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第10話:名古屋の迷宮

 便宜上、我々が住んでいる世界の土地に出現した、モンスターたちが出没する迷宮のことをダンジョンと呼んでいるが、現実世界にも『迷宮』という意味でのダンジョンは存在する。


 それは名古屋の地下街だ。


「外の空気暑い……。目的地まで移動するために地下道を使おう」と踏み入れたが最後、前後左右の感覚から何処から入ったかまで分からなくなり、挙句には地下にいるためGPSの位置情報がバグって使えなくなったりする。等間隔で並べられたテナントがいくつも並ぶことも相まって、本当に迷宮に迷い込んだのかと錯覚してしまう。


 今回攻略の対象となった愛知-016番ダンジョンは名古屋の地下街にある空きテナントに出現したそうなのだが、名古屋の地下街と言っても、女性向けのファッションブランドの店が多く並ぶ「コニモール」や、お土産屋を中心とした「LESCA(レスカ)」・味噌カツなどのご当地食の店をはじめとした飲食店がずらりと並ぶ「うみゃあもん通り」など、10種類を超える別々のテーマを持つ通りが名古屋駅を中心として十字型に広がっている。


 規模の大きさや複数の通りが複雑に入り組むことから名古屋の駅地下は時々『迷宮』と呼ばれ、数多もの愛知県民を行方知らずにしたダンジョンでもあるのだ。


「ね、ね、はじめちゃんがいて良かったでしょ?!!ねねねねねねねね!!!」


 こんな時、流行にミーハーな人物がパーティにいたのが幸運だったのかもしれない。ツーサイドアップにかわいらしいリボンを付けた少女が、ふんす、と荒い鼻息を出す。


 夜暗森(やぐらもり)(はじめ)は普段からSNSで気になった店をリサーチするために名古屋に出掛けることが多いらしく、愛知県民でさえも迂闊に立ち入ることが許されない秘境を「庭」と言い放った。

 その自信を頼って三人で金魚の糞のように後ろをついて歩いていたのだが、その結果、一度も迷うことなく目的地に到着したのである。


「凄いな……。愛知県生まれ愛知県育ちのあたしですら、こんな所に来たことがないぞ……?」

「それは単に、ゆいちゃんが名古屋の地下を知らないだけですー。っていうか、さすがにここは行ったことあるよね?!目的がなくても迷い込んだことくらいはあるよね?!!アニメショップに行く途中にふと気になって、「L1」って書かれた看板から少しだけ入ってみたことくらいあるよねえ?!!」


 場所は「LESCA(レスカ)」の中にある空きテナントの一つ。

 店舗が入っていた部分が丸々一つダンジョンの入り口となり、こちらに向かって大口を開けていた。


「こんな所にもダンジョンって出るんだね……」


 当たり前のように人が通る場所とあってか、一般人がうっかり入り込まないように自衛隊や警察と思しき人が数人、入り口付近に見張りとして立っている。


「地下街ってのは出入口が狭いからな。制御や封鎖は簡単にできるだろうけど、戦車を入れてド派手に行くことができないうえに、跳弾を避けて銃火器類の持ち込みもできないってわけか。こいつは早く片付けないと面倒だぜ」

「しかも、この地下街に並ぶ店は有名なお店が多いからねー。昼夜を問わず人がたくさんいるよっ!!」

「……いくつかの出入り口が名古屋の主要な道路の脇に設置されていますからね。……早く潰してしまわないと、このダンジョンを中心に名古屋の街へと大量のモンスターが放たれることになってしまいます」

「よし、行こうか」


 元々が何の店舗だったのかは全く分からないが、店舗一つ分が四角く切り取られたかのような闇となっている。

【タロットカード】の小アルカナの一つ・炎の杖を明かりとして生成すると、四人はダンジョン内部へと身を滑らせる。



☆★☆★☆



「何だこれ?何かの研究施設か?」


 元々教室だったのか会議室だったのか、それとも講義を行う部屋だったのかは分からないが、少し大きめな部屋が一つそのまま()り抜かれてダンジョンの出入り口となっていたようだ。ダンジョンに踏み入れてすぐに廊下に到達する。


「かなり文明が進んでるみたいだね……。『未来世界』かな?」

「……少なくとも(わたくし)たちの住む世界よりは高度な文明を持っているとみて間違いないでしょう」

「だったらさ、明かりには懐中電灯を使った方が良くないか?重要な研究施設っぽいし、設備を守るためのスプリンクラーみたいなやつがあるかもしれねーぜ?」


 四方山(よもやま)の言っていることは一理あるかもしれない。炎の杖を消し、全員で所持している懐中電灯を用意する。


「ここってさ、高度な文明を持った研究施設っぽいよね?電気が通ってるっていうんなら、折角だからヘアアイロンの充電しちゃお!……お、あったあった。ちゃんとコンセントもあるじゃーん!!一度やってみたかったんだよねこれ!!」


 生活水準が近いかそれ以上ということは、自分たちがしている生活とほぼ同じことができるということでもある。「関係者以外使用禁止」と書かれたテープをぺりぺりと剥がしてコンセントの穴を確認すると、


「ほ、ほぎゃあ!!何これえ?!!」


 思わず叫んでしまう夜暗森。


 何故なら、コンセントの穴の形が四角形の挿し口に黒い丸が四つ、麻雀牌の筒子(ピンズ)(スー)のように並んでいる形だったからだ。日本で普段使われている漢数字の「二」を横向きにしたような形とは大きく異なっている。


「何なんだようこれ!!プラグが挿せないじゃないかよう!!断么九(タンヤオ)でも決めろってのかよう!!」

「あたし、幼い時に海外旅行に行ったことがあるから覚えてるんだけど、日本と海外とじゃ使っているプラグの形も違えば、コンセントに流れている電圧も違うんだってさ。だから、日本の規格のプラグを海外に持って行ったところで使い物にならないから、形の違うプラグとか変圧器が必要なんだよ」


 例えば日本の家庭用電気には100Vの電圧が使われているが、アメリカでは120V、イギリスでは230Vと240V、フランスでは127Vと230V、ロシアでは127Vと220V、中国では110Vと220Vが使われている。


 コンセントの穴の形も国によって異なり、日本で唯一使われている「A型」と呼ばれるコンセント穴の規格はイギリスでは使われておらず、フランス・ロシア・中国では「A型」以外にも「BF型」・「C型」・「O型」などの様々な型が国内で使用されている。

 ちなみに、アメリカでは日本と同じく「A型」しか使われていないため、電圧さえ変更することができれば問題なく電子機器が使用できるようだ。


「ぶーぶー。充電できないのかよう。そういうのは早く言ってくれよう。何のために充電切れたヘアアイロンをワクワクしながら持ってきたと思ってるんだよう」

「あたしは髪が短いからヘアアイロンなんて使わねぇし、出掛け先のダンジョンでヘアアイロンを充電するやつがいるかっての!!そんなもんはあたしの知ったことじゃねぇよ!!」

「どちらにせよ盗電だよねそれ……。施設の設備なんだから勝手に使っちゃだめでしょ」

『何かお困りでしょうか?』


 心臓が止まるかと思った。声が反響するよりも先に標的の存在に気づいていた撫霧(なでぎり)が睨む先を見る。


『質問をどうぞ。ワタシの顔に向かって話してみてください』


 暗闇から姿を現したのは、全長1.2m程度の自立歩行型ロボットだった。

「なろう」にてブックマークが1件増えました!ブックマークしてくださった方ありがとうございます!!



 前回は思わずデュエマの殿堂予想をしてしまったので、今回は少し真面目なお話を。


 今回は、どうして「なろう」でメディア化する作品は同じような作品ばかりなのかを藤井の愛して止まない、図書館学における価値論と要求論の観点から見ていきたいと思います!!


 図書館学において、

 価値論とは「図書館に配置する本は、図書館の職員が選定し、利用者たちにとって有益だと判断した本を並べるべきである」

 という考え方で、


 要求論とは「図書館に配置する本は、利用者が望む本を配置するべきである」

 という考え方です。


 しかし、価値論にばかり寄ってしまうと、図書館の職員が独断と偏見だけで決めた画一的な見方の本ばかりになってしまうし、要求論にばかり寄ってしまうと、一部の利用者にだけ有益になる、非常に偏った本の配置になってしまう。


 そうなってしまわないように、価値論と要求論のバランスを心掛けることが非常に大事ですよ、という理論です。



「なろう」でメディア化される作品に似たような作品が多いのは、この価値論と要求論のバランスが崩壊してしまったからだと思っています。


 転生・チート・ハーレム・俺TUEEE・もう遅い・内政・TS・悪役令嬢・フェンリル――。

 昨今はこれらの要素を取り入れないと、そもそも読者の目に留まらず、読んでもらえないことが多くなっています。


 その結果、読者が好む要素だけで固められた欲求論的な作品ばかりが読まれる傾向が生まれ、作品に価値論が重視されなくなりました。


 では、作品に価値論が取り入れられないとどうなるか。

 個性のない画一的な作品となります。


 藤井は文学において価値観とはすなわち『作者の主張』だと思っていて、「俺は作品全体を通してこういうテーマを伝えたいんだ!!」・「この作品は他の作品と比べて、こういう所が違うんだ!!」と作者が読者に訴えかけることこそが、その作品を他の作品と差別化する方法だと思っています。


 それが作品から削ぎ落された結果が、端から見れば同じ、と言われてしまう、似たり寄ったりな作品たちの正体なのではないでしょうか。



 ちなみに、本稿を含めて藤井は作品を書くときに、価値論と要求論をだいたい6:4くらいの割合で混ぜた作品を書くように心掛けています。

 と、いうか、こういう作品がもっとライトノベル業界に増えてほしいと藤井は切に願っています。



 ではまた!これからもよろしくお願いします!!

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