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話し合いをするうちに辿り着いたバロス家で、リーネとフージャは頭を抱えていた。

「どうしよう…」

「このままじゃ、ガイラスは…」

「失恋…」

「だよなぁ…」

向かい合って座りながら深く項垂れた2人はぶつぶつと何事かを呟き合っている。

はっきりと内容が聞こえるわけではないが、その様子からは明るい話ではないのは明白であるし、船内での話を思い出せば恐らくスペーディアの王子とアナスタシアの多難過ぎる恋路に関してのことだろうと想像はつく。

だがそうとわかったところでここにいる人間にはどうしようもできないことであるということもまた明白であり、他の5人は項垂れる2人をどうすることもできず、紅茶を飲んだり窓から庭園を見たりと思い思いに過ごしていた。


コンコンコン

「坊ちゃま、ご依頼の令嬢の居場所が掴めましたよ」

数分経って2人の呟きも尽きた頃、タイミングよくバロス家の執事が部屋の扉を叩き、フージャに紙を渡して去って行った。

それは現在のアナスタシアの居場所を記したものであり、追記として今は運よく王都の屋敷に滞在しているようだったからついでに面会も申し込んでおいたという一文も添えられている。

「うーん、バスタさん、いつもながらに気が利き過ぎる…」

「とってもいい執事さんね」

内容を確認したリーネとルリアーナはバロス家の執事の有能さに感謝し、面会の返事が来次第アナスタシアに会うべく準備を始めた。

その一環として「ガイラス王子にも面会を申し込んでおいた方がいい」というルリアーナの指導の下、フージャは王子にも面会を求めるべく手紙を認めた。


その日の夕方、バロス家は俄かに騒めいた。

「はあ!?今からガイラスが来るぅ!!?」

「はい。そのようなお手紙を今しがたいただきました」

「あいつ何考えて」

「坊ちゃま~!殿下がいらっしゃいました~!!」

「早えよ!!」

そう、面会を申し込んだはずの王子が何故かわざわざフージャに会いに来たのだ。

しかもちょっぱやで。

「急いで今から支度を!」

「問題ない、すぐに帰るから気にするな」

フージャが王子の到着を告げた侍女に指示を出すのと同時に階下から強く太い声が聞こえる。

顔を見なくてもそれが件の人物だと言うことはフージャにはすぐにわかった。

「そんなわけいくか!俺は一応貴族で、お前一応王子なんだぞ!?」

フージャは焦っていつもの調子で階下に向かって叫んで、「しまった!?」と思ったが、

「一応とつけているあたりに本心が透けているぞ」

王子は気にした様子もなく「ははは」と笑っていた。


「で、なんで突然来た?」

ルリアーナたちが使っていたため王子を迎えるには乱れている応接間の用意が整うまでと一旦王子をサロンに案内したフージャは、とりあえず用向きを先に聞いておこうとガイラスに問うた。

面会申し込みの理由として、彼の意中の君であるアナスタシアに関係することで話があるとは書いたが、それだけで一国の王子がこんな時間に訪ねてくるとは思えない。

「なんでって」

ガイラスはぐいっと些か粗野な動作で紅茶を口に運ぶと、

「ライカとヴァルトにお前たちに協力するよう頼まれたからだ」

事も無げにそう言って、むしろ「聞いてなかったのか?」と首を傾げられた。

フージャは「知らなかった…」と答え、根回しのいい2人に感謝すると同時に「教えておいて欲しかった」と恨み言を言いたい気持ちになった。

「発端はディアの王太子妃とライカの婚約者らしいが、今はハーティアのオスカーやその婚約者、我が国からはお前とリーネが協力していると言うじゃないか?何故私には話が来ないのかと思っていたら今度はアナスタシアに会うと言う。私だけこれ以上のけ者にされるのも悲しいからな、直接来ることにしたんだ」

王子はそう言ってまたも「ははは」と笑ったが、フージャはその顔で悟った。

あ、これ珍しくマジで怒ってる、と。

ガイラスは眉目秀麗で文武両道という優秀な王子ではあるが、存外子供っぽいところがある。

恐らく彼は各国の王族の中でスペーディア王家だけが関わっていないこと、にもかかわらずフージャがしれっと関わっていること、なのにいつまで経っても親しい間柄と言ってもいい自分に報告しないことに怒っているのだ。

「なーんだ、そんなこと気にしてらしたの?」

しかしそうとわかったところで部外者に近い立ち位置にいる自分では説明できないと冷や汗をかき始めていたフージャの耳に、天の助けとも言えるような女神の声が背後から届いた。

「ルリアーナ様!」

フージャはサロンに降り立った女神の名を呼ぶと向かいのガイラスに「ディアの王太子妃様だ」と素早く告げる。

通常、王子と王太子ならば王太子の方が上だが、その妃となると扱いは妃によって異なる。

例えばこれがもし王太子妃になったアデルであったなら、ガイラスの方が上だっただろう。

しかし、それがルリアーナになれば、

「ヴァルト様の最愛の妃で、ライカ様やハーティアの王家からは恩義があると最上級の扱いを受けているような人だから、絶対に逆らうなよ?」

早口でこれだけは伝えなければと思ったフージャがそう捲し立てるほど扱いに注意が必要な賓客となる。

ガイラスはフージャに「わかった」と静かに笑い掛けると、

「おお、貴女が至宝と名高いディアの王太子妃様でしたか。噂以上に美しい、女神もかくやというお姿に呼吸が止まるかと思いましたよ」

その聡明な頭脳で以って彼の助言には従わなければならないと正しく理解し、些か大げさながらも大正解の態度を取ってくれた。

読了ありがとうございました。

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