1
しっくりきていなかった小説タイトルを変えました。
心機一転、アナスタシア編スタートです!
ルリアーナ、アデル、ルナの3人がウドスの馬車停留所でウィレル侯爵家の馬車から降りる。
するとタイミングよくなのかずっと待っていたのか、すぐに1人の少年が駆け寄ってきた。
「姫さん、こっちこっち」
そう言って手を振っていたのは天使のように愛らしい金髪碧眼の美少年。
ハーティア王妃のストーカー改めルリアーナの護衛ルカリオである。
「フージャは船にいるけど、リーネたちはあっちの店で茶ぁ飲んでるぜ」
ルリアーナはリーネたちとの合流をスムーズにするため、予め彼に3人を見つけておいてくれるよう頼んでいたのだが、ちゃんと役目を果たしてくれていたらしい。
「ありがとう」
彼に向かって礼を言うルリアーナはほとんど無意識でその頭を撫でた。
つんけんした様子の少年は恥ずかしがってそれを拒むかと思いきや、
「……もっと褒めていいんだぜ」
満更ではなさそうな顔でその手を甘受した。
というような光景を少し離れた位置でアデルとルナが見ていたのだが、
「あ、ああ、アデル、さま…」
そこで初めてルカリオを見たルナは酷くどもりながらアデルの名を呼び、その肩をばっしんばっしんと強めに叩いた。
「なな、なんですか、ルナさん」
アデルは「痛い」という言葉を笑顔の下に隠しながらルナに応える。
頬を伝う冷汗はルナには見えていない。
「なにあの可愛い子…、天使?それとも小悪魔!?」
彼女はキラキラと光を振りまきながらルリアーナに笑い掛けるルカリオを見ながら、それに負けないほどキラキラと目を輝かせる。
ルナにとってルカリオは、その顔に見合わない粗野な言葉遣いながらも笑顔の可愛さでそれすらも魅力的に見せてしまうような男の子に見えた。
あれは絶対攻略対象者だろうと思うが、一応ビジュアルだけなら全シリーズ全員知っているはずの自分が知らないので不思議だったのだ。
「ああ、彼は君とな無印のイベント特典のゲームだけに出てくる隠しキャラで、ルカリオという名前の暗殺者です」
アデルは「そういえば知っている人の方がはるかに少ないキャラクターだった」と思い出し、ルナにルカリオについて過不足なく正確に教えた。
教えられたルナは「ルカリオって言うんだー。隠しキャラなら知らないはずよねー」と笑顔で頷いていたが、
「……え?暗殺者?」
急にその言葉の意味を理解して真顔になってアデルを見た。
「はい」
それにアデルはこっくりと頷く。
彼女の正体がわかるまではルカリオのことを知ったらと不安だったが、彼女がアデルの、石橋秋奈の知る清水莉緒であるなら問題はないと確信していた。
案の定ルナはアデルの反応を見ると、
「……えー!?あんなに可愛いのに暗殺者なの!?なにそれギャップ萌えじゃん!」
頬に手を当て、うっとりとルカリオを見つめた。
彼女が新たな推しを見つけた瞬間だった。
「……ルナさんって、そういうキャラお好きですよね」
アデルは笑いたいような引きたいような微妙な顔で苦笑したが、彼女の嗜好は前世からよく知っていたので、「やっぱりか」という思いが一番強い。
思えば彼女が一番好きだったというレックスも、ゲームではアデルに初恋をしたが相手にされず、父が母を見下しているのを見て自分もそうしようと思った結果何故か女誑しになったものの、実際は一途で真面目過ぎる青年というギャップが売りのキャラだった。
系統はまるで違うが、ギャップがあるキャラとしてルカリオを気に入るのも無理はない。
「そうなの!レックスはもう諦めるしかないから、ルカリオを狙ってみようかなぁ」
だからそういう結論に達してしまう気持ちもわかる。
わかるが、アデルはルナに残念なお知らせをしなければならなかった。
「それは難しいと思います」
アデルは悲痛さすら滲ませた表情でルナを見る。
「彼は、ルリアーナ様一筋なんです」
そしてついと視線をルカリオに向ける。
キラキラと光を振りまく彼の笑顔を。
「いいですか、よく見ててくださいね?」
「え?」
アデルはそう言うとルカリオに近づいていく。
ルナは妙にきりっとしたアデルの表情の意味がわからず、なんとなくその後を追えなくて目だけで彼女を追った。
その視線を感じているのか否か、アデルは迷いのない足取りで2人に向かい、声を掛けた。
「お話し中すみません」
アデルは言葉こそ丁寧なものの、どちらにともつかずにそう言った。
そのため2人ともがアデルに顔を向ける。
「ん?」
「どうしたの?」
「一応移動前にルナさんにルカリオを紹介した方がいいかと思いまして」
きょとんとした顔の2人に、アデルはちらりとルナに視線を遣りながら用意していた言葉を告げた。
すぐそこでリーネたちに合流することにはなるが、先にルカリオを紹介しては?と。
ルリアーナは「ああ、そうだね」とルカリオに向けていたのと同じ笑みをアデルにも向ける。
その扱いに差は見受けられない。
この世界に転生してきた人間として最初に出会ったのはアデルであり(カロンは除く) 彼女と親しい人間としてヴァルトに次いで付き合いは長いが、キャラクターとしては実際にプレイしたシャーリーやイザベル、ルカリオなどの無印メンバーの方が馴染み深いだろうし、前世関係では同級生だったリーネの方が話が合う。
それでも誰より頼りにされていると思っているし、もちろん仲も良いとは思っているが、つまりアデルだけのアドバンテージと思える部分は現状ほとんど意味がない。
だからこそ扱いにそれほどの差はないのだろうが、
「別に後でよくね?まとめて紹介した方が手間も省けるし」
そう言ってアデルを見るルカリオの顔には明確な差があった。
一言でいえば煌きがない、さらに言葉を足せば興味がない。
彼にとって大切なのは自分を救ってくれたハーティアの王妃と、彼女とそっくりであるルリアーナだけであり、おまけとして王妃が在するハーティア王家と、そこと血の繋がりがある各国の王族と、ハーティア王妃やルリアーナと血の繋がりがあるダイランド公爵家を対象に加えている。
そのため王族と血の繋がりがある公爵家(この世界では王位を継がなかった王族男児が王家から離れる際に公爵家を名乗ることが多い)の令嬢ならばいざ知らず、侯爵令嬢に過ぎないアデルは『ルリアーナの仲間』というお陰でその他大勢よりも多少優先されてはいるが、重要視はされていない。
その結果がこれである。
それを見てルナはアデルの言わんとしているところを理解した。
彼の中にはほぼ0か100かの価値観しかなく、自分は絶対に0側なのだと。
というか100側が少なすぎると。
うん、これはないわ。
きれいさっぱり諦めよ。
ルナは賢明な決断を下すとアデルに近寄り、「名前はわかったから、詳しくは後でも大丈夫だよ。ありがとね」と労いの言葉を掛けた。
それだけでアデルには自分の言いたいことが伝わると理解していたから。
読了ありがとうございました。




