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「まずこの世界を創ったに等しいということについてご説明します」

事情を知らない男性陣が絶句する中、無情にもルリアーナの説明は進んでいく。

「この世界が私たちの前世にあったゲームの世界と同じで、且つそのゲームの漫画版の世界線だったという話をいたしましたが、その漫画の作者がここにいる優里花なのです」

つまりこの世界は優里花の描いた世界が具現化したものだと。

ルリアーナはそういう意味で優里花がこの世界を創ったに等しいと言ったのだが、

「ごめん、ちょっと一旦待って?」

「少し考えをまとめる時間をいただいてもいいですか?」

あちらの世界について俄か知識しか持っておらず理解が追い付かない男性陣は一度理解したものと今聞いたことを頭の中で整理する時間を欲した。

「……ええと、つまり、リアの言う『ゲーム』をこの世界の『創世記』に置き換えて説明すると、リアたちは創世記の読者で、死後創世記の人物に転生したと思っていたけど、実は転生した先はユリカ嬢が創世記を元に書いた『新説創世記』の中で、ユリカ嬢も死後その新説創世記の主人公として転生した。そんな感じで合ってる?」

ややして一番先に答えに辿り着いたのはヴァルトだった。

彼はこの世界にないものをあるものに置き換えて自分の理解度を確かめる。

その説明に考えること自体を放棄していたルカリオは「おお、なるほど?」と頷き、ルリアーナも「その認識で合っていると思います」と頷いたため、ひとまずはヴァルトの説明内容で全員の認識が揃った。

「ですので彼女はこの世界に誰より詳しいはずです。それは僥倖と言えるでしょう」

このことについてはまだ話を詰めていないのでその恩恵は不明だが、この世界の正しい姿を知っているというアドバンテージは相当だろうと推測できる。

それは誰もがすぐに思い至るものであろうとルリアーナはこの話題についてこれ以上説明することはなく、早々に次の話題へと移った。

「次にストーカー事件のきっかけだったという話ですが、これは皆様にあまり関わりがないとは思いますが、気にかかっていることだとは思いますので合わせていただきます」

ルリアーナのその言葉にヴァルトたちは頷き、険しい顔で続きを待っている。

彼女たちの目的のメインはそちらだと理解していたし、何より自身の最愛が関わっていた悲惨な事件について、ルリアーナが言った通り彼らもまた真実を知りたいと考えていたからだ。

「ストーカー事件のきっかけ、それが私たちが通っていた学校の女子生徒にストーカー男が振られたせいだったという話をアデルちゃんから聞きましたが、その男を振った女子生徒というのが優里花だったのです。ですが」

ルリアーナはそこで言葉を切り、大きく息を吐いた。

そして気持ちを落ち着けるように二度三度と深呼吸をすると、意を決して口を開く。

「ですが、正しく状況を言えば、男にしつこく言い寄られていた優里花を庇い、男を退けたのは私でした」

「ルリアーナ殿が?」

「はい。たまたま近くを通りかかりまして、あまりにも優里花が怯えていたので彼女の代わりに男と対峙しました」

今までルリアーナの話に上らなかった意外な繋がりに驚くガイラスに肯定を返しながら、ルリアーナはその時の状況を語る。

「私自身はそのことを日常の一つとして完全に忘れていましたが、男はその出来事のせいで私たちの学校の女子生徒に執着を持ってしまった。その結果の被害者がここにいる皆と私の妹です。しかも男は私の顔をしっかり覚えていて、私と再会した時には恨み言を口にしていました。今まではその言葉の意味がわかりませんでしたが、優里花の話とアデルちゃんの推測のお陰でその意味と恨みの理由がわかりました」

さらに自分との二度目の邂逅についても話し、その推測が確信になった理由も語った。

男の恨み言を聞いたという裏付けがあったからこそ、このことがわかったのだと。

同時に、彼女たちの死の根本的な原因に自分も関わっていると。

「ですから、この事件は私が優里花を庇ったせいで恨みを募らせた男が起こした事件だったということが判明したのです」

前世の彼女たちがあんな最期を迎えたのは自分のせいなのだと、はっきりとルリアーナは伝えた。

こういう言い方をすれば、もしかしたら彼女らを深く愛する彼らには詰られるかもしれない。

本来ルリアーナが彼らに責められる謂れはないが、それでも彼女たちが自分を責めなかった分、彼らの言葉を受け入れようと、むしろ受け入れなければならないと考えていた。

そうすれば、自分の罪が少しでも償われたように思えるから。

そうすれば、贖罪代わりになるような気がしたから。

ルリアーナは自分の狡さを自覚しながら、それでも消えることがない罪の意識の昇華場所を求めていた。

「そうですか」

ルリアーナの言葉にいち早く反応したのはガイラスだった。

彼の愛するアナスタシアが誰よりも無関係であることを考えれば、それも妥当かもしれない。

一体どんな罵声が飛んでくるのだろうと、ルリアーナは重ね合わせている両手にぐっと力を入れた。

「ならば不謹慎かもしれないが、私は貴女に礼を言わねばならない」

しかしガイラスが発した言葉は予想外どころか予想の遥か斜め上をいっており、ルリアーナは「…は?」と呆けたような声を上げた。

「この事件が起きてくれたから、私は今のアナスタシアと出会えた。こんな『もしも』は意味がないのだろうが、アナスタシアが元々の性格であったり、今とは異なる人物が転生した状態であったら、私はここまで彼女を愛せなかっただろうと思う」

「が、ガイラス様!?何を…」

その隣で突然惚気られたアナスタシアは顔を真っ赤に染めて慌ててガイラスの言葉を遮ろうとする。

だが彼に目で止められたためおどおどしながらも大人しく座り直した。

「確かに貴女の行動は彼女たちの人生を終わらせたきっかけだったかもしれない。だが私にとってみれば、この素晴らしい出会いのきっかけだと言える」

彼はそう言うとにっこりと笑い、

「何事にも良い面と悪い面がある。貴女に見えているのは悪い面だけのようだが、良い面にも目を向けてほしいと願う」

言いながら傍らにいるアナスタシアの手をそっと握った。

アナスタシアははにかみながらもその手を握り返した。

「全く以ってその通りだと私も思いますよ」

さらにガイラスに被せるようにオスカーも口を開く。

「貴女のお陰で私はこのイザベルと出会い、一度は壊れかけた関係も修復してもらえた。そんな貴女の行動はきっとこれからも多くの人の救いになる」

彼もまた隣にいるイザベルの手を握ると、

「過去は変わりません。そして後悔するなと言っても無理なことはわかります。ですが、後悔に囚われても意味はないのです。これからできることは、起きたことを受け入れて、償いながら前に進むことではないでしょうか」

穏やかな顔でルリアーナの目を真っ直ぐに見つめる。

それはゲーム画面では見たことがない、オスカー本来の知性が滲む優しい笑顔だった。

隣のイザベルも同じだけの優しさでルリアーナに笑い掛けている。

「そうですね。取り立てて今できることと言えば」

今度はライカがオスカーの後を継ぐようにそう言って「あら、ライカ様もですか?」と笑うアデルの手を取ると、

「今起きている問題を僕たちと一緒に解決することでしょうか。そして無事に終わった時、貴女には誰よりも晴れやかに笑う権利があると思います」

彼女と一緒に屈託のない笑顔をルリアーナに向けた。

3人の言葉と6人の笑顔にルリアーナが抱いたこの感情を何と言うのだろう。

許されたことへの安堵?

受け入れてもらえたことへの喜び?

責められなかった安心感?

「……っ」

多分そのどれでもなく、

「ありがとう…、ございます」

ただひたすらに深い、感謝の思いだった。

読了ありがとうございました。

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