プロローグ
「なあ、チェリー。私は、一体何者なんだろうね」
私の隣に寝そべる黒猫に話しかける。瞳は桜色をしているから、この名前になった。
チェリーは私の事なんてお構いなしに、眠っている。
「詩織さんはよくしてくれるし、清水さんにだってかわいがってもらってる。だけど、それはきっと偽物なんじゃないかな。だって私は――――本物の家族じゃないから。」
母を亡くし、父は音信不通。祖父祖母ともにおらず、両親に兄弟はいない。
親権は母にあったので、母が死んだときに、私には二つの道があった。
一つは、孤児として生きること。
もう一つは、こうして、母の唯一の友人であった詩織さんのもとに行くこと。
「私がいることで、何もかもうまくいかないような気がするんだ……。きっと誰も気づいていないけれど。」
問題は必ず私の周りで起こる。それは事実としてではなく、なんとなく、の範疇であるが。
自意識過剰と言われても――――まあ、仕方がない。
「魔法使いか……」
母は、魔法使いだった。微かな記憶に残っている。
銀色の髪。そして、燃えるような緋色の瞳。
細部は曖昧だ。母親の記憶はこれがほとんど。
私に力があれば。と何度願ったことか。
クラスが崩壊する度に、暴力事件は度々起こっていた。
その都度、私が止める力があれば。そう願わなかったことはない。
魔法でも、言葉でもよかった。
だけど私にはそんな力はなくて。
だから――――――私は、私が、どうしようもなく嫌いだ。
弱く、醜く、それでいて美しくあろうとする。いや、美しくあってしまう。
そんな私がこれ以上ないほどに嫌いだ。
「きっと――――――」
どんな魔法を使っても、これだけは変わらない。