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「とりあえず、漫画版の内容はわかったわ」

なるほど、確かにゲームとは設定から全然違うと頷いたルリアーナは、しかし自身の疑問の答えは見つけられなかったと気づき、再度質問を重ねる。

「ちなみになんだけれど、カロンだけが王妃だったじゃない?何か理由ってあるのかしら?」

なので少し遠回しにではあるがその答えを探ろうとした。

そして得られた回答は、

「えっと、確かカロンさんが早く王妃になりたいと言ったせいだったかと。『初お披露目の美しい王妃が30代なんて笑えないわ』とか、なんとか」

というものであり、自分の疑問の答えにかすり出した。

ルリアーナは期待を込めてアナスタシアに言う。

「じゃ、じゃあもしかしてカロンって、他のヒロインより年上だったのかしら?漫画版では 20代の姿って言っていたから、なんとなく20代前半を想像していたのだけれど」

「あー、そうですねぇ…」

視線を上に上げながらそれを思い出そうとしているアナスタシアを穴が開きそうなほど見つめる。

「あ、確か1巻にシャーリーは20歳だって書いてました」

その間にルナがシャーリーの年齢は記載があったことを思い出した。

作中の彼女が「無事20歳を迎えられたことを感謝するために礼拝に来た」と教会にいた理由を語っていたはずだ。

「ってことは漫画版今から3年後の物語ってこと?」

それを聞いたリーネが「確かシャーリーって今17歳よね?」と言えばシャーリーは頷く。

だとすると、これで役者は揃ったと思っていたが、もしかしたら3年後にまた増えるのかもしれないということか。

「あぁ、カロンの年齢!そういえばカバー裏のキャラ設定に書いてありました!!」

ならストーカー事件の真相解決も3年後を待たなければならないのか、と思っていると、アナスタシアがカロンの年齢を思い出したと声を上げた。

「いくつ!?」

その言葉に身を乗り出したルリアーナはじっとアナスタシアを見つめる。

「確か、26歳です!」

そしてその言葉を聞いて、

「よっしゃー!!」

と叫んで嬉しそうに拳を振り上げた。

ルリアーナは実はずーっと自分だけが年上であることを気にしていたのだ。

この世界に今いる転生者の年齢は下から順にシャーリーが17歳、アデルが18歳、イザベル、ルナ、リーネが19歳、アナスタシアが20歳、そしてルリアーナが23歳。

アデル、ルナ、イザベル、リーネは同い年だが、アデルだけまだ誕生日が来ていない。

ちなみに、攻略対象者たちの年齢はルカリオが16歳、オスカー、ライカ、ヴァルトが19歳、フージャ、ガイラスが20歳である。

ルカリオも誕生日が来ていないだけでシャーリーと同い年だ。

こうして並べてみるとわかるように、ルリアーナだけ少し年が離れている。

本来ここにいるのが同じく23歳のカロンとジークだったことを思えば、『ディア(君とな2)だけが年上だった』という話ではあるのだろうが、それでもカロンとジークがいない現状では自分だけが年上、おばさん、年増だと思えてしまう。

何故同じゲームで、と今まで気にしながらも誰にも言えないでいたが、理由が漫画版の設定につられたからだとわかった今、不可抗力だったとわかった今、誰憚ることなく声を大にして言える。

「元々の設定のせいだったー!!ならしょうがないよねー!!」

きゃあああぁぁぁああははははは!!と、これまでの鬱憤を晴らすように笑いながら叫んでいたため、とても彼女が最年長だとは思えなかったが、同じ女性として気持ちがわかってしまう面々は「よかったですね!」と笑顔で拍手を送っていた。

「そんなに気にすることか…?」

「年なんか気にしなくても姫さんが一番美人なのになぁ」

それに加われない男子2人は部屋の隅からその狂乱をやや冷めた目で静かに見つめていた。


「あー、こほんこほん。それで、今後についてだけれど」

しばらくして男子たちの目に気がついたルリアーナはそっと席に戻りそう切り出したが、その顔には朱が差しており、空咳だけでは誤魔化せなかった焦りが見えた。

それを可愛いとその場にいる全員が思ったし、そんな彼女が少しばかり年嵩だからと言って差別するようなこともないのだが、こればかりは本人の気持ち次第だ。

ならば今後決して触れはしまい、と特にフージャとルカリオは誓った。

「姫さんは3年待つつもりなのか?」

だからさっさと話しを進めてこの気まずい空気を無くそうとルカリオはルリアーナに言う。

漫画版がなんなのかはわかっていないが『3年後に事態が動く可能性がある』ということはわかったからだ。

「そうね。とりあえず3年後に備えましょう」

ルリアーナはルカリオの言葉にそう言うと、視線をアナスタシアとアデルに転じる。

備えると言ってもできることはそう多くはない。

多くはないが、それでも絶対にやっておかなければならないことが1つだけあった。

「3年後、アンナがこの世界に来るのだとしたら協力する人が各国に必要になるわ」

それは国宝扱いのオーブをスムーズに彼女に渡せるようにしておくこと。

そのためには各国の王族の中に事情を知る者がいるのが望ましい。

「ディアは私として、ハーティアはイザベルちゃん、クローヴィアはアデルちゃん」

ではそれは誰かと言われれば、ディアはすでに王太子妃となっているルリアーナで、ハーティア、クローヴィアは王太子の婚約者であるイザベルとアデルが適任だろう。

名前を呼ばれたアデルは「はい」とルリアーナに了承の返事をする。

この場にいないイザベルもきっと同じ返事を返すだろう。

「ありがとう。残るスペーディアは……、アナスタシアちゃん、貴女よ」

そしてスペーディアはアナスタシアこそが適任である。

ルリアーナがそう言って「お願いね」とアナスタシアの目を見れば、彼女は酷く狼狽えた様子で首を振った。

「え、ええ!?無理、無理ですよ!私、もう婚約破棄されてますし!」

首と一緒にぶんぶんと手も振りながら拒否の理由を示すが、

「あ、あのね、アナスタシア様」

「貴女とガイラスの婚約はまだ破棄されていませんよ」

リーネとフージャによってその理由は通じなくなってしまった。

というより、アナスタシアは婚約破棄が成立されていないことをまだ知らない。

「え!?なんで、どうして…?」

自分ははっきりと本人にそう言われたのに、とアナスタシアが問えば、

「ごめんなさい、あれ、私の提案で、アナスタシア様の本心を知ろうとしただけなんです!」

リーネがあの時の彼女たちの企みを明かした。

「実は、ガイラス様にずっと相談を受けていたんです。自分はアナスタシア様のことを想っているけれど、アナスタシア様は自分のことに興味を持ってくれないからどうしたらいいかと」

「……え?」

「好きでもない男のところに嫁がせるのは可哀想だから、何とかして自分に興味を持ってもらいたいって。ガイラス様はずっと悩んでいました。どうやったらアナスタシア様が自分を見てくれるのかと」

「うそ…」

「嘘じゃありません。だから在学中、私やフージャも協力してアナスタシア様と上手くいくように色々画策してました」

リーネの言葉にアナスタシアは記憶を手繰る。

そういえば、確かに在学中やたらとガイラスが自分に声を掛けてきたり、外出に誘ったりしてきていた。

リーネに対する気持ちを感づかれないように誤魔化すためかと思っていたが、もしかしたらそれがリーネたちが画策したという計画故の行動だったのか。

「ただ、いつまで経っても目に見えた効果はなくて、もう卒業しなければならないという段になって、焦った私は『こうなったら一発逆転を目指してアナスタシア様に婚約破棄すると言ってみましょう』とガイラス様に言いました。『もしアナスタシア様が少しでも嫌がる素振りを見せてくださったら、ガイラス様にも希望があるということだ』と言って」

「あ…」

アナスタシアはその時のことを覚えている。

興味のない自分なんかではなく、ガイラスが好きな人と幸せになってくれればいいと思っていたこと、そしてその時の自分は自由になれると喜んだこと。

「結果はご存知の通りです。私の見通しが甘かったというよりは、思いの外ガイラス様の好意がアナスタシア様に届いていなかったのが敗因でしょうか」

リーネがそう言うと、アナスタシアは「そうよ!」とすぐに頷く。

「ガイラス様は初めて出会った時から私に興味があるような、好意があるような素振りなんて全く見せてくれませんでしたわ!だから私は、ガイラス様に相手にしてもらえないような女なのだと思って、そんな人間が誰かに興味を抱いたところで迷惑だろうと思って、だから、だから…」

ぐっと眉間に皺を寄せて、まるで涙を堪えるような顔でアナスタシアは言う。

口調も先ほどまでは前世での口調だっただろうに、今はアナスタシアとしての口調になっている。

それはきっと、この言葉がこの世界で生きたアナスタシアという人物の言葉だから。

「私みたいな人間は誰にも興味を持たず、持たれず、そっと消えるべきなのよ」

そう言って今度はルリアーナを見る。

「私はガイラス様に相応しくない人間です。王妃になれるような器でもない。王族に協力者をということであればリーネさんでも問題ないはずですから、ガイラス様のお相手はリーネさんにお願いしたいと思います」

「アナスタシアちゃん…」

「ガイラス様だってその方が嬉しいはずです。私といる時には一切笑いませんが、リーネさんといる時にはいつも笑っていましたから」

アナスタシアはそれだけ言うと、「すみません、少し席を外させてください」と言って部屋を出て行ってしまった。

読了ありがとうございました。

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