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「ルリアーナ様、お帰りなさいませ!アデル様もようこそいらっしゃいました!」

待合サロンのドアを開けるなりルリアーナに抱きつきながら「皆様も長旅お疲れ様でした」と言って笑顔で7人を迎えたのはイザベルだった。

「あちらにお茶とお菓子を用意してありますわ」

大好きな2人が家に来たのがよほど嬉しいのだろう、彼女は今まで見せたことがないくらいにこにこと笑い、2人の手を取る。

無邪気なその姿は年相応で大変愛らしくはあったのだが、今は再会を喜ぶよりもやることがあるのでそちらを優先しようと、ルリアーナは意識を向けてもらうためにイザベルの手を強く握り返した。

「イザベルちゃん、その前に貴女に紹介したい人がいるの」

「え?」

イザベルはルリアーナの言葉にきょとんと目を丸くする。

昨日は色々なことが起き、且つすぐにハーティアに移動するために夜はごたついており、イザベルには大体の到着時刻と、君とな3の登場人物であるフージャとリーネと、シャーリーが追っていたルカリオの3人を連れて帰ることしか知らせていない。

そのため彼女はこれから紹介されるのはヴァルトとライカの後ろにいる3人のことだろうと思い、「ああ」と笑い、再びルリアーナの手を引いた。

「3人の紹介でしたら、あちらでゆっくり聞きますわ?」

だからまず移動しましょう、と言い差したところで、その3人の中から1人の女性が飛び出してくる。

「あの!」

飛び出してきた女性はイザベルの前に立つと胸を押さえ、ぐっと唇を噛み締めながら潤む瞳で彼女に訊ねた。

「あの、貴女は鈴華では、ないかしら?」

「…スズカ?」

突然目の前に来て思いつめたような顔で立つ女性からの言葉を、イザベルは首を傾げて繰り返す。

確かそれはルリアーナからの手紙にあった、海賊が探しているという何かではなかったか。

それが何故自分だと?

イザベルはじっと女性を見て、それから首を振った。

「申し訳ありませんが、スズカというのは私ではないと思います」

「そんな…!?」

イザベルの否定に女性はショックを受けたように仰け反るが、すぐに「そんなわけない!」と彼女に詰め寄る。

「だって、貴女からは間違いなく鈴華の気配がする!!記憶がなくても私にはわかる。貴女は私の妹の鈴華よ!!」

「妹…?」

「そうよ!あの日、私を置いて死んでしまった、私のたった一人の大切な家族!!」

女性は泣きながらイザベルに縋った。

間違いなくイザベルは妹の鈴華の生まれ変わりであると。

しかしやはり記憶のないイザベルは戸惑っているようで、彼女を扱いあぐねているのが窺える。

これは一度仕切り直しをした方がいいだろう。

そう思ったルリアーナが「ちょっと一度落ち着きましょう」と言うのと、

「もう二度と、私を置いて、行かないで!!」

彼女がそう言ってイザベルを抱きしめたのは同時だった。

そしてその言葉に、イザベルの身体がびくりと動いた。

『…ぬな!鈴華!!』

頭の中で誰かの声が反響する。

『死ぬな!私を置いて、行かないで!!』

それはディア国を彷徨い、あと少しで命が失われようとしていた刹那に見た幻夢。

その時誰かが私を抱えて、死ぬなと言っていた。

そうだ、その時に聞いたのだ。

鈴華という名前を。

「……あの夢…」

イザベルは呆然としたように口を開く。

「…私を抱えて、辛そうに泣いていた人…、あれは、…貴女?」

唐突にイザベルは今しがた思い出した記憶の中にいた人が目の前の女性だったのではないかと思えた。

理由はない。

強いて言うなら、雰囲気が、身に纏う空気が似ていたように感じたから。

「今、思い出しました。ディアでアデル様たちに出会う直前、私は夢を見て、その中で鈴華と呼ばれていた。そして」

顔を上げて、女性を正面から見据える。

「誰かが私を抱えながら、『死ぬな』と。『鈴華、私を置いて行かないで』と言いながら泣いていました」

「っ!!」

イザベルがそう言った瞬間、女性の目から涙が溢れた。

そしてイザベルの目からも。

「何も覚えていないし、思い出してもいないけれど、夢だと思っていたあれが前世の記憶だと言うなら、きっと、鈴華は私です」

貴女の、妹です。

イザベルのその言葉に全員が驚きと納得の入り混じった表情を見せる中、世界を越えて再会を果たした姉妹は互いを強く抱きしめ合った。


リーネと名乗った前世の姉らしき女性から前世のことを聞けば他の記憶も戻るかもしれない。

イザベルがそう言ったのは当然と言えば当然の帰結だった。

しかしそれは同時に、殺されたであろう瞬間の記憶が甦る可能性も孕んでいる。

いくら前世の出来事とはいえ、殺された瞬間を思い出して精神的なショックを受けない人などいないだろうし、それによってやっと回復してきたイザベルの体調が悪くなるのは避けなければならない。

さて、どうするのが一番いいのか。

ルリアーナはそれについて小1時間程悩んだが、「突然思い出して倒れるより、コントロールできるかもしれない安全な状況で思い出してもらった方が安心じゃね?」というルカリオの言葉で目から鱗が落ち、翌日2人が落ち着いた状態で話し合わせることにした。

「それなら今日は早目に解散して、明日の朝食後にまた集まりましょう」

その言葉により、その日はそこでお開きとなった。

読了ありがとうございました。

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