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区切りの都合で短いお話が続きます。

「なんだ、結局そいつも姫さんの知り合いか」

「ええ。高校の時のクラスメイトなの」

「はい!お姉様の信者です!」

倒れている全員を順番に起こしてルリアーナを救出したルカリオは優里花とルリアーナが知り合いだったと聞いて「またか」という顔をした。

しかし問い掛けへの返答から感じる2人の認識の差に何とも言い難い表情を浮かべると、

「………よくわかんねぇけど、とりあえず旦那たちも呼んでくるな」

と言って部屋を出た。

優里花の異様なテンションの前に逃げたのだ、とは言わないでおいてあげよう。


ルカリオが呼びに行ったヴァルトたち王太子の他、フージャやトプルも含めた関係者全員が揃い、さて事情を説明しようとルリアーナが口を開きかけたところで、

「そういえば彼女は結局アンナ嬢なのかな?それともユリカ嬢?」

のほほんとした顔でヴァルトがルリアーナに向けて問い掛けた。

いつものように笑みを浮かべてルリアーナを見る彼は、何故かまだ教えていない優里花の名前を知っているらしい。

「ヴァルト様、何故キョンの名前を?」

だからルリアーナは理由を教えてほしいとすぐにヴァルトに問い返した。

「キョン…?」

しかしつい優里花ではなくキョンというあだ名で告げてしまったためにヴァルトは首を傾げた。

「あ、あだ名です。彼女は京山優里花という名前なので」

だからすぐに彼女の本名を告げると、「なるほど」とヴァルトは頷く。

「ということはユリカ嬢なんだね。ではアンナ嬢は今回召喚されなかったってことかな?」

「いえ、それは今説明いたしますが、それよりも」

驚きについあだ名で呼んでしまったために彼女について先に少し説明してしまったが、まずは気になることを解決したいとルリアーナはヴァルトに詰め寄った。

「何故ヴァルト様が優里花という名前をご存知だったのか。ご説明いただけますか?」

腰に手を当てて改めてそう言ったルリアーナは少し怒っているようだった。

ヴァルトにはその理由がわからなかったが、問われたことには答えようとすぐに種明かしをする。

「ルカリオが彼女を連れてくる時に聞いたそうだよ。クレッセン大司祭が彼女のことをアンナともユリカとも呼んでいた、と」

だがそう言った時、ヴァルトは気がついた。

自分がそれをルリアーナに伝えていなかったと。

「……あ、ごめん、そのことをリアには言ってなかったね」

だから素直に謝ったのだが。

「知っていたなら教えておいてくださいませ!!お陰で余計な手間がかかったではありませんか!!」

予想外の剣幕でルリアーナに怒られ、目を丸くしながら「ご、ごめん…?」と小さくなった。

まさか優里花のせいでルリアーナとリーネが非常な心労を得ていたなどと思っていなかったヴァルトは戸惑っていたが、自分が優里花の名前を伝え忘れたせいで最愛の妃が酷く怒っていることはわかったからだ。

こういう時は言い訳をせず謝るに限る。

それが外交では役に立たなくても家庭の円満は守れる秘訣だ。

そんなヴァルトを見ていたライカとオスカーとガイラスは、『自分よりも遥かに上手だと事あるごとに感じさせるヴァルトを一瞬で屈服させるルリアーナはやはり最強だ』と再認識した。

とはいえ、彼らとて自分の婚約者や妃に同じことをされれば同じ態度を取るのだから、ルリアーナが最強なのではなく、王太子たちが揃いも揃って悪役令嬢たちに頭が上がらないというだけなのだが。

他方、ならばルリアーナが最強ではないのかと言えば当然そんなわけもなく、状況がどうであれ、恐らく真の意味で最強なのは間違いなくルリアーナであったので、彼らの認識が正しいことは間違いない。

「あ、あー、まあその辺で…」

抑えてあげてはどうかの?という傍観者であるトプルの優しい言葉のお陰でルリアーナは「…そうですわね、説明が先でした」と息を吐いて一旦矛を収めた。

ヴァルトはトプルに感謝の目を向けたが、「ヴァルト様は後で私と話し合いましょうね」と口元だけにっこり笑ったルリアーナが言った言葉には「は、はい…」と引き攣った笑いを返すことしかできなかった。

ルカリオは心の中で『旦那ぁ、頑張れよ~』とそっと祈ったが助ける気はさらさらなく、天井裏に潜んでその様子を肴にのんびりしようと考えていた。


「では改めまして、彼女について説明いたします」

空気を変えるように空咳をした後、ルリアーナは一同を見回し、最後に自分の真正面に座る優里花を見る。

「彼女は先にお伝えしていたアンナの代わりにこの世界に召喚された京山優里花という名前の女性です」

ルリアーナが優里花をそう紹介すると、小さく唸る音が幾つか聞こえた。

それは予定と違うことに懸念を示した音だろうと判断したルリアーナはすぐに補足を加える。

「と言っても立場はアンナと同じようです。そして見た目もまた優里花ではなくアンナのものでありました」

しかしその補足の内容は転生という概念を理解したばかりの男性陣には些かわかり難く、オスカーが「つまり?」と追加の説明を求めた。

「つまり、彼女は『優里花として亡くなった後、この世界に召喚された瞬間のアンナとして転生した』、ということになるのだろうと思います」

それはつまり、いきなり16歳の少女として転生したということで、もし彼女に前世の記憶がなければ大変なことになっていただろうと容易に想像できるものだった。

たがそのことが逆に彼女に『アンナ』としての意識を持たせられていないことの原因でもあり、ほとんど『優里花』の意識しか持っていなかったことの答えでもある。

結果的にどちらが良かったのか、今はまだわからない。

「彼女は私とリーネちゃんの前世の同級生でした。ですのである程度の扱い方はわかっていますが、癖の強い人物であることを先にお伝えしておきます。ごめんなさい」

真面目な顔でそう語るルリアーナの言葉と謝罪に『……癖?』と引っ掛かりを感じたものの、今その詳細を聞くことは何となく憚られて、無言のまま説明は続いていく。

「彼女について重要なこととして、この世界の主人公であるということは以前お伝えした通りですが、もう2つほど追加があることがわかっています」

ルリアーナはちらりと目線を優里花に向け、

「1つは彼女がこの世界を創ったに等しい人物であること、もう1つは私たちが前世で殺されたストーカー事件のきっかけの人物の一人であったことです」

小さく息を吐きながら彼女の特異性について端的な言葉で説明をした。

読了ありがとうございました。

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