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そう、ルリアーナは知っている。

これが冤罪であることを。

それがこのゲームのヒロインのやり口であることを。

そしてそれこそがルリアーナがこのシリーズにハマれなかった最大の原因であった。

「私は以前からフラウ様の行動に疑問を持っていました。いくら物を知らぬ平民とはいえ、正式な婚約者がおられる殿下に対して明らかにマナー違反となるような行動をなさったり、自分こそが婚約者であるとでも言わんばかりの行動をなさったりしていたからです。まあ、本来それを窘めるべき殿下が容認していたのですから、誰も苦言を呈することができなかったのですけれど」

「うぅっ…」

またしても王子から呻き声が聞こえたが、言いたいことがあるならそのうち喋るだろうと放置する。

呻くことしかできないならそれまでだ。

「そしてふと、そんな行動を取る人間は今後どういう行動に出るだろうと考えたのです。いくら殿下に目をかけていただこうとも、越えられない身分の壁がある。ではそれを越えるためには?」

ルリアーナはこてんと小首を傾げて人差し指を顎に添えながら誰にともなくそんな問いを発する。

「…まさか」

その言葉に、フィージャの後ろにいたミーシアの婚約者でルリアーナの親戚でもあるローグ・デル・メランドが小さく呟く。

それはルリアーナの問いに対する答えがわかった者の反応だった。

「ローグにはわかったかしら?そう、殿下が自分を選ぶと確信していても自分よりも高位の相手、つまり私が邪魔になる。このままではどう足掻いても自分は殿下と結ばれることはない。けれど相手が越えられないほど高い所にいるのなら、自分がいる所まで、さらには罪人に仕立て上げてそこよりもさらに下に降ろせば、他の令嬢よりも身分が下であろうと殿下の覚えめでたい自分が選ばれるはずと、そう考えるのではないかと思い至りました」

ルリアーナはそう言いながらカロンはこの言葉にどんな反応をするだろうと思いそちらを見たが、彼女はまだ俯いたままだったので顔を見ることはできなかった。

『罪人に仕立て上げる』という言葉に反応してくれれば、カロンにも前世の記憶があると思えたのだが。

「ですので実行に移される前に私は自ら殿下の婚約者という地位から降りることで己が身を守ったのです」

見えないものは仕方ないと諦め視線を戻して言葉を続けたルリアーナに呼応するかのように「なんと」「そうでしたの」と周囲の人間は驚きの声を上げた。

そして攻略対象者たちからは驚愕に開かれた目がルリアーナに向けられていた。

会場中の面々が驚くのも無理はない。

ルリアーナのそれは予想と言うよりも、もはや未来視である。

実際ルリアーナは前世の夢の中でゲームのその場面を見たのだから、未来視と言っても過言ではない。

「婚約者に近づくな」と忠告しただけのルリアーナを先ほどの方法で完全に陥れ、さも普段からいじめられていたかのようにふるまう様を5歳の彼女は確かに見たのだ。

カロン・フラウ。

彼女は陥れ系ヒロインと言われるほど汚い手を使ってライバルの悪役令嬢を蹴落とす、悪役令嬢以上に悪どいヒロインである。

「そしてさらにフラウ様が周りに侍らせる男性を増やす都度、その男性の婚約者に私の考えをお伝えいたしました。彼らを手中に収めるために彼女は貴女方をも悪役に仕立て上げるかもしれないと」

ルリアーナがクリアしたのは王子ルートのみだったが、他のルートも変わらないというのはレビューサイトを見た記憶から知っていた。

だからルリアーナはこの世界のカロンも同じ行動を取るだろうとそれを阻止すべく早くから令嬢たちに注意を促していた。

なにせカロンに注意するよう伝えないと何の罪もない悪役令嬢たちが酷い目に遭うとわかっているのだ。

敵であるカロンの敵の彼女たちは味方、というわけではないが、同じ被害者なのだから助けられるなら助けたい。

『ゲームでは無理でも現実となった今ならそれができる』とルリアーナは思っていた。

「本当です」

「レイシー?」

ルリアーナの言葉を証明するように、1人の令嬢が声を上げる。

その新たに追加された声はレイシーのもので、彼女は震える体を他の4人に支えられながら、それでも必死に言葉を紡いだ。

「ルリアーナ様はご自分と同じ状況に立たされた私たちを思ってくださって、私たちに助言をくださいました」

レイシーの言葉にサーシャが続く。

「私たちがフラウ様になにかをすれば、いずれそれを理由に私たちを悪とするかもしれない。それが嫉妬故でなくとも、周囲からはそうと理解されないこともあるのだから、不必要に近づくべきではない」

サーシャの後にはアリシアが。

「そして婚約者の行動に口を出すべきではない。本人たちが望んで愚かなことをしているのだから、させたいようにさせて、後々自分の行いを顧みた時に地獄を見せればいい」

アリシアの後にはグレイスが。

「私たちはただそれを高みから見ているだけでいい」

グレイスの後にはミーシアが。

「そしてできるならば、婚約を破棄する準備を整えておく」

5人の令嬢が代わる代わるルリアーナが教えた言葉を口にする。

その顔はようやくこの戦いから解放されるというような晴れやかなものであり、いつの間にか彼女たちの体の震えは収まっていた。

そしてその言葉に、王子以外の攻略対象者たちが決まり悪げに目を逸らした。

まるで自分のしてきた行いからも目を背けるように。

「……ちょっと待ってくれルリアーナ、何故貴女はそんなにも的確な指示ができたんだ?」

いち早く立ち直ったローグがルリアーナにそう尋ねたのは当然といえば当然だろう。

未来視ありの彼女の行動はあまりにも手回しが良すぎるのだから。

もちろんこれはルリアーナが前世を思い出していたからできたことであり、それを知らなければ彼女がしたことは相当奇異に映るだろうことは理解している。

だから彼女はちゃんと締めに使えるセリフを用意しておいた。

「ローグ、貴方は今の状況を見て、何も思わなかったのですか?」

軽く音を立てて開いた扇の陰からローグを見ながら、ルリアーナは他の攻略対象者たちへも向けて言葉を発する。

「貴方たち6人がフラウ様と過ごしたいというのなら止めません。お好きになさったらいいですわ」

それは一瞬、彼らの行いを容認するかのように響く。

けれど「但し」と言葉を切ったルリアーナは、扇の陰から6人を睨んだ。

「学生でいるうちは、という条件が付きますが」

その言葉にハッとしたのはローグだけだった。

王子は呻いたっきり知らん顔をしていたし、他の4人にはいまいちピンと来ていないらしい。

「卒業したら、フラウ様は殿下とご結婚なされるのでしょうか。すでに婚約を破棄した私としては心からのお祝いを述べさせていただきますが、さて、では残された他の5人の皆様はどうなさるのでしょうか。まさか王太子妃、いずれは王妃になられる方と今のような関係でいられると?」

ルリアーナがそこまで言って、初めて他の4人にも動揺が走った。

誰もがそのことには考えが及んでいなかったという顔だ。

「それとも卒業したら今までのことは全てなかったことにして、婚約者の皆様と結婚して家督を継ごうと?ほんと、おめでたい頭で羨ましい限りですわ」

ふふっと小さく笑った後、ルリアーナはパシリと大きく音を立てて扇を閉じると笑みを消した。

「彼女たちを侮るにもほどがあります」

その言葉に、彼らは再び目を逸らした。

もしかしたらそれは、ゲームがそこで終わるからその先を考える必要がないというシステム上仕方がなかったことなのかもしれない。

だが現実である以上、システムエラーがない以上、それを言い訳にはできないのだ。

「フラウ様が貴方たち6人全員と一緒にいられる未来なんかないと、ほんの少しでも考えていればわかることです。それに思い至らず婚約者をないがしろにし続けた貴方たちを、彼女たちは、彼女たちの家族は、周囲の人間は、一体どのような感情で見るのでしょうね」

今後、その目に苛まれ続けながら、それでも彼らは彼女たちに許しを請うのだろうか。

自分の考えなしを棚に上げて、未来のことなんかわからなかった、と。

それはそれはお笑い草として後世に語り継がれることだろう。

ルリアーナは正直それを見てみたい気もしたが、やはり彼女たちを最優先に考えればその道は選べない。

今の彼女たちはただのゲームのキャラクターではなく、大事な友人であり苦楽を共にした戦友なのだから。

「貴方たちは彼女たちから婚約を破棄された後、どうするのでしょうね。こんなにも大勢の前で今回のことが知られてしまったのでは、新たな婚約者を探すのも一苦労でしょう。ご愁傷様ですこと」

ルリアーナはそう言うと5人の令嬢を振り返り、にっこりと微笑む。

さあ、今度こそ本当に全てを終わらせよう。

「では皆様、茶番も終わったことですし、あちらで今後についてお話ししましょうか」

全開の笑顔で、それでも声だけは「ほほほ」と控えめに笑う彼女に、

「「「「「はい、ルリアーナお姉様!!!」」」」」

5人の令嬢は声を揃えて返事をする。

多くの人たちの称賛の視線の中、ルリアーナと5人の悪役令嬢たちは攻略対象者たちの前から悠然と立ち去って行った。

読了ありがとうございました。

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