディーラー・デバッファーは不在だ。
「今回のダンジョンは廃城って言ったところかな?」
丁寧に積まれた石で組まれた石壁を触りながら小雪は口を開く。
五体のゴブリンを倒して進んだ後に辿り着いた部屋は、英語の「dungeon」の本来の意味に違わず、開け放たれたまま放置された牢屋がいくつも並んでいる部屋だった。
独房の数は全部で20部屋。どれも埃っぽく中には錆びついてしまっているものもあることからすると、それなりに長い期間、手入れされずに放置されていたことが窺い知れる。
「あっちに階段があるみたいだねー。階段を上がれば地上階に行けるのかな?」
インフルエンサー気取りで前に出たがる夜暗森を何とか押し込めつつ、明かりを持った小雪が先頭に立って階段を昇る。
階段を抜けた先には正面に小部屋、右手側には外へと続く小さな扉がある。恐らくだが正面に見える部屋は脱獄犯を監視するための見張り部屋で、右手側の扉を抜けた先にあるのは、その脱獄犯を即座に捕えられるように設えられた、兵士たちの宿舎だろう。
「何これ?大きな階段の裏側?」
左手側は大きな階段の裏側となっていた。掃除道具や武器の類がいくつか木箱に収められているが、勿論、誰にも使われていない。階段を大きく迂回して広間のようになっている場所まで行こうとしたところで、
「それにしても暇だぎゃねぇ」
大階段の前から声が聞こえてきたので四人で慌てて身を隠す。
「そりゃあそうだぎゃ。ここはパルフィード王国の中でも辺境。おれたちモンスターが多く住むような場所だから、余程の物好きか空き巣でもない限り、人間なんて来ないだぎゃ」
「(パルフィード王国?)」
「(向こうの世界の国だろうな)」
四方山が小声で答える。
「(嘘か本当かは分からんが、あたしたちの世界に出現するダンジョンは、こことは違うパラレルワールドから空間転移して繋がっているらしいぜ。だからあたしたちは、そのパルフィード王国とやらがある異世界に乗り込んでいる状態なんだよ)」
「(話には聞いていたけど、全く知らない国名を出されると、その空間転移説を信じざるを得ないね……)」
あるいは渡来人が稲作を伝えなかった世界。
あるいは織田信長が暗殺されなかった世界。
あるいはペリーが浦賀港に来航しなかった世界。
あるいは第二次世界大戦が勃発しなかった世界。
あるいは東日本大震災が起こらなかった世界。
この世界に出現するダンジョンは、いくつかの可能性に分岐した別次元の世界から切り取られた城や洞窟などが、小雪たちのいる世界へと空間転移したものだとされている。
世界が無数の選択で枝分かれする過程でそれほど大きな変化が起こらなかったのか、文字や言語は小雪たちが住む世界とそれほど変化はないようで、別の世界の住民と出逢ってもほぼ齟齬がないまま会話をすることが可能で、文字もおおよそ読むことができる。
「(……それで、どうしますか?)」
撫霧が佩いた刀を一瞥する。
「(……話し声からすると敵の数は六体。……強行突破するのであれば斃せない数ではありませんが、かなり広い場所に位置取っているので、混戦中に増援に囲まれる可能性がありますね)」
「(だったら、土のコインを使おっか)」
ポケットからメダルゲームで使用されるコインを取り出す。
複野小雪。
スキル【タロットカード】。
大アルカナに属する22枚のタロットカードに由来する22種類のスキルと、小アルカナに用いられる火の杖・水の杯・土のコイン・風の剣を使用できるスキルである。
土のコインは地面に設置することにより、踏むと爆発音と煙で対象者の侵入を報せるセンサーの役割を果たす。
完全に初見であるため城の詳しい構造までは分からないが、城としての機能を意識するのであれば、小雪たちの出発地点である地下牢から囚人が脱走しても対処できるようにしているはずなので、恐らく地下牢の出入り口から最も近い扉が城の衛兵たちの宿舎へと繋がっている扉であり、そこにゴブリンたちが寝泊まりしているであろう。そこから増援を呼ばれると非常に厄介である。
ならば、増援が来た時に即座に対応できるように、トラップを仕掛けておくのが得策――。
「おいお前たち。そこで何をしているだぎゃ?」
小雪たちの会話がばっちり聞こえていたらしい。
階段前を警護していたゴブリンたちがぞろぞろと回り込んで四人を囲む。
「おれたちの財宝を盗みにきただぎゃね?」
槍・ハルバード・長剣。
武器庫に残っていたもので武装したのか、それなりに立派な装備を握ったゴブリンたちが並んだ。
「おっほん。ゴブリンちゃんたちに一つ言っておこう!!」
こんな時でもアイドルモード|(?)全開の夜暗森は先頭に立つと言葉を並べる。
「はじめちゃんたちの責務は、このダンジョンを攻略することにあるのだあ!君たちには即刻、この場を離れてもらおう!!」
『開拓屋』の仕事はダンジョンを攻略し、そのダンジョンを国が使える状態にすることである。
開拓地として国が使える状態にするためであれば、そこに生息するモンスターを生け捕りにしようが殲滅しようが、「ひしかわ開拓」がモンスターの安住の地として使っている愛知-006番ダンジョンへと誘致しようが自由である。
無益な戦いは避けたいのだが、
「……つまり、ここを乗っ取りに来た侵略者ということだぎゃね?我々をここから追い出すためにパルフィード王国の国王から遣わされた、討伐隊と言ったところだぎゃ?」
言葉を聞き入れるつもりはないらしい。ゴブリンたちが戦闘態勢に入ったので四人も身構える。
「これ以上人間どもに好き勝手はさせないだぎゃ!お前たちを皆殺しにしてやるだぎゃあ!!」
堰を切ったかのように怒涛の勢いで押し寄せて来るかと思ったが、人間が使える用に設計された武器は、ゴブリンたちの小柄な体系には不釣り合いのようだ。小雪は小アルカナの風の剣を生成し、よたよたと重そうにハルバードを抱えて向かってくるゴブリンを剣の腹で叩く。
「ぎゃっ!!」
と、体勢を崩したゴブリンは武器の重みに耐えられなくなったのか、そのまま床に転がってしまった。
その後も次々とゴブリンが向かってくるが、
「ぐ、ぎぎ……っ」
「……やはり、大したことありませんでしたね」
「要所を守る精鋭部隊だから」という理由で少しランクの高い武器を持っていたようだが、人間の腰回りくらいのサイズしかないゴブリンたちには使いこなせないらしく、小雪による風の剣の腹を使った打撃と撫霧の峰打ちによって先遣隊よりも呆気なく地に伏した。
「見てくれてたかなー?視聴者のみんなー?どうやらこのダンジョンにはゴブリンしかいないみたいだから、簡単に片付きそうだよー?ささ、次はゴブリンたちの親玉がいそうな場所へと行ってみよー!!」
いつでもスマイルを忘れない自称アイドル少女の眩しい笑顔を画角に収めると、ゴブリンたちが守っていた豪華な階段を昇る。
階段を昇った先には少し広くなった空間が出現し、正面には豪華な装飾がされた大扉が鎮座している。あれほどの幅がある階段を昇った先にある部屋となると、王族が控える部屋とみてもいいだろう。
「さあご皆目っ!!いよいよこのダンジョンのボスが登場するよー!!準備はいいかなー?!!」
「もう開けていい?何だかやりにくいんだけど……?」
「よく考えてよこゆきちゃん」
大扉のドアノブを掴んで引こうとしていた小雪を真剣な面持ちで見つめる。
「ダンジョンの中身をいち早く知ることができるのって『英雄』だけなんだよ?その選ばれた『英雄』であるはじめちゃんたちは、ダンジョンやモンスター・『英雄』たちのことをまだまだ知らない一般人たちに教えてあげるために、こうやって動画を撮って説明する責任があると思うの」
「っ!!」
そこまでの覚悟を以て動画の撮影を行っていたとは。雷に打たれたかのような衝撃が小雪の心の中を走る。
ダンジョンとモンスター、そして、それらを駆逐する宿命を背負った『英雄』が生まれて数年、まだまだ分かってないことや知られていないことばかりだ。
ダンジョンとは何なのか。
モンスターたちは何故出没したのか。
そして、昨日までごくありふれた日常生活を送っていた自分たちに何故スキルが与えられ、『英雄』となったのか。
それらのことを少しでも人々に考えさせるために、動画にして編集を行っていたということか。
「騙されちゃダメだぜ?小雪」
中からモンスターが飛び出てきても対処できるように、脇に撫霧を控えさせながら四方山が呟く。
「ダンジョンの攻略動画ってのはITubeでは超人気コンテンツなんだよ。こいつは再生回数と広告料で稼ぐことしか考えてないぜ?」
「…………」
本当にそうなのか。
開いた扉の先がしっかり見えるように少し離れた位置で待機していた夜暗森の方をちらりと見ると、
「えへっ☆」
かわいらしく舌を出していたので、スマートフォンを奪い取って配信を終了した。
「ああっ!!いい感じに視聴者たちが温まってきたところだったのに、どうしてくれるのさあ!!」
「この先にもっと強い敵が待ち構えている可能性だってあるでしょ?!そうなったら配信している場合じゃなくなっちゃうよ!!」
「ふんだ!こゆきちゃんもさえちゃんも強いんだから、こんな所で負けるわけがないんだもんね!!相手が弱いとヒーラーは仕事がないんだから、これくらいは許してよう!!」
「あたしなんてパッシブ型のスキルだから、その場にいること以外、何もやることがねぇぜ……」
隣から聞こえる四方山のアンニュイな呟きと、ぷんすかと怒る少女の怒声を浴びながら荘厳な扉は外側へと開く。
挨拶が遅れました。
本稿で初めて作品に触れていただくお方は初めまして!
前作、「異世界に転生したらラグナロクでした~~前世が飼育員の私が神獣たちを【テイム】して世界を救い、モンスターたちの動物園を作ります!!~~」やそれ以外の作品で会ったことがあるお方はお久しぶり!!藤井清流です!!
この欄には本稿の掲載を行っている「ノベルアップ+」か「なろう」にて、いいね・感想・コメント・・スタンプ・ブックマーク等がされた時のみに藤井が出現し、感謝の気持ちを述べると共に素敵(?)な話を認めて帰っていきます。
慣れないうちは「うわ……。めっちゃ後書き書いてある……。これも読んだ方がいいのかな?」とドン引きするかもしれませんが、時々作品の裏話をすることを除けば、十中八九作品の内容には関係しない話ですので、読み飛ばしていただいても全然おーけーです!!暇な時にでも是非読んでください!!
ではまた!これからもよろしくお願いします!!