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明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

「ライカ様、この度は無事立太に至りましたこと、お慶び申し上げます」

「僕もお前もまだまだ王位には遠いけど、それでも一歩前進だな」

ヴァルトとルリアーナの結婚報告旅行から2年。

学園を卒業したライカが無事立太子の儀を終え、その報告のために真っ先に訪れたディア王宮でルリアーナとヴァルトが彼に寿ぎの言葉を掛ける。

あれから何度か会っているが、その度に彼の努力を見てきた2人にとっては彼が王太子になるのは当たり前だった。

それでも目出度いことには違いないと、今日はディア王宮の威信を掛けた祝賀晩餐会が行われる予定だ。

「こうして無事に立太子できたのは2人のお陰です。本当にありがとう」

ライカは2人に笑顔を返すと、隣に立つアデルの手を取る。

「アディが王太子妃になるのは2年後だけど、僕ともどもこれからもよろしくお願いしますね」

そして彼女の腰に手を添えながら2人に向けて頭を下げた。

彼は律義にヴァルトの方を向いている時はタメ口、ルリアーナの方を向いている時は敬語と使い分けている。

本来は逆か双方にタメ口でいいのだが、2年前から彼はルリアーナを尊重し、敬う姿勢を崩さない。

「私はまだまだ未熟者ですが、これからも友誼を深めていただければ幸甚に存じます」

そしてアデルはこの場にいる誰よりも自分の地位が低いことを正しく理解しており、どれだけルリアーナと仲良くなろうとも一歩下がった姿勢を貫いていた。

ルリアーナの交友関係を厳しく監視しているヴァルトはその聡明さと性情を好ましく感じており、珍しくルリアーナと関わることを全面的に許している。

「まあまあ、アデルちゃん、長旅で疲れているでしょう?難しい話はライカ様に任せて、あちらでお茶でもどうかしら?」

もちろんそのことに気がつきながらも、それで疑い深いヴァルトが安心するならいいかと放置しているルリアーナは、だからこそアデル相手であれば必ず許されると知っているので彼女をお茶へと誘う。

長旅で疲れているから休ませたいのも本音であるが、彼女と楽しくお喋りをしたいのもまた本音で。

「ヴァルト様、いいですよね?」

ちらりとそちらに目を遣りながら顔の前で小さく両手の指先を合わせて「お願い」とヴァルトに甘えるように囁いた。

「……まあ、問題はないね」

ヴァルトは「しょうがないなぁ」と書かれた顔で小さくため息を吐きながらそれを了承し、アデルに「疲れてるとこ悪いけど、リアの相手をしてくれる?」と困ったような顔で笑い掛ける。

「そんな、私なんかでよければいくらでもご一緒します」

アデルは恐縮したように頭を下げつつも、隠し切れない嬉しさで口元を綻ばせていた。

唯一ライカだけが淋しそうにアデルを見ていたが、久々にルリアーナとお喋りができると喜んでいたアデルには気がついてもらえなかった。

代わりに正面からそれを見ていたヴァルトとルリアーナにはしっかりと気づかれており、2人は顔を見合わせて「ふふ」「ふふふ」と笑い合った。


翌日、アデルは今回初めてディアを訪れたとのことで、幼い頃から幾度となく訪れ、最早現地人並みに詳しいと言っても過言ではないライカと共にレダイアの街を散策することにした。

ルリアーナは「私が案内したかったのに!」と残念がっていたが、先約があったのだから仕方がない。

「ふふ、帰ったらルリアーナ様が教えてくださったお店の感想を聞いてくださいね」

「それはもちろん!」

むくれているルリアーナにアデルが笑顔を見せると、つられるようにルリアーナも明るい笑顔を返す。

それから二、三言話し、完全にルリアーナの機嫌を回復させ、アデルはライカにエスコートされながら街へと歩き出した。

離れたところに護衛はいるが、今回のコンセプトは『街歩きデート』とのことで、2人は馬車などを使わずのんびりと散策を楽しむらしい。

「私もアデルちゃんとデートしたかったなぁ…」

その背を心残りしかなさそうな顔で見送るルリアーナの言葉に、ヴァルトは「まさかウィレル嬢がライバルとはね…」と困ったような顔で笑った。

これがアデルではなくライカだったら、きっとこんな穏やかな空気は流れていない。

王太子妃様、くれぐれも、くれぐれもお気をつけくださいませね…!!

彼らの背後で、王宮の侍女たちは必死に祈った。


「ライカ様、あれは何でしょう?」

「あそこは確か細工時計の店だったかな」

「あちらは?」

「んー、前は革製品の工房だったけど…ああ、今もだね」

「ではあそこは?」

「あそこは劇場だよ」

王宮から中央通りを真っ直ぐ下って商業区へ入った途端、アデルは目に付く建物や気になったものなどを全てライカに訊ねた。

ヴァルトと共にしょっちゅう商業区にも出入りしていたライカは1つ1つ丁寧に答えていくが、アデルの興味はすぐに別のものに移ってしまい、そこにどういったものがあるのかなどは説明できない。

せっかくの知識が活かせないその状況に少し思うところはあったが、あれはこれはといつになく活発なアデルの様子が微笑ましくて珍しくて、それを眺めていればいい格好ができなかったことなどどうでもいいと思える。

「ライカ様、あちらは?」

「ん?」

にこにことアデルの質問に答えていたライカが次に問われたものは、今までと異なりライカの記憶にないものだった。

「なんだろう?見たところ雑貨屋のようだけど、初めて見るな」

だから素直にそう言ったのだが、完璧に案内してあげられなかったことに若干の悔しさを覚えた。

次は事前にリサーチする必要があるかもしれない。

「本当ですか!?では、初めてのお店に行ってみましょう!!」

ライカが僅かな後悔にぐっと拳を握っている横で、それとは対照的にアデルは嬉しそうに笑った。

そしてライカの手を取るとこれまでの建物には寄り付きもしなかったのに、ぐいぐいと引っ張って店の扉に手を掛ける。

「ア、アディ?」

ライカは面を喰らったような、実に彼らしくない慌てぶりで数歩たたらを踏んだが転ぶことなく数歩遅れてアデルに並び立つ。

「どうしたの?このお店、そんなに気になった?」

愛してやまないアデルには常に格好つけていたいライカは慌てたことや転びかけたことを誤魔化しつつ、「それならそうと言ってくれれば寄るのに」とライカが言い掛けたところで、

「ええ!」

振り向いたアデルは満面の笑みを見せて、

「やっと、ライカ様と一緒に『初めて』ができるお店を見つけられました!」

さらにはそう言ってはにかんだ。

ライカは「今この場でアディを襲わなかったことを誰か褒めてくれ」と思いながら、表面上は笑顔を貫き通し、平静を保つために心を無にしながらアデルの代わりに店の扉を開けた。

読了ありがとうございました。

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