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第16話:ダンジョンの後始末

『開拓屋』がしなければならないこと。

 それは、あらゆる危険因子を取り除き、()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「突然ダンジョンが出現した?そうだ!じゃあそこを攻略したら国の土地にしちゃおうよ!!領土内に発生した土地なんだから別にいいよね?!!」という、如何にも人間らしい考えの元、攻略が終わったダンジョンは基本的には国家が所有する領土になったり、民間企業が有する土地になったりする。『開拓屋』はそれらの業務に携わる不動産屋などの、スキルを持たない一般人が立ち入れるようにするために、あらゆる危険を排除しなければならないのだ。


「ねえこゆきちゃん……。人を生き返らせるタロットカードとかあったりしないの…………?」


 場所はカヂャラ王国国立植物学総合研究センターnC-1棟の3階。

 後頭部をこちらに向けたまま転がる一つの(むくろ)を見ながら、夜暗森(やぐらもり)が今にも泣きそうな声で話す。


【はじめちゃんのネ申ライブ!!】を使えば、声を聞いたモノの傷を治すことができるが、死者に対しては効果はない。先ほどから声を聞かせているにもかかわらず容態が変わらないことから、もう手遅れであることが容易に分かる。


「あることにはあるよ。でも、絶対に使わないって私は決めてるんだ」


 大アルカナの20番。

審判(Judgement)』。


 世界の終焉と共に天界から訪れた大天使ガブリエルがラッパを吹き鳴らし、最後の審判へと導くために死者を復活させる様子が描かれたそのカードの力は、任意の人間を自由に生き返らせる能力である。


「それを使えばさ、死んじゃったこゆきちゃんのパパとママだって生き返らせられるんだよね?使えばいいじゃん!使ってさ、この研究者を生き返らせれば――」

「やめとけよ」


 夜暗森の肩に手を置く。


「そうすることがいつでもできたのに敢えてしなかったということは、小雪(こゆき)には小雪の都合があるってことだ。あたしたちが詮索するようなことじゃねぇよ」


 CT(クールタイム)は8,760時間。

 一度使えば一年間使うことができなくなるスキルなのだが、問題はそこではない。


「私は神様じゃないんだからさ、私なんかが他人の命を自由に操れちゃいけないんだよ。誰に何と言われようと絶対に使わないよ」

「うええ……。死体が付けているものを外すのなんて、追剥(おいはぎ)みたいで嫌だよお…………」

「……ギラフ=セフトロ。……あの機械人形(ロボット)が言っていた名前と一致しますね。……この男がセンター長とみて間違いないようです」


 撫霧(なでぎり)が首に提げられていた身分証を外す。


 どのように世界が分岐した結果、愛知-016番のような高度に科学技術が発展した世界になったのかまでは分からないが、人々の見た目や文化・科学技術の発展度合にどれだけ違いがあったとしても、文字の進化にはそれほど大差がないようで、一部の文字を除けば問題なく読むことができる。会員証にも平仮名・片仮名・漢字が用いられていた。


「じゃあやっぱり、あの植物型モンスターに捕まって死んじゃったんだ……。ちょっとかわいそうかも?」

「少し意地悪な言い方だけど、自分で育てていたモンスターに捕まって食われたんだろ?自業自得だぜ」


 とはいえ、一人の人間の人生が終わったのだ。全員で手を合わせて数秒間黙祷する。


「この死体は『スターライザー』に報告すればいいよね?」

「全部『スターライザー』がやってくれればいいのになー。このダンジョンは気味が悪いから、はじめちゃんは早く帰りたいのだあ」

「あいつらはウチらと違って一般市民の民間企業だからな。あいつらがしっかり仕事できるように、あたしたちが整えてやるしかないのさ」


『開拓屋』が攻略し終わったダンジョンを政府・民間が利用できるように、ダンジョン内部の清掃などを行う者たちのことを『スターライザー』と呼ぶ。

 中には身の安全のために『英雄』を雇っている企業もあるようだが、基本的には配置しておらず、「『開拓屋』がモンスターを含めた危険を完全に除去している」という信頼を前提にしてダンジョン内部の清掃・補修などを行う民間企業であり、ダンジョンに足を踏み入れる最初の一般人である。


「……『英雄』でない人たちの安全を確保するためにも、警備ロボットの破壊と植物型モンスターの処分は行わなければならないでしょう。……棟ごとに研究分野が分かれているようなので、危険な場所に目星を付けて優先的に攻略しましょう」

「あんな感じの植物型モンスターがまだまだいるってこと?はじめちゃん戦いたくないなー」

「てめぇは直接は戦わねぇだろうが」

「ふんだ!役目のないヒーラーだって戦闘に参加してるんだから、ちゃんと経験値が入ってますよーだ!!」


 研究室長の部屋ということは、それぞれの棟で行われている研究について纏めた報告書や資料・パンフレットなどがあるはず。床に無造作に散らばった紙を拾い上げると目を通してみる。


「……『ハエトリカズラ』。複数の植物の特徴を混ぜ合わせた植物兵器である」


 その中の何枚かに小雪たちを襲った植物型モンスターについて書かれたものを発見した。全員に分かるように小雪が音読する。


「『一粒万倍(いちりゅうまんばい)計画』により少ない種から多くの植物を生産できる点に着目した私|(これはギラフが書いたレポートなので、主語はギラフだ)は、この生産技術を植物を使って相手の兵を殺戮・捕縛する兵器としての転用を考えた。人間を殺せる植物を短い期間に大量に生み出すことができれば、我々カヂャラ王国は戦争に人員を割くことなく相手の兵を殺すことができ、しかも、そのコストを水や肥料といった低コストで補うことができる。搭載されたAIによって敵味方を判断し、自動で殺戮を行う|自立型致死兵器システム《LAWS》よりも簡単に、誰でも兵器を作ることができる、夢のようなプランだ」


 人の生活に役立つ植物の研究。

『一粒万倍計画』まではその考えが念頭にあったのだろうが、何処でリミッターが外れてしまったのか。


「ハエトリグサ・ウツボカズラ・アルソミトラ=マクロカルパ・イチョウ・テッポウウリ・亀甲竜(きっこうりゅう)……。様々な種類の植物の特徴を合成することによって、私は最強の植物兵器を作り上げることに成功した。しかも偶然にも、その植物には魂が宿ったため、育成開始時から人間の殺害を学習させた。その結果――」


 これ以降の部分はハエトリカズラが腕から噴射した体液によって汚れ、判読できなくなっていた。


「とんでもない奴らだな。自分たちの拳では戦わずに、その行く末を人間を殺すために作られた植物たちに委ねようってか?」

「……その結末がこれです。……やはり、人間が植物を支配することなんてできないということですね」


 小雪が左手に持った炎の杖の上に紙を翳すと、黒い灰となって床に崩れ落ちた。


「先に行こうか。これ以上非道な研究が行われないように、私たちが徹底的に施設を破壊しよう」


 数分間資料を探した後、植物を使った兵器の開発・研究は研究室長の独断と暴走によるもので、土壌の悪い土地や空気の汚い場所で、より効率よく植物を育てるための研究が主として行われていることが判明した。他に植物兵器の研究がされている可能性は低いが、念のため一度も行っていないC-5棟を調査すべく来た道を戻る。



☆★☆★☆



「ねえこゆきちゃん。疑問に思ったことを言っていい?」


 何処までも続く長い廊下を歩きながら、ふりふりスカートにサイドテールの少女|(?)は何の気なしに口を開く。


「ここって全部で5棟にもなる建物が密集した、超大規模な研究施設じゃん?」

「うん」

「それなのに、さっきから研究員に一人も出逢ってないんだけど?これだけの規模の研究施設だったら、300人くらいはいてもおかしくないよね?」


 行き帰りの道中に警備ロボットとの戦闘はあったが、人間の姿は一度も見掛けていない。

 データを記したモニターがそのまま点けっぱなしになっていたりと、まるで研究者たちだけが忽然と姿を消してしまったようだった。


「植物の研究は全て機械に任せていて、研究者たちは遠隔でデータを取っているだけとか?」

「……そうであるならば、研究室内に雑用を(こな)すロボットがいるはずですが、室内には何もありませんよ?……人間が手作業で研究を行っていたと考えるのが妥当かと」


 数々の意見を念頭に置きながら小雪は思料に耽る。


 植物モンスターの暴走に『|戦車《The Chariot》』の使用。

 特に、戦車砲を使った攻撃は周辺にあった棟のガラスがほとんど割れてしまうほどの強い衝撃があったのだ。これだけ激しく暴れていて研究者たちが気づかないわけがない。


「……実はセンター長以外誰も使っていない、既に閉鎖された研究所だったとか。何か禁忌に触れるような研究をしたが故に、研究所自体が使えなくなっていた?」

「それにしては装置が現役フル稼働しているように見えるぜ?あたしたちがここに来た時は、超最新鋭のロボットがお出迎えしたしな」

「もし閉鎖された研究所だとしたら、センター長の部屋があるnC-1棟だけ使えばいいよね?特に使ってなさそうなC-3棟の機械までもフル稼働させる必要ないじゃんね??」

「ふはは!なかなか面白い仮説を立てるな!!」


 絶対にこの場の誰かが口にしたのではないと分かる、男の力強い声が薄暗い廊下に響き渡る。


「その疑問!オレが答えてやろう!!」


 まるでこちらが来るのを待ち構えていたかのように、廊下の角から男が姿を現した。姿を検める。


 上下が一体となった、いわゆる作業着(ボイラースーツ)をベースとしているようだが、所々に穴が空けられていたり、小さな棘のような飾りが施されているのを見ると、作業のしやすさよりもファッション性を重視しているようだ。


「……何者ですか?……あなたは?」

「神だ!!」


 ……ごく少数だが、「神」と書いて「かみ」と読む苗字が存在する。まさか「god」の意味ではないだろうと四人が続きを待つと、


「オレは機械神バーナード!このカヂャラ王国国立植物学総合研究センターがあった、1583,2137番世界を統べる機械神だ!!」


 本当に「god」の意味だった。あまりの図太い態度に唖然としてしまう。

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