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土日くらいは連投しようと思いました。

「そうだ、今のうちにアナスタシアのことを教えてもらってもいい?」

船旅の最中、ルリアーナは「はい」と手を挙げてリーネとフージャに言う。

「前に『王子のことが好きな様子はないし、つまらなそうに過ごしていた』って聞いたけど、具体的にどういう子だったのか聞いておきたいなって」

そしてアデルに目を遣り、

「で、それを聞いてアデルちゃんにゲームとの違いも聞いてみようかなって思ったの」

と言って「いいかしら?」と3人に問い掛けた。

「いいと思います」

「そうね。どうせやることもないし、考察するのもいいと思う」

アデルとリーネはすぐに了承を返し、一方で難しい顔をしているフージャを見る。

「うーん、俺はあまり関わってませんし、リーネ以上に知っていることはないとは思うんですけど」

彼は難しい顔のまま申し訳ないと言うように苦笑した後、

「でも、何かしらお役に立てるなら協力はしますよ」

と言って上位者に対する礼を取った。

「ありがと」

ルリアーナは表情とは裏腹のおどけて気取ったような彼の様子に、彼とも少しは打ち解けられたのかなと嬉しそうに笑った。


「そうね…、彼女を語る上で外せないのは、自己評価の低さ、かしら」

3人の話を聞きやすいよう立ち位置を変えて始まった話し合いはリーネのこんな言葉からスタートした。

「彼女は艶やかで美しいたっぷりとした深緑色の髪に、ヘーゼルアイっていうのかしら?薄く茶色がかった薄緑色の綺麗な目をした、妖艶系美女だったわ。切れ長の目元のせいで冷たく見えるんだけど、話してみるとそんなことはなくて、本当は面倒見がいい人なんだと思ったもの」

「そうだな。加えて言うなら、国一番の美男子と言われて国中の令嬢から声を掛けられていた王子が一目惚れするような美しさで、そんな王子を歯牙にもかけないような人だった」

「そうなのよね。それも自己評価が低いせいなんだけど」

2人の話にアナスタシアのことを知らないルリアーナとルナとシャーリーとルカリオは「へー」と感心するしかない。

君となシリーズにおいて、ヒロインは天真爛漫で華奢な体つきの可愛い系という伝統はあるが、悪役令嬢にはそういった明確な系統はなかった。

無印のイザベルは黒髪ロングに赤目というヴァンパイア系美女と言われたスレンダー体型、2のルリアーナは緩いウェーブがかった深紅の髪にエメラルドの瞳という縦ロールではないものの典型的な悪役令嬢系でスタイル抜群、4のアデルはカールした西洋の姫カットのような青髪にオレンジの瞳で君となの悪役令嬢にしては珍しく可愛い系美人である。

だからアナスタシアがそのどれとも違うことに納得はいくが、では一体どんな美女なのだろうと期待が膨らんだ。

しかし、それなのに自己評価が低いとはどういうことか。

「本人に聞いたら『私みたいな人間に王子が本気で恋をするわけがない。自分に靡かないのが珍しいだけでしょうし、侯爵令嬢でもなければ婚約者になんてなるはずがないわ』って言ってたの。彼女は成績も悪くないし、礼儀作法や振る舞いなんて超一流。なのによく『私なんか』って言うのよね」

「それ、王子も気にしてたな。『何故かアナスタシアは自分を卑下して周囲に引け目を感じているようだ』って。今思えばそれは前世の記憶があったからなのかもしれない」

「うん。この世界ではどう考えても勝ち組なのに、考え方が負け組だったもの。きっとそれには前世が関係していると思う」

2人はそう言うとアデルの方を見る。

「アデル様、ゲームでのアナスタシア様ってどんな方だったんですか?」

アデルは斜め上を見上げ「そうですねぇ」と、頬に指を当てると、

「プレイヤーからは『氷の女王様』と呼ばれていました。ビジュアルは同じですからお2人にはイメージしやすいと思うんですけど、雰囲気が冷たいと言うか、行き過ぎたクールビューティーと言うか。そして中身も見た目通りクールであまり笑わない方でしたね」

そう言ってルリアーナを見る。

「ルリアーナ様もゲームではきつい性格で結構冷淡な面があったんですけど、それを何倍にもしたような、極寒という言葉がぴったりなキャラでした。そしてそうなった背景には冷え切った家庭環境があり、彼女は愛を知らずに育ったため、王子のこともただの政略結婚の相手以上には思っていなかったようです。リーネさんのことは父親からの命令で害していただけで、実は本人はそれほど気にしていなかったとか」

「なるほど…」

ルリアーナは俯き、ゲームでの自身の性格を思い出しながらアナスタシアというキャラクターについて考える。

そしてカロンの時に感じた自身の『冷淡さ』について、そして『鈴華』の話を聞いた時に『目の前にいるイザベル』と『ゲームのイザベル』に対してなんとなく感じた違和感についても同時に考える。

そしてある仮説を立ててみた。

「もしかしたら彼女は前世の記憶と、『愛を知らない』というキャラの性質を受け継いだのかもしれないわ」

自分の冷淡さやアナスタシアの行動は、ゲームのキャラと交じり合ったことによる変化ではないかと。

ルリアーナは顔を上げてアデルを見て、彼女に問う。

「アデルちゃんって、ゲームのキャラとしてはどういう子だったの?」

アデルは突然の質問に「え?ええと」としどろもどろになりながらも、

「私は厳しい王妃教育の中で唯一の寄る辺がライカ様だったことから、ライカ様への依存度が異常に高い令嬢として、私からライカ様を奪ったルナを殺す勢いで憎んでいました」

と自身のキャラクター性について語る。

「そうそう。と言っても私を糾弾する内容としては間違ったことは言わないし、憎しみをぐっと飲み込んで堪えるような我慢強さのあるキャラでした。だから私は本気で害される心配はないと思って調子に乗ったわけですが…」

そして4だけはプレイしたというルナもアデルについてそう証言する。

「秋奈は目立つのが嫌いであまり強く言わない子でしたが、それでも言うべきことはちゃんと言う子だったので、正体を知った時にはアデル様との違いに驚きました」

「…莉緒先輩もあんな男にべったりくっつくような人ではありませんでしたよ?」

「あ、あれはルナになりきらないとって思ったから!!」

「まあ、ルナはそうですけど」

「ねっ!?ねっ!!?」

さらに『アデル』と『秋奈』、『ルナ』と『莉緒』の差も明らかになる。

そのせいでルナは必死に弁明をする羽目になり、周りで聞いている面々は堪え切れない苦笑を漏らしてしまう。

特にシャーリーは自分もルカリオの存在に気がつくまで似たようなことをしていたから、ルナの行動が痛いほどよく理解できた。

「ふむ。ということはアデルちゃんは我慢強すぎるという点を引き継いだのかしら…」

その中でただ一人考え込んでいたルリアーナは再び俯き、今度はリーネに問う。

「ねぇ、鈴華ちゃんって引っ込み思案と言うか、精神的に弱い子だった?」

「……うーん、大人しい子だったけど、どっちかっていうと頑固と言うか、芯の強い子って印象だわ」

「もう一つ、前世の私って冷たい人間だったかしら?」

「いや、お節介焼きが染みついてる、根っからのお姉ちゃんだったわよ?」

リーネは「それがどうかした?」と首を捻りながらもその質問に答える。

「やっぱり…」

それに頷き、ルリアーナはリーネの言葉には答えず、代わりに全員を見回した。

「私たちは多分、微妙に元々のキャラクターと性格が混ざっている。イザベルちゃんは弱さ、私は冷淡さ、アデルちゃんは悪い方向の忍耐力を受け継いだ。そして恐らくアナスタシアは非情性を」

そして改めてリーネの方を向き、ルリアーナはきっぱりと断言する。

「今世の彼女はゲーム同様愛を知らない人物である可能性が高い。だから前世で君とな3をやってて王子を愛してでもいない限り、彼女と王子をくっつけるのは……、無理かもしれない」

それはスペーディアにとっては一大事過ぎる発見であった。

読了ありがとうございました。

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