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翌日、ダイロスに移動した4人はすぐにフージャの船を訪れた。

そして彼を見るなりルリアーナは右の拳を左手のひらにパシンと音が出るほどの強さで打ちつけ、

「よしフージャ君、歯、食いしばろうか?」

にっこり笑いながら凄んで見せた。

その後ろではアデルもリーネも同じ顔をしている。

ちなみにルカリオはシャーリーに見つかりたくないからと、船のどこかに潜んでいるそうだ。

「は?え?なんで!?」

いつにないルリアーナの迫力ある笑顔にフージャが怯えた顔をする。

滅茶苦茶なところがある人だとは思っていたけど、暴力に訴えるような人には見えなかったのに!

そう思いながらも木っ端貴族の自分では他国の王太子妃には逆らえないとぎゅっと歯と目を閉じたところで、

「……もしかして、フージャさんはシャーリーの魅了にかかっていないのでは?」

ルリアーナの後ろにいたアデルが首を傾げながらそう言ってくれたことで、フージャは危機を脱した。

しかしルカリオの正体をバラしたことに関するリーネのお説教からは逃れられなかった。


「ごめんごめん。シャーリーと一緒にいるって言うから、てっきり」

「は、ははは、はぁ…」

「いや魅了にかかってたら厄介だと思てさ」とルリアーナは先ほどフージャを殴ろうとした理由を説明した。

からからと笑いながらではあるが王太子妃のルリアーナに謝罪されては木っ端貴族が文句など言えるはずもなく、フージャは曖昧に笑って誤魔化すしかない。

考えてみれば実害があったわけではないし、問題と言えば自分が怖い思いをしたという、それだけだ。

そう、ただ単に、自分がとっても怖かっただけ…。

フージャはひっそり心の中で泣いた。

「で、肝心のシャーリーがいないけど、どこにいるの?」

リーネがきょろきょろと辺りを見回し、そういえば目的はフージャへの説教だけではなかったと、本来の目的であるシャーリーを探す。

しかし船の中の狭い室内に隠れる場所などあるはずもなく、ぱっと見で見つけられないということはそれすなわちこの室内には不在だということ。

ならば行方を知っているのはこの中でフージャしかいない。

「ああ、あいつには今日ルカリオの主が来るからタイミングがいい時に呼ぶって伝えてあるから、いつでも呼べるぞ?」

リーネの問いにフージャが答えれば、彼女は「なんで呼んでおかないの?」という顔で彼を見返した。

それに対して「平民だからだよ!」という答えをぐっと堪え、軽く息を吐いてからフージャは無言でシャーリーを呼びに向かった。

これは彼が平民を差別しているということではない。

普通なら平民が貴族に会うことすら稀であり、王族ともなると一生に一度でも拝謁の機会があれば孫の代まで語り継げるような奇跡と言ってもいい邂逅なのだ。

前世の記憶があるせいか彼女たちはそのあたりをよく理解していないようだが、この世界しか知らないフージャにとってそれは当たり前であり、だからこそ平民をいきなり王族に引き合わせるなんていう不敬を犯さないようにしたのに。

「あー、貧乏くじだな…」

俺一人格式にこだわって馬鹿みてぇと呟きながら、しかしそこは一生治せないだろうと項垂れるしかない生真面目なフージャだった。


ほどなくフージャと共に部屋に入ってきたシャーリーを待っていたのは戸惑いだった。

半年もの間ずっと探していたルカリオ、その主がここにいると言うから来たのに、訪ねた部屋には令嬢らしき2人の女性と侍女らしき女性が1人いただけだったからだ。

そしてその誰もがとても暗殺者の主とは思えない。

「きゃー!!シャーリーだー!!」

「本物ですねー!」

「えっと、あの、これは、どういう…?」

しかも部屋に入った途端、令嬢2人は手を取り合って自分を見て騒いでいる。

一体どういうことか。

「あの、ルリアーナ様、アデル様、まずはシャーリーに説明を」

していただけませんかね、というフージャの声は彼女たちには届かない。

「綺麗な銀髪ねー」

「ほんと、パッケージイラストそのままですね」

キャッキャ、キャッキャと騒ぎながら、2人は飽きもせずにシャーリーを見ている。

なんなら「ちょっと触っていい?」と髪や頬を触り始めた。

「イザベルちゃんは窶れちゃってたから実感なかったけど、シャーリーはゲームのままで嬉しいわ」

深紅の髪の令嬢がシャーリーの頬を撫でながら放ったその言葉に、シャーリーは「え?」と驚きに目を丸くする。

「あの、」

「そうですね。ルリアーナ様はゲームの時より大人になってましたし、リーネさんの時はそれどころじゃありませんでしたし。こうしてゆっくりとゲームそのままの姿のヒロインが動いているのを見られて嬉しいです!」

シャーリーは話を聞こうと声を上げたが、髪を梳いている青髪の令嬢もまた気になることを言ったので口を噤んだ。

というか口を挟む隙がない。

「あのー」

そう思っていたのに、侍女と思しき女性が2人に声を掛けると、

「とりあえず、自己紹介とか、しない?」

令嬢2人にタメ口で話し始めたため、またもシャーリーは驚いた。

そろそろ驚きすぎて疲れそうだ。

「あ、そうよね。ごめんなさい」

「ちょっとテンション上がっちゃいました」

2人の令嬢はそう言ってシャーリーから手を離すと、

「私はルリアーナ。転生者で、君とな2の悪役令嬢よ」

「私も転生者でアデルって言います。君とな4の悪役令嬢です」

そう言って「よろしく(お願いします)ね」と笑った。

「あ、私は君とな3のヒロインのリーネで、貴女の知っている悪役令嬢イザベルの前世の姉です」

そして侍女だと思っていたタメ口の女性もそう言ってシャーリーに笑い掛けた。

間。

「えー……っと?」

…………ぱた。

「シャ、シャーリー!?」

「大変!」

「フージャ、ベッドは!?」

「隣の部屋にあるぞ!」

シャーリーは度重なる驚きにとうとう目を回してしまい、そのまま意識を手放した。

イザベルが転生者ではなかった(本人が知らなかった)から、この世界に転生者は自分1人だと思っていたのに、なんかいっぱいいた。

ていうか、なんか君となのシリーズもいっぱいあった。

しかもシリーズまたいでヒロインと悪役令嬢が徒党組むって、どういう状況!?

ぐるぐると頭を回るそれらの予想外や新情報がシャーリーの頭をパンクさせてしまったようだった。

読了ありがとうございました。

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