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船をトライアの港へ預けた一行は馬車に乗り換え、途中昼食休憩を取りながらその日の昼過ぎにルハートに入り、現在は王宮で暮らしているイザベルを訪ねるためにそのまま向かうことにした。

道すがらルリアーナやアデルはリーネに「休憩が必要であればいつでも遠慮なく言ってね」「急いできたから何か入用なものがあれば今のうちに買うといいですよ」と提案したりもしたのだが「今私に必要なのは鈴華です」「入用なものは鈴華だけ」と全く聞く耳を持たなかったため、ならばいっそさっさと結果を出そうというわけである。

だが、気にかかることが二つ。

「……これでイザベルちゃんが鈴華ちゃんじゃなかったら、リーネちゃんどうなるんだろう…」

「愛が行き過ぎてて、ちょっと不安ですね…」

「それにイザベルちゃんが鈴華ちゃんだった場合もどうなるか読めないわ…」

「イザベル様は回復したばかりですし、そうだった場合、今記憶を取り戻したらまた体調を壊しちゃうことも…?」

「「はあーっ」」と向かい合って深くため息を吐くルリアーナもアデルも、それが一番心配だった。

先に聞いた前世の話ではぼかされていたが、恐らくリーネは復讐のために鈴華殺しの犯人を捜していたのだろう。

そこまで思い詰めるほどに大切な妹に会えるという期待が空振った時、果たして彼女はどんな行動に出るのか。

もしくは期待通りだった時、彼女はイザベルをどうするつもりなのか。

全く想像がつかない。

「まあ大丈夫でしょ。3ヶ月だけハーティアを離れていた人はバートランド嬢以外にもいただろうけど、ここまで条件が合う人ってことを加味したら滅多にいないだろうし」

「それに例え違っても、アディたちの友人同士が友人になるだけだよ」

「そうそう。んなの気にしてたってしょーがねーよ」

「人生なんて、なるようにしかならないもんね」

2人のこそこそした囁き合いは、しかし存外に大きな声だったため男性陣にも聞こえていたようで、しかも彼らは揃って彼女たちの心配は杞憂に終わるだろうという意見だった。

それは確かに尤もだと頷ける意見であり、今ここで気にしていても詮無いことであるのは間違いない。

だがもう一つの気がかり、他国の平民であるリーネとハーティアの王太子妃候補になった公爵令嬢であるイザベルの身分差もまた、如何ともしがたい壁だった。

「……陛下とオスカー様のお願い聞くの、早まったかなぁ…」

せめて保留にしておけば、王太子妃候補ではなくただの侯爵令嬢としてならば、まだもう少し自由はあったろうに。

あの時はリーネに会えるとも思っていなかったし、リーネとイザベルに繋がりがあるかもしれないことなど考えもつかなかったのだから仕方ないこととはいえ、ルリアーナはそのことに責任を感じていた。

「うーん、リアは考え過ぎだと思うよ?後になればこれでよかったと思うかもしれないし」

「つーか、全部が全部自分の行動のせいだと思うとか、マジで意味わかんねぇ。アンタが操ってそうしたわけじゃねーんだから気にするだけムダだと思うぜ?」

「彼の言う通りですね。貴女がそこまで責任を負う必要はないと思います」

「そーそ。それより俺、気になってることがあるんだけど」

気落ちしたルリアーナを慰めようと男性陣がルリアーナのせいではないと伝えるが、その時、フージャが手を挙げてリーネ以外の面々を見回した。

ルリアーナたちは互いに見交わし、代表してヴァルトが「なにかな?」とフージャに問えば、

「スズカ…バートランド嬢?が王太子妃候補だから王宮に行くのはなんとなくわかるんだけど、そんな立場の人に知り合いだからっていきなり行って会えるのかなって…」

思うんだけど、とぽりぽり頬を掻きながら言うフージャの言葉に全員が口を閉ざしたため、彼は何か拙いことを言ってしまったのかと気まずくなる。

しかし彼らが口を閉ざしたのは別の理由からだった。

「……誰か、彼に僕たちのこと説明した?」

「…私はしていないわ」

「私もしていません」

「…僕もしていないね」

「まあ、俺がしてるわけないわな」

恐る恐るというように口を開いたヴァルトの確認に全員が否やを返す。

誰もが『誰かが説明したよね』という思い込みをして、結果誰もしていないことがわかった。

「そ、そっかぁ…」と自分たちの失念に呆れながら、ヴァルトは微妙な表情で事の成り行きを見守っていたフージャに向き直る。

「…ごめん。別に君に隠していたわけじゃないんだけどね」

「はい」

そしてそう断りを入れながら苦笑を見せたヴァルトは自分たちの身分を明かした。

「僕はヴァルト・ウィル・ロウ・ディア。そしてこっちが奥さんのルリアーナ・バールディ・ロウ・ディア。名前の通り、ディア国の王太子と王太子妃だ」

「…え?」

「そしてあちらがクローヴィア国王太子のライカ・ジュリアス・ロウ・クローヴィアと婚約者のアデル・ウィレル嬢」

「…え、ええ?」

「で、君の横に座っているのが、つい昨日からリアの護衛になったルカリオ。世間では『金影』と呼ばれている暗殺者だよ」

「え、ええええええ!?」

だが明かされる度、スペーディア貴族の一員であるフージャは顔を青くさせる。

まさか彼らが周辺国の王太子と王太子妃(候補)とは思わず、今まで全く敬う素振りも見せずタメ口をきいていたことに貴族として戦慄したのだ。

このままでは自身の不敬罪だけでなく、スペーディアとディア及びクローヴィアの国家間問題になるかもしれない。

「し、失礼、いたしました。知らぬこととはいえ、王太子殿下方になんたる無礼を…」

「あー、いいから、気にしなくて。僕たちも言うの忘れてたし」

「で、ですが」

青褪めたばかりか小刻みに体を揺らし、冷や汗と脂汗をだらだらと流して震えるフージャに「いや本当に」とヴァルトは言うが、貴族として育てられた者には土台無理な話である。

王太子と言えば国の高き位に御座す国王、王妃に次ぐ存在であり、何れはその高き座に就く人間を示す言葉であり、自国に置いては後の自分たちの主となる人間を指す。

もちろん、君とな3の攻略対象者であるフージャの同級生にはスペーディアの王子がいたが、だからと言って慣れるものでもなく、それが他国ともなればこうなるのは必至だった。

そして横にいる、口は悪いが天使の如く愛らしい美少年もまた問題だった。

彼が本当に『金影』なら、自分は生きて再びスペーディアの地を踏めないのではないかとさえ思ってしまう。

ちらりと横目で様子を窺えば、すぐにバレてこれ見よがしに大きなため息を吐かれ、それが何か気に障ったせいではないかと思って無意識にびくりと肩を震わせてしまった。

「あのさぁ、俺、快楽殺人者でもなけりゃ無差別殺人者でもないから。正体知った途端にそんな風にされると傷つくんだけど?」

ルカリオは先ほど見せた顔をひっこめ、そう言って言葉通り少し悲しそうな顔をした。

愛らしい少年が見せたそれはフージャの良心を痛いほど刺激する。

「ご、ごめん!そんなつもりじゃ…」

慌てて自分の態度について詫びるが、ルカリオの表情は晴れない。

どころかより一層沈んでいく。

「別に。慣れてるし、いいけどさ」

「う…」

「初めて年の近い友達ができたみたいで嬉しかったのは俺だけなんだろうし」

「うう…」

「犯罪者が突然一般人になろうなんて、やっぱ無理だったんだよ…」

「ううう…」

そしてそんな彼から発される言葉の数々にフージャはさらに狼狽える。

おろおろと助けを求めてヴァルトやライカを見たが、彼らもまだルカリオとの付き合いが浅く、どうするのが正解かわからないでいた。

「ルカリオ、あんまりからかってはダメよ?」

そんな中フージャに救いの手を差し伸べたのは、ルカリオの主となったルリアーナだった。

「貴方そんなことで傷つくような可愛い神経してないでしょう。それに、そんなこと言えるほどフージャと仲良くもなってないし」

「あ、そう言えば」

「ちょ、バラすなよ」

「…まったくもう」

ルリアーナはそう言いながら困った弟を窘めるようにルカリオに笑って見せる。

男性陣が「え?そうなの?」という顔でルカリオを見れば、彼は素直に「ちぇ、わかったよ」と言って表情を元に戻した。

それを見てフージャは一安心と胸を撫で下ろしたが、ルカリオは少し不満気だった。

「おい姫さん、もう少し遊ばせてくれてもよかったんじゃねぇの?」

せっかくいい感じに引っ掛かってくれたのにさぁ、とルカリオは今度はルリアーナに向かって口を尖らせた。

属性てんこ盛りの彼にはショタ属性もあり、こういった子供っぽい一面を見せることもあるのだ。

もちろんそれはヴァルトの似非ショタとは異なる、紛れもない彼の一面だ。

「そろそろ馬車にも飽きてきたんだよ」

そう言ってルカリオが退屈を示すようにくわっと欠伸をした時、

「なら丁度良かったね。王宮に着いたみたいだよ」

窓の外を眺めていたライカがアデルの手を取り、馬車を降りる準備を始めた。

ちなみに元々彼らが王族と知っているはずのルカリオが砕け切った口調で話しているのは、あまりにも敬語が下手で見ていられなかった王族の皆さんの優しさの結果である。

読了ありがとうございました。

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