表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/43

第14話:活路を斬り開く

 モンスター対策庁の偉い人の話によれば、こちらの世界に現れたダンジョンは、「テトリス」の床に落ちる前のテトリミノのような状態だそうで、ダンジョンから元々あった異世界とは隔離されているものの、小雪(こゆき)たちのいる世界とはまだリンクができていない状態なのだという。

 そのため、こちらの世界との接続を確定するまではダンジョンは、異空間の中で宙に浮いているような状態になっているらしい。


「きoypirfdkbvsそ!!」


 宵闇(よいやみ)とも暁闇(ぎょうあん)とも取れるような色をしているにもかかわらず、太陽が照らしているかの如く明るい空を背景に、全長4m以上はある植物型モンスターは吠える。


「一気に決めるよ!!」


 あれほどの巨体でしかも植物となれば、肉弾戦でちまちま戦うよりも、炎を浴びせた方が大きなダメージが与えられるはず。持っていた風の剣を地面に突き立てると炎の杖を生成し、杖の先から火の弾を射出する。


 一つ一つが強力な能力を持っている大アルカナのカードと違って小回りが利く分威力が低いが、風の剣の脇を通り過ぎたことによって空気を吸い込み火力が上昇。握り拳くらいのサイズだった火の弾が人間の頭以上のサイズへと肥大して一直線に赤の軌跡を描いて飛来する。


「ごtspcxbれassphto!!」


 無論、これを黙って受け入れるほど植物モンスターも馬鹿ではない。撫霧(なでぎり)に斬られていない方の腕を伸ばすと、炎の弾を受け止める。


「あいつ、自分から受けに行ったよ!!これで決まったんじゃない?!!」


 弾が直撃した腕は炎に包まれ、モンスターの表面を炎が覆っていく。

 このままモンスターの全身を炎が覆うかと思われたが、軽く腕を振っただけで表面を焦がしていた炎が消え去ってしまった。


「どうなってんのこれえ?!!超合金でできているとか?!!」

「……片腕を斬った感じでは金属質ではありませんでした。……植物なのは間違いないでしょう」

耐火樹(たいかじゅ)ってやつじゃねぇか?」


 四方山(よもやま)が呟く。


「樹皮が厚くて水分が多く含まれているから燃えにくい樹があるって聞いたことがあるぜ。確か銀杏(いちょう)の樹がそうだった気がする」

「じゃあ、植物なのに燃えないってこと?」

「……ならば、まずは防ぐ手段を断ちましょう」


 構えた日本刀が不気味に紫電を放つ。


「……要するに、あの燃えない腕を斬り落としてさえしまえば、攻撃を防ぐ手段はなくなるわけですよね?……それなら複野(おちの)さんの攻撃も通るように――」

「ばwgsloywどmdqesa!!!」


 こちらの作戦会議を待ってはくれないようだ。ラグビーボールのような球体を先端に付けた蔓を無数に伸ばし、こちらへと向ける。

 まるで、銃口をこちらに突き付けるように。


「ねえ(ゆい)さん。唯さんって植物に詳しいよね?」

「年の離れた弟や妹の自由研究とかを手伝っているうちに、すっかり詳しくなっちまってな。多少は詳しいぜ?」

「じゃああの植物は何……?」

「本物はあんなにデカくはねぇから分からねぇけど、テッポウウリじゃねぇかな?」

「テッポウウリ?」

「あの膨らんだ果実の部分を破裂させることで、時速200kmで種を飛ばすんだぜ!!実際のテッポウウリの果実は、小指の爪よりも少し大きいくらいの大きさじゃなかったかな?」

「へええ、詳しいんだね……」


 こちらへと無数に向けられたラグビーボールサイズの果実を見る。


 実際のテッポウウリは全長30cmくらいの非常に小さな植物らしい。

 その小ささの植物の果実から時速200kmで種が射出されるとなると、ラグビーボールほどのサイズとなった果実から、どの程度の火力が出力されるか。


「……【鉄心――」

「スキルは温存しておいて!削穢さん!!『|女教皇《The High Priestess》』!!」


 制した小雪が叫ぶと同時に、小雪たちの両脇に白い柱と黒い柱が同時に出現し、柱と柱の間に見えないバリアを展開する。


 大アルカナの二番・『|女教皇《The High Priestess》』は、イェルサレム宮殿にかつてあったとされる黒い柱と白い柱・ボアズとヤヒンの前に静謐と佇む神聖な女性の姿を描いたカードだ。

 二本の柱が門を象徴し、柱と柱の間に聖職者の女性が立ち、その先に広がる空間を布で覆い隠していることから、その先は常人には簡単に入ることができない神聖な空間であり、女性はその空間を守護する門番のような役割を果たしている。


 ごんがんがんがんごんがん!!!


 守れる範囲は柱と柱の区間。

 耐久力は柱が壊れるまで。


 見えないバリアに弾かれて種の弾丸が四方へと跳ねる。


「思ったより激しいね!!そんなに長くは()たないかもっ!!」

「これって結局延命にしかならないよね?!!どうすんのさ!!」

「……やはりここは私が出ます。……折角のお気遣い申し訳ありません」


 刀の柄を握りながら和装に長いポニーテールの少女が一歩前に出る。


「……【鉄心石腸】を使ってなるべく鉄砲瓜を斬り落として参ります。……その間に複野さんは攻撃の準備を」

「スキルの発動時間そんなに長くないよね?!ここで使っちゃって大丈夫なの?!!」

「……(わたくし)ならあの弾を全て無効化し、無力化することができます。……スキルを使うのであれば好機だと思いませんか?」


 二本の柱が立っているだけなので、抜けるのは非常に簡単だ。柱よりも前に出ると、その小さな身全体で弾雨を受け止める。無論、鋼のような硬度となった少女の身体に当たった弾は弾き返され、その役目を終えて虚しく地面へと落下する。


「……来なさい(ここめ)。……あなたの相手は(わたくし)です!!」


 その言葉を最後に少女は殺戮の雨の中へと駆け、踊るように剣戟を閃かせる。


 撫霧の目的は一つ。

 耐火樹でできたもう一本の腕を斬り落とすことだ。


 あの腕さえ落としてしまえば小雪が放つ超火力が通るようになるため、そのための道標(みちしるべ)を作る。


「……ふっ」


 物理攻撃に対して圧倒的な防御力を誇る【鉄心石腸】を発動させれば、音速に近い速さで飛ぶ弾丸も涼風に等しい。戦場の中央で静かに息を整えると、爆発前の果実を実らせた茎を根こそぎ削ぎ落す。


 テッポウウリの性質上、一度種を飛ばしたら再装填することができないため、弾数は一瞬のうちに減っていった。地面に飛び散った種を踏み締めると、がら空きとなった正面へと一息に駆けて間合いを詰める。


「うjlaxcgろvb!!」


 無論、モンスターは侵入を許さない。

 対するこちらもモンスターの攻撃を許さない。


「……撫霧流奥義・刀流捫(とうりゅうもん)!!」


 振り下ろされる太い茎に対して流れるような太刀筋で逆袈裟状に刃を差し込むと、「捻り潰す」の意を持つ「捫」の字を体現するかの如く、一息で刃の軌跡が貫通する。まさに、()れるような()捌きで圧倒し、一瞬にして相手を()り潰す技である。


「がqkhtopべasrcぼwlfgちぇ!!」


 切断された太い茎は体液を飛ばしながら宙を舞うと、虚しく地面の上を転がった。痛覚があるか否かは定かではないが、呻くような声が研究所を木霊する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ