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「うわ、なにこのお通夜みたいな空気…」

「お、ルカリオじゃん。なに、隠れるのやめたの?」

「いや一応天井裏で話聞いてたんだけどさ、くっそ重たい話の後静かになったから様子見に来た」

「そっかー、でも助かったよ。こんな状態で部屋から出られないし。俺、マジで心折れそうだった」

「……もうちょっと待てばよかったかな」

「待って帰らないで!」

シャーリーが男の言葉を伝えた後、この部屋を支配していたのは重苦しい鉛のような沈黙だった。

誰もが彼の言葉に嫌悪感を抱き、理解を放棄したのだ。

「ったく。おい姫さん、そろそろ行こうぜ?」

ルカリオはズカズカとルリアーナに近づき、その手を取る。

しかし心なしか青褪めた彼女の顔は動かない。

「…おい?」

ルカリオがその様子に不審気な声を上げると、

コンコンコン

「はい?」

「ごめん、アディを迎えに来たんだけど」

同時にドアがノックされ、フージャが答えるとドアからライカが顔を覗かせた。

どうやら仕事の合間に婚約者を迎えに来たらしい。

「アディ。そろそろ城に帰らないと。今日は父上たちと会う約束だろう?」

そしてルカリオ同様にカツカツと靴音を鳴らしながら部屋を横断すると、アデルの手を取って甲に口付ける。

「あ…、ライカ様…」

「…うん?」

ルリアーナとは違い、アデルはそこでライカに気がつき彼を見たが、その顔は彼女と同じように青褪めていたため、ライカは軽く眉を顰めて何があったと近くにいたルカリオに目で問うた。

「あー、なんか前世絡みで話し合ってて、イザベルを殺した奴がイザベルたちにつきまとってた理由が他の女への未練からの執着だった、みたいな話をした後この状態になったっぽい?」

だよなあ?とこの場でその話を聞いていたフージャに確認を取る。

自分は天井裏で聞いていただけだが、確かそんな感じの話をしていたと。

それに対しフージャも「そうです」と頷いてみせた。

「……そうか。それはまた、随分嫌な思いをしただろうね…」

ライカは2人から話を聞いてさらに深く眉を顰め、そっと背後からアデルを抱きしめる。

「可哀想に、指先までこんなに冷えてしまって」

そのままアデルの手を取り、反対の手ではアデルの頭をゆっくりと撫で、「アディ」とアデルに優しく声を掛ける。

「僕の可愛いアディ。僕はね、アディがアディだったから、君を好きになったんだよ。それを忘れないで?」

そして今度はつむじに唇を落とした。

ちゅ、という小さなリップ音が静かな室内で響く。

「ライカ様…」

「他の誰かがいくら君に似ていても、僕が心から愛するのは君だけだから」

「は、はい」

「この手に、髪に、唇に、触れてもいい男は僕だけだから、ね?」

そう言って、ライカは再びアデルを抱きしめる。

アデルはその力強さに少しだけ熱を取り戻し、安心して頼れるその腕に穏やかな顔で身を任せるのだった。

「………あっま」

「俺にはできないわぁ…」

そんな人目を憚らないライカに対し、ルカリオとフージャの2人は瞳を遠くする。

砂を吐きそうな、というのはきっとこの気持ちを表す言葉だ。

王子様パネェと、不敬でなければそう叫びたい心境だった。

「……私、フージャがあんなこと言い出したら、絶対笑うわ」

「…私は、ルカリオに、言ってほしいなぁ…」

そうこうしているうちにリーネとシャーリーもライカたちのやり取りのお陰か意識をこちらに向け、それぞれ弱々しくではあったが軽口を叩く。

「「言わねーよ」」

フージャは困ったような苦笑いのような顔で、ルカリオはむっとしたようなしかめ面ではあったが、それぞれに安堵の笑みを見せ、口を揃えて拒否を示した。

ははははと4人の笑い声が響いたところで、

「いいじゃない、言ってあげたら?」

ルリアーナもやっと意識を戻した。

しかしその言葉にもルカリオは「やだよ」拒否を示し、「代わりにアンタに言ってやろうか?」と妙な色気を感じる顔で言ったが、「おい、ヴァルト様に殺されるぞ?」というフージャの言葉にふっと静かな笑顔を見せ、そっと口を閉じてルリアーナから離れた。

「あれはダメだ、絶対勝てねぇ」と彼の背中が語っているのをフージャは見た。

「って、あれ?ルカリオがいる」

「今かよ!?」

軽口を叩けていてもやはり本調子ではなかったのだろう、やっと先ほどまで不在だったルカリオがいることを認識したルリアーナは彼を見て驚く。

その目が「何故?」と語っていたので、ルカリオは「静かになったから気になって来た」と素直に白状する。

彼はツンデレ属性持ちではあるが、こういう時に「別にアンタが心配だったわけじゃねーから!」とか言うタイプのツンデレではなかったらしい。

「それに今なら、そこの女も騒ぐ元気なんかないだろうしな」

「あ、なーる…」

そう言いながらルカリオがちらりとシャーリーを見たのでルリアーナは小さく納得の声を上げた。

けれど密かにシャーリーをルカリオ好きの同志と思っていたルリアーナはルカリオを手招きし、のこのこ近寄って来た彼を掴まえると、

「シャーリーちゃん。ルカリオだよー」

あっさりとルカリオを彼の(シャーリー)に売り渡した。

「あ、てめぇこの野郎!!俺を売る気だな!?」

ルカリオは咄嗟に逃げようとしたが、がっちりと掴まれたルリアーナの手は振りほどけない。

「やーねー、ちょーっと見せてあげようかなーって思っただけじゃない」

彼女はぎゅっとルカリオの腕を抱き込み、逃がさないと言うようにどんどん力を込めてくる。

「俺は犬か猫か!?」

次第にそれは凡そ女性のものとは思えないほどの力になっていき、「そろそろマジでヤバい!?」とルカリオが焦っていると、

「え?大切な友人兼信頼している護衛ですけど?」

そんな力を込めているとは思えないきょとん顔のルリアーナがそんなことを言ってきて。

「~~~~っ!!!」

とうとうルカリオは抵抗することをやめた。

いや、不意を突かれて赤くなってしまった顔を隠すのに必死で抵抗する余裕がなくなった、という方が正しい。

「ははは、ルカリオの負けだな」

「してやられちゃったねぇ」

フージャとライカは『金影』と呼ばれる少年のそんな表情を少し意外に思いながら彼をからかうように笑った。

「あれは無理だわぁ…」

「入り込めないですね」

「大丈夫!他にもいい男いるって!」

一方のルリアーナ以外の女性陣もそう言って彼らにつられるように笑ったが、その中にあってルリアーナだけが意味をわかっておらず、頭に『?』を浮かべながら、それでもルカリオの腕を強く抱えていた。

読了ありがとうございました。

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