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今更ですが、クレッセンは好きな子には「僕」、嫌いな子には「俺」と言い、言葉遣いも若干変わります。

二重人格なわけでも一人称がごっちゃになっているわけでもないですm(_ _)m

ルリアーナの言葉を受けて、クレッセンは黙って俯いていた。

まるで言い負かされて意気消沈しているようにも見える姿だが、そうでないことは顔を上げた彼の目を見ればわかる。

目の奥に昏い炎が揺らめいていた。

「ふざけるなよ」

ギチリと耳障りな音を立てて歯を食いしばり、「フーッフーッ」と威嚇する猫のような呼吸に合わせて肩を上下させている。

「ここは俺が復讐するための世界だ。俺の邪魔をした野田芽衣子、俺を追ってきた中村美涼、そして俺を殺した柳井美紀子!この3人が悪役令嬢として惨めに人生を終え、俺が愛したヒロインたちの協力で、最愛の優里花が俺と恋に落ちる。そういう世界なんだよ!!」

クレッセンは大きく両手を広げ胸を反らし、天に向けて声を張る。

「俺がこの世界を創ったんだ!!柳井美紀子に刺された後、生死の境にいた俺は悪魔に出会い、俺とその3人の魂と引き換えに願いを叶えてもらったんだ!!」

クレッセンは目を剥きながら叫ぶと、ぐわりと勝手に願いの代償にしたらしい3人、ルリアーナとリーネとアナスタシアを振り仰ぐ。

「俺はこの世界の創造主であり、影の主人公だ!優里花と出会うそのためにこの身に、復活直後の魔王の体に宿り、死んだ加奈絵ちゃんの力も取り込んだ!そうやって俺が築き上げた世界で、俺の意志に従わない道理があるか!!ああ!?」

そのまま怒りに身を任せてルリアーナの言葉を真っ向から否定する。

彼の言葉を信じるならば、彼は死んだ後から転生するまでの間に悪魔と契約し、この世界を創ってルリアーナたちを転生させたということだ。

やはり彼がこの世界に彼女たちの魂を引っ張ってきたというのは本当らしい。

しかもその体は魔王となるはずの器で、どうやってかは知らないがカロンの能力をも取り込んでいるのだという。

なるほど、魔王の力でヒロインの魅了を操れたなら、あれほど強力だったのも頷ける話だ。

ガードするように扇で口元を隠しながら情報をまとめていたルリアーナを睨んでクレッセンは再度吠えた。

「俺に転生させられただけのお前が、勝手に俺の世界を変えるな!!」

ここでは俺がルールだと、全身でそう叫んでいた。

当然、ルリアーナは扇の陰で顔を顰めて「ふざけるな」と言い返そうとした。

そんな道理が通るわけがないと。

だがそれより先に声を上げた人間がいた。

「貴方こそ、何をふざけたことを…!!」

そう言いながらルリアーナの前に立ったのは、それまでルリアーナの背後から動かなかった優里花だった。

小さく震えながらも二本の足でしっかりと床を踏みしめ、薄い肩を怒らせている。

「勝手に人が描いた世界を利用して、勝手に皆を転生させて、勝手に未来を作ろうとして!!それだけでも許せないのに、なんでそんな貴方に私が恋しなきゃいけないの!!」

優里花は涙を浮かべながらもその目に激しい怒りを宿してクレッセンを睨みつける。

「それにお姉様のせいでカロンが死んだって言うけど、もしあの時カロンが生き残ってお姉様が追放されていたら、その後に追放されるはずだったアデルちゃんやイザベルちゃん、もしかしたらルカリオを探していたシャーリーちゃんだってこの世界で死んでいたかもしれないのよ!?そもそもここにいる皆の中には貴方のせいで死んだ人だっているんだから、人殺しとお姉様を責めるのは間違っているわ!」

優里花はクレッセンを厳しい目で睨みつけてそう言いながらズンズンと彼に近寄っていく。

お調子者ながら朗らかでニコニコしている優里花しか見ていなかった面々は、彼女のあまりの迫力に止めることも忘れてその背を眺めていた。

「第一、漫画の魔王は二次元だけど、生まれ変わって現実として会うなら三次元よ。私は男は二次元までしか無理だから、貴方とどうにかなる未来なんて最初からないわ!!」

「……え?」

そうして目の前に立った優里花の言葉に、クレッセンは呆けたような声を上げる。

根本的な食い違いがあったことにようやく気がついたように。

「前世で貴方に追われて逃げたのも同じ理由。私は男の人が苦手なの。だからどんな形で出会おうと、貴方と結ばれることなんて未来永劫ない!」

「そんなっ!?」

「ていうか、なんでそこまで私に固執してるのか、今になっても心の底からわからない!なんで私を追いかけるの?」

優里花は怒りがなせる業でクレッセンの、神狩勇気の動機を単刀直入に訊ねた。

今まで聞く機会もなく、推測ではわからなかった、事件どころか転生にまで関わっていたらしい彼の思いを。

優里花の質問に目を丸くしたクレッセンは「え?だって」と意外そのものといった顔でこう言った。

「あの日、僕と目が合ったじゃないか。運命の人を求めて歩いていた僕と」

それ以外に理由が必要か?と彼は至極当然のように宣ったのだが、

「はあああぁぁぁ!?たった、たったそれだけの理由!?」

それを聞いた優里花は腰に両手を当てて限界まで肩を怒らせた。

思った以上にどうでもいい理由だったことが、優里花の怒りを頂点へ導く。

「言っとくけど、あの時の私は『うわ、なんか変な男がいる!』以外の感情なんて抱いてなかったからね!!」

そしてその怒りのまま、クレッセンの恋にとどめを刺した。

クレッセンはショックを受けた顔で「え…?そんな……、う、嘘でしょ?ねぇ…?」と呟きながら縋るような目を優里花に向けたが、優里花は「ふんっ!」と鼻息も荒く踵を返し、ルリアーナたちの元へ戻っていく。

そうしてその場は絶望に沈むクレッセンと怒りが収まらない優里花、そして急な展開に呆然とする残りの11人が立ち尽くしているという状況になってしまった。

「……えーっと?これ、どうなるのかしら?」

自分以外の10人を見回しながら急に齎された幕引きに頬を引き攣らせたルリアーナの問いに、しかし誰もが答えることはできなかった。

読了ありがとうございました。

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