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前回から一気に時が進みました。

アデルがイザベルを保護してオスカーと再婚約させ、ルリアーナがアナスタシアを説得してガイラスとの婚約を前向きに進めるよう助言をしてから2年半の月日が経とうという今日この頃。

壮麗なディア王宮の庭にある、小さいながらも上品に整えられた離れの館に彼女たちは再び集結した。

「皆、揃ってるわね?」

『はい!』

離れの談話室の扉を開けたルリアーナはそこに居並ぶ全員の顔を見回して、早速今回集合した目的を確認するために口を開く。

「今日集まってもらったのは、他でもないアンナちゃんの件よ」

席に着くなり幾分難しい顔で話しを始めた彼女は、今一度ゆっくりと全員と目を合わせるようにテーブルに並ぶ顔を見回した。

円卓についている彼女たちはルリアーナから時計回りにアデル、アナスタシア、ルナ、シャーリー、リーネ、イザベルで一周する並びで座っている。

こうして改めて見てみると、この2年半で一番容姿が変わったのはシャーリーだろうか。

17歳のあどけなかった少女は、会う度に美しい大人の女性に近づいている。

「前から話していた通り、もしこの世界にアンナちゃんが現れるのならすぐにサポートできる体制を整えておく必要があるの。ディアは問題ないし、クローヴィアもアデルちゃんの結婚式の時にライカ様に話をつけているから問題ないわ」

そんなことを考えながら口を動かすルリアーナの言葉に「はい、クローヴィアはバッチリです」とアデルが相槌を打つ。

それに頷いたルリアーナは、今度は自分の反対隣りに座るイザベルに視線を移す。

「まずは情報共有よ。イザベルちゃん、ハーティアの今の状況を教えてくれる?」

「はい」

イザベルはすぐにルリアーナに応えると、オスカーと再婚約してからの日々を皆に語った。

「あの後私はハーティア王宮に移り住み、王太子妃の勉強と同時にこの世界の医療水準の底上げを始めました」

イザベルは記憶が戻った後、自分の治療に当たる医師たちを見て気がついた。

医療大国とあって彼らの医術は日本に近い水準まで迫るものがあるが、それでも文明の差、機器の差のせいで絶対に追いつけない部分があると。

ならば自分はその気づきを活かしてもっと医療の水準を上げられるのではないかと考えた。

「と言っても私には前世で見た医療ドラマの知識くらいしかありませんでした。なので初めは看護大学に通っていたお姉ちゃんに協力してもらっていたのですが」

イザベルは隣に座るリーネをちらりと見遣る。

リーネはそれに苦笑を返すと、言葉を引き取った。

「私も私で大学は1年生の時に中退していましたから、正直ハーティアの医療を覆せるほどの知識を持っているとは言えませんでした。ですが国に帰った時、アナスタシア様にそのことを打ち明けたら、偶然にもアナスタシア様も看護系の短大生だったらしくて、しかも卒業間近だったって聞いて、これはもう協力を仰ぐしかないなと」

「……私は元々美術系の大学に入っていたのですが、母が病気になったのを機に看護の道へ進んだんです。前世ではその知識を活かせる前に死んでしまいましたが、こちらで役立てるなら嬉しいと思い、微力ながらイザベル様のお手伝いさせていただきました」

今度はアナスタシアがリーネの言葉を引き取って自身の思いを口にする。

偶然だが、スペーディアに転生した2人は医療について一般人よりも詳しかったらしい。

そして話の主導権は再びイザベルに戻る。

「お姉ちゃんとアナスタシア様のお陰で、ハーティアの医療はさらに進みました。ですので、もし私たちがゲーム内容を変えたせいでアンナが倒す予定の魔王に変化があっても、アンナが死なない限りは彼女を支えられると思います!」

あ、もちろんオーブの件もオスカー様に依頼済みですよ、と付け加えて彼女の報告は終わった。

なお、触れられてはいないがこの間にシャーリーとも再会し、オスカー含めすでに和解済みである。

さらにその際、オスカーには前世のことも伝えている。

でないと在学中のシャーリーを知る人間に彼女の行動が咎められた時に守れない可能性があったからだ。

「素晴らしいわ!」

ルリアーナはイザベルの報告を聞き終えると、彼女に拍手を送った。

「オーブ以外にもアンナちゃんのサポートができるようにしてくれたなんて!ほんとイザベルちゃんたらいい子ね!!」

「あ、ありがとうございます」

イザベルはルリアーナの手放しの賛辞に恐縮しつつ顔を赤らめる。

助けてもらったあの日からイザベルの中でアデルは恩人だがルリアーナは憧れの人となっており、そんな彼女の役に立ちたくて考えたことが認められて、この場でなかったら飛び跳ねて喜んでいたかもしれないくらいに誇らしかった。

「よかったわね」

「うん!」

隣に座るリーネはそんな妹の喜びが手に取るようにわかって、優しく宥めるようにそっと頭を撫でた。

「では次はアナスタシアちゃん。スペーディアはどうかしら?」

「はい」

アデルを挟んでルリアーナの2つ隣に座っていたアナスタシアは、まずはくるりと円卓に座る全員の顔を見回し、頭を下げた。

「皆様のお陰で、あれ以来ガイラス殿下とは良好な関係を築けていると思います。シャーリーさんやルナさんにはちゃんとお礼を言う機会がなくてごめんなさい」

スペーディアの貴族であるアナスタシアはルリアーナ、アデル、イザベルと同国のリーネ以外、つまりシャーリーやルナに会う機会などこんなことでもない限り滅多にない。

そのため2人には『ガイラスに手を伸ばしてみる』と宣言したあの日以来会っていなかった。

「そんな、顔を上げてください!」

「力になっていたのはルリアーナ様たちで、私たちは大したことしてませんから!!」

だから急なアナスタシアの謝罪に2人は慌てて両手を振った。

私的な場とはいえ大貴族に頭を下げられる平民という立場ではそうなるのが当然だとアナスタシアも理解していたので、彼女はすぐに顔を上げた。

「……あの時の私には応援してくれる人がたくさんいるという、それだけでとても嬉しかったの。だから何をしたかなんて関係ない」

しかし発した言葉はルナの言葉を否定するもので、ルナもシャーリーも驚いて目を丸くする。

「ずっとお礼が言いたかったの。意気地のない私の背中を押してくれてありがとう。励ましてくれてありがとう。『私』を肯定してくれて、ありがとう」

アナスタシアは2人の顔に笑みを零すと礼を述べ、改めてルリアーナの方へ体を向ける。

「話の腰を折ってしまってすみません。それで、ガイラス様にオーブについて相談したところ、『そういうことであればその時までアナスタシアが持っていてくれて構わない』と仰ってくださって、今は、その、王太子、ふ、夫妻の、寝室の隠し金庫の中に、入れてあります…」

アナスタシアはそう言って少し赤らんだ顔を手で覆いながら報告を終えた。

こちらも彼女の報告には含まれていなかったが、あの後間もなく立太子したガイラスは人が変わったように積極的にアナスタシアにアプローチし、それに彼女が応えてくれるようになったものだから熱を上げ過ぎたガイラスは「もうこれ以上待てん!!」と1年も経たずにプロポーズをした。

多くの驚きと共にそれを笑顔で受け入れたアナスタシアは、現在スペーディアの王太子妃となっている。

そしてイザベルも間もなくオスカーと結婚することになっており、ルリアーナがひっそりと画策していた『王妃全員悪役令嬢化計画』は順調に進んでいた。

「初々しいわ~」

「感慨深いですねぇ」

そんなアナスタシアを見て、ルリアーナとその隣のアデルは結婚式にいる親戚のおじさんのような顔で笑った。

「……2人とも、顔が下世話なおっさんみたいになってるわよ」

つまり「せっかくの美人が台無しだわ」とリーネに嘆かれるような顔で笑っていた。


各々の準備が万端に整っていると確認してから3ヶ月。

とうとうその日、500年前に封じられたはずの魔王が復活して、早くもジョカ山の山頂には魔王城が築かれたという報せが世界を駆け巡った。

読了ありがとうございました。

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