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「簡単に言いますと、私が憧れていた人が君となの大ファンでして、それなら君となの漫画を描けばいつか彼女に読んでもらえるかなーと思って漫画家デビューもそこそこにゲームの発売元へ自分を売り込みに行きました。そしたら丁度漫画化計画があって、偶然居合わせたディレクターさんに「そんなにやる気があるなら君に任せてもいいよ」って言ってもらえて、デビュー作として漫画版を描かせてもらえることになったんです。それでもらったプロットにアレンジを加えつつ描いて完結して、やったーって喜んで献本を持ってその方のお家に行ったらその方が何年も前に亡くなっていたと知って、悲しくてやけ酒飲んで…、気づいたらここに?」

アンナの爆弾発言に驚いた後、彼女が綺麗な女性が大好きだというせいで甚大なる精神的被害を被って項垂れていた4人を何とか説得して、改めて彼女の話を聞くことにした。

アンナは先に思う存分堪能したお陰か、今度は4人を前にしてもまともに話すことができている。

その結果わかったことは、彼女は7人と同じようにアンナに転生してから異世界に転移したわけではなく、死んだ瞬間に『異世界に転生した時点のアンナ』として生まれ変わっているのだろうということ。

もしかしたら転移前のアンナがルリアーナたちが元いた世界から召喚されたという設定だったから、『優里花の死後アンナに生まれ変わって16歳までは現代日本で生きる』という部分が省略されたのかもしれない。

「……それって大丈夫なんでしょうか」

「わかりませんね…」

ルナの懸念は、答えたシャーリーだけでなく、誰にも答えがわからないものだ。

「なら、わからないことはひとまず置いておきましょう」

だからルリアーナはそれを後回しにした。

まだまだ考えなければならないことはあるのだから、解決していけるものから順次こなせばいい。

「そうですね。では先に恒例の説明会をしましょうか」

アデルもその考えに同意し、それならばいつも通りに進めようと、アンナに7人の事情を説明しようとした。

しかし「アデルちゃんちょっとストップ!」「アデル様待って!!」とルリアーナとリーネの必死過ぎる声がそれを遮り、リーネが「私に説明させてもらえないかな?」と提案してきた。

もちろんアデルに否やはないが、逆に何故自分ではダメなのかという思いで首を傾げる。

「あ、違うの。アデル様に問題があるんじゃなくて、あっちに問題があるの」

あっち、と焦りつつアンナ改め優里花を指差したリーネは、アデルが「ああ、なるほど」と納得した顔で頷くとほっと息を吐き、ぼそりと「私とルリアーナ様の安寧が掛かっているの…」と呟いた。

どんよりとした憂いを背負う姿はあまりにも悲壮感が漂っていて、アデルは無意識のうちにリーネを勇気づけようとその手を握った。


「えーと、まず今の私たちの状況を話すね」

「その前に貴女の前世の名前を教えてもらえないかな?」

「………追々ね」

今までアデルやルリアーナがしていたようにアンナに説明をとリーネが口を開く。

早速出鼻を挫かれたがなんとか受け流し、「こほん」と空咳を出して心を落ち着けてからリーネは話を再開する。

「今はゲームの出来事が全部終わったところよ。但し各国とも王太子妃の座にはヒロインではなく悪役令嬢が就いているわ。何故なら時系列的に最初に断罪されて国外追放されるはずだったルリアーナ様が前世の記憶を思い出していてヒロインのカロンを返り討ちにして、その後同じく記憶を取り戻していたアデル様に助力を乞われてクローヴィアでも同じことをしたからよ」

リーネがそう言うと「え?」と目を見開いた優里花はルナを見る。

ルナは苦笑を返すばかりだったがそれは肯定を意味しており、自分の描いた漫画版の世界が主人公ばかりか登場人物の関係すら変わっていたと知ってさらに目を大きくして驚いた。

今の時点では自分が来た世界が本当に自分が描いた漫画版の世界かすら怪しく思える。

「そしてハーティアではゲームと同じ展開になっていて、記憶がなかったイザベル様はディアへ追放されていたけど、偶然ディアに来ていたアデル様が見つけてくれて、ルリアーナ様と2人で助けてくれた」

リーネはついテーブルの上に置いていた拳に力を入れてしまったが、優里花にその意味がわかるはずもなく、彼女は黙って続きを待った。

「そしてその後ルリアーナ様がオスカー様の魅了を解いてイザベル様が再婚約して、ルリアーナ様はそのままシャーリーちゃんを探しに出て、その途中で私と出会ったの。私には前世の記憶はあったけれど君となを知らなくて、でもある人を探していたの。そしたらイザベル様が私の探し人かもしれないという話になって、会ってみたらその通りで、イザベル様の記憶も戻ったわ。そこからは私もシャーリーちゃん探しに同行して、クローヴィアにいたシャーリーちゃんと、隔離されていたルナちゃんも合流して、最後にアナスタシア様を説得したのが約3年前。ちなみにシャーリーちゃんもルナちゃんもアナスタシア様も記憶があるわ」

リーネはそう言うとふ、と息を吐き、姿勢を直すように身動ぎする。

「それで、私たちが集まった理由だけど」

「はい」

そして改まった様子で始まった続きに、優里花も背筋を伸ばした。

「それぞれが持っていた前世の記憶を話しているうちに、どうやら私たちは全員ある事件に巻き込まれていたことがわかって、その真相を解き明かしたいと思ったからなの」

「…事件?」

「そう。私たちは便宜上ストーカー事件と呼んでいるんだけど、もしかして私たちが揃ってこの世界に転生したのはその事件の関係者だったからじゃないかって思って、なら、きっと転生したことにも意味があるんじゃないかって考えてる。だから私たちはこの時に合わせて準備をして待っていたの」

「……何を?」

「貴女を」

「…私?」

俄かに真剣さが増したリーネの瞳に射抜かれた優里花はハッとして周りを見回す。

すると全員がリーネと同じ気迫を湛えた瞳で優里花を見ていた。

「私たちが知っている知識だけでは事件の流れと犯人の動機しかわからなかった。でも、アナスタシア様のお陰でこの世界がゲーム版ではなく漫画版だと気づけた。だったら漫画の主人公も私たちと同じように前世の記憶を持っていて、且つこの事件について、私たちが知らないことを知っているんじゃないかって期待しているの」

「そんな」

「ということで、これから私たちの前世と事件のことを話すから、知っていることがあったら教えてくれる?」

リーネは自分に向けられている過度な期待とプレッシャーに押し潰されそうになって震えている優里花の言葉を遮り、にっこりと笑顔でさらに圧力をかけた。

先ほど散々好き勝手にはしゃいだ彼女に付き合ったのだから、その腹いせにこのくらいは許してほしい。

読了ありがとうございました。

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