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「ルリアーナ様、俺、シャーリーの時にも言いましたよね?手加減してあげてくださいって」

「い、いや、だって、まさかこんなことになるとは」

「それは俺も思いませんでしたけどね。でも、それとこれとは別です。うちの王族を気絶さすな」

「はいすみません」

混乱した頭への思わぬ衝撃にガイラスの意識がお空の上へ飛び立ってしまったことを受け、フージャは二度目があるとは思っていなかったお説教をもう一度ルリアーナにした。

これは、流石に凄腕と名高い正体不明の暗殺者が目の前にいるとは思っておらず、王太子候補である自分がこんな危険地帯にいていいのかと考えて、そこから国の問題にまで考え込んでしまったガイラスの生真面目さが招いた悲劇である。

「大丈夫ですか?」

「お水いります?」

一方、ソファでぐったりしているガイラスはリーネやシャーリーに介抱されていた。

リーネはともかく、シャーリーは同じ経験をした者として彼を放っておけなかったらしい。

「…すまない、もう大丈夫だ」

ガイラスは2人に礼を言うと、ガミガミとルリアーナにお説教をしているフージャの肩を叩いた。

「私ならもう大丈夫だから。女性をそう責めるものじゃない」

そして「もうその辺でいい」と言い、説明の続きを促そうとした。

「ガイラス…」

だがフージャはそんな王子に目を眇めて見せると、

「このままだとこの人、アナスタシア様にも同じことすると思うけど、いいの?」

と言って不敬と知りつつルリアーナを指差した。

ガイラスは一瞬目を見開くと、

「すまない、私が間違っていた。思う存分やってくれ」

と言ってフージャの手を力強く握った。

その手には例え一方的なものであったとしても最愛である婚約者を守ろうという意志が痛いほど強く込められている。

「酷いわ!?」

ルリアーナはそんな2人のやり取りに傷ついたという顔をして見せたが、

「「どっちが!?」」

と、2人にまさかの返答をもらい、すいっと気まずげに目を逸らした。

一応自覚はあったのか。

そして逸らした視線の先でルカリオが腹を抱えて笑っているのを見て、「この子の意外と笑い上戸なとこ、ヴァルト様に似てるかも」と考えながらそのまま現実逃避をした。

当然それ以後のフージャのお説教は右から左へ流れるだけで、ルリアーナの耳には全く入っていない。

この調子でアナスタシアの時は大丈夫だろうかと、そのことに気づいていたリーネだけがそっと嘆息した。


「では、気を取り直して…」

そう言って説明を再開したのはフージャに請われたアデルだった。

諸々について正確に理解し、王子のガイラスに気兼ねなく話し掛けられ、且つ『穏やかに』説明ができる人物であるとして白羽の矢が立てられたわけだが、果たしてそれは正しかった。

「ガイラス様にはまず、前世と言う概念についてから説明させていただきます」

「前世…、耳慣れない言葉だ」

「はい。それはこことは異なる世界の概念です」

アデルはフージャの期待通り一言一言丁寧に言葉を選びながらガイラスに説明をする。

ルリアーナも説明は上手いのだが、時たま暴走するのでやはりアデルが適任だと思われた。

「前世とはこの世に生まれ出ずるより前の人生のことです。その世界では人には魂という目に見えない核のようなものが存在し、それが幾度も別の肉体に宿り、生まれ変わりながら人生を繰り返していると言われております。これを輪廻転生と言いますが、私たちの魂にはその前の人生の記憶が残っているのです」

アデルはそう言って『私たち』に該当する女性陣を見回した。

ガイラスもその視線を追い、その中にリーネが含まれていることに驚く。

在学中の彼女からそんな話を聞いたことは一度もなかったから。

「今私たちが別々の人生を歩んでいるように、前世の私たちも別の人間としてそれぞれの人生を送っていました。しかしある一点において、私たちは同じでした」

「ある一点…?」

「はい」

アデルは頷き、視線をリーネへと転じる。

本当にガイラスにすべて話してもいいのかと確認するように。

リーネはアデルに頷くと「大丈夫だから」と言うように笑顔を見せた。

アデルはもう一度頷くと、視線をガイラスに戻す。

そしてふ、と短く息を吐いた後、大きく吸い込み、

「私たちの共通点、それはある一人の男に関わっていること、そして多くがそのせいで人生を終えたことです」

彼の目を真っ直ぐに見つめてそう言った。

その目からは「ここまで聞いたのだから、もう貴方はお客様ではなく仲間である」というアデルに集約された全員の思いが感じられた。


未知の概念をガイラスが頭の中で整理し理解するまでの間と称して全員が一服するために小休止を挟む。

恐らくガイラスの理解力を以ってすればこのまま説明を続けたところで理解できたとは思うが、何度しても慣れないことはあるわけで、つまりこの休憩はほとんど説明役をしてくれているアデルのためと言っていいものだ。

空気からそれを察したガイラスはわざわざ「では細かなところを聞いてもいいだろうか」とリーネに幾つか質問し、「なるほど、この世界では考えもつかないような面白い概念だな」と一同に笑って見せた。

流石アデル曰く「某サイトの人気投票で『漢らしい王子』第1位を取っていた」というだけはある。

なお、他にも『美女ランキング』や『守ってあげたくなるキャラランキング』など実に様々なランキングがあったが、ここでは割愛する。

ともかく、ガイラスはゲームが現実になっても素晴らしい素質を持つ王子だということが証明された形になり、図らずもアデルの中で彼の株が上がった。

ちなみにルリアーナの中でも「同じ脳筋系なのに頭のでき次第でこうも変わるのか」と自身が関わった脳筋フィージャとの差を認めて、説教事件で暴落したガイラスの株が爆上がりしていた。

読了ありがとうございました。

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