二章《銀の悪魔と緋色の瞳》/2
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お盆に差し掛かり、足は完全に回復した、八月十四日。
私は、恐らく出逢った。
髪は、燃えるような朱色。瞳は紫紺。
その紅の髪を、無造作に一つにまとめている。
――――――直観した。
◇
その日、私は、山本の話を頼りに、その女を探していた。
だが、河川敷や、橋の付近には、人すらもほとんどいなくて、そこらの住人に聞いても、「そんな人は見たことがない」の一点張りだった。山本が言っていたような特徴のある人物なら、見逃すはずがないので、事実なのだろう。
かれこれ、五時間は探した。
夏の暑さは、全くと言っていいほどに衰えることはなく、体力だけが摩耗する。
ビルが立ち並ぶ、駅前。
少しさびれた感じを思わせる、廃ビルが立ち並んでいる。
シャッターには、趣味の悪い落書きや、これもまた趣味の悪いチラシが所狭しと張り付けられている。陰鬱な空気が飽和しているように感じる。
私はその中でも、一際目立たないビルが気になった。
まるで、見つからないように、ひっそりと佇んでいる。
私は何の躊躇もなく、その五階建ての廃ビルに入る。
澱んだ空気を吸わないようにか、呼吸は浅い。
窓ガラスは割られ、室内は、コンクリートの外壁が丸見えの状態だった。
電気線のようなものが、天井からぶら下がってきていて、階段は無く、かろうじて脚立が備え付けられているだけだった。
私は、導かれるようにして、四階に上がる。
そこは、異様だった。
一階から三階とは違って、そこには家具があった。
革張りのソファに、ベッドまであるらしい。
元々は図書館だったのだろうか。所狭しと本棚が並んでいて、乱雑に本が並べられている。
感じるのは、砂埃と、古書の香り。
その本に囲まれた異様な風景の中心には、一人の女性がいた。
髪は、燃えるような朱色。瞳は紫紺。
その紅の髪を、無造作に一つにまとめている。
――――――直感した。
「お前が、元凶だな」
目の前の女は、手に持った古書をパタンと閉じ、
「待ってたよ―――――――私の幻影。」